2021年4月4日日曜日

2021年3月

2021年3月は、計19冊、うち小説は10冊でその他が9冊という内訳でした。

今年初めて20冊を切りましたが、それでも順調に読めていますね。

でもって、中身はどうだったかというと、小説に関しては定番のシリーズ以外はやや低調でした。

その中で薦めの一冊は、昨年のミステリ各賞を総なめにしたたかが殺人じゃないかが秀逸でした。最近のミステリ小説は、携帯電話も存在していなかったような時代い題材をとった作品が主流となっており、本作もその例に漏れません。あらゆる行動が監視されている社会では、ミステリの成立が難しくなっているのでしょうね。今後はそれらを前提にした作品も出てくるのでしょうが、今は過渡期といった状況なのでしょうか。

それ以外の分野では、これまた新書大賞となった人新世の資本論がダントツで面白かったです。特にSDGsという言葉に期待されている皆さんには是非とも読んでいただきたいと思います。詳しくは本文で書いていますので、できればそちらに目を通してください。

続いては科学者が消えるも現前にある問題をあぶり出した秀作でした。従来の日本の学校教育では、自ら考える人ではなく、命じられたことを上手くできる人を育てることに力をおいてきました。あらゆる面でその弊害が顕在化してきており、この問題もその一端かと思います。考えさせられる一冊でした。

今年は、三月に入ってから急に日中の気温が高くて好転が続き、下旬には桜が満開となるなど外出する人も増え、私も人混みを避けて散歩を再開しました。車中のお供には本が欠かせず、出かけていた割には読書量が減っていません。

四月には職場が変わって、通勤時間が伸びたのですが、バスが中心なので読書時間にはならないかなと思っています。また、これまでのように通勤途上で図書館に寄ることも難しくなるので、ちょっと不便を感じています。

それでも、またいろいろと面白そうな本を探して、読書を楽しみたいと思っています。

 

 

001/044

Think CIVILITY『礼儀正しさ』こそ最強の生存戦略である」クリスティーン・ポラス

Think ~”と銘打ったHow to 本が増えていますが、これもその便乗本です。原著名は“Mastering civility”なので、それほど趣旨は変えていないのかな?こういう本を読んでいると、ついつい“そうそう、こういう奴って、どこにでもおるよなぁ”と思いがちなんですが、実は自分がそういう奴になっていないかと顧みるところにこういう本の意義があるのだと思います。書かれていることの多くに賛同できるし参考になるとは思うのですが、日米の社会の違いから、全面的に参考にできるものではありません。うまく取り入れること、もしくは読み替えることが重要かなと思います。(3/3)

 

002/045

レディーズ・メイドは見逃さない 」マライア・フェデリクス

好きなコージーミステリの一冊ということで、図書館で見つけ借りてきました。時は1910年代、ニューヨークの上流社会で、令嬢のお世話をするレディーズ・メイドとしてとある成金家庭に雇われた女性が主人公となって、殺人事件の謎を解くという物語。当時の上流社会の有り様、一方で彼らに搾取されドン底にあえぐ人たちの悲惨な生活、当時の社会問題となっていた無政府主義者によるテロリズムなど当時の世相がとても詳しく描かれており、その部分ではとても読み応えがあります。しかしながら、その分、諧謔性は無くなり、コージーミステリと呼ぶには看板に偽りありかと。物語も私には納得いかない結末を迎え、あまり好きではない。続編はあるのだけれど、優先度は低い。(3/3)

 

003/046

科学者が消える ノーベル賞が取れなくなる日本」岩本宣明

ここ数年、毎年のように日本人がノーベル賞を受賞するようになって、10月の発表時近くになると、受賞予想で盛り上がり、受賞が決まるとさらに大盛り上がりということが続いている。誠に喜ばしい限りである。本書は、そういったのんきな状況に冷や水を浴びせるようなレポートである。ここ数年、国は将来日本からはノーベル賞がでないような方向に政策誘導しているという驚くべき実態を明らかにしている。指摘されている問題点は次のとおり、まず研究者として身を立てていこうとする人たちが激減していること。ノーベル賞の対象となるような基礎研究に掛ける研究費が削減されていること。研究者が本来の研究に充てられる時間が減少していること。結果として、二歩の研究者のパフォーマンスが著しく低下していること。そしてこれらはすべて国が政策的に行ってきた結果であること。なんか凄いですね。資源のない日本が生き残る道は知恵と技術しか無いと思うのですが。(3/6)

 

004/047

スタンフォードの教授が教える職場のアホと戦わない技術」ロバート・I・サットン

これも、自分の身を守るためには、周りにいるアホと関わらないようにしなければいけないということを、様々な角度から提起しています。内容としては、先日読んだ礼節に関する本とよく似ているのですが、この本の中にも、自分がアホにならないために気をつけなければいけないという非常に重要なことが書かれています。まさにそれがポイントですね。(3/6)

