2021年4月は22冊、うち小説は14冊、その他は8冊という結果になりました。
先月は20冊を切りましたが、再び20冊超えに復活です。
そんな中でのお薦めなんですが、小説についてはお気に入りのシリーズもの(警視庁文書捜査官、マギー・ホープ)が、安定的に面白くてよかったです。どちらも女性が活躍する小説で、特に後者は、挿まれる第二次世界大戦のエピソードが興味深く、主人公の成長とともに楽しめる面白いシリーズだと思っています。このシリーズはお薦めです。
しかしながら、それ以外となるとやや期待外れで、これという本には出会えませんでした。住野さん、伊岡さんの小説は結構好きなので、楽しみにしていたのですが、残念でした。また辻さんの作品もかなり期待していたのですがね。
一方で、それ以外の分野の本はお薦めがいっぱいです。
まずは、今年の新書大賞上位の書籍たちです。
“スマホ脳”は、内容的には“SNS脳”という印象ですが、スマホの功罪というより、このツールのおかげで容易にアクセスできるようになったSNSの問題点について書かれています。かくいうこのブログもSNSの一形態であるわけで、ある種、病的に承認を求めたがる脳の働きが、よりいっそう孤立感を高めていくという指摘には、改めて気をつけなきゃいけないなと思った次第です。
“民主主義とは何か”、これは本当に面白かった。自分で考えて判断する人間を作りたくない。今の政権が遠ざけようとした気持ちがよくわかります。でもそんなことをしているから、世界の流れについていけない、どんどん後れをとっているということに気がつかないのだろうかと心配になります。今からでも遅くない?面白かったですよ。お薦めです。
“椿井文書”は、近世末期に大量に流布した偽造文書に関する一大考察です。制作者が京都府南山城地域出身と言うことで、山城、河内地域の歴史ねつ造に深く関わっていたことが明らかにされています。近代初期には、内容の正確性に大いなる疑問符が付けられていた文書が、なぜか徐々に受け入れられるようになってきています。そこには、歴史学者の専門分野ごとの壁の存在があったようで、そのことの問題提起もされています。なかなか興味深い一冊でした。歴史マニアの方にはお薦めです。
新書以外では“仕事に関する9つの嘘”お薦めします。下にも書いていますが、いずれお“嘘”と言い切るよりも“必ずしも正しくない”というレベルのお話かとも思うのですが、40年近く働いていると、いずれも頷けることばかりです。まぁ、あえて平たく言うと、“この世に絶対といえることはない”ということでしょうか。纏めすぎ?
4月の後半から京都府にも緊急事態宣言が出されて、5月の連休も、おうち時間を過ごさなければならない日が続いています。早く、以前のように本と酒を携えて、散歩に出られる日常が帰ってくることを願いつつ、今日も本のページをめくっています。
宣言期間中は、図書館も予約本以外の貸し出しが制限されていて、館内を巡って、背表紙を見ているだけでわくわくしてくる面白そうな本を物色すると言う楽しみが止められています。一年半前の通常の日々が懐かしい。
001/063
「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」辻真先
先月読んだ“たかが殺人じゃねえか”の前日譚で、世間が戦争へと向かっていく時代の名古屋が舞台になっています。私は知りませんでしたが、昭和12年に名古屋市で“汎太平洋平和博覧会”というイベントが開催されていたそうで、その会場横に作られた架空の建造物が事件の舞台となっています。一応ミステリとはされていますが、その建物の仕掛けがかなり荒唐無稽で、若干引いてしまいます。(4/3)
002/064
「灰の轍 警視庁文書捜査官」麻見和史
テレビドラマになったシリーズの一作です。たぶんこの事件は映像化されていなかったと思います。今作では、文書もさることながら、パソコンに残されたデータ(これもある種の文書?)から事件を推理し、真相に迫っていきます。主人公の成長とチームワークが楽しめて、いい作品でした。(4/4)
003/065
「ゼロデイ 警視庁公安第五課」福田和代
謎のテロリスト集団クーガと警視庁公安課の戦い。かなり無理のある設定だけど、純粋にエンターティメントとして楽しめばOKかな。(4/4)
