2020年12月1日火曜日

2020年11月

11月の読書記録は計28冊、うち小説が21冊、それ以外が7冊ということになりました。小説には2組の上下巻ものがあったので、実質30冊というところでしょうか。

11月は、休日の仕事が結構あって外出することも多かったのですが、感染拡大が進んでいることもあって、それ以外の日は自宅で本を読むことに費やしたこともあって、読む日と読まない日の差が結構大きかったですね。

 ご覧のとおり、最近の傾向として、海外ミステリにはまっておりまして、今月だけで7冊もありました。

お気に入りのミレニアム3部作が、終わってしまったのがとても残念で、都筑を読むべきか否かとても悩んでいます。どなたか、第4部以降を読まれた方はおられませんでしょうか。どうしよっか。

さらに、今月から生誕130年、作家生活100を迎えたアガサ・クリスティを読み始めています。高校生の頃に、1,2冊読んだのですが、改めて読み直しです。翻訳にもよるのでしょうが、味があって良いですね。しばらくは、何冊か読み続けようかと思います。

あとは、ローレンス・ブロックの作品も、ぼちぼちと読んでいます。

また、何か面白そうなシリーズ物があれば、読んでみたいので、是非とも教えていただければありがたく思っています。

ということで、お薦めの一冊ですが、小説では、大名倒産が圧倒的に面白かったです。過日読んだわが殿とよく似た時代背景ですが、こちらは全くの創作で、その分エンタメ側に振り切れていて良かったと思います。ある種のサスペンス物のようでもあり、長さも全く感じず、一気に読み切ってしまいました。彼の小説には、いろいろなジャンルがあるのですが、こういった時代物は結構面白くて気に入っています。映像化されたら面白いだろうな。

 あとは、いまさらですが、半沢直樹シリーズも、テレビドラマとはひと味違って面白かったですし、文書捜査官法医昆虫学捜査官の両シリーズも、主人公のキャラクターがなかなか魅力的です。どちらもテレビドラマの原作ですが、それを割り引いても面白く、お薦めできるシリーズかと思います。

 小説以外は、かなり少なかったのですが、目撃天安門事件は、自分思い込みもあって、天安門事件については、ほとんど理解していなかったのですが、この本を読んで、ようやく概略がつかめたように感じました。今でも、中国国内では天安門事件は、アンタッチャブルで、すべての情報が遮断されているようです。政府が隠そうとしている事実って何なんだろうか。疑問は尽きませんね。

 もう一冊のお薦めは、ギグ・エコノミーです。読む前は、弱者からの搾取の仕組みで、格差社会を助長する働き方というイメージを持っていました。実際、兼業をほとんど認めていない日本の雇用制度下では、その通りの望むべくもない働き方ですが、いったんリタイアした後の人生の過ごし方という意味ではとても参考になります。私も、定年退職が目の前にちらついてきましたので、下手すりゃ20年以上残っているその後の生き方の参考にしたいと思いました。同世代の方には是非と主お薦めです。

 12月に入りましたが、先月末からコロナウィルスによる感染症の拡大が進んでいます。本来なら散歩を楽しみたいところですが、最小限にとどめ読書を楽しみたいと思います。

さて、12月のラインナップはどんな感じになるでしょうね。皆さんはどう思われますか?って、分かるわけないですよね。

自分でもマイブームは突然訪れるので、楽しみにしたいと思います。

 

 

001/194

その可能性はすでに考えた」井上真偽

非常に難しい。本格推理物に分類されるのだと思うが、数的論理学の初歩で躓いた我が身には難しすぎる。ちゃんと理解できる読者はどれくらいいるのだろうか。厳しい。(11/1)

 

002/195

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒

昆虫学の研究者が犯罪捜査にその知見を生かすという本格ミステリ。これは第二弾かな。死体に集まる虫の様子などから経過時間、周囲の環境などを推理する。めちゃくちゃ豊富な知識に基づき書かれているようなのだが、どこまで本当なのだろうか?ただ、面白いことには間違いない。(11/3)

 

003/196

甦った女 ダルジール警視シリーズ」レジナルド・ヒル

ハヤカワポケットミステリの一冊。イギリス警察で働くダンジール警視を主人公とするシリーズ物だそうで、初めて手にいたしました。紳士の国らしく洗練された主人公を想像していたのですが、全く違って、ごつい体軀で、違法すれすれの捜査も何のそのというとんでもない警察官でした。本作では、27年前に殺人罪で終身刑となっていた女性が、新たな証拠により、釈放されます。当時の捜査に関わった警察官に不正がなかったのか、監察入るのですが、当時若手警察官として捜査に加わっていた主人公が、独自の捜査をするという物語です。決して嫌いなストーリーではないのですが、主人公がちょっとね。このシリーズはもういいかな。(11/4)

 

004/197

ロスジェネの逆襲」池井戸潤

言わずと知れた半沢直樹の原作本です。実は、池井戸さんの本はとても好きで前回ドラマ化される頃までは、大量に読んでいたのですが、ブームになってからはパタリと読まなくなり、今回久しぶりに借りてきました。ドラマをごらんになった方はよくご存じのとおりかと思いますが、子会社の証券会社に左遷された主人公が、銀行を相手に大型買収案件で真っ向勝負を挑み、結果銀行へ凱旋するという物語です。ちなみに大和田さんは出てきません。結果はわかっていても、最後に正義が勝つまでは、はらはらさせられて、一気に読める痛快な小説です。(11/5)

