2021年12月23日木曜日

2021年11月

11月は26冊で、小説が16冊とそれ以外が10冊という内訳でした。

2021年、残り一ヶ月で273冊となりましたので、久々の大台まで27冊。ちょっと難しいかな、、、微妙なところです。

そんな中でのお薦めですが、小説ではジェフリー・アーチャーのクリフトン年代記一択です。上下2巻×7部で計14冊という超大作でしたが、一月の間に一気に読み切りました。読んでも読んでも続きが読みたくなる本で、長さは全く感じませんでした。一応一人の人物を中心とした年代記なのですが、ミステリやロマンス小説の要素もありながら、政治、経済の要素も盛り込んだ贅沢な作りになっています。すでに読まれた方もおられると思いますが、もしまだの方がいらっしゃったら、是非とも読んでみてください。お薦めです。

小説以外の本も面白い物が多かったですが、こちらも敢えて一冊だけ。

いわゆる男性優位社会を痛烈に批判するマチズモを削り取れが興味深く、お薦めです。

今の世の中は、既に男女平等が保証されており、むしろ女性優位社会が訪れている。残っている男性優位と見える事も、決してそのような意図が含まれているものではなく、体力的な性差に基づくやむを得ないものだと思っていらっしゃる方にこそお薦めします。とんでもないことですよ。

今月は、まとめが遅くなってしまったので、ちょっと短めにしたいと思います。

今月もかなり読めたなと思いつつも、年頭に誓ったような古典にはほとんど手が付けられておらず、とても残念に思っています。

ここ数日も、いろんな本を読んでいる中で、有名な古典籍に言及されているところがあって、その度に、これも読まなきゃ、と焦っております。

今年もあとわずか。今月中は難しそうなので来年こそはと堅く心に誓っております。

 

 

001/248

夢と幽霊の書」アンドルー・ラング

今から120年前に書かれた奇書です。当時の新聞などで取り上げられた奇跡や幽霊譚などを集めた書籍です。今の我々が読むと、鼻白むようなことでも、当時の人たちにとっては一大事で、新聞紙上を何日にもわたって騒がせていた様がよく分かります。当時のイギリス国内の社会・風俗を想像するだけでとても楽しい書籍でした。(11/2)

 

002/249

見えない巨大水脈 地下水の科学 使えばすぐには戻らない『意外な希少資源』」日本地下水学会、井田徹治

およそ10年前に書かれた警鐘の書籍です。が、どうもその後も大きく改善された様子はなく、さらに同様の書籍が続発された形跡もありません。唯一、本書が久しぶりに重版がかかったくらいでしょうか。実は我々はかなり膨大な量の地下水を利用しているらしいのですが、地下に貯められる量を超えて利用しているという実体もあります。さらに深刻なのが地下水汚染で、いったん汚染されると浄化されるのはほぼ不可能です。また、いわゆる有機肥料といわれる肥料も汚染源となっているようで、すべてがバラ色とはいかないようです。硝酸性窒素という言葉も初めて知りました。地球を食い尽くす人類。(11/2)

 

003/250

にぎやかな眠り」シャーロット・マクラウド

シリーズになっている翻訳ミステリです。とある大学の教授たちが住まう一角では、クリスマス時期になると、家を飾り付ける暗黙のルールがあるのですが、それが嫌でクリスマス時期に留守にしていたところ、帰ってきたら自宅に女性の死体が。とりあえず、続編はもういいかな。(11/3)

 

004/251

時のみぞ知る クリフトン年代記 第1部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

めちゃくちゃ面白い小説です。主人公のハリー・クリフトンを取り巻く大河小説で、本作では誕生から、運命の人エマとの出会い、結婚と思わぬ別れまでが描かれます。とにかく息をもつかせぬ展開と善悪がはっきりとわかりやすい登場人物たちのおかげで次のページをめくる手が止まりません。とにかく面白いです。(11/6)

 

005/252

白鳥とコウモリ」東野圭吾

東野さんらしい小説です。売れっ子になっていろいろと言われる方もいらっしゃいますが、面白い作品になっています。名作容疑者Xの献身を思い出しました。お薦めです。(11/7)

 

006/253

コロナ時代の僕ら」パオロ・ジョルダーノ

昨年4月にイタリア国内で発表されたエッセイを纏めたもの。新型コロナウイルス感染症が一回目のパンデミックを迎えつつある時期に書かれたもので、当時の切迫感が伝わってくる。とはいえ、イタリア国内の感染者がまだ4桁から5桁に届こうかとする時期で、すでに500倍を越えている。とにかく示唆に富んだ珠玉の言葉に溢れているが、日本語版に特別に加えられた新聞でのコラムコロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないことに書かれていた次の一節が心に響く。コロナウイルスが『過ぎたあと』、そのうち復興が始まるだろう。だから僕らは、今からもう、よく考えておくべきだ。いったい何に元どおりになって欲しくないかを。”(11/8)

 

007/254

全員悪人」村井理子

いちおう小説の形式を取っておられますが、まるでノンフィクションのように真に迫ったお話でした。面白かったです。認知症が徐々に進み、周りにいる全員が自分に危害を加えようとしていると思ってしまう主人公。自分も徐々にそういう年齢に近づいてきました。この線の向こう側に行ってしまったら、どんな感覚に包まれるのでしょうか。そこからは帰ってこれないような気もするので、とても恐ろしい。(11/8

 

008/255

もうダメかも 死ぬ確率の統計学」マイケル・ブラストランド、デイヴィッド・シュピーゲルハルター

死亡確率100万分の1をマイクロモート(MM)と定義づける。これは、イングランドに住む5000万人が、何らかの理由で死亡する確率(つまり、同地では毎日50人の人が何らかの理由で死亡している。)を指し、もっとも平均的なリスクと考える。この基準で行くと2010年のロンドンでさえ出産のリスクは120MM、世界に目を向けると2100MMとなるそうです。出産というものがいかに偉大な業と言えるかよくわかります。まぁ、着眼点としてはおもしろいですがね。(11/8)

 

009/256

死もまた我等なり クリフトン年代記第2部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

途中で書くとネタバレになってしまうので、感想は、最終巻の読了後に纏めて書きます。(11/11)

 