004/066
「この気持ちもいつか忘れる」住野よる
結構刺激的な作品を連発される作家さんです。この作品では、つまらない毎日の中でも自分は特別だと思い込んでいる“中二病”少年が主人公。その望みどおり、異世界の少女と交流するというとても特別な瞬間が彼に訪れます。あることがきっかけで、その交流が途絶えるのですが、その後の彼はほとんど抜け殻のようになって“余生”を過ごしていきます。十数年後彼に予期せぬ出会いが訪れ、劇的な変化を迎えます。主人公の少年が、いけ好かないやつで、なかなか共感できませんでしたが、この作者らしい幕切れでした。(4/6)
005/067
「カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?」松原始
御専門は鳥類の研究だそうですが、軽妙な語り口で、鳥類にとどまらず様々な動物の生態について紹介してくれます。タイトルにあるとおり、ある動物の生態を切り取って、賢いとか頭が悪いと決めつけることの愚かさに改めて気がつかされます。動物に限らずあらゆる生物は、子孫を残すことを目的に生きているわけであり、そのために最適と思われる行動をとっているに過ぎません。それを人間の基準に当てはめることの無意味さよ。とても面白い本でした。(4/7)
006/068
「スマホ脳」アンデシュ・ハンセン
昨年の新書大賞で高い評価を得た書籍で、現在もベストセラーに名を連ねる本です。いやぁ面白くて一気に読んでしまいました。著者の本国スウェーデンでは、精神的なストレスで心の病にかかる人たちが増えてきているそうですが、これは世界的な傾向でもあります。著者によると、そのことにスマートフォン、特にSNSが大きな影響を与えていると考えられます。SNSで幅広い社会とつながりを得ていると考えている人たちほど同時に孤独を感じている。ヒトという動物の生態に、スマートフォンに代表されるIT機器は、マイナスの影響を与えている。というようなことが書かれています。よく知られているように、スティーブ・ジョブズは子供たちには、絶対にスマホを使わせなかったそうです。(4/7)
007/069
「the four GAFA 四騎士が創り変えた社会」スコット・ギャロウェイ
話題になった本ですね。ところが私は調子に乗って電子書籍で買ってしまったものですから、2年間ほとんど放ったらかしで、ようやく読み切ることができました。途中何度も読み始めては忘れてしまい、というのを繰り返していましたが、ようやく読了です。やっぱり電子書籍というのは、読むのが難しいですね。内容的には、すでに旧聞になってしまったものも多くなってしまったのですが、このコロナ禍の間にも、この四騎士の存在感はさらに大きくなってきたような気がします。私たちの娘たちが暮らす未来は、いったいどうなってしまうのでしょうか。(4/8)
008/070
「超一流の雑談力」安田正
最近は、基本的にこの手のノウハウ本は読まないようにしているのですが、この本はたまたまAmazonPrimeの特典で電子版が無料で読めるため読んでみたものです。商談を上手くまとめビジネスで成功するため、親しい友人をつくるためあるいは恋人をつくるためには、コミュニケーション能力を磨く必要がある、その肝は雑談力である。という訳だ。他人とコミュニケーションをとるには、実際にその人と当たってみるしかなく、上手くいかないことも当然あって、それがコミュニケーションなんでしょう。ところが、失敗するのが怖くて、この手のノウハウ本に頼ってしまう。そのことがストレスとなって、心身を病んでしまう人が増えているのではなかろうか。こんな本は頼っちゃいけない。(4/8)
009/071
「今夜」小野寺史宜
彼の作品を読んだのは2昨目。とある“夜”に起こった出来事をボクサー、タクシードライバー、警察官、教師と主人公を変えた4つの物語として描かれています。それぞれが少しずつ重なっていて、それはそれで面白い試みだったと思います。ただ、どうにもそれぞれの抱える闇が深すぎて、そんな簡単に変われるのかと考えてしまいます。個人的には、いまいちかな。(4/10)
010/072
「その裁きは死」アンソニー・ホロヴィッツ