 

005/198

大名倒産(上)(下)」浅田次郎

これは面白かった。時は幕末、越後の丹生山藩では積もり積もった借金が25万両。先代が長男に家督を譲ったところ、その額の恐ろしさにあっけなく急逝。やむなく庶子の四男が家督を相続。ところがそこには、先代による計画倒産の企てが。詰め腹を切らせるためだけに当主となった当代の運命やいかに。という物語ですが、著者特有のユーモアとほろりと泣かせる泣き所もあって、上下巻という長さは全く感じませんでした。休日の朝方から読み始め、夕方には一気に読み切りました。これは是非ともお薦めしたい一冊(二冊?)です。

(11/7)

 

006/199

図書館の子」佐々木譲

不思議な短編集でした。舞台は戦前から戦後にかけての東京で、不思議な物語が綴られています。テーマは時間旅行。ふとしたはずみで時を超えてしまった(であろう)人たちが叙情的に描かれています。ただ、どの物語も暖かみを感じることがなく、ややうそ寒さを感じる内容であったのが残念でした。

(11/7)

 

007/200

Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法」ロルフ・ドベリ

今年、同じ著者が書いた本がベストセラーとなりましたが、実は順序としてはこの本の方が先にベストセラーとなりました。邦訳も一度されていたようですが、当時は国内ではあまり売れなかったようで、装いを新たに世に送り出されました。内容は、我々がついつい陥ってしまいがちな思考の罠について、52の実例をもって解説しています。もともと新聞のコラムとして書かれていた物のようで、非常に読みやすく書かれています。ただ、その多くは新たな物ではなく、すでに誰かが発表しているもの。それを上手く編集しているという感じです。(11/8)

 

008/201

11文字の殺人」東野圭吾

もともと三十数年前に出版された本が、新装されて出版されました。三十数年前となると、著者が江戸川乱歩賞を受賞してまもなくという時期でしょうか。とある女性推理作家が、恋人であるルポライターの殺人事件の謎を追うという設定なのですが、今であれば、とてもあり得ないような警察の雑な捜査もあって、突っ込みどころは満載です。また、スマートホンどころかインターネットもない時代で、今の若い人たちには、とても想像できない世界でしょうね。考えてみれば、思いもよらぬように変転する現在というのは、小説には書きにくいテーマなんでしょうね。(11/8)

 

009/202

目撃 天安門事件 歴史的民主化運動の真相」加藤青延

ペレストロイカにベルリンの壁崩壊という共産主義にとって怒濤の変化を遂げた1989年にお隣の中国で起きた天安門事件について、当時現場でNHKの香港支局長として取材していた著者の記録です。じつはこの年は、大激動の年だったにもかかわらず、私自身が公私ともに忙しく、バタバタしていた時期でもあったので、ほとんど記憶に残っていません。このルポを読むと、この事件の本質は、天安門広場での学生と人民解放軍の衝突ではなく、中国共産党内の激しい権力闘争であったことがわかります。開放改革を進めた鄧小平も、最後は強権をもって、今につながる中国共産党の一党独裁政体を守り切ったというところでしょうか。面白かったです。(11/8)

 

010/202

空気を読みすぎる子どもたち 子どもの本音をイラスト図解!」古荘純一

著者は、私と同世代の小児精神科医。日本では数少ない専門医のようです。今の情報過多社会の中で、子供たちは我々の時代では考えられないようなストレスの下で育っています。結果として、自分を抑え、周りの空気を読んで同調していくことが身を守る術と思ってしまいます。でもこれって、どうやら日本に特有のことのようです。将来を担う子供たちが、もっとおおらかに育っていけるよう、大人が心がけたい8つのことが最後にまとめられています。子どもの自己肯定感を高める、『教育虐待』になっていないか見直す、不安や恐怖を安心感に変える、④10歳までに自他への信頼感を育てる、『うそ』『いたずら』で追い詰めない、叱るのは、短く・少なく・比べずに、大人が自己肯定感を高める、『睡食住』は子どもの事情を優先する。著者には、何冊か別の著書もあるようなので、少し読んで見ようかと思います。(11/8)

 

011/203

証拠は眠る」オースティン・フリーマン

20世紀の初頭、ロンドンを舞台に活用した科学者探偵ソーンダイク博士の活躍を描いたシリーズの一作。出版当時は、シャーロックホームズのライバルとして、人気を二分したくらいの勢いだったらしいのですが、私はその存在を全く知りませんでした。数日前に、新聞の広告でその存在を知り、それなら一度読んでみようと借りてきました。100年前の外国での出来事ですから、警察制度も裁判制度も違うので、かなりの部分を想像で補いながら読まなければならないのですが、最初は普通の自然死だと思えたある男性の死が、突如殺人事件の様相を帯び、ソーンダイク博士が綿密な捜査と科学的検証で、真犯人を暴き出します。ただ、その動機が切なく悲しみを誘います。なかなか面白かったです。(11/10)

 

012/204

シリーズ古代史をひらく 渡来系移住民 半島・大陸との往来」吉村武彦編

ずっと読んでいるシリーズです。今巻は、渡来系移住民という耳慣れないタイトルです。昔、私たちは帰化人として習ったような記憶があるのですが、古代、大陸や半島から渡来し、日本に定着した人たちを指します。百済とは古くから交流があり、特に技術集団として、先進技術を伝えた人たちが多かったようですが、百済が滅亡すると同時に亡命してきた人たちもいたんでしょうね。(11/13)