010/257

歪められた食の常識 食品について聞かされた事のほぼすべてが間違っているわけ」ティム・スペクター

世の中には○○”○○”と銘打った食品があふれかえっています。かくいう自分もついついそういった表示に目がくらんで、同じ物なら、無糖、高タンパクと書かれた物を買ってしまいがちです。実は、こういった食品には、それで味が変わってしまったところに、化学的に調味されています。また、体に良いとされる食品から特定の成分が抽出され、その成分だけがサプリメントとして販売されています。科学が進んで、食生活が豊かになったように見えますが、実はかえって貧弱になってしまっている。そんな現実に気づかされます。巻末に纏められた食生活を改善する12のポイントを読むだけでも価値ある一冊かと思います。(11/12)

 

011/258

罪のあとさき」畑野智美

最近、彼女の作品が面白くて、少しずつ拾い読みしています。この作品は中学生時代に教室で級友を殺してしまった同級生と再会し、恋に落ちてしまった女性が主人公。もう一人の同級生である友人女性も登場し、不思議な人間模様が描かれます。ややダラダラ感があって、すっきりしませんが面白い小説でした。(11/13)

 

012/259

裁きの鐘は クリフトン年代記第3部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

第三部、かわらず面白い。(11/15)

 

013/260

京都の中世史6 戦国乱世の都」尾下成敏、馬場隆弘、谷徹也

最近刊行されたシリーズです。中性の京都は、日本の政治・文化の中心であり、京都の歴史=日本の歴史でもありました。その中で、この巻は応仁の乱の後から徳川政権の成立までの約100年間を扱っています。この応仁の乱から戦国時代へ移り変わる時期というのは、私の知識の中では割と空白に近い時代であり、とても興味深く読みました。象徴化された足利将軍家nい対して実権を持っていた細川家という構図の中で、細川家の中での勢力争いが活発になっていきます。そしてその中から三好長慶や松中久秀といった戦国時代のスターが登場してきます。京都の中世史が最後に注目を浴びた時代です。(11/16)

 

014/261

言論の不自由 香港、そしてグローバル民主主義にいま何が起こっているのか」ジョシュア・ウォン

現在、急速に自由が奪われつつある香港の民主活動家による獄中記です。同じ頃に流ちょうな日本語を駆使して、日本国内でもたくさんお支持者がいた女性活動家も投獄され、その後を活動を禁止されました。この本に書かれていることも、香港当局の了承を経て出版されているはずですから、おそらくすべてではない。書かれていないところに真実があるのだろうと思います。民主主義を守るためには、常に市民による監視と暴力に対抗できる団結力が必要です。(11/18)

 

015/262

マチズモを削り取れ」武田砂鉄

マチズモとは、ラテンアメリカにおいて男らしさを重んじる生き方、男性優位社会体現してる社会のことを指すそうです。この本では、特に今の日本社会に溢れている男性優位思想をこれでもかとあぶり出しています。実際のところ、私も男の端くれなので、男性が優遇されている場面に数多く突き当たり、その度に嫌ぁな気分になります。それで誰が得するんだろう?とか、明らかに損失だろうと思うことが限りなくあります。過日明らかになった医科大学での男女不平等なんて最たるものです。なんとかしなければいけませんね。まずは、政治から。(11/18)

 

016/263

フード・ルール 人と地球にやさしいシンプルな食習慣64」マイケル・ポーラン

食品添加物や過度に加工された食品ではなく、もっとシンプルな食生活を送りませんか。とはいえ、節約生活をしようとすると、どうしても最初に削減されるのが食料費。家計支出に占める所領費支出の割合を表したものがエンゲル係数。かつては貧困度を表す尺度の一つとして使われていました。現在も、貧困と肥満度には相関関係があるといわれています。シンプルな生活こそ贅沢な生活。(11/19)

 

017/264

追風に帆を上げよ クリフトン年代記第4部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

ますますおもしろい。(11/19)

 

018/265

三軒茶屋星座館」柴崎竜人

初めて読む作家さんです。プラネタリウムを備えたバーを営む主人公と、優秀な弟親子の不思議な共同生活。続編が結構書かれているようですが、たぶん読まない。(11/19)

 

019/266

紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒

私のお気に入りのシリーズで、この次の巻を先に読んでしまったのですが、ようやくこれで追いつきました。残念ながらその後の続巻は出されていないようなのですが、もう書かれないのかな。主人公のキャラも立ってて結構好きなんですが。(11/20)

 

020/267

ポストコロナのSF」日本SF作家クラブ編

どんなに荒唐無稽な設定を考えても、現実がそれを追い越してしまう。SF小説が書きにくい世の中になりました。この本は、ポストコロナ時代を見据えた短編SF小説のアンソロジーです。昔はSF小説大好きだったのですが、最近のSF作家は全くわからず、この本に咲く本を寄せている作家さんも誰一人知りませんでした。SF小説こそ、もっとさりげなく書かれるべきかと思うのですが、これらの作品は、何かしら肩に力が入っている感じがして、重い印象を受けました。テーマがテーマだけに仕方がないのかとは思いますが、ほかの本を読みたいなと思える作家には出会えませんでした。(11/21)

 

021/268

剣より強し クリフトン年代記第5部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

そんな展開もありですか。(11/24)

 

022/269

継続捜査ゼミ」今野敏

警視庁OBが大学の教授として第二の人生を送る。そのゼミの一環で過去の未解決事件の継続捜査を行い、事件を解決に導くというとんでもない設定の物語です。最近続編が文庫化されたので、まず本編をと思い読んでみました。まぁ、彼の警察小説はそれほど外れがないので安心して読めますが、この作品では必要以上に警察が無能に描かれていて、少しかわいそう。(11/24)

 

023/270

機は熟せり クリフトン年代記第6部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

おもしろいのだが、いやな予感がするぞ。(11/28)

 

024/271

なぜ秀吉は」門井慶喜

なぜ秀吉は無謀な朝鮮出兵を強行したのか。永遠の謎ですね。彼の小説を初めて読んだときは衝撃的だったんだけど、最近のはなんかなぁ、これもかなり期待はずれでした。(11/28)

 

025/272

永遠に残るは クリフトン年代記第7部(上)(下)」ジェフリー・アーチャー

いやぁ、とにかくおもしろかった。毎日朝夕の通勤の移動中に読み続け、一ヶ月で一気に読み切りました。7部かける上下巻で、計14冊の文庫でしたが、長さは全く気にならず、続きが気になって、京都市と亀岡市の二つの図書館からとっかえひっかえ借りてきて、途切れることなく読むことができました。最初の執筆当初は5部作の予定だったそうですが、どんどん伸びて7部作に。でも冗長さは全くありませんでした。様々な要素が入り交じった超大作で、どんな読者にも満足できる展開かと思います。ただ、第1部で提示された謎を第7部で中途半端に解いて見せたのがちょっと不満。でも今月最高のお薦め作です。(11/29)

