9月は28冊、うち小説が17冊、それ以外が11冊という結果で、今年に入って222冊というちょっと嬉しい数字になりました。
晴天が続き、休日はちょくちょく出かけていたのですが、その分通勤時間と就寝前にたっぷり読めたので、結構たくさん読めましたね。
お薦めの小説ですが、初めて読んだ作家さんも結構あったのですが、二冊目を読みたいと思うような作家さんは少なかったです。
お薦めは次の4冊。
まずは、朝井リョウさんの“正欲”。LGBTという言葉も普通に使われるようになって、性的な欲求についても、“普通である”とか“異常である”という言葉では表現できないようになってきました。そういった中での“正しい欲”というタイトルで挑んだところが注目です。本文にも書いてますが、重苦しい感じで物語が進み、読んでいて決して楽しい小説ではないですが、心に残る本でした。結構お薦めです。
次は畑野智美さんの“海の見える街”です。何冊か読んでいますが、これまで読んだものとはかなり毛色が変わっていて、どうやらこれが彼女の本来のスタイルのようです。とても優しい気持ちになれる本で、他の著書も読んでみようと思います。また、著者は今もアルバイトをしながら小説を書いておられるようで、ちょっと応援したくなってしまいます。お薦めです。
三つ目は西條奈加さんの“曲亭の家”です。誰でも知ってる曲亭馬琴について、息子の嫁の視点から語らせるという小説です。当然、詳細が伝わっているわけではないので、かなり大胆な人物設定になっています。おかげで、わくわくしながら楽しく読めるエンターティメントになってます。
最後は翻訳物ですが、“書店主フィクリーのものがたり”は、今月一番のお薦めかもしれません。数年前の本屋大賞にも選ばれているようで、めちゃくちゃ面白かったです。本文にも書いていますが、最後は悲しい物語になりましたが、赤の他人同士の主人公たちが、互いを思いやる様がなかなか感動的で、ハートフルな物語になっています。お薦めです。
でもって、小説以外の本ですが、
まずは、“トレバー・ノア”は、ダントツの面白さ。本来であれば悲惨な境遇に生まれた少年の物語のはずが、とても明るく前向きに書かれているおかげで、とても楽しく読めます。一方で、我々があまり知らない隔離政策下の南アメリカの実体を知ることができる読み物になっています。一気に読めます。絶対のお薦めです。
二冊目は“女たちのポリティクス”です。“男だから”とか“女だから”という言葉は好きではないのですが、世界を席巻するコロナ禍への対処について、評価されているのが女性リーダーばかりであると言われています。この本は、コロナ禍以前からの連載を纏めたもので、世界の政治の現在地がよく分かります。社会における女性差別が常態となっている我が国の現状と見比べて、情けなくなってしまいます。
三冊目は“酔っぱらいの歴史”です。これについては、あまり多くを語る必要性を感じませんが、飲酒の人類史として纏められた良書です。お酒付きの方には、ぜひ読んで欲しい本です。
先月宣言したとおり、民主主義や資本主義についての本を好んで読むようになりました。正直、世界的に見ても、いずれも危機的な状況にあるように思っていて、今の状態をしっかり判断できるように、知識を深めていきたいと思っています。そのためにも歴史に学ぶことも重要で、興味は尽きません。
小説は、ミステリをどっさり借りてきたのですが、そういえば最近は歴史物が少なくなってきましたね。また面白い本を探してこようかと思います。
あとは、古くから読み継がれている古典にも手を伸ばしていきたいと、ずっと宣言しているような気がするのですが、これはなかなか果たせていないですね。これも時間を作って読んでいきたいと思います。
10月は、若干予定が詰まっていて、読書次巻の確保が難しくなっているので、ペースはかなり落ちましたが、皆さんの期待に応えるためにも、がんばって読んでまいります。
001/195
「セーラー服と黙示録」古野まほろ
一応本格推理ものなのですが、設定から何からよう分からん。また著者は、元警察官僚さんなのですが、その経験が活かされていないように見受けられます。(9/1)
002/196
「正欲」朝井リョウ
話題作なのですが、評価が難しい。三つのストーリーが同時並行で描かれていて、どこに収束するのかと思いながら読み続けましたが、まさかこう繋がるとは。社会的に少数派である性癖を持つ人たちを主人公として彼らの生きにくさが、これでもかと書かれており、重苦しい感覚を抱きながら読みました。結末も全く救いがなく、ある種の哀しみに襲われました。しかしながら、決して不快な話ではなく、ある種の“気づき”を得ながら読み通しました。読んで楽しい本ではありませんが、読むべき本かと思います。お薦めです。(9/4)
003/197
「民主主義を救え!」ヤシャ・モンク