 

013/205

英龍伝」佐々木譲

幕末期に幕府の官僚として活躍した、伊豆韮山の代官、江川太郎左衛門英龍の物語です。若くから英明で、海外事情に通じ、お台場を築いたり、日本最初の反射炉を作ったりと先進的な人物でした。また日本で最初に本格的にパンを焼いた人という伝説もあるそうで、パンの日のいわれにもなっていると聞いたことがあります。妖怪鳥居耀蔵と反目し、痛い目にも遭わされたようです。物語としては、後半になって突然話が端折られたようになって、すこし消化不良のような感じが残りました。途中までは面白かったのに。(11/14)

 

014/206

ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方」ダイアン・マルケイ

隙間時間を上手く使って、有意義な人生を送ろうという啓発書。隙間時間に稼ぐ方法として、UBER~といったサービスが幅をきかせていますが、これが日本に入ってくると、事業主側が従業者を搾取するシステムとして機能するというのが不思議なところです。私も最初は、そういううがった目で見ていたのですが、日本だと、本書のサブタイトルにもあるとおり、正規雇用から定年でリタイアした人たちが、残りの人生を幸せに暮らすための指南書としてみると、しっくりきます。私も、あと1年と少しで直面するのですが、その後の生き方の参考にしたいと思います。(11/16)

 

015/207

銀翼のイカロス」池井戸潤

ご存じ半沢直樹の原作、先日テレビ化された第二弾の後半部分、帝国航空の再建にまつわる物語です。合併後の巨大銀行における出身銀行別の派閥抗争が大きなテーマになっています。週刊誌に連載されていた頃に、ぱらぱらと拾い読みしていたような記憶があります。ドラマも面白かったですが、小説も文句なしに面白かったです。(11/17)

 

016/208

毒島刑事最後の事件」中山七里

既発の小説家探偵が、刑事時代の最後に遭遇した事件を扱った物語。辛らつな言葉で心理的に容疑者を追い込んでいく様子はスピード感もあって面白い。就職氷河期、婚活、懸賞小説など様々な場面で、自らの承認要求が満たされなかった人たちを探し出し、彼らのゆがんだ自尊心をくすぐることで、犯罪を起こさせる教授なる黒幕の影がちらつきます。そんなことができるのかと思うのですが、そこは許しましょう。途中で、教授の正体がなんとなくわかってくるのですが、最後にさらにどんでん返しが待っています。終わり方はこれしかないのかと思いましたが、そこはもう一ひねりほしかったかな。(11/18)

 

017/209

殺人犯はわが子なり」レックス・スタウト

かなりの古典なんですが、安楽椅子探偵のネロ・ウルフシリーズの一冊です。名前だけは聞いたことがあったのですが、初めて読みました。お気づきのように、最近ハヤカワのポケットミステリをつまみ読みしております。読み出すと結構はまってしまい、ついつい手が伸びてしまいます。ただ、このシリーズは、もういいかな。(11/21)

 

018/210

緋色のシグナル 警視庁文書捜査官エピソード・ゼロ」麻見和史

これも人気シリーズですが、主人公の女性捜査官が、警視庁文書捜査官となる前に、所轄署に勤務していた時期の物語。文字から事件の手がかりを見つけ出す才能を発揮しています。面白かったです。(11/21)

 

019/211

官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人たちのリアル」竹信三恵子、戒能民江、瀬山紀子編

世間には、どれぐらい知られているのか分かりませんが、国・地方を問わず公務員の仕事の多くが、いわゆる非正規雇用の職員さんに担われています。特に○○相談員といった職種に多いようです。たとえば、ハローワークで求職者の相談に応じておられる方もほとんどが実は非正規の職員さんだったりします。残念ながら、一人の収入で家計がまかなえるほどの収入にはなっていないようで、それが官製ワーキングプアと言われる所以です。この件については、コメントしづらい立場にあるのですが、少なくとも自分の娘たちには進めたくない選択肢です。(11/21)

 

020/212

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上)(下)」スティーグ・ラーソン

最近ドはまりしている人気シリーズの第三部です。まず、冒頭は第二部の最後からの続きとして始まり、しばらくはサスペンス風に進みます。途中からはポリティカル・ミステリ風になり、最後は法廷ミステリとなって大団円を迎えます。この続きが本当に楽しみなんですが、残念ながら本作を書き終えた時点で作者が急逝します。本当に残念。作者のPCには、第四部の原稿が7~8割まで完成した状態で残されているようですが、今のところこれが日の目を見ることはなさそうです。結果的に、全く別の人物が第四部から第六部までを書き上げ、シリーズは完結しています。第三部までは本当に面白かったので、この先も読み続けようか、悩んでいます。結末は知りたいけど、スターウォーズのようだったらがっかりするし。どうしましょうか。(11/22)

 

021/213

オリエント急行殺人事件」アガサ・クリスティ

2020年は、アガサ・クリスティの生誕130年、作家デビュー100年という記念の年に当たります。ということで、先日ある人に勧められたこともあって、しばらくはクリスティを拾い読みしようと思っています。名作と誉れの高い本作ですが、ひょっとするとオールスターキャストの映画の方が有名かもしれませんね。私もストーリーは知っているのですが、本当に読んだかどうかの記憶が曖昧です。個人的には、ミステリとしてはルール違反じゃなかろうかと思うのですが、社会派小説としてみたらありなのかもしれませんね。(11/22)