 

026/273

安いニッポン 『価格』が示す停滞」中藤玲

失われた30年で、ものの値段が上がらず、給与も全く上がらない国になってしまいました。気がつくと世界からは大きく取り残され、凋落傾向は止まることを知りません。政治は二流だけど経済は一流と呼ばれた時代もありましたが、今や政治も経済も三流以下。ここからのV字回復は至難の業だ。(11/30)

 

2021年11月4日木曜日

2021年10月

10月は計25冊、うち小説は10冊でそれ以外が15冊という結果でした。

この月は季候も良くて、毎週末に“お散歩”に出かけていたので、週末に纏めて読書という日が殆どありませんでした。

ちなみに、お散歩先を列挙してみますと、安土城跡、御室八十八カ所、貴船神社~鞍馬寺、金剛能、正倉院展、茂山狂言などなど、結構充実してますね。特に初めて見たお能は良かったです。結構はまりそうな予感がしてます。

ということで、本来のお薦め作品ですが、小説は“レンブラントをとり戻せ”が、圧倒的に良かったです。他の作品があまり合わなかったこともありますが、めちゃくちゃ良かったです。もうすでにかなりの高齢ですから、続編は難しいのかもしれませんが、期待したいです。

小説以外の本は、結構良い物ばかりでした。

まずは“食”にまつわる“トマトの黒い真実”と“歴史を変えた6つの飲物”の2冊は秀逸でした。知らない世界のお話で、特にトマトに関する本は衝撃的でもありました。硬軟両極端な2冊ですが、いずれもお薦めです。

ちょっと手強い本でしたが、“新自由主義の暴走”と“世界を騙しつづける科学者たち”は、ずれも勉強になりました。新自由主義が行き過ぎると、資本主義が暴走を始め、止まらなくなります。どこかでブレーキをかけないと恐ろしい未来がやってくるのではないでしょうか。そんな未来を娘たちに残したくないと強く思います。時間があれば読んでみてください。

“僕はナチにさらわれた”も衝撃的な本でした。第二次大戦中にナチスが行った政策のうち、あまり公になっていない“命の泉”という事業の記録です。私もこの本を読むまで、このようなことが行われていたことを全く知りませんでした。記録って本当に大事ですよね。勝手に改ざんしたり廃棄しちゃいけませんね。

新型コロナがらみの本も結構出版されてきました。今月読んだ本は、殆どが昨年の状況を元に書かれたもので、2年目に入った今年は、さらに事情が変わってきていると思います。特に、最近の報道ではコロナ禍からV字回復して、高収益を挙げている大企業がある一方で、中小企業や公共交通を担う企業にはさらに厳しい状況が続いているようです。政府の主張するバラマキ政策だけでどうにかできるレベルではないのかもしれませんが、政治の力の見せ所かもしれませんね。

11月に入っても、過ごしやすい気候が続いています。当然のことながら、お散歩の予定も満載で、どれくらい読めるか分かりませんが、この調子だと久しぶりに年間300冊を越えるかもしれませんね。まぁ、ぼちぼち読んでまいります。

 

001/223

新自由主義の暴走 格差社会を作った経済学者たち」ビンヤミン・アッペルバウム

著者は、ニューヨーク・タイムズ等で活躍したジャーナリストで、原題は“ECONOMIST’S HOUR~False Prophets, Free Markets, and the Fracture of Society”といいます。この本の書かれたアメリカで、ECONOMIST’S HOURというのは、ニクソン大統領就任からリーマンショックに至るまでの約40年間を指しており、新自由主義の経済学者が幅をきかせ、アメリカ政府の政策に関与してた時代です。この間に、共産主義の失敗が明らかになったこともあって、増長した結果、リーマンショックが起こり、格差社会に拍車がかかったことで、資本主義に陰りが見えてきました。この書籍では、世界に格差を生み出し、自らの地位と財産を盤石のものにした数多くのエコノミストたちが描かれています。勉強になります。(10/1)

 

002/224

シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録」井川直子

世界を未曾有の感染症が襲い始めた昨年春に、34人のシェフたちに実施されたインタビューを纏めたものです。昨春のことですから、全国の学校が休校になり、初めての緊急事態宣言出されて、飲食業に大きな打撃が出始めた頃のこと。まさかあのときは、その状況がさらに拡大しテイクことになろうとは予想もしていなかった頃のこと。あれから一年が経ち、この34名の方々はどうされているのか、興味があるところでもあります。(10/2)

 

003/225

本のエンドロール」安藤祐介

いわゆるお仕事小説なのですが、主人公が勤務するのは印刷会社。私もこうやってほぼ毎日本を手に取っているわけですが、作者や編集者だけでなく、本を印刷し、製本、配送する人たちがいて初めて私たちの手に届くということを改めて気づかせてくれました。ご存じのように、書籍の最終ページの奥付には、著者、発行者と並んで印刷・製本者が記されています。しかしながら出版社の中に編集者、校正者がいるように印刷社の中には版組、実際のオペレーターから資材調達までたくさんの人たちが携わって完成します。電子書籍では味わえない暖かみを感じる所以かもしれませんね。この本の奥付には、映画のエンドロールのように、出版に携わった数十名の方々の名前が載せられています。とても素敵な本でした。(10/3)

 

004/226

エクストリ-ム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済」リチャード・デイヴィス

直訳すると“極限の経済”といった感じでしょうか。世界の様々な“極限の環境下”での経済活動の有り様が描かれています。人類史上最大の津波に襲われたインドネシア・アチェ、独特の“通貨”が支配するザータリ難民キャンプ、ルイジアナ州立刑務所、法律の網からこぼれ落ちたようなダリエン地峡、コンゴ・キンシャサ、世界最大の工業都市から一気に凋落したグラスゴー、少子高齢化の最先端秋田、タリン、超格差社会サンティアゴ、の9地域が取り上げられています。秋田以外は全く知らないところばかりで、GoogleEarthを眺めながら読んでいるととても楽しい世界旅行を楽しむことができました。それにしても人間ってしたたかですね。面白かったです。(10/7)

 

005/227

物語ドイツの歴史 ドイツ的とは何か」阿部謹也

かつて暮らしていたこともあって、ドイツという国にはとても親近感を持っています。皆さんご存じのとおり、ドイツという国が連邦国家として成立したのはホンの200年ほど前のことで、それまでは数十もの国や自由都市に分かれており、それぞれが主権を持っていました。その精神は現在にまで引き継がれており、今のドイツ連邦も独立した州によって構成されています。この本は1998年に出版されており、連邦前史に多くが割かれ、ナチスドイツや東西ドイツ、最統一後のドイツについての記述がかなり薄くなっています。また、21世紀に入ってからは、EUを牽引する立場としてのドイツの役割が大きくなり、この20年でその姿を大きく変えました。最近、同じシリーズで“東ドイツの歴史”という本を買ったので、これも楽しみにしています。(10/7)