 

005/048

ヴァイオリン職人の探求と推理」ポール・アダム

これは、どこかのWebで見かけた本で、イタリアのバイオリン職人が、長年の友人が遭った殺人事件の犯人を友人の警察官と共に捜すという物語で、イギリスの作家さんが書かれています。ミステリとしては、どうかなという部分もあるのですが、かのストラディヴァリを初めとする伝説の楽器職人や楽器のうんちくが語られていて、それを読むだけでもとても楽しい物語です。続編もあるようなので、読んでみたいと思います。(3/7)

 

006/049

汚れた手をそこで拭かない」芦沢央

昨年のミステリ部門での各賞で上位に挙げられていた作品です。日常の中に潜む小さな悪意にまつわるミステリが集められているのですが、どうも納得いかない展開もあって、個人的にはあまり好みではない。そういえば直木賞候補にもなっていましたね。決して面白くないわけではないのですがねぇ。(3/7)

 

007/050

たかが殺人じゃないか(昭和24年の推理小説)」辻真先

昨年の国内ミステリの各賞を総なめにしたベストセラーです。舞台は終戦後の学制改革で新たに設けられた共学の新制高校、場所は戦争で町のほとんどが焼かれた名古屋市。戦中戦後の混乱期、必死で生きていくために働く庶民とプライドもなく敗戦と共にアメリカにすり寄った特権階級の連中の対比が素晴らしい。また、混乱する町の様子がとても具体的で、臨場感もたっぷり。ミステリとしてもよくできていて、なかなかの秀作でした。面白かったです。(3/7)

 

008/051

御苑に近き学び舎に 京都・番組小学校の誕生」荒木源

明治維新後、いち早く京都市内に設けられた番組小学校の誕生にまつわる物語。著者の出身校でもある京極小学校をモデルに書かれている。同校は、最後にできた番組小学校だったらしく、開校に至るまでのあれこれを大胆に創作しています。当時のことですから、何も記録が残されていなかったのでできる技ですね。私は、首都が東京に移り衰退しつつある京都を救うには人材が必要であり、そのため町衆が立ち上がったと思っていたのですが、どうやら当時の京都府からの押しつけだったようですね。維新前まであった旧町を情け容赦なく番組という新組織に組み替え、その会所と併設する形で学校建設を迫ったと言うのが正しい認識のようです。でも今になって思うと、そのことが京都の衰退を食い止める一助にもなったわけですから、結果オーライということですかね。(3/13)

 

009/052

Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法」ロルフ・ドベリ

前著Think clearlyの続編で、新聞に寄せられた52のコラムをまとめたもの。人が陥りやすい思考の罠について書かれています。一つ一番印象に残ったのが、ピンチをチャンスと考えることいついて、危機は危機でしかないのだから、そこから何かを学ぼうとか、チャンスに変え無きゃいけないと思うより、まずはその危機を乗り越えることに集中すべきとの趣旨でしたが、私にとっては目から鱗。確かにそのとおりやなと思いを新たにいたしました。(3/13)

 

010/053

Rは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学」ジェレミー・ベイレンソン

著者は、ヴァーチャルリアリティ(VR)研究の第一人者で、世界の最先端を歩んでいます。彼の研究で面白いのは、VRが人間の脳に与える影響について重点的に研究しているというところです。おれまであまり考えたことがなかったのですが、長時間VR環境下にいることの危険性についても言及されており、彼のラボでは、20分という制限を設けているそうです。現在のVR用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着してVR映像を見ると、奥行きが変化するくせに、対象物(画面の映像)と目との間隔は変化しないので、脳が混乱しVR酔いともいうべき状況に陥るそうです。なかなか難しいですね。とはいえ、今回のコロナ禍もあり、今後VRの活用は急速に進むことが考えられます。一年後の世界も想像できません。(3/18)

 

011/054

人新世の『資本論』」斎藤幸平

2021年の新書対象を受賞した一冊ですが、めちゃめちゃおもしろい本でした。これはお薦めの一冊です。ポイントはいくつもあるので、書き始めると長くなるのですが、最も私のハートにダイレクトに響いたのは、「脱成長」という言葉です。人新世というのは耳慣れない言葉ですが、平たくいうとホモサピエンスという特定の種による地球環境への負荷が最大限に進んでいる年代といえます。その状況に対処するためSDGsという言葉が、これまた何かの呪文のように唱えられていますが、本書では幻想とバッサリぶった切っています。私も以前からSDGsという言葉の胡散臭さがどうにも馴染めずにいたのですが、本書を読んで腑に落ちた気がします。実は私自身は、引き返せる時はすでに過ぎてしまっており、地球は破滅に向かうしかないと考えています。そのときがいつやってくるかと言うことだけだと思います。自分たちが、その道を選んでしまったのだから、やむを得ないのではないか。これまた諦めの気分です。それを置いても面白い本でした。(3/19)