 

022/214

感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか 世界史のなかの病原体」小田中直樹

コロナ禍で急遽書き上げられた本で、日経ビジネス誌に毎号のように広告が出されているので、借りて参りました。過去世界をおそったペスト、コレラ、インフルエンザなどが社会をいかに変えてきたのか、と言うことが書かれています。ただ、ご本人も触れておられるように、フランス経済史の専門家がなぜ??という感じです。ほとんどは、既存の研究者による著書から借りてきた言葉が多く、さらに???。(11/23)

 

023/215

スキマワラシ」恩田陸

面白かったです。400ページを大きく超える超大作ですが、長さは感じません。文体が独特で、読みにくいかなと思ったのですが、どっこい半日ほどで一気に読みました。不思議な能力を持つ主人公(語り部)が、その能力をきっかけに、自分が抱いていた家族に関わる謎を解明します。時折姿を現わす少女の正体までは明かされませんが、まぁ、それはどうでもいいかなという感じになります。(11/23)

 

024/216

泥棒は深夜に徘徊する 泥棒バーニィ・シリーズ」ローレンス・ブロック

これまた好きな作家のシリーズ物です。本当に初期の頃の作品は図書館にもないので、読める物から探し探し読んでいます。犬も歩けば棒に当たる。泥棒が深夜に徘徊すると、とんでもない事件に遭遇する。いつもの禁を犯したばっかりに、強盗殺人犯の一味の疑いをかけられ、その事件の謎を解かざるを得なくなります。最後には、事件関係者だけでなく、登場人物のほとんどを集めて謎解きをするという、不思議なスタイルのミステリです。(11/23)

 

025/217

石の繭 警視庁殺人分析班」麻見和史

最近お気に入りの作家さんによる別のシリーズです。こちらも警視庁捜査一課の女性捜査官が主人公で、彼女を取り巻く仲間が、行きつけの居酒屋で非公式な殺人分析班会議を開き、事件を解決に導くという物語のよう。本作では、同じく捜査一課の刑事だった主人公の父親が関わった過去の事件と密接に関係する事件の謎を解くのだが、物語の中頃から話の筋が見えてくるのだが、そこに気がつかない分析班が、かなり不思議。かと思うと、終盤になって突然彼らの勘が冴え渡り、大団円を迎えるというのが、かなりむずがゆい。ほかの作品はどうなんだろうか、もう一作くらい読んでから、どうするか考えよう。

(11/24)

 

026/218

魔眼の匣の殺人」今村昌弘

昨年の今頃、映画化で注目された「屍人荘の殺人」の続編。映画ではあまり詳しく描かれなかった、とある組織の謎に絡むお話です。いわゆる予知能力が関わってくるのですが、それを置いといても、本格推理としていちおう成立しています。謎の機関を巡る事件はまだまだ続きそうな展開なのですが、どうなのでしょうか。この本は、昨年の映画化と同時期には店頭に並んでいたような記憶があるのですが、あまり話題にはならなかったようにも思います。面白かったけどなぁ。(11/28)

 

027/219

予告殺人」アガサ・クリスティ

クリスティと言えば、“名探偵ポアロミス・マープル。この作品はそのミス・マープルシリーズの一冊です。とある地方紙に載せられた殺人事件の予告広告。予告された場所に集まってきた物見高いご近所さんたちの目の前に、ピストルを持った暴漢が現れ、銃をぶっ放した後、命を落とします。単なる殺人未遂と自殺に見えた事件の謎をマープルが解きます。シリーズの中でも名作と誉れ高い一作です。(11/29)

 

028/220

笑え、シャイロック」中山七里

シャイロックとは、ベニスの商人に出てくる冷徹な高利貸しの名前ですが、この小説には、同じ通り名で呼ばれた銀行の債権回収担当者が出てきます。凄腕で次々と難件を解決していく中で、何者かに殺されます。その犯人を捜すのがメインと思いきや、彼の後を継いだ後任が、同様に宗教法人や暴力団のフロント企業からの債権回収に活躍します。実態とは大きくかけ離れた回収劇で、リアリティに欠けるのですが、エンタメとしてはありかなと思います。まぁ、その分ミステリとしてはダメダメでした。(11/29)

2020年11月15日日曜日

2020年10月

10月は23冊、うち小説が13冊、その他の本が10冊という結果でした。

休日以外は、ほとんど本を読む時間がなかった割には、結構読めましたね。

そんな中でのお薦め本です。

小説では、これという物が見つからないですが、安定的に面白かったのは柚月祐子さんの広島でのヤクザの抗争を描いた作品で、迫力もあって面白いです。彼女の場合、ほかにも法廷物などを書いておられるのですが、このシリーズはその中ではかなり異色の作品ですが、かなりの力量を感じます。

また、コロナ社会を描いた海堂尊さんの小説も痛快でした。日本政府のコロナ対応を、取り上げており、基本的にはフィクションなのだが、ひょっとしてかなりの部分は事実なのではないかと思わせる出来になっており、面白かったです。