 

006/228

おもかげ」浅田次郎

商社マンとして定年を迎えた主人公が、送別会の帰りに電車内で倒れて救急搬送されたところから物語が始まります。本人が昏睡状態にある中で、周りの人たちが主人公の人となりを語るというのはよくある形ですが、この物語では、そこに主人公があたかも回復したかのような実感を伴いながら、時間と空間を駆け巡ります。そして結末はどうなるのか。浅田さんらしい物語です。(10/10)

 

007/229

トマト缶の黒い真実」ジャン=バティスト・マレ

フランスのジャーナリストが、一つのトマト缶を追いかけて世界をめぐったルポルタージュです。中南米原産のトマトですが、現在の主要な生産地は、アメリカ、イタリア、中国の三カ国で、それらは、ほぼ生食されることなく濃縮トマトに加工されたうえで、輸送され必要に応じてさらにケチャップやペーストに加工されて消費されます。日本では、トマトと言えば生で食べるかケチャップとして使うかの二択かと思いますが、ピザなんかに使われるのはペーストなんでしょうか。本書では、中国の新疆ウイグル地区での過酷な労働実態、中国で三倍に濃縮されたトマトをイタリアで水を加えて二倍濃縮に薄めてイタリア産として輸出される姿、最終消費地となったアフリカで変質して真っ黒に変色した濃縮トマトに着食料を混ぜて鮮やかにする手口などが次々に明らかにされていきます。この本を読んだ後では、安いお店のトマトソースパスタやピザ、イタリア直輸入のトマト缶などは食べる気がなくなりました。トマト好きなのに。(10/12)

 

008/230

神武天皇実在論」林房雄

今から50年ほど前に書かれたトンでも本の一つです。どんなことが書かれているのかという興味本位で借りてきました。2600年以上前に即位したと言われる初代神武天皇以前に、70代以上の天皇が存在していたという古文書があったそうで、それらを引きながら、神武以前に大和国家が成立しており、複数の文書で確認できることから、神武天皇が実在していたことには疑いの余地がないそうです。私自身は、継体天皇が、現天皇家の初代だと思っていますので、なかなか相容れませんが、まぁこういった“古文書”って嫌いじゃないです。実物を読みたいくらい。(10/13)

 

009/231

音楽の危機 ≪第九≫が歌えなくなった日」岡田暁生

今回のコロナ禍を受けて書かれた本です。昨年春からの感染拡大を受けて、真っ先に影響を受けたのが音楽業界でした。音楽CDが売れなくなった現在、音楽業界を支えているのは配信と巨大な会場での音楽イベントの二本柱でしたが、そのうちのリアルイベントが全く開催できなくなり、数多くのミュージシャン、演奏家といった人たちの収入の道が途絶えました。その状況は現在も続いており、特にクラシックの演奏会などは殆ど開催されていません。この本では、“息を合わせる”ことが生命線でもあるクラシック音楽の有り様が否定されしまったコロナ禍の現在に、その息づかいが感じられない“録楽”が幅を利かせることで、本来の音楽が忘れ去られてしまうのではないかという危機感が提起されています。生の音楽が楽しめる日常は戻ってくるのでしょうか。(10/13)

 

010/232

レンブラントをとり返せ ロンドン警視庁美術骨董捜査官」ジェフリー・アーチャー

大好きな作家なのですが、最近はご無沙汰しておりました。近著の大シリーズ“クリフトン年代記”が完結し(未読です)、この本はそのシリーズからのスピンアウトなのだそうですが、定かではありません。著名な弁護士の子息として大学に学び、父の跡を継ぐことを期待されながら警察官としての道を選んだ主人公の成長物語です。期待に違わぬ面白さで、一気に読みました。お薦めです。続編が書かれるか否か微妙なところかもしれませんが、まだ読めていないクリフトン年代記シリーズを次は読もうかなと思ってます。(10/15)

 

011/233

東京ホロウアウト」福田和代

2020年東京オリンピックの開催が間近に迫る中で起きたテロ事件。鉄道の脱線事故、高速道路での爆破炎上、宅配便運転手をターゲットにした青酸ガス事件などが連発し、首都圏の物流が完全に麻痺します。食料品が店頭から消え、パニックが起きる一方で、廃棄物の搬送すらも止まってしまいます。とここまでは良かったのですが、そのテロの目的と最終の結末が、どうにもスケールダウンしてしまい、ちょっと残念です。(10/17)

 

012/234

書店猫ハムレットの跳躍」アリ・ブランドン

ブルックリンにある書店を飼い猫つきで相続した主人公。この飼い猫には謎を推理する能力があるようで、主人公が遭遇した殺人事件を解決するためのヒントを次々に提示します。こう書くと、最近は読んでいませんが、赤川次郎さんの三毛猫ホームズシリーズが浮かびますね。そう思って読んだのですが、中程から真犯人が分かってしまい、動機の描き方もイマイチで、なんだかなぁという感じ。シリーズ化されて続編も結構出されているようですが、もう読まないかな。(10/17)

 

013/235

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す」山口周

この方の本は、最近気に入ってよく読んでいます。 この本では、私たちはどこにいるのか?、 私たちはどこに向かうのか?、私たちは何をするのか?、という三部構成になっており、今の私たちの世界は、成長を遂げた高原社会を迎えており、そこでは人間性を回復することが求められていると言うことが書かれています。私も、“成長”を求め続ける社会に疑問を持っておりまして、地球が持っている資源に限りがある以上、“持続的な成長”などというものは“あり得ないもの”と考えています。SDGsに懐疑的な姿勢もここから来ています。これからの私たちに必要なのは、如何に穏やかに坂道を下っていくかという姿勢かと思います。先に読んだ“音楽の危機”の中で書かれていた“右肩上がりに盛り上がる時間の呪縛から如何に脱するか”という意識の切り替えが必要なのだと思います。

(10/18)

 

