2022年1月1日土曜日

2021年12月

令和3年の最終月は28冊、うち小説が13冊、その他が15冊で、年間では301冊という結果になりました。小説がもっと多かったのではないかと思っていたのですが、意外でした。月の後半は小説ばかりだったので、その印象が強く残っていたのかもしれませんね。

そんな中でのお薦めですが、

やっぱり小説では、宮部さん、東野さん、万城目さんの三冊は外せません。ダントツ、圧倒的なおもしろさでした。詳しくは本文を読んでいただきたいのですが、それぞれの世界が破綻することなく完成されていて、読み続けることにストレスが全くありません。いずれも、次作が楽しみだと思える作品たちでした。どれもこれもお薦めです。

続いて小説以外では、いくつかありますが、ここは一冊に絞り、“地方メディアの逆襲”をお薦めします。

比較的最近の新書で、とても興味深く、重要なことが書かれています。最近のちくま新書はめっちゃ面白い。ただ、これを読んだ私たちにできることは少なくて、“公器”であるマスメディアで働く方々に頑張っていただくしかないのですね。

民主主義を支えるのは“知る権利”だというのが、かつて大学で学んだ重要なことの一つです。国民の知る権利がないがしろにされる社会では、民主主義は守られません。民主主義は必要ないと思っておられる方は別にして、そうじゃない方には是非ともお読みいただきたいと思います。

 

ところで、年300冊を超えたのは、かなり久しぶりですね。往復の通勤時間が倍以上に延びたことが大きな要因でしょうか。過去のブログで確認すると、3月終了時点で62冊、年間250冊ペースだったのが、その後の9ヶ月で239冊と3割以上ペースアップしています。

途中でも振り返っていましたが、これからの社会の有り様を考える意味でも、民主主義と資本主義に関する本は読み続けたいと思います。そして、いわゆる“古典”にも手を伸ばしていきたい。今年の目標は月20冊、年間240冊。

面白い本をご存じの方は是非ともご教示ください。

よろしくお願いします。

 

001/274

運も実力のうち 能力主義は正義か?」マイケル・サンデル

白熱教室で有名になった著者の近著。昨今の世界にはびこるメルトクラシーについて考察されてものです。努力して能力を磨けば、どこまでものし上がることができる。かつてのアメリカは、そういう社会だと言われていました。それが、いつの間にやら社会的にのし上がっていけない人たちには能力がないからだというような思想が蔓延るようになってきました。よく言われるように貧困は連鎖するといわれています。貧しい家庭に育った子どもたちが高等教育を受ける機会はほとんど無いに等しい世の中になっています。今の世界の有り様は明らかに間違っていると思います。(12/2

 

002/275

科学で大切なことは本と映画で学んだ」渡辺政隆

映画と書籍を題材にした軽やかな科学エッセイです。取り上げられている書籍については、とりあえずリストアップしましたので、少しずつ読みたいと思います。(12/3)

 

003/276

京都の中世史4 南北朝内乱と京都」山田徹

シリーズの第二回配本は南北朝です。鎌倉幕府の滅亡から建武の新政とその終焉、さらには南北朝の争いに観応の擾乱と、大きな内乱が続く京都。その中心にいたのが足利尊氏です。戦前は悪役のイメージが付けられていましたが、結構私は好きなキャラクターでもあります。(12/4)

 

004/277

コロナ狂騒録」海堂尊

昨年秋の首相交代から今年の春頃までの出来事を俯瞰しながら書かれたフィクションです。残念ながら、このようには進みませんでした。(12/5)

 

005/278

氏名の誕生 江戸時代の名前はなぜ消えたのか」尾脇秀和

私たちが普通に使っている“名前”について、その歴史を綴ったものです。私たちが歴史に野時間に習った人たちの名前って本当はどうだったのか。周りからはなんと呼ばれていたのか。この本では江戸時代の武士と公家、そして明治維新後に彼らの名がどう変わったのか。なかなかに興味深い内容でした。明治維新後に彼ら以外の“平民”にも、“氏名”が付けられました。それは誰もが想像付くとおり徴兵のための新制度でした。おもしろい本でしたが、本当は一般の人たちの氏名がどうなっていたのか、それを知りたい。(12/7)

 

006/279

烏金」西條奈加

江戸時代、とある高利貸しの老女とその元に転がり込んだ一人の青年の不思議な物語です。青年は貸付先の債務整理や新規事業に手を貸すなど、老女の思惑とは違ったやり方で金貸し業の手伝いをいたします。その理由と意外な結末。結構おもしろかったです。(12/7)

 

007/280

誰そ彼の殺」小松亜由美

現役の解剖技官デビュー作だそうで、東北地方のとある大学が舞台になっています。法医学がテーマのミステリは数多くありますが、医者ではなくその助手である技官が主人公というのは初めてです。(12/11)

 