そのほかでは、初めて読んだ山之口洋さんの作品も面白かったです。特に取り上げた時代が奈良時代ということで、当時の歴史的事件に題材をとってあって、ハマりました。

あとは、テレビドラマにもなったのですが、警視庁文書捜査官シリーズも結構ハマりました。ドラマ原作ということで、結構侮りながら読んだのですが、なかなかどうしてかなりの本格派で、とても面白かったです。本文でも書いてますが、別の作品も読んでみたいと思わせる作家さんでした。

小説以外の本では、人工知能に未来を託せますかという本が、めちゃくちゃ面白かったです。本文にも長々と書いていますが、私たちのような文系の素人にもよくわかるように書かれています。とても面白かったです、今月いちばんのお薦めかも。

講談社ブルーバックスの日本史サイエンスも面白かったです。文永・弘安の役、秀吉の中国大返しなど歴史上の謎を、科学的な知見から解き明かそうという目論見です。それが正しいのかどうかはわかりませんが、これまで漠然と想像で語られていたことを、科学的に解明してみるというのはとても新鮮で気に入りました。もっと別の事件も取り上げてほしいなぁ。

 

 

001/171

静おばあちゃんと要介護探偵」中山七里

中山さんの人気シリーズ主人公のコラボレーション。お互いの個性が迸る出来です。ただ、最初の登場時の重厚なキャラクターからかなり変化してきたようで、時制的にはちゃんと合ってるのだろうかと心配になります。(10/4)

 

002/172

警視庁文書捜査」麻見和史

人気テレビドラマの原作本ですね。主人公二人の設定が大きく変更されているので、全く違う作品のようにも見えます。ミステリとしてもしっかりしていて、読み応えもあります。実は初めて読む作家さんなのですが、過去の作品を眺めていると結構面白そうなので、しばらく漁ってみようと思います。(10/4)

 

003/173

世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史」ルイス・ダートネル

著者は、宇宙生物学という分野の専門家だそうで、この地球という惑星の起源から現代までの歴史を概説しています。プレートテクトニクスから生命の誕生、道具、動力の発見・発明まで書かれているのですが、一番面白かったのは大航海時代の記述でした。昔世界史で習ったような記憶があるのですが、船舶の改良もさることながら、地球の成り立ちがもたらした貿易風”“偏西風発見がその後のグローバリズムを招来したというのが劇的ですね。面白かったです。以前の著書にこの世界が消えたあとの 科学文明のつくりかたという面白そうな本もあるので、これもいつか手に取りたいと思います。(10/6)

 

004/174

天平冥所図会」山之口洋

初めて見つけた作家さんです。古代史の中での大事件道鏡事件で、宇佐八幡宮の神託を調査に行かされた和気清麻呂の姉、広虫とその夫葛木連戸主の二人を主人公とする物語です。二人の目を通して、大仏開眼や阿倍仲麻呂の乱など当時の歴史的事件を通じた怨霊との戦いを描いています。斬新で結構面白かったです。この作家さんの本職はプログラマなのですね。最近はあまり小説を書かれていないようですが、この手の路線であれば、また読んでみたいなぁ。(10/8)

 

005/175

ヒポクラテスの試練」中山七里

大学の法医学教室を舞台にしたミステリシリーズの第三作。今回は、異常な肝臓がんで死亡した政治家を解剖したことから、新たな感染性の寄生虫を発見し、パンデミックを起こさなよう、その感染源を突き止めます。いわゆる疫学をもって、感染症を抑えるということですね。ちょうど今、世界的な感染症危機に見舞われているところですが、その直前に書かれているのですね。タイムリーというか何というか。(10/9)

 

006/176

その日の予定 事実にもとづく物語」エリック・ヴュイヤール

その日というのは、第二次世界大戦前夜、オーストリアがヒトラー率いるドイツ帝国に併合された日を指しています。その日に向かい、当時の政界、財界がいかに動いたのかということが書かれています。作者はフランス人で、彼の地では事実小説と呼ばれているそうです。ヒトラーの傲慢さもさることながら、それに嬉嬉として従い、ナチスに莫大な献金をした財界人たちの醜悪な姿が印象的です。そして、その企業が今なおドイツを代表するグローバル企業として安全たる力を持っていることも。(10/10)

 

007/177

中世日本の予言書 <未来記>を読む」小峯和明

この本の中では、聖徳太子未来期”“野場台詩という二つの予言書が取り上げられています。前者は言わずもがな聖徳太子が記したとされる書物で、後生に発見されたとなっています。後者は中国の宝誌という僧が記したとされています。おそらくは、両者とも後世の偽作なのですが、なぜそのような祖持つが編まれたのか、そのときの世相や歴史的背景などを解説しています。なかなかに興味深かったです。(10/10)

 

008/178

逆ソクラテス」伊坂幸太郎

小学生が主人公の短編集。全作に共通して出てくる人物はいませんが、なんとなく一つのつながりがあるような構成になっています。小学生特有の甘酸っぱさもさることながら、数年後に彼らが、その当時のことを回想し、思わぬ発見をするというのが基本的な形です。いずれもハートフルな決着で、読んでいてもとても気持ちの良い物語でした。良かったです。(10/10)

 

009/179

中空」鳥飼否宇

これも初めての作家さんです。本格推理小説家さんなのですが、別名義で相棒シリーズのノベライズも出版されているとか。本作は、横溝正史ミステリ大賞の優秀作を受賞したデビュー作で、莊子が、物語のキーワードになっています。最後は、壮大な終わり方になってしまいましたが、本格推理の形式は踏まえられており、また別作を読んでみたいと思います。まずまずでした。(10/10)