014/236

霞が関のリアル」NHK取材班

コロナ禍直前の2019年にWeb版NHKのサイトでの連載を纏めたものです。以前から、霞が関での労働実態の悲惨さは知られていましたが、政治主導型に切り替えられたことから、さらに過酷な労働を強いられています。ご存じのように、公務員には労働基準法が適用されませんので、時間外労働の上限はないに等しく、手当も支払われません。“官僚たちの夏”に描かれたような国を思う気概がモティベーションであった時代は過ぎ去り、能力に欠けた政治家主導型の行政は、結果的にモリカケ事件やサクラ事件など考えられないような低次元の事件を引き起こしました。昨年春以降のコロナ禍対応を見ていると弱体化した組織の悪い面がすべて出てきたように思われます。私も公務員の端くれなので、他人ごとではないのですが、納税者の皆さんには本当に申し訳なく思います。(10/19)

 

015/237

僕はナチにさらわれた」アロイズィ・トヴァルデツキ

第二次大戦時にナチスが組織的に行った犯罪のうちの一つの記録です。ゆがんだ人種政策を採っていたナチスは、碧眼金髪の純粋ドイツ人による社会を目指しており、隣国からそういった子供たちを拉致して、ドイツ人として育てる政策を実施していたようです。この本は、その被害者であった著者による書簡形式の記録です。ポーランドの軍人の子として生まれた著者は、幼い頃にドイツ軍によって拉致され、孤児として施設で育てられます。その後、ドイツ人の家庭で養子として育てられていたところ、実の母親が息子の行方を捜し出し、その手に取り戻します。この犯罪の証拠をアメリカ軍が誤って破棄してしまったため、この組織的大犯罪が大きく語られてこなかったそうで、この本がほぼ唯一の記録だそうです。戦争が人を狂気にするのか、狂気が人を戦争に駆り立てるのか。同時期に日本軍が犯した罪の記録は、本来我々の手でしっかり記録しておかなければいけなかったのだと実感します。(10/20)

 

016/238

自由貿易は、民主主義を滅ぼす」エマニュエル・トッド他

2009年の秋に著者が来日した際に行われた対談、鼎談、取材記事などを纏めたものである。人口歴史学者である著者は、ソビエトの崩壊、リーマンショックを予言したことで知られており、リーマンショック直後と言うことで、華々しく迎えられて様子が伝わる。著者の主張はタイトルのとおりで、自由貿易が進むとすべての商財は価格競争に陥り、先進国内では所得格差が拡大し、民主主義が大きく毀損されると警告している。その後の10年を見ていると、まさにそのとおりの事態となっており、どこかで方向転換をしなければならないのではないかと強く感じるところです。(10/21)

 

017/239

異世界居酒屋のぶ 六杯目」蝉川夏哉

お気に入りのシリーズなんですが、どうやら6巻目を出されたところで、小休止があったようですが、この夏に続編が刊行されたようです。また読みます。(10/21)

 

018/240

召使心得 他四篇 スウィフト風刺論集」ジョナサン・スウィフト

ガリバー旅行記で知られる著者の風刺論集です。実は有名なガリバー旅行記は、手許には持っているのですが、まだ読んでなくて、いつか読まなくてはいけないと思っていたところに、こんな本を図書館で見つけ、読んでみたものです。当時の社会情勢などを知らないので、本来持っている諧謔性が良く理解できないのですが、世の中を斜に眺めることがお好きだったように思えます。最初に収められている暦に関するパンフレットでは、かなり攻撃的な主張がされており、鬱屈した精神が垣間見えるような気がします。結構体力を使う本でした。(10/22)

 

019/241

黒牢城」米澤穂信

信長を裏切った荒木村重の説得に向かった黒田官兵衛が幽閉された伊丹有岡城を舞台にした物語です。籠城を続ける村木方に不穏な事件が続発し、官兵衛が伝聞だけで事件の真相を見抜くという物語です。ここ数年ミステリ部門で各賞を総なめにしている著者の近著と言うことで、かなり期待して読みましたが、ちょっと趣味に合いませんでした。タイトルに引っ張られたせいか、全体を通して“黒=暗い”トーンで描かれていて、ジメリとした感覚が残ります。(10/23)

 

020/242

消えずの行灯 本所七不思議捕物帖」誉田龍一

初めて読んだ作家さんで、実質的なデビュー作のようです。幕末、黒船襲来で揺れる江戸の下町で、不思議な事件が続発するところに、後の榎本武揚が奇妙な仲間たちと謎を解決していくという物語です。作品ごとに多士済々な登場人物を配していて、欲張りすぎかなと思いますが、結構面白かったです。この後、同様の時代もののミステリを書かれているようなので、ちょっと読んでみようかなと思います。(10/24)

 

021/243

世界を騙しつづける科学者たち(上)(下)」ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ

上下巻で、なかなか読み応えのある本でした。舞台は新自由主義が跋扈するアメリカで、経済的な規制が必要になるような科学的な研究に対して、根拠を示さず否定する動きについて纏められたものです。現在では常識となっている、SDIの欺瞞、DDTやたばこの害、酸性雨被害、温室効果ガスと地球温暖化について、警鐘を鳴らす研究成果について、真っ向からつぶしにかかっているのが、これらの関係企業から多大な資金を受けている似非科学者たち。その醜いまでの亡者ぶりは、いっそすがすがしいほどです。今年ノーベル賞を受賞した真鍋教授の名前も出てきます。データの前に謙虚な姿勢を崩さない“本当の科学者”の皆さんに敬意を表します。(10/26)

 

022/244

ルポ トラックドライバー」刈屋大輔

流通の業界紙に連載された記事を纏めたもので、コロナ禍中での奮闘ぶりも描かれています。ネット通販の普及拡大とともに、配送のためのトラックドライバー不足が顕著になってきました。本来なら、ドライバーの確保が難しくなっているわけですから、コストが上昇し、配送料も上がっていくのが常識ですが、なぜかそうはなっていません。むしろ配送料無料が当たり前のようにさえなっています。どこかおかしいですよね。無料が当然という考えを変えないと、生産性は絶対上がりません。ドライバー不足への切り札として、無人ドローンや自動運転などの技術開発が挙げられていますが、それだけでは解決できる問題ではないのではなかろうか。(10/26)

 

023/245

スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒

お気に入り人気シリーズの6作目ですが、どうもその前をちゃんと読んでいないらしく、すこし繋がらない場面が出てきてしまいました。いつもながら、死体にとりつく昆虫から、死亡推定時刻を割り出し、不自然な昆虫相から他の媒介者の存在を疑い、真相を探り出します。とりあえず5作目も借りてきたので、早く読もうっと。(10/27)

 

024/246

歴史を変えた6つの飲物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語るもうひとつの世界史」トム・スタンデージ