昨年の海外ミステリの中ではナンバーワンと高い評価を受けた作品です。同じ著者の“メインテーマは殺人”の続編で、元刑事のホーソーンと著者自身が札自陣事件の謎解きをする物語。よくできたお話で、それなりに面白かったのですが、前作ほどの感動はなかったかな。著者によると、同じ主人公で計10作までは企画があるそうなので、それは楽しみにしておきたいと思います。(4/11)
011/073
「不審者」伊岡瞬
最近気になっているミステリ作家さんの近作です。主人公の女性は、主婦業の傍ら在宅で書籍の校正を職業とし、食品会社で働く夫、最近認知症気味の義母、引っ込み思案で幼稚園に通う息子と平和に暮らしていたところに、突如21年ぶりに再会するという夫の兄が現れ、周りに不審事が相次ぎます。徐々に追い詰められていく主人公。そして最後には思わぬどんでん返しがあり、話としてはすっきりした内容ではないのですが、久しぶりにやられたと思いました。(4/11)
012/074
「ファーストレディの秘密のゲスト」スーザン・イーリア・マクニール
女性スパイ“マギー・ホープ”シリーズの第五弾。真珠湾攻撃を受けたアメリカが第二次世界大戦への参戦を表明し、英米の同盟を確たるものにするため、アメリカを訪問したチャーチル首相一行に、マギーが同行し、そこで発生したルーズベルト大統領夫人を巻き込む殺人事件の解決に奔走します。大戦に参戦した当時のアメリカの状況はもちろん、当時の人種差別の問題が赤裸々に描写されていて、それだけでも読み応えのある中身になっています。そして、主人公の家族を巡る事件も勃発しそうな様子で、続きが楽しみです。(4/13)
013/075
「アクティベーター」冲方丁
中国から爆撃機に乗った女性パイロットが防空線を突破して羽田空港へ強行着陸し、亡命を求めてきます。そこから日本政府内の権力争い、アメリカのインテリジェンス機関との情報合戦など読みどころは満載です。ただ満載過ぎてかなりおなかいっぱいになります。面白いのは間違いないですけどね。(4/17)
014/076
「赤い砂」伊岡瞬
最近話題の作家さんですが、本作は本格デビュー前に公募賞に農簿するために書かれた小説らしく、今回改めて出版されたものです。というのも、テーマが非常に今日的であるためです。本作では、不治の病を引き起こす未知のウイルスを巡って、国立研究機関、製薬会社、公安警察が暗躍するという物語で、ウイルスと細菌、ワクチンと抗ウイルス薬の違いなどについても、素人にわかりやすく書かれています。若干主人公の設定に青臭さは残りますが、スピード感もあってよかったです。(4/18)
015/077
「影の斜塔 警視庁文書捜査官」麻見和史
シリーズ5作目、今月2冊目ですね。残り2冊も借りてきているので、近日中に読み切るつもりです。主人公がある殺人事件に絡んで、とある捜査にかり出されるのですが、どうやら警察内部の過去の暗闇がその背景にあるような。見るからに怪しげな管理職たちが出てきますが、それ以上に係長が怪しい。相変わらず自作への興味を引き立てられます。(4/19)
016/078
「民主主義とは何か」宇野重規
この本も、先日発表された新書大賞で上位にランクされた秀作です。著者は昨年、学術会議の会員に任命されなかったことで一気に有名になりましたが、こういう人を、今の政権は嫌っているんだと言うことがよくわかって興味深かったです。内容としては、とても面白くて、今年の新書大賞のラインナップはかなり高評価を付けられそうです。2000年を超える歴史があると言われる“デモクラシー”ですが、一般的になったのは、ほんのここ2世紀ほど。さらにその中で、本当に“デモクラシー”が機能していたと評価できる時代、国って、どれほど存在したのでしょうか。少なくとも日本にはなかなか根付かない仕組みですね。今、仕組みと言いましたが、この本の中では、デモクラシーは制度か概念かという問いも立てられています。この本を読んで、日本国民の多くが“デモクラシー”について考え出したら、今の政府にとっては大ピンチになるなと思います。それくらい面白かった。禁断の書かもしれませんが、めっちゃお薦めです。(4/21)
017/079
「NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘」マーカス・バッキンガム、アシュー・グッドール