 

010/180

人工知能に未来を託せますか? 誕生と変遷から考える」松田雄馬

散歩のお供に連れて行き、往復の電車内で読んだのですが、これは面白かった。人工知能研究の第一人者の方が書かれている本なのですが、人工知能が人間に取って代わるようなことは絶対にあり得ないと断言されています。その根拠は、是非とも読んでほしいのですが、非常に論理的に書かれていて、十分に納得できる物です。人間の脳というのは、本当に謎に満ちていて、そのメカニズムはほとんど解明されていませんし、の解明となるとほぼ不可能ではないかと考えられます。だからといって、のほほんとしていれば良いかというとそうでもなく、今後いかに上手くAIを使いこなすかということが重要になってきます。本文に引用されている参考文献もとても興味深いですし、同書の出版元のホームページにあげられている膨大な数の参考文献リストにもリンクを張っておきますが、なかなか興味深い。この本はおすすめですよ。(10/11)

 

011/181

日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る」播田安弘

これは面白かったです。著者は歴史学者ではなく、造船の専門家なのですが、趣味が高じてこの本を記されたようです。歴史上の謎について、科学的な立場から検証しようというもので、鎌倉時代九州に襲来した元は、なぜ本格的な戦いの前に撤退したのか。どうやって本能寺の変の一報を聞いた秀吉が、ほんの数日で中国地方から山崎の合戦に臨めたのか。戦艦大和は本当に役に立たない船だったのか。という3つのテーマについて、独特の視点から検証しています。特に秀吉の中国大返しについての仮説はとても興味深い。私も一票を投じます。(10/14)

 

012/182

ルポ 老人受刑者」斎藤充功

最近刑務所の受刑者総数に占める老齢者の割合が増えてきており、中には老人特有の身体故障や、認知症の症状が出ている受刑者も増えてきているといわれてます。このルポを書いた著者自身も80歳手前という高齢者ということもあり、なかなか興味深いルポになっています。施設の状況描写や受刑者、施設関係者のインタビューが、丁寧に綴られているのですが、特にそれに対する提言までは踏み込んでいません。そこが少し残念かな。(10/14)

 

013/183

去年はいい年になるだろう」山本弘

未来からやってきたアンドロイドたちによって、歴史が改編され、9・11の悲劇が起きなかった世界を描いたSF小説です。初めて読む作者さんなんですが、と学会(世間のトンデモ本やトンデモ物件を品評することを目的としている民間団体)の会長さんなんですね。未来からやってきた彼らは、より良い未来へ導くため、歴史に関与していきます。しかしながら、それを推し進めると、大きな齟齬が起きてしまい、想定外の未来を惹起することになってしまいます。倫理学的な考察もあって、なかなか深い小説でした。(10/17)

 

014/184

災害の倫理 災害時の自助、共助、公序を考える」ナオミ・ザック

週末のお供にするには、あまりに難解な書籍でした。最近の政権が、自助、共助、公序という言葉を口にされており、たまたま見つけた本の副題にずばり書かれていたので、思考の参考になれば思い図書館から借りてきました。著者はアメリカの災害、特に台風カトリーナの災害で露わになった格差の問題についても思考を広げていますが、災害等の緊急時に、できるだけ多くの人を助けるのか助けられる人をできるだけ多く助けるのかという二つの考え方を紹介しています。後者にはトリアージという作業が欠かせないのですが、素人感情からいうと、この考え方にたどり着くのはなかなか難しいですね。たまたま午前中に読んだ別の小説(上記)に、同様の問題が提示されているのですが、答えは見いだせない。また、著者は、9・11災害の後、アメリカ政府では安全保障と安全が同一の組織で担われるようになってから、安全に対するスピード感がそがれてしまっているという門団展も指摘しています。これまた難しい問題です。周りの人たちが当てにならないとするなら、最後に本書の中で印象に残った一節を紹介して終わります。人を助けるために準備する人は、無力な犠牲者になりにくい”(10/17)

 

015/185

神道の中世 伊勢神道・吉田神道・中世日本紀」伊藤聡

これも本文中に、これでもかと中世の古文書が紹介されていて、大変難しい本でした。日本の歴史の中で、神道というものは、何度も大きな変化を遂げていて、その中で中世という時代は、いわゆる神仏習合が極端に進んだ時代でした。まぁ、個人的には元々は土着の神々を伊勢神宮を頂点とするヒエラルヒーの中に無理矢理押し込めたことがそもそもの間違いだったと思っており、その土地と神々との関係が全く見えなくなってしまい、歴史が途絶えてしまいましたと考えています。閑話休題、インド発祥の仏教は、東漸する中で少しずつ変化していくのですが、日本の神仏習合もその一形態なのでしょう。その後近世に至って、儒教と結びついたり、明治維新後は極端な神仏分離と国家神道化で、本来の土着の神々への信仰は息の根を止められました。それにしても、難しい本でした。(10/17)

 

016/186

コロナ黙示録」海堂尊

昨年末から世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID19)感染症の感染拡大をモチーフに、日本政府のドタバタを描いた空想小説です。登場人物はすべて架空の存在で、実在の人物とは関係ありませんと書かれていても、ついついそれに重ねてしまう。そして、そう重ねても全く違和感がなく、この数ヶ月間の社会の裏側をのぞいた気分になって、面白かったです。おすすめです。(10/20)