私たちの身近にある6つの飲物を切り口にした人類史です。人類が水に続いて手に入れた飲物は大麦を発酵させたビールだと言われています。蜂蜜を発酵させたお酒もあったようですが、現在にはほぼ残っていないですね。人類にとって安全な水を手に入れることは死活問題であって、欧米人が書いているので、コーヒーが先に来ているのはなんとなく分かりますが、アルコール以外では、殺菌作用のあるお茶の登場が画期的だったのではないでしょうか。この本を読んで初めて認識したのですが、アルコール発酵に欠かせない酵母菌は、度数が15度を超えると生きていけないようで、これが醸造酒の限界になるそうです。しかしながら、日本酒は独特の製法を採っているので、20度くらいまで度数が高くなります。いやぁ、勉強になります。今宵も一献まいりましょう。(10/29)

 

025/247

カモフラージュ」松井玲奈

アイドルさんが書かれた小説と言うことで結構評判になりました。あんまり期待していなかったのですが、しっかりとした文章で、言葉の選択も情景の描写も良かったです。作者と同年代の女性が主人公と言うこともあって、心情を理解し共感できると言うことはなかったですが、コンゴも書き続けて行かれるのでしょうか。(10/31)

2021年10月12日火曜日

2021年9月

9月は28冊、うち小説が17冊、それ以外が11冊という結果で、今年に入って222冊というちょっと嬉しい数字になりました。

晴天が続き、休日はちょくちょく出かけていたのですが、その分通勤時間と就寝前にたっぷり読めたので、結構たくさん読めましたね。

お薦めの小説ですが、初めて読んだ作家さんも結構あったのですが、二冊目を読みたいと思うような作家さんは少なかったです。

お薦めは次の4冊。

まずは、朝井リョウさんの正欲。LGBTという言葉も普通に使われるようになって、性的な欲求についても、普通であるとか異常であるという言葉では表現できないようになってきました。そういった中での正しい欲というタイトルで挑んだところが注目です。本文にも書いてますが、重苦しい感じで物語が進み、読んでいて決して楽しい小説ではないですが、心に残る本でした。結構お薦めです。

次は畑野智美さんの海の見える街です。何冊か読んでいますが、これまで読んだものとはかなり毛色が変わっていて、どうやらこれが彼女の本来のスタイルのようです。とても優しい気持ちになれる本で、他の著書も読んでみようと思います。また、著者は今もアルバイトをしながら小説を書いておられるようで、ちょっと応援したくなってしまいます。お薦めです。

三つ目は西條奈加さんの曲亭の家です。誰でも知ってる曲亭馬琴について、息子の嫁の視点から語らせるという小説です。当然、詳細が伝わっているわけではないので、かなり大胆な人物設定になっています。おかげで、わくわくしながら楽しく読めるエンターティメントになってます。

最後は翻訳物ですが、書店主フィクリーのものがたりは、今月一番のお薦めかもしれません。数年前の本屋大賞にも選ばれているようで、めちゃくちゃ面白かったです。本文にも書いていますが、最後は悲しい物語になりましたが、赤の他人同士の主人公たちが、互いを思いやる様がなかなか感動的で、ハートフルな物語になっています。お薦めです。

でもって、小説以外の本ですが、

まずは、トレバー・ノアは、ダントツの面白さ。本来であれば悲惨な境遇に生まれた少年の物語のはずが、とても明るく前向きに書かれているおかげで、とても楽しく読めます。一方で、我々があまり知らない隔離政策下の南アメリカの実体を知ることができる読み物になっています。一気に読めます。絶対のお薦めです。

二冊目は女たちのポリティクスです。男だからとか女だからという言葉は好きではないのですが、世界を席巻するコロナ禍への対処について、評価されているのが女性リーダーばかりであると言われています。この本は、コロナ禍以前からの連載を纏めたもので、世界の政治の現在地がよく分かります。社会における女性差別が常態となっている我が国の現状と見比べて、情けなくなってしまいます。

三冊目は酔っぱらいの歴史です。これについては、あまり多くを語る必要性を感じませんが、飲酒の人類史として纏められた良書です。お酒付きの方には、ぜひ読んで欲しい本です。

先月宣言したとおり、民主主義や資本主義についての本を好んで読むようになりました。正直、世界的に見ても、いずれも危機的な状況にあるように思っていて、今の状態をしっかり判断できるように、知識を深めていきたいと思っています。そのためにも歴史に学ぶことも重要で、興味は尽きません。

小説は、ミステリをどっさり借りてきたのですが、そういえば最近は歴史物が少なくなってきましたね。また面白い本を探してこようかと思います。

あとは、古くから読み継がれている古典にも手を伸ばしていきたいと、ずっと宣言しているような気がするのですが、これはなかなか果たせていないですね。これも時間を作って読んでいきたいと思います。

10月は、若干予定が詰まっていて、読書次巻の確保が難しくなっているので、ペースはかなり落ちましたが、皆さんの期待に応えるためにも、がんばって読んでまいります。

 

 

001/195

セーラー服と黙示録」古野まほろ

一応本格推理ものなのですが、設定から何からよう分からん。また著者は、元警察官僚さんなのですが、その経験が活かされていないように見受けられます。(9/1)

 

002/196

正欲」朝井リョウ

話題作なのですが、評価が難しい。三つのストーリーが同時並行で描かれていて、どこに収束するのかと思いながら読み続けましたが、まさかこう繋がるとは。社会的に少数派である性癖を持つ人たちを主人公として彼らの生きにくさが、これでもかと書かれており、重苦しい感覚を抱きながら読みました。結末も全く救いがなく、ある種の哀しみに襲われました。しかしながら、決して不快な話ではなく、ある種の気づきを得ながら読み通しました。読んで楽しい本ではありませんが、読むべき本かと思います。お薦めです。(9/4)

 

003/197

民主主義を救え!」ヤシャ・モンク

リベラルとデモクラシーが共存していた時代、世界的に経済も拡大傾向で、だれもが豊かになれる気がした時代がありました。いつからかその二つが併存しない時代に突入し、大きな危機を迎えています。一方では権利なきデモクラシーの典型であるポピュリズム、一方でデモクラシーなき権利である官僚主義、さらには、両者を失ってしまった恐怖の国も現れました。今の日本では、リベラルという名前はついているが、全くリベラルではない不思議な政党が政権を担っています。ここ数年はポピュリズムが幅をきかせ、国民の権利に背を向ける政治が続きましたが、国民の信頼を失ってしまい、迷走しているようです。真のリベラル・デモクラシーが日本に定着する時代はやってくるのでしょうか?(9/4)

 

