6月はあまり数を読めませんでした。計11冊、うち小説が6冊、その他が5冊という内訳でした。実は先月から、昔読んだ少し長めの小説をポツポツと読み返していて、その影響もあって小説は進みませんでした。
でもって、いつものお薦め本なのですが、残念ながら小説はあまりお薦めできるものがありませんでして、その中で敢えて言うならば、湊さんの“落日”が、良かったです。
好きな作家でも有り、途中までは、とても面白く読んでおりまして、決して合わないという感じではなかったのですが、主人公のキャラクター設定に若干違和感が残りました。それ以外は、意外な結末に導くステーリー展開は良かったですし、まずまずお薦めできる内容かと思います。
それ以外は、ちょっと、という感じでしょうか。
小説以外では、感染症関連の本を2冊読んだのですが、いずれもとても興味深く、是非ともお薦めしたい内容でした。
まず“感染症と文明”は、今大変注目を集めている一冊で、感染症が人類の歴史に与えてきた影響について、非常に論理的に解説されています。人類の歴史は、病気との闘いと言ってもよく、おそらく前史時代から何度も繰り返されてきたことなのでしょう。ヨーロッパでの黒死病。京都の祇園祭は疫病の退散を願う御霊会が起源だと言われています。こういった感染症の大流行が起こると、社会構造が激変し、歴史が大きく動いてきました。
そこでもう一冊のお薦め“史上最悪のインフルエンザ”に繋がってくるのですが、第一次世界大戦の末期に世界を襲った“スペイン風邪”は、その後の大恐慌や第二次世界大戦に続く大変動を巻き起こしました。この本では、主にアメリカ国内のことを中心に描かれていますが、ヨーロッパ戦線への兵士の移動が、パンデミックを拡散したことがよく分かります。また、今回のコロナウイルスでも注目されましたが、船舶内という閉鎖された空間での感染拡大が如何に恐ろしいか。
こういった過去の歴史があるにも関わらず、今回の新型コロナウイルスではその歴史が十分に活かされなかったように思われます。いったい何が足りなかったのでしょうね。
今回のコロナ禍は、次の私たちの社会に大きな影響を与えることは間違い有りません。問題は、それがどんな形で起きるのか、私たちはそれに冷静に対応できるのでしょうか。
001/084
「ブラック・ベルベット」恩田陸
著者には珍しいミステリタッチの小説で、シリーズ化されて3作目の小説だとか。主人公の仕事が凄腕ウィルスハンターとあったことから、タイムリーかなと思い借りてきました。話しの始まりは、何やら巨大な陰謀が見え隠れする壮大な物語かと思っていたところが、、、というストーリーでした。たぶんこのシリーズの他の作品は読むことはないでしょう。(6/2)
002/085
「琴乃木山荘の不思議事件簿」大倉崇裕
登山者にとってのオアシスである山小屋を舞台にしたライトミステリ集。著者は他にも登山をテーマにした小説を多数書いており、決して嫌いではない。ただ前半の数作は日常の謎を鮮やかに解決するという理解しやすい物語なのですが、終盤の作品では隠された殺人事件を解決してしまうという展開を見せており、これはさすがにやりすぎかなと思ってしまいます。(6/4)
003/086
「カウントダウン・シティ」ベン・H・ウィンタース
先日来気に入って読んでいるミステリです。地球に小惑星が激突するまで半年を切ったアメリカを舞台にしたもので、こういったタイプの小説を“プレ・アポカリプス”というそうです。設定はキワモノっぽいですが、ミステリとしてちゃんと成立しているところがお気に入りです。もう一作、続きがあるので楽しみにしています。(6/7)
004/087
科学者の真の生活実態を描くという触れ込みだったのですが、若干期待外れ。少し大きく構えすぎではなかろうか。いずれの記述もやや中途半端で、著者の思い込みも強すぎるように思います。(6/14)
005/088
「感染症と文明 共生への道」山本太郎
今回のコロナ禍の中で、様々に取り上げられている良書です。人類の歴史の中では、感染症との折り合いをつけることが必要であって、その結果が現在の姿となって続いている。今の文明社会は、感染症との共生の結果だ。当然のことながら、今が完成形ではなくて、今後もさらに変化していくことは織り込み済みと考えなければいけない。人類文明の次のフェーズは、コロナと共生しながら迎えることになるでしょう。それはどんな社会なのでしょうか。(6/18)
006/089
「サピエンス日本上陸 3万年前の大航海」海部陽介