 

017/187

『働き方』の教科書 人生と仕事とお金の基本」出口治明

まだ、今の職に就かれる前に書かれた本ですね。いろんなところで書かれているタテ・ヨコ思考。即ち時間軸と空間軸を広げること。の重要性をここでも指摘されています。また、国語ではなく、算数で考えること。即ち検証可能な『数字・ファクト・ロジック』でフェアに考えること。という二つ目の柱は、この本で初めて見たような気がします。この二つは、働く上で重要なだけではなく、人生のほとんどをしめる、働くこと以外の人生を送る上でも、大事なことだと思います。面白かったです。(10/21)

 

018/188

念入りに殺された男」エルザ・マルポ

珍しく最近のフランスミステリに手を出しました。フランスの片田舎でペンションを営んでいる女性が、とあることから宿泊客である作家を殺めてしまいます。その殺人を隠すために、全く別人格の人間になりきり、EメールやSNSを駆使して、さもその作家が存命であるかのように周囲をだまし続けます。さて、その企みは成功するのか否か。かなり目新しい試みで面白かったです。(10/24)

 

019/189

暴虎の牙」柚月裕子

広島を舞台にヤクザの抗争を描いた三部作の最終作(?)です。ほかの法廷物のミステリとは違い、驚くほどハードボイルドで、同じ作家、しかも女性が書いているとはとても思えません。前二作と平行した時代を描いており、それぞれがちゃんとつじつまが合っているのだと思いますが、相当に骨太な小説です。面白いです。(10/24)

 

020/190

ライオンのおやつ」小川糸

瀬戸内に浮かぶ島にあるターミナルケア・ホスピスを舞台にした小説です。このホスピスでは、週に一度、入居者のリクエストによるおやつが提供される時間が設けられています。残り少ない時間を穏やかに過ごすため、多くの人が支えてくれる様子が、とても切なく描かれています。終盤は、若干やりすぎかなと思えるような展開になりましたが、泣かせる小説であることは間違いありません。そういえば、本屋大賞の次席でしたね。(10/24)

 

021/191

永久囚人 警視庁文書捜査官」麻見和史

ドラマの原作だからと少し侮っていましたが、結構このシリーズにはまっています。ちゃんとした本格推理物になっていて、一気に読んでしまいたくなります。登場人物も魅力的で、面白いんですが、今作はかなり強引に結末まで持って行ったような印象です。まぁ、引き続きこのシリーズ読んでいきます。また、彼のほかの作品もかなり気になります。(10/24)

 

022/192

衰退産業でも稼げます 『代替わりイノベーション』のセオリー」藻谷ゆかり

商店、旅館、農業、伝統産業の4つの分野で、代替わりや起業をきっかけに大きく売り上げを伸ばした起業を4つずつ、計16社を紹介するレポートです。著者は、評論家としても有名な藻谷浩介さんの義姉で、ご自身も外資系メーカーで活躍され、今では長野県内に住み、地域活性化のお仕事をされているそうです。藻谷浩介さんのメルマガで紹介されていたので、借りてきました。ここで紹介されている16名の皆さんは、ほとんどが後継者の方であってもいったん外の会社で働いておられたり、異分野から参入されたりと、外の飯を食べてこられたばかり。その意味ではよそ者”“若者の用件を満たしておられる方ばかりです。著者は、成功に至ったキーワードとして、ビギナーズ・マインド増価主義地産外招の3つをあげておられます。地産外招というのは、読んで字のごとしですが、面白い概念ですね。ただ、今は海外からの渡航が制限されているので、皆さんどのように乗り切っておられるのか気になるところです。(10/28)

 

023/193

シャーロック・ホームズたちの冒険」田中啓文

こちらも初めて手にした作家さんの本で、若干毛色の変わった推理小説集でした。事件の謎を解く探偵役に擬せられているのが、小泉八雲であったり、ヒトラーであったりとそれだけでも、・・・・・という感じですよね。ホームズやルパン、さらにはルパンシリーズの作者ルブランが登場したりと、なかなかぶっ飛んだ小説たちでした。これが、この作者の特徴なのでしょうかね?(10/29)

 

2020年10月4日日曜日

2020年9月

季候も良くなって、散歩を再開した9月は、計17冊(但し上下巻が3組)、うち小説が12冊でそれ以外が5冊という内訳でした。

8月は、質量ともにかなり充実していましたが、9月はその反動と8月に読んで面白かった作家の本を借りてみるということが結構あって、新しい作家さんとの出会いはあまりありませんでした。

 

そんな中でのおすすめですが、小説では久しぶりに読んだ畠中さんのわが殿が秀逸でした。いわゆる低成長時代と呼ばれた江戸時代に、藩政改革を行った大名はいくつか知られていますが、本作はそのうちの一人越前大野藩の土井利忠を取り上げた小説です。実は、本作を読むまでその存在すら知らなかったのですが、事跡をたどると本物の改革者だったようで、その成果は維新後にもしっかりと受け継がれたようですね。作者独特の軽妙なタッチで描かれており、この名君の聡明さが伝わってきます。おすすめの一冊です。

 

そのほかでは夢見る帝国図書館もなかなか面白かったです。こちらも帝国図書館という施設の歴史をサイドストリーにして一人の女性の一生を描いた物語で、二つの楽しみが一冊で味わえる面白い構成になっています。少し古い本ですが、これもおすすめの一冊です。