004/198

名探偵の証明」市川哲也

過去の鮎川哲也賞受賞作なんですね。いちおう本格推理ものです。続編も書かれているようですが、たぶんもう読まないと思います。(9/5)

 

005/199

認知バイアス 心に潜むふしぎな働き」鈴木宏昭

最近、このテーマの書籍が結構出版されているのは、注目されていると言うことでしょうか。いわゆる先入観とか思い込みといった言葉で馴染んでいることなんですが、これらをいくつかの類型に分けて説明されています。この類型は、他の書籍でも同様に見られるもので、何ら目新しいことはありません。こういった本の通常の読み方として、そうそう、こういう困った奴って、自分の周りにもいるよねという風に読んでしまいがちですが、本来は、自分自身の認知の傾向や歪みを自覚するべきなんでしょうね。ただ、ここで挙げられている不思議な心の動きも、人類が誕生してから現代まで生きていく上で必要な特質であったことも間違いないところです。途中までは、冗長な感じがしましたが、わかりやすくて良い本でした。(9/6)

 

006/200

絶望ノート」歌野晶午

いじめがテーマのお話です。学校で執拗ないじめを受けていた主人公が、ノートにその記録をとり、神に加害者グループに罰を与えることを願ったところ、相手がけがをしたことから、願いがエスカレートし、最後は死に至らしめます。読んでいて気持ちが悪くなるくらいリアルで嫌な物語でしたが、結末はさらに気持ち悪い仕上がりでした。(9/8)

 

007/201

深川二幸堂菓子こよみ」知野みさき

初めて読んだ作家さんです。こういう時代物がお得意なんでしょうか?江戸深川で菓子屋を開いた兄弟の物語。江戸情緒漂う美味しそうで平和な物語。すさんだ心に響きます。続きも読みたいと思います。(9/10)

 

008/202

フェイスレス 警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」沢村鐵

これも、初めての作家さんです。久しぶりに警察もののミステリが読みたいなと思って図書館で見つけました。特命担当の女性刑事が主人公のように見えますが、若干看板に偽りありかと、、ぐいぐい読み進むという感じではありませんでした。この後シリーズ化されているようですが、あまり食指は伸びません。(9/10)

 

009/203

緊急事態下の物語」金原ひとみ、真藤順丈、東山彰良、尾崎世界観、瀬戸夏子

緊急事態宣言下で編まれたアンソロジーです。初めて接する作家さんが殆どでしたが、金原さんの作品が唯一しっくりきたかと思います。他の作品は、コロナも緊急事態も関係なしで、単なるSF小説になっているような印象でした。(9/11)

 

010/204

潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒

主人公が魅力的で結構好きなシリーズものの一冊ですが、どれを読んだか思い出せず、確実に読んでいないだろう物を借りてきました。たぶん手前の1~2冊は読んでいないような気がしています。舞台は先島諸島にある孤島。ミイラ化した変死体が発見されたところから物語が始まります。遺体の所見と昆虫相に明らかな矛盾が見られることから、主人公の推理が始まります。また続きを予約しています。(9/12)

 

011/205

海の見える街」畑野智美

海が見える図書館で働く男女の物語で、それぞれ主人公が変わる4つの中編から構成されています。主人公たちのクセが強すぎて、どうかなと思う部分もあったのですが、他人の視点からそれぞれの主人公を描くことで、うまい具合にマイルドになっています。以前タイムマシンを扱った小説を読んだことがったので、てっきりそういったSFチックな小説をお得意とされているのかと勝手に想像していたところ、むしろこういうほのぼの(?)とした小説が主流のようです。最近はあまり書かれていないのかな?また、他の作品を読みたいと思います。(9/12)

 

012/206

異世界居酒屋のぶ 5杯目」蝉川夏哉

これまた最近のお気に入りです。とはいえこれで残り一冊。内容的には殆ど代わり映えしないのですが、安心して読めて良いです。(9/13)

 

013/207

アダム・スミスはブレグジットを支持するか? 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題」リンダ・ユー

アダム・スミスからロバート・ソローに至る12人の著名な(名前も聞いたことがない人もチラホラ)経済学者たちは、今の世界経済の状況をどう見ているかという視点で書かれた書籍ですが、むしろこの学者たちの来歴や学説を端的に紹介した経済学入門書として読むのが正しいかと思います。で、一つ分かったこと。如何に偉大な経済学者とはいえ、過去の事象を分析することはできるが、さすがに先を見とすことはできない。彼らの予言は信じてはいけない。(9/14)

 

014/208

世界哲学史3 中世Ⅰ超越と普遍に向けて」伊藤邦武、山内志朗、中島隆博、納富信留

ぽちぽち読んでるシリーズですが、いわゆる暗黒の中世に入ってきました。そもそも宗教と哲学は別物というのが常識ですが、この時代になると、哲学に対する宗教(特にキリスト教)の影響は無視することはできません。さらには、中国における儒教、仏教、道教の進化、日本で花開いた密教など哲学=宗教といっても過言ではないかもしれませんね。どちらも非常に興味深い分野でもあります。次巻が楽しみです。(9/14)

 

015/209

ホンモノの偽物 模造と真作をめぐる8つの奇妙な物語」リディア・パイン

贋作、偽物、フェイクといった物の歴史について書かれた本なのです。冒頭では、わかりやすい美術品の贋作について取り上げられており、中世絵画の贋作を連発したスパニッシュ・フォージャーなる謎の作家について書かれています。今では、贋作であることを承知の上で、取引されるほどの人気作家となっているとか。あとは、いんちき化石、出所不明の古文書、博物館のレプリカ、合成香料、人工ダイヤモンドなど話題は満載です。これはなかなか面白い本でした。(9/16)

 

016/210

曲亭の家」西條奈加

南総里見八犬伝を描いた曲亭馬琴をその息子の嫁の視点から描いた物語です。よく知られているように、馬琴は、晩年目を患って文字が書けなくなったのですが、息子の嫁に口述筆記させて、八犬伝を完成させています。この物語では、主人公が舅とぶつかりながらも、その仕事の意義を理解して完成させていくまでを描いています。なかなか面白かったです。(9/16)

 

017/211

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?」トレバー・ノア

これはめちゃくちゃ面白い本でした。作者はアメリカで活躍するコメディアンなのですが、生まれは、アパルトヘイト下の南アフリカ共和国。黒人の母と白人の父の下に生まれたのですが、当時は黒人と白人がつきあうことすら犯罪であり、子供を作るなんてことはもってのほかでした。ともすれば、暗くて悲惨な人生となるところ、母子ともに桁外れの明るさで、ポジティブに生きていきます。その様は痛快でもあり、あり得ない小説のようですが、事実なんです。いっきに読めます。お薦めです。(9/17)