008/281

資本主義だけ残った 世界を制するシステムの未来」ブランコ・ミラノヴィッチ

ソ連が崩壊とともに共産主義をとる国がほぼ消滅し、現在は、アメリカに代表される“リベラル能力資本主義”と中国に代表される“政治的資本主義”の二つの資本主義が覇を競っている。いずれが今後の主流となっていくのか。はたまた別の形があるのか。著書は民衆資本主義(資本所得と労働所得をほぼ等しい割合で得ている)、平等主義的資本主義(資本所得と労働所得をほぼ等しい量で得ている)の二つを候補としてあげていますが、良く理解できない。難しかったが、いずれにしても“成功した資本主義”は未だ実現したことがないのは確か。労働ではなく資本が利益を生み出す仕組みは早晩破綻を来すだろうということは理解できる。(12/12)

 

009/282

沈黙の子どもたち 軍はなぜ市民を大量殺害したか

旧日本軍とナチスドイツが第二次大戦下で行った大量虐殺事案についてまとめたもの。歴史修正主義者たちの手によって“なかったこと”にされようとしている事件を忘れてはいけない。ドイツと違い“過去の清算”にしくじった私たちとしては特に。非常に興味深い本でした。(12/14)

 

010/283

うんこの博物学 糞尿から見る人の文化と歴史」ミダス・デッケルズ

どこで薦められた本だったか思い出せないのですが、なかなかとんでもない本でした。著者はオランダでは有名な生物学者で、子供向けの本なども数多く書かれている方だとか。本書は、いわゆる排泄物について、生物学、歴史学、社会学など様々な観点からうんちくを集めたもので、飲食しながら読むことはお薦めいたしません。でもとても大切なことが書かれている本だと思います。なかなか興味深い一冊でした。(12/17)

 

011/284

ヒトコブラクダ層ぜっと(上)(下)」万城目学

万城目ワールド全開の快作です。始まりは3兄弟の冒険譚のように始まりつつも、途中からホラーのような、伝奇小説のような、はたまたSFのような。最後まで飽きさせない展開の妙はさすが万城目さんです。大好きです。おもしろかった。(12/19)

 

012/285

沈黙の春」レイチェル・カーソン

言わずと知れた、もはや古典といっても良いくらいの名著です。原書は1962年に書かれ、私と同い年です。その後すぐに日本国内にも紹介されました。その後環境ホルモンという言葉が生まれ、NHK特集で取り上げられたことで再びブームになったと記憶しています。実はその頃に一度買ったことがあるのですが、結局読むことなくどこか行方不明となってしまったので、改めて買い直し、読んだものです。出版当初は農薬会社や行政、御用学者からかなりのバッシングを受けましたが、その後環境汚染の実態が明らかになるにつれ、受け入れられるようになったようです。ただ。今でも一部にはこの主張を信じないグループが生息しているようです。翻訳されたものを読んでも、かなり情緒的な部分もあり、そこに付け入られたのかなと思いますが、実はそれ以上に農薬等による化学汚染に対して科学的なアプローチで対処していくような記述が目立つことが、少し残念かなと思います。彼女も化学者なんだと改めて思い知らされました。(12/21)

 

013/286

またあおう」畠中恵

人気作品であるしゃばけシリーズの番外編。いつもなら大活躍の若旦那ではなく、周りを騒がす妖たちが事件を解決する短編集です。このシリーズを読まなくなって久しいですが、今どんな状況になっているのだろうか。(12/21)

 

014/287

白い病」カレル・チャベク

謎の感染症をテーマにした戯曲。架空の病気、場所を取り扱っているのだが、それほど長い本ではなく、割と短時間で読むことができます。若い人は発症せず、ある程度年をとった人たちだけが発症し、死亡率はほぼ百%。とある医師がそんな恐ろしい病気の特効薬を開発しますが、その薬を手に入れるためにはある条件が課せられます。ほとんどの国はその条件をのむことに躊躇するのですが、世論が条件受け入れを主張します。その条件とは、そして結末はいかに。短いながらも重要なテーマが埋め込まれていて、深い本でした。是非ともお薦めします。(12/21)

 

015/288

最強脳 『スマホ脳』ハンセン先生の特授業」アンデシュ・ハンセン

“スマホ脳”で一世を風靡したハンセン教授が子供向けに書いた“最強脳”を作るための指南書です。スウェーデンの子供たちに読めるよう全国の学校に配布されたそうです。皆さんの子供たちの頭を良くしたいと思ったら是非読んでください。とてもシンプルだけど難しいたった一つのことが書かれています。果たして日本で受け入れられるでしょうか。(12/21)

 

016/289

自由になるための技術 リベラルーツ」山口周

気になる方の近著です。日本では“教養”と訳されることが多い“リベラルアーツ”を、重ら宇土は全く違う切り口がから説明しようとされています。本書では、著者が語るだけでなく各界の第一人者との対談という形で議論が進んでいきます。それはそれでとても読みやすく、腑に落ちるのですが、どうなんだろう、できれば違う意見の方との対談であった方が新しい知恵が生まれるのではないだろうか。そんなことをふと思いました。(12/22)

 

017/290

父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話」ヤニス・バルファキス

著者はギリシャ危機の際の財務大臣で、今は同い年のアテネ大学の経済学教授。彼が、経済とは何か、ということについて娘に語りかけるようにわかりやすく説明しています。富が集中していく仕組み、格差が生まれる理由など。具体的でとてもわかりやすい。そしてこの本に書かれているしびれる一文。経済のような大切なことを経済学者に任せておいてはいけない。これはやはり結果に対する責任を持つ政治家の仕事なのです。(12/23)