リベラルとデモクラシーが共存していた時代、世界的に経済も拡大傾向で、だれもが豊かになれる気がした時代がありました。いつからかその二つが併存しない時代に突入し、大きな危機を迎えています。一方では“権利なきデモクラシー”の典型であるポピュリズム、一方で“デモクラシーなき権利”である官僚主義、さらには、両者を失ってしまった“恐怖の国”も現れました。今の日本では、“リベラル”という名前はついているが、全くリベラルではない不思議な政党が政権を担っています。ここ数年はポピュリズムが幅をきかせ、国民の権利に背を向ける政治が続きましたが、国民の信頼を失ってしまい、迷走しているようです。真のリベラル・デモクラシーが日本に定着する時代はやってくるのでしょうか?(9/4)
004/198
「名探偵の証明」市川哲也
過去の鮎川哲也賞受賞作なんですね。いちおう本格推理ものです。続編も書かれているようですが、たぶんもう読まないと思います。(9/5)
005/199
「認知バイアス 心に潜むふしぎな働き」鈴木宏昭
最近、このテーマの書籍が結構出版されているのは、注目されていると言うことでしょうか。いわゆる“先入観”とか“思い込み”といった言葉で馴染んでいることなんですが、これらをいくつかの類型に分けて説明されています。この類型は、他の書籍でも同様に見られるもので、何ら目新しいことはありません。こういった本の通常の読み方として、“そうそう、こういう困った奴って、自分の周りにもいるよね”という風に読んでしまいがちですが、本来は、自分自身の認知の傾向や歪みを自覚するべきなんでしょうね。ただ、ここで挙げられている不思議な心の動きも、人類が誕生してから現代まで生きていく上で必要な特質であったことも間違いないところです。途中までは、冗長な感じがしましたが、わかりやすくて良い本でした。(9/6)
006/200
「絶望ノート」歌野晶午
いじめがテーマのお話です。学校で執拗ないじめを受けていた主人公が、ノートにその記録をとり、神に加害者グループに罰を与えることを願ったところ、相手がけがをしたことから、願いがエスカレートし、最後は死に至らしめます。読んでいて気持ちが悪くなるくらいリアルで嫌な物語でしたが、結末はさらに気持ち悪い仕上がりでした。(9/8)
007/201
「深川二幸堂菓子こよみ」知野みさき
初めて読んだ作家さんです。こういう時代物がお得意なんでしょうか?江戸深川で菓子屋を開いた兄弟の物語。江戸情緒漂う美味しそうで平和な物語。すさんだ心に響きます。続きも読みたいと思います。(9/10)
008/202
「フェイスレス 警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」沢村鐵
これも、初めての作家さんです。久しぶりに警察もののミステリが読みたいなと思って図書館で見つけました。特命担当の女性刑事が主人公のように見えますが、若干看板に偽りありかと、、ぐいぐい読み進むという感じではありませんでした。この後シリーズ化されているようですが、あまり食指は伸びません。(9/10)
009/203
「緊急事態下の物語」金原ひとみ、真藤順丈、東山彰良、尾崎世界観、瀬戸夏子
緊急事態宣言下で編まれたアンソロジーです。初めて接する作家さんが殆どでしたが、金原さんの作品が唯一しっくりきたかと思います。他の作品は、コロナも緊急事態も関係なしで、単なるSF小説になっているような印象でした。(9/11)
010/204
「潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒
主人公が魅力的で結構好きなシリーズものの一冊ですが、どれを読んだか思い出せず、確実に読んでいないだろう物を借りてきました。たぶん手前の1~2冊は読んでいないような気がしています。舞台は先島諸島にある孤島。ミイラ化した変死体が発見されたところから物語が始まります。遺体の所見と昆虫相に明らかな矛盾が見られることから、主人公の推理が始まります。また続きを予約しています。(9/12)
011/205
「海の見える街」畑野智美
海が見える図書館で働く男女の物語で、それぞれ主人公が変わる4つの中編から構成されています。主人公たちのクセが強すぎて、どうかなと思う部分もあったのですが、他人の視点からそれぞれの主人公を描くことで、うまい具合にマイルドになっています。以前タイムマシンを扱った小説を読んだことがったので、てっきりそういったSFチックな小説をお得意とされているのかと勝手に想像していたところ、むしろこういうほのぼの(?)とした小説が主流のようです。最近はあまり書かれていないのかな?また、他の作品を読みたいと思います。(9/12)
012/206
「異世界居酒屋のぶ 5杯目」蝉川夏哉
これまた最近のお気に入りです。とはいえこれで残り一冊。内容的には殆ど代わり映えしないのですが、安心して読めて良いです。(9/13)
013/207