 

012/055

『差別はいけない』とみんないうけれど」綿野恵太

ポリティカル・コレクトネス=政治的な正しさという言葉があるそうです。差別はいけないということは絶対的に正しいことだとされていますが、なぜか地球上からなくならない。自分の内面だけで、それを認識し、わかってるんやけど、なかなかできへんのやと心の中でエクスキューズしている段階はいいのですが、最近では、コロナ禍の最中なのに深夜まで営業している飲食店がある、テレビで気に入らない発言をした、お客である自分に対する店員の態度が無礼だ、許せない。など、いわゆる不謹慎狩りで、あちらこちらで炎上騒ぎが起きている。どうして、人はこんなに情け容赦なくなってしまったのだろうか。生きにくい世の中になったものだ。(3/20)

 

013/056

スパイ学校の新任教官」スーザン・イーリア・マクニール

マイブームの一冊、シリーズの第4作になります。前作で、ベルリンへの潜入ミッションを命じられた主人公が、心身に大きな傷を受けて帰国し、スコットランドにあるスパイ養成施設で鬼教官として、後進の指導に当たっているところから物語がスタートします。時期は1941年の11月、日本がアメリカとの開戦前夜の諜報合戦が描かれると共に、エジンバラでのバレイ公演で起きた殺人事件で、親友に嫌疑が掛かり、主人公がその謎を解くために奔走します。真珠湾攻撃が起き、アメリカが世界大戦に参戦することになり、チャーチルがルーズベルトに会うためワシントンに向かうに当たり、主人公を無理矢理同行させる場面で本作は終了。次作ではアメリカでの主人公の活躍が描かれる予定です。(3/21)

 

014/057

オーケストラ 知りたかったすべてのこと」クリスチャン・メルラン

著者はフランスのフィガロ紙の音楽評論家。600ページにも及ぶ世界のオーケストラに関するエッセイを集めた大著です。演奏をボイコットした指揮者や逆に指揮者とぶつかって演奏を拒否した演者のエピソードなど、なかなか興味深い内容でした。オーケストラの各パートごとのエピソード。第一バイオリンがコンサートマスターと呼ばれるのは知っていましたが、次にオーケストラを支配しているのはティンパニ奏者だそうです。オーケストラが演奏中に自分たちの位置を見失ったときには、誰が現在地を示すのか。面白エピソードが満載です。長くて読むのが大変だったけど、面白かったです。(3/25)

 

015/058

クスノキの番人」東野圭吾

ミステリではない東野さんの作品。映画にもなったナミヤ雑貨店にも似た不思議な力が取り持つハートウォーミングなテイストの作品です。天涯孤独の身の上と思っていた主人公にある日突然叔母という人物が現れ、先祖から伝わる霊木クスノキの番人を命じられます。途中から少しずつ先が読めてくるのですが、それだけに安心して読める作品でした。(3/27)

 

016/059

ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ

昨年のミステリ番付で、海外作品の部で高い評価を受けていた一作です。1950~60年代のアメリカが舞台で、当時はまだ黒人差別が合法であった時代に湿地の少女として、周囲から差別を受けていた女性が主人公のミステリです。とはいいながらミステリの要素は希薄で、当時大変な差別を受けていた人々の壮絶な人生が描かれています。トランプ政権の発足と軌を一にするようにアメリカ社会では差別と分断が進んでいるという印象を受けています。そんな時代だからこそ注目を浴びたのかもしれませんね。(3/28)

 

017/060

法廷遊戯」五十嵐律人

とある二流私大の法科大学院で出会った3人が、数年後に殺人の被害者、その披疑者と被告弁護人として再会します。取り調べだけでなく弁護士の接見でも黙秘を続ける被疑者、独自の捜査で真相にたどり着く弁護人、複雑に絡み合った三人の過去。なかなかよくできた構成だと思います。ただ、凝りに凝りすぎたせいか、個々の台詞回しが少し引っかかるような印象でした。オチまで持って行くのにかなり無理したなという感じです。(3/28)

 

018/061

アンダークラス」相場英雄

いわゆる社会派のミステリなのですが、かなり詰め込んだなという印象です。老人介護施設で働く外国人労働者が、嘱託殺人の罪に問われるのですが、とある刑事が死亡時の痛い写真から疑念を抱き、真犯人にたどり着くという物語。物語の中には、外国人実務研修生問題、下請けいじめ、海外資本のE-コマース会社の優越的地位の濫用などといった問題がこれでもかと登場します。けっぷが出そうです。(3/28)

 

019/062

善意という暴力」堀内進之助

なかなか難解でした。これまたいわゆるポリティカル・コレクトネスに関する書籍なのですが、結局主題は何だったのかよく理解できないままに終わってしまった。ちょっと難しすぎるよこれは。(3/30)