著者の一人は、“さあ才能に目覚めよう”という名著を生み出した人で、昨年の発売以来、高い評価を受けている本です。かなり以前に予約していたところ、ようやく借りることができました。ここで書かれている“嘘”というのは、ちょっと言い過ぎで、“必ずしも正しいわけではない”というくらいが妥当かなと思います。とは言いながら、かなり興味深い指摘が満載です。たとえば“人は『他人』を正しく評価できる”なんてのは正しくそのとおり、自分も管理職になって、人を評価しなければならなくなったときに、そんなん無理やろ、と思ったものです。また、“『リーダーシップ』というものがある”などというのも、いまの社会に爆弾を投げかけるようなものですね。とても興味深い本でした。これまたお薦めの一冊です。(4/22)
018/080
「凍える街」アンネ・ホルト
スウェーデンのオスロ市警を舞台にした警察小説で、シリーズもののかなり後半の作品のよう。前半の作品は、他の形態で出版されているため全く気づかず、いきなり読んでしまい失敗しました。登場人物にはかなり複雑な背景があって、それを理解していないととてつもなく冗長で、差し込まれるエピソードも、その必然性が全く感じられず、読み通すのにかなり難儀しました。シリーズものは途中から読んではいけない。鉄則ですね。(4/25)
019/081
「カケラ」湊かなえ
全編モノローグという斬新な体裁です。しかも語り手が章ごとに交代するという運びで、これはいったい誰なんだと訝りながら読み進めると言うことになります。物語として成功しているのかどうか?正直私には難しかった。独白系のモノローグというのはよくありますが、本作ではすべて会話式のモノローグとなっており、相手方おの会話ではないので読むのにかなり体力を要します。疲れた。(4/25)
020/081
「椿井文書 日本最大級の偽文書」馬部隆弘
これも、今年の新書大賞で上位にランクされた一冊です。かなり前に購入していたのですが、ようやく手に取りました。名前だけは聞いたことがある“椿井文書”ですが、その実態をとても丁寧に立証されており読み物としてもとても面白いものになっています。この椿井文書というのは、近世末期に椿井正隆なる人物によって創作された大量の古文書のことを指します。どうやら、当時の土地を巡る争いの証拠資料の収集を求められた際に、ねつ造したものが大半を占めるようです。これが罪深いのは、いつの間にかそれが史実として受け入れられ、いくつかの自治体では公的に認定されてしまっています。著者は元々枚方市の教育委員会で非常勤嘱託として働ていたときにその実態に気づき、修正を建議したものの、受け入れられなかったことを悔やみ、この研究を始められたようです。著者は、こういった偽書が受け入れられてしまったことへの理由や問題点、今後の課題なども綴っておられ、非常に興味深い内容になっています。京都府内の自治体の歴史にもかなり関わりがある文書が多く、今後どう扱われるのか興味が尽きません。歴史に興味がある方もない方も、どちらにもお薦めの一冊です。(4/27)
021/082
「愚者の檻 警視庁文書捜査官 」麻見和史
シリーズの6作目、文書捜査班のチームワークが冴え渡ります。連続殺人事件の捜査の過程で、過去に解決した殺人事件にえん罪の可能性が浮上します。その捜査を止めようとする上司との戦いなど、興味深いストーリー展開です。今回は、文字の謎を解くという点では物足りなさを感じましたが、安定の面白さでした。(4/27)
022/083
「新しい世界 世界の賢人16人が語る未来」クーリエ・ジャポン編
世界で活躍する16人の知性が語るコロナ後の未来です。様々な媒体で発表されたインタビュー記事を纏めたものなのですが、時期的に昨年の春先から秋にかけてのものばかりで、世界的に猛威を振るっている現状を踏まえたものではない。日本を除く先進国では、ワクチンの接種が進んでいるとはいえ、未だ拡大傾向には追いついていません。そんな状況でオリンピックなんて。私自身は、皆さん様々な未来を思い描いておられますが、おそらく現実はその想像を超えた形で現れるのではないかと考えています。そしてそれは、決して我々には快いものではないような、そんな気がしています。(4/30)