日本人の祖先は何処からやってきたのか?これはまだ解かれていない永遠の謎です。その答えの一つの候補として、東南アジアからの渡海説の実証に取り組んだプロジェクトのレポートです。間氷期に水面が下がった時期に海を渡ってきたというのが通説ですが、その手段と航路について、台湾から琉球列島の与那国島まで、手製の丸木舟で渡海に挑みます。地図もコンパスも持たず、どうやって辿り着いたのか。渡海先で定着したということは、女性も混じっていたのは間違いなく、当時の祖先たちは、どんな希望を持ちながら、絶海に漕ぎ出していったのか、興味は尽きません。面白い本でした(6/21)
007/090
「江戸の料理史 料理本と料理文化」原田信男
以前、食に関する本を読んでいたところ、京都の料理屋の起源は法華経寺院だったという記述の典拠としてこの本が紹介されていたことから探しだし読んでみました。私たちが食事をすると言うことは生きるために行うことであって、楽しむために食べると言うことが一般的になったのは江戸時代からと言われ、料理に関する本も出版されるようになりました。いわゆる化政時代に爛熟期を迎え、その後はたびたびの倹約令で様相も変わったようですが、恐らくこの時期に今の和食が完成されたと著者は結んでいます。ただ、この本が出版されたのは、今から約30年前で、今では存在が疑われている“慶安の触書”も引用されているなど、古さも感じます。また、“和食”は決して完成された物ではなく、さらに進化しています。“食文化”とはそういうものだと思います。(6/24)
008/091
「落日」湊かなえ
新進映画監督と売れない脚本家という二人の女性を主人公にした物語。一見無関係の二人がある事件によって結ばれたいたというお話なのですが、二人を繋いでいたのは、実はその事件ではなかった。という意外な結末が待っています。スピード感もあって面白いのですが、主人公のうちの一人が、どうしようもなくて物語に水を差しているようにしか思えない。どうしても、こういうキャラクターじゃなかったら成り立たない物語だったのでしょうか。(6/24)
009/092
「世界の終わりの七日間」ベン・H・ウィンタース
長かった物語が終わります。三部作の結末編です。小惑星が地球へ衝突するまでの最後の一週間、最愛の妹を探す旅も終焉を迎え、衝突の直前で物語は終わります。最後の作品は、少し重すぎる。(6/28)
010/093
「史上最悪のインフルエンザ 忘れられたパンデミック」アルフレッド・W・クロスビー
1918年から翌年に掛けて世界中で猛威を振るった“スパニッシュ・インフルエンザ”に係るアメリカ国内の出来事を中心に記録した400頁にも及ぶ大著です。40年以上前に書かれた物ですが、昨今のコロナ禍で俄に脚光を浴び、人気の一冊となっているようです。ご多分に漏れず私も図書館から借りてきて読んだのですが、この週末で一気に読んでしまいました。非常に興味深く面白い本でした。ちょっと長くなりますが、私が気になった所をいくつか。日本ではスペイン風邪と呼ばれ、全世界で猛威を振るったにもかかわらず、正確な感染者数が全く分からないそうです。推計死者数が1700万人から5000万人の間という理解しがたい数の方がなくなっているそうです。またちょうど第一次世界大戦の終戦期と重なっていたこともあって、戦後の和平交渉の場でも感染者が続出し戦後処理になにがしかの影響を与えたようです。あらに、最近のコロナ禍でも言われたことですが、当時も“ドイツ軍の細菌兵器”とか“ドイツ・インフルと呼ぶべきだ”といった言説もあったようです。さらに、“民度が高いと感染しない”と言い放ったトンデモ政治家は、当時もいたようですね。巷間言われているように、この1918年パンデミックは、その後の社会に大きな影響を与えたことは間違いないのですが、今回のコロナ禍は、今のこの社会をどのように変えていくのでしょうか。最後に、この著者も指摘しているのですが、当時このパンデミックを経験したはずの作家達が、ほとんどこのパンデミックについて記していません。この本の原著名は“America's Forgotten Pandemic”と言います。
(6/28)
011/094
「幸福な王子」オスカー・ワイルド
有名な童話ですが、最近岩波文庫で出版された物を借りてきました。私自身はあまり好きな話しではないのですが、娘達が幼かった頃、何度もこの絵本を読み聞かせた記憶があります。この文庫本は、二つの短編集を合本したもので、全部で9編の物語が収められています。表題の“幸福な王子”が典型なのですが、主人公は、ただただ尽くすのみで最後まで一切報われることはありません。これが真の愛他精神だと言われたらそうなのかもしれませんが、そこが私は好きになれないのです。(6/28)