 

018/291

地方メディアの逆襲」松本創

期待以上におもしろい本で、ほぼ一気に読み切りました。ここ数年、中央のマスメディアは、ほぼその役割を放棄し、死に体となっています。そのため、大手マスコミへの信頼が薄れ、フェイクニュースが蔓延する大きな原因になっています。そんな中で、地道な調査報道を続ける地方のメディアにスポットを当て書かれています。権力から嫌われ、潰されそうになってもしぶとく報道し続ける姿勢には敬意しかありません。権力に負けないで、潰されないでと祈るのみです。東京に拠点を置く多くの巨大マスコミよ、恥を知れ。(12/23)

 

019/292

ブロークン・ブリテンに聞け LISTEN TO BROKEN BRITAIN」ブレイディみかこ

2018年から2020年にかけて雑誌に連載されたエッセイを纏められたものです。雑誌の性質上、アートや文芸に偏っているのはやむを得ないところですが、一昨年に始まった新型コロナの初期のパンデミックの状況を生々しく伝えるレポートになっています。住まう地域による住民の様子の違いなど、広く報道されていないような事柄も新鮮で興味深い。(12/24)

 

020/293

ヒーローインタビュー」坂井希久子

何となく手にとって借りてきた小説です。プロ野球阪神タイガースからドラフトの下位で指名されたとある選手が、十年間の選手生活を全うして引退するまでの物語を、当の本人ではなく、後輩やスカウト、敵方の選手に語らせるというおもしろいスタイル。ミステリでは結構多用されるのですが、こういうほのぼの系の小説では珍しいのではないか。なかなかハートフルな物語でした。(12/25)

 

021/294

わざわざゾンビを殺す間なんていない」小林泰三

“ゾンビウイルス・パンデミック”を描いたシュールなミステリ小説です。作者は京都生まれの同年代で、一昨年に58歳という若さで亡くなりました。不思議な作風の作家さんで、最近ちょぼちょぼ読んでいます。(12/26)

 

022/295

秘本大岡政談 傑作時代短編コレクション」井上ひさし

井上さんの時代小説というと、映画の原作にもなった“東慶寺花便り”がお気に入りですが、本作は大岡越前守を取り上げながらも、全く違う人物を主人公に仕立てたとてもおもしろい小説になっています。短編集なのですが、その短編を仕上げるために、どれだけのことを調べ上げたのか驚くくらい細かな描写が続きます。面白かった。お薦めです。(12/27)

 

023/296

凍える島」近藤史恵

著者の鮎川哲也賞受賞作で実質デビュー作。とある有名なクリスティ・ミステリへのオマージュとなるようなミステリです。若さ故の気張りすぎた描写も出てくるのですが。良くできた物語になっています。ただ、最後の展開があまり好みではないな。最初からこんな結末だったんだろうか。(12/28)

 

024/297

日本“式”経営の逆襲」岩尾俊兵

いわゆる“ニッポンすごい!”的な書籍ではないと断ってありましたが、私には同様に思えます。日本の企業では理論的な“経営”がなされておらず、そのことが今の停滞を招いているといわれていますが、その特効薬として海外から“輸入”される様々な経営理論の多くは日本の企業がモデルになっている(特にトヨタのカンバン方式)。にもかかわらず、それらを日本人の手で理論化できなかったために、欧米化された理論を導入せざるを得なくなっており、大きな損失を生み出しているというのが著者の主張のようです。ただ、残念ながら日本独特の“経営”というのは、ほとんど労働者に犠牲を強いることによって成り立っているというのが私の私論です。給与をコストと考えるような経営に未来はない。(12/28)

 

025/298

笑う娘道成寺 女子大生桜川東子の推理」鯨統一郎

シリーズものの一冊のようです。いわゆる安楽椅子探偵もの。舞台はとあるバーのカウンター。そこでの四方山話から事件の真相を導き出す東子さんが活躍する物語です。途中で語られる昭和芸能史や酒の蘊蓄が長い。(12/29)

 

026/299

体育館の殺人」青崎有吾

これも鮎川哲也賞受賞の学園ミステリ。高校生探偵が殺人事件の謎を解くという物語。ありえねーだろ、と突っ込むのはルール違反です。(12/29)

 

027/300

きたきた捕物帖」宮部みゆき

今年の300冊目は、かなり前に買い込んだまま放置されていた宮部さんの一冊。時代物を書かせたらナンバーワンですね。めちゃくちゃ面白かった。帯には新シリーズと書かれていたので、続きが書かれていると思うのですが、まだ目にしていません。早く読みたい。彼女の本に外れはありません。(12/30)

 

028/301

透明な螺旋」東野圭吾

これまた外れのない作家の東野さんによる“ガリレオシリーズ”最新作です。いつものように主人公の物理学教授の推理が冴え渡るのですが、今作では彼のおいたちも、本筋とは違うところで、一つの大きな要素となります。良かった面白かったです。(12/31)