「アダム・スミスはブレグジットを支持するか? 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題」リンダ・ユー
アダム・スミスからロバート・ソローに至る12人の著名な(名前も聞いたことがない人もチラホラ)経済学者たちは、今の世界経済の状況をどう見ているかという視点で書かれた書籍ですが、むしろこの学者たちの来歴や学説を端的に紹介した経済学入門書として読むのが正しいかと思います。で、一つ分かったこと。如何に偉大な経済学者とはいえ、過去の事象を分析することはできるが、さすがに先を見とすことはできない。彼らの予言は信じてはいけない。(9/14)
014/208
「世界哲学史3 中世Ⅰ超越と普遍に向けて」伊藤邦武、山内志朗、中島隆博、納富信留
ぽちぽち読んでるシリーズですが、いわゆる暗黒の中世に入ってきました。そもそも宗教と哲学は別物というのが常識ですが、この時代になると、哲学に対する宗教(特にキリスト教)の影響は無視することはできません。さらには、中国における儒教、仏教、道教の進化、日本で花開いた密教など哲学=宗教といっても過言ではないかもしれませんね。どちらも非常に興味深い分野でもあります。次巻が楽しみです。(9/14)
015/209
「ホンモノの偽物 模造と真作をめぐる8つの奇妙な物語」リディア・パイン
贋作、偽物、フェイクといった物の歴史について書かれた本なのです。冒頭では、わかりやすい美術品の贋作について取り上げられており、中世絵画の贋作を連発した“スパニッシュ・フォージャー”なる謎の作家について書かれています。今では、贋作であることを承知の上で、取引されるほどの人気作家となっているとか。あとは、いんちき化石、出所不明の古文書、博物館のレプリカ、合成香料、人工ダイヤモンドなど話題は満載です。これはなかなか面白い本でした。(9/16)
016/210
「曲亭の家」西條奈加
南総里見八犬伝を描いた曲亭馬琴をその息子の嫁の視点から描いた物語です。よく知られているように、馬琴は、晩年目を患って文字が書けなくなったのですが、息子の嫁に口述筆記させて、八犬伝を完成させています。この物語では、主人公が舅とぶつかりながらも、その仕事の意義を理解して完成させていくまでを描いています。なかなか面白かったです。(9/16)
017/211
「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?」トレバー・ノア
これはめちゃくちゃ面白い本でした。作者はアメリカで活躍するコメディアンなのですが、生まれは、アパルトヘイト下の南アフリカ共和国。黒人の母と白人の父の下に生まれたのですが、当時は黒人と白人がつきあうことすら犯罪であり、子供を作るなんてことはもってのほかでした。ともすれば、暗くて悲惨な人生となるところ、母子ともに桁外れの明るさで、ポジティブに生きていきます。その様は痛快でもあり、あり得ない小説のようですが、事実なんです。いっきに読めます。お薦めです。(9/17)
018/212
「リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで」田中拓道
最近特に、このコロナ禍でナショナリズムとポピュリズムが世界的に台頭してきており、社会の行く末にかなりの不安を抱いています。そういった中でもう一度リベラリズムについて学び直したいと思い、読んでみました。残念ながら、日本では真のリベラリズムが政治的・文化的に根付くことはなく、新自由主義と呼ばれる過激思想(個人的な見解です)が、大手を振って闊歩している印象があります。私たちは、子供たちにどんな未来を残したいのか、しっかり考えて行動しなければならないと思っています。(9/17)
019/213
「書店主フィクリーのものがたり」ガブリエル・ゼヴィン
5年前の本屋大賞翻訳小説部門の受賞作だったそうで、最近図書館で見つけて読みました。結果から言うと、めちゃくちゃ面白い小説でした。主人公が、妻の故郷で書店を開業したものの、妻を事故で亡くしてしまい、孤独のうちに書店を続けていたところに、赤ん坊の捨て子がやってきます。その子を育てる決意をした主人公が、悪戦苦闘しつつ生きがいを見いだしていきます。最後は少し悲しい結末となりましたが、ハートフルでとても素敵なお話でした。最近文庫にもなったようですね。お薦めです。(9/18)
020/214
「出張料理おりおり堂 卯月〜長月」安田依央
超イケメンの出張料理人とその助手として働く婚活只中の女性を主人公とする物語です。タイトルから分かるように、どうやら前後半となることを想定されたお話のようなのですが、どうやら翌年の弥生三月以降も物当たりは続いていくようです。この巻では、女性が雇われた理由や料理人の元修業先の京都の料亭の若女将候補が彼を取り戻しに現れたりと半年の間に起きた事件が描かれます。まぁ、とりあえず残りの半年を読んでみてから、その続きをどうするか考えましょう。(9/19)