 

018/212

リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで」田中拓道

最近特に、このコロナ禍でナショナリズムとポピュリズムが世界的に台頭してきており、社会の行く末にかなりの不安を抱いています。そういった中でもう一度リベラリズムについて学び直したいと思い、読んでみました。残念ながら、日本では真のリベラリズムが政治的・文化的に根付くことはなく、新自由主義と呼ばれる過激思想(個人的な見解です)が、大手を振って闊歩している印象があります。私たちは、子供たちにどんな未来を残したいのか、しっかり考えて行動しなければならないと思っています。(9/17)

 

019/213

書店主フィクリーのものがたり」ガブリエル・ゼヴィン

5年前の本屋大賞翻訳小説部門の受賞作だったそうで、最近図書館で見つけて読みました。結果から言うと、めちゃくちゃ面白い小説でした。主人公が、妻の故郷で書店を開業したものの、妻を事故で亡くしてしまい、孤独のうちに書店を続けていたところに、赤ん坊の捨て子がやってきます。その子を育てる決意をした主人公が、悪戦苦闘しつつ生きがいを見いだしていきます。最後は少し悲しい結末となりましたが、ハートフルでとても素敵なお話でした。最近文庫にもなったようですね。お薦めです。(9/18)

 

020/214

出張料理おりおり堂 卯月〜長月」安田依央

超イケメンの出張料理人とその助手として働く婚活只中の女性を主人公とする物語です。タイトルから分かるように、どうやら前後半となることを想定されたお話のようなのですが、どうやら翌年の弥生三月以降も物当たりは続いていくようです。この巻では、女性が雇われた理由や料理人の元修業先の京都の料亭の若女将候補が彼を取り戻しに現れたりと半年の間に起きた事件が描かれます。まぁ、とりあえず残りの半年を読んでみてから、その続きをどうするか考えましょう。(9/19)

 

021/215

探偵は女手ひとつ」深町秋生

山形県警を退職し、地元で探偵業を営むシングルマザーが主人公。手がける依頼は、屋根の雪下ろしやサクランボの収穫など便利屋そのもの。時折舞い込む本格的な探偵業務では、かつての仕事仲間や補導した元不良少年などと依頼をこなしていく。台詞の殆どが山形弁というなかなかシュールな展開で、なかなか面白い小説でした。続きがあれば読みたいな。(9/19)

 

022/216

女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち」ブレイディ・みかこ

今回のコロナ禍で、世界の政治リーダーたちの力量が如実に明らかになりました。そして、その取り組み姿勢が高く評価されたリーダーの殆どが女性だったというのはよく知られた事実です。この本は、コロナ禍前から雑誌に連載されていた記事を纏められたもので、非常にタイムリーな出版となりました。女性だから無条件に賞賛されるべきという訳ではないのですが、政治の世界に多様性が足りていないのは紛れもない事実です。特にジェンダーギャップバランスで世界の底辺を争う我が国においては、女性だけでなく若者も政治の世界から排除されています。まぁ、政治の世界だけじゃないですけどね。ますます老いた社会になっていくのではないか。恐ろしいです。(9/20)

 

023/217

レプリカたちの夜」一條次郎

かなり前の本ですが、第二回新潮ミステリー大賞受賞作にして、選考委員の伊坂幸太郎、貴志祐介、道尾秀介という面々が絶賛したと言うことで、めちゃめちゃ期待して読みました。残念でした。期待のあまり、最新の文庫を買ってしまったのですが、読む気になるだろうか。(9/21)

 

024/218

酔っぱらいの歴史」マーク・フォーサイズ

おやぁ、面白かった。お酒を切り口にした歴史なのですが、これってイコール人類史であって、採集生活下の人類が、アルコール発酵した果実に目覚めたところから、書き起こされます。安全な水の確保が難しかった古代社会においては、大麦を発酵させたビールが主たる飲料物であって、ビールが確保できないときは、やむを得ず水を飲んでいたそうです。シュメール社会にはビールの女神がいて、ギリシャ神話の時代にワインの神様が現れます。世界で一番古い酒造の痕跡は中国にあるそうですが、そういえば中国にお酒の神様っているのでしょうか?この本では、元々イスラム社会もお酒を否定する物ではなかったということも書かれていて、お酒大好きの私としてはとても興味深い本でした。御同好の士にはお薦めの一冊です。(9/25)

 

025/219

宗教と過激思想 現代の信仰と社会に何が起きているのか」藤原聖子

過激思想と宗教と書かれると、ついついイスラム過激派を想像してしまいますが、過激思想はどの宗教にも存在しています。イスラムの原典では、他宗教への攻撃は記されていないにも関わらず、なぜ今のようなイスラム教対キリスト教の世界が形成されてしまったのでしょうか。また、最近はナショナリズムが宗教と結びついて独特な不寛容性を増殖させているようにも見受けられます。こんな世界を誰が望んでいるんでしょうか。(9/27)

 

026/220

寄宿学校の天才探偵」モーリーン・ジョンソン

ニューヨークタイムズのベストセラー三部作の初巻という触れ込みで期待して読みました。天才少女探偵が、80年前に起こった誘拐事件の謎を解く過程で、新たな殺人事件が発生します。この本の中では、解決編までたどり着けず、次巻に送られます。どうやら独立した三部作ではなく、一連の小説を三分割したうちの一冊でした。悔しいから続きも読みます。(9/27)

 

027/221

宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう」高水裕一

タイトルに惹かれて買いました。将来、宇宙人に自分の住んでいる星について尋ねられたときに備え、宇宙の中での地球について書かれた本です。地球の位置の表し方や太陽の特徴などといった辺りまでは想定の範囲内だったのですが、物体を構成する元素、数の表現方法なども相対的であり、どのように説明すれば良いのかとなると、かなりお手上げ。脳みそを酷使しながら読みました。いやぁ、難しかった。(9/29)

 

028/222

フレドリック・ブラウンSF短編全集①星ねずみ」フレドリック・ブラウン

70年ほど前に活躍したSF・ミステリ作家のSF短編を集めた全集の一巻です。全作品が年代順に編まれておりこの巻では初期の10作品が収められています。実は、今は亡き敬愛する星新一さんが、お好きな作家として挙げられたこともあって、40年以上前に文庫で何冊か読んだことがあります。ここに収録されている短編については、2、3作は読んだ記憶があるような気がするんですが、定かではありません。現在全4巻出版されていますので、また読んでみようかと思っています。(9/30)