021/215
「探偵は女手ひとつ」深町秋生
山形県警を退職し、地元で探偵業を営むシングルマザーが主人公。手がける依頼は、屋根の雪下ろしやサクランボの収穫など便利屋そのもの。時折舞い込む本格的な探偵業務では、かつての仕事仲間や補導した元不良少年などと依頼をこなしていく。台詞の殆どが山形弁というなかなかシュールな展開で、なかなか面白い小説でした。続きがあれば読みたいな。(9/19)
022/216
「女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち」ブレイディ・みかこ
今回のコロナ禍で、世界の政治リーダーたちの力量が如実に明らかになりました。そして、その取り組み姿勢が高く評価されたリーダーの殆どが女性だったというのはよく知られた事実です。この本は、コロナ禍前から雑誌に連載されていた記事を纏められたもので、非常にタイムリーな出版となりました。女性だから無条件に賞賛されるべきという訳ではないのですが、政治の世界に多様性が足りていないのは紛れもない事実です。特にジェンダーギャップバランスで世界の底辺を争う我が国においては、女性だけでなく若者も政治の世界から排除されています。まぁ、政治の世界だけじゃないですけどね。ますます老いた社会になっていくのではないか。恐ろしいです。(9/20)
023/217
「レプリカたちの夜」一條次郎
かなり前の本ですが、第二回新潮ミステリー大賞受賞作にして、選考委員の伊坂幸太郎、貴志祐介、道尾秀介という面々が絶賛したと言うことで、めちゃめちゃ期待して読みました。残念でした。期待のあまり、最新の文庫を買ってしまったのですが、読む気になるだろうか。(9/21)
024/218
「酔っぱらいの歴史」マーク・フォーサイズ
おやぁ、面白かった。お酒を切り口にした歴史なのですが、これってイコール人類史であって、採集生活下の人類が、アルコール発酵した果実に目覚めたところから、書き起こされます。安全な水の確保が難しかった古代社会においては、大麦を発酵させたビールが主たる飲料物であって、ビールが確保できないときは、やむを得ず水を飲んでいたそうです。シュメール社会にはビールの女神がいて、ギリシャ神話の時代にワインの神様が現れます。世界で一番古い酒造の痕跡は中国にあるそうですが、そういえば中国にお酒の神様っているのでしょうか?この本では、元々イスラム社会もお酒を否定する物ではなかったということも書かれていて、お酒大好きの私としてはとても興味深い本でした。御同好の士にはお薦めの一冊です。(9/25)
025/219
「宗教と過激思想 現代の信仰と社会に何が起きているのか」藤原聖子
過激思想と宗教と書かれると、ついついイスラム過激派を想像してしまいますが、過激思想はどの宗教にも存在しています。イスラムの原典では、他宗教への攻撃は記されていないにも関わらず、なぜ今のようなイスラム教対キリスト教の世界が形成されてしまったのでしょうか。また、最近はナショナリズムが宗教と結びついて独特な不寛容性を増殖させているようにも見受けられます。こんな世界を誰が望んでいるんでしょうか。(9/27)
026/220
「寄宿学校の天才探偵」モーリーン・ジョンソン
ニューヨークタイムズのベストセラー三部作の初巻という触れ込みで期待して読みました。天才少女探偵が、80年前に起こった誘拐事件の謎を解く過程で、新たな殺人事件が発生します。この本の中では、解決編までたどり着けず、次巻に送られます。どうやら独立した三部作ではなく、一連の小説を三分割したうちの一冊でした。悔しいから続きも読みます。(9/27)
027/221
「宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう」高水裕一
タイトルに惹かれて買いました。将来、宇宙人に自分の住んでいる星について尋ねられたときに備え、宇宙の中での地球について書かれた本です。地球の位置の表し方や太陽の特徴などといった辺りまでは想定の範囲内だったのですが、物体を構成する元素、数の表現方法なども相対的であり、どのように説明すれば良いのかとなると、かなりお手上げ。脳みそを酷使しながら読みました。いやぁ、難しかった。(9/29)
028/222
「フレドリック・ブラウンSF短編全集①星ねずみ」フレドリック・ブラウン
70年ほど前に活躍したSF・ミステリ作家のSF短編を集めた全集の一巻です。全作品が年代順に編まれておりこの巻では初期の10作品が収められています。実は、今は亡き敬愛する星新一さんが、お好きな作家として挙げられたこともあって、40年以上前に文庫で何冊か読んだことがあります。ここに収録されている短編については、2、3作は読んだ記憶があるような気がするんですが、定かではありません。現在全4巻出版されていますので、また読んでみようかと思っています。(9/30)