 

あとミレニアムは相変わらず面白かったです。設定といい、スピード感といい、文句なしに面白い本です。原作者の手になるシリーズは残り一冊ですが、楽しみに読みたいと思います。皆さんも機会があれば是非手に取ってみてください。

 

小説以外の本は今回少なかったのですが、一冊挙げるとしたら幸福な監視国家・中国に決まりです。世界最新の監視システムの実態はどうなっているのかという視点でも読むことができますし、そこで描かれる世界は、ユートピアかディストピアかという問題提起もしています。生きづらいと考えるか安全と考えるか非常に難しい問題だともいます。中国人は明らかに監視されていることを前提に社会生活を送っており、それを逆手にとることもしっかり想定します。一方わが方を顧みると、監視されすべてを知られることに非常なアレルギーを持っています。でもそれは、どう考えても政府への信頼感の違いでは無く、別のところに理由があるように思います。そんなことを考える上でも、とても参考になる本でした。巻末の参考図書もいいラインナップで、そこからせっせと図書館の予約を入れる今日この頃です。

 

10月に入り、我々の世界では年度の折り返し、後半に入ります。

前半はコロナ一色で、後半も予断を許しませんが、Go to キャンペーンが本格化するなど、経済回復に向けた取り組みも進んでいます。

 

私も、ほどほどに散歩を楽しみつつ、読書の秋を満喫したいと思います。

 

 

 

001/154

ミレニアム2 火と戯れる女(上)(下)」スティーグ・ラーソン

先月から読み始めた、かつてのベストセラーシリーズの第二弾です。今作も、登場人物もストリー展開も申し分なく、一気に読んでしまいました。前作で協力し合いながら事件を解決した主人公の二人でしたが、今作ではほとんど顔を合わすことはありません。それでも、断片的に交わされた会話を通じて、二人の推理が交わり大団円を迎えます。相変わらず、スウェーデン社会の諸問題を散りばめつつ、公安警察まで巻き込んだスケールの大きな物語になっています。例によって、スウェーデン語の名前と地名が難しく、登場人物リストや地図が手放せませんが、それを凌駕する面白さでした。(9/5)

 

002/155

騒がしい楽園」中山七里

何の予備知識も無く読み始めたところ、幼稚園教師がご近所とのトラブルや保護者間のいざこざに翻弄されながら成長していくお仕事小説かと思っていました。実際、第一章はその萌芽が提示されて続いていくのですが、第二章以降は、小さな嫌がらせ事件は頻発し、ついには殺人事件まで起きてしまいます。素人探偵が活躍するミステリというのはよくありますが、今作はちょっとやり過ぎじゃね、という感じでした。(9/5)

 

003/156

優しい死神の飼い方」知念実希人

人が死んだとき、その魂が迷わず天上へたどり着けるよう道案内するのが死神の大事なお仕事なのですが、たまに強い未練を持ったまま亡くなると、地縛霊化してしまいます。そこで、死に臨んだ人たちの未練を断ち切るために地上に派遣された一人(?)の死神が主人公。犬の姿を借りて、一人一人の患者にケアを施していきます。物語の後半には、大事件が発生するのですが、結果はとりあえずハッピーエンド。結構前の作品で、ミステリとしては、やや荒っぽいかなという感想でした。(9/6)

 

004/157

夢見る帝国図書館」中島京子

まさに図書館の書棚をボウッとしながら徘徊しているときに目についた一冊です。この型の作品は初めてではなく、以前に歴史物の小説を一冊読んだ記憶があります。この小説は、帝国図書館を主人公にした小説を書く小説家を語り部とした一風変わった小説です。明治維新後、国際社会の中で馬鹿にされないために作られた図書館の変遷と太平洋戦争に翻弄され、旧来の家社会の中で窒息しかけた一人の女性の人生をたどる二つの物語が平行して語られます。読み応えのあるいい物語でした。(9/12)

 

005/158

わが殿(上)(下)」畠中恵

私もほとんど知らなかった土井利忠という藩主の物語です。幕末、越前の大野藩の改革を成し遂げ、名君と言われた藩主で、表向きはわずか4万石の石高ながら、諸々の産業施策で実質15万石程度の収入を上げていたそうです。この物語は、その改革を財政面で支えた内山七郎右衛門が語り部となって、利忠の生涯が語られます。そんなうまいこといくんかいなと思うこともあるのですが、結果的にうまくいったことは歴史的な事実のようで、非常に興味深い内容でした。こんな本を読むと、いつか越前大野を訪ねたくなる。(9/13)

 

006/159

夏服を着た恋人たち マイ・ディア・ポリスマン」小路幸也

シリーズ物の3作目です。いつものメンバーがいつものように町の事件を解決していく物語ですが、今作では特殊詐欺事件も発生し、主人公が警察官であることが生きてきます。読んで損をしたとはならない本です。(9/13)

 

007/160

テロリストの処方」久坂部羊

こちらは初めての作家さん。この型もお医者さんなんですね。医療ミステリも手がけておられます。テーマは医療崩壊と医療格差。持てる者と持たざる者の間で、受けられる医療の質が大きく変わり、それを改革すべく立ち上がったグループが道を踏み外していく様が描かれています。少し期待しながら読んだのですが、やや期待外れ。(9/14)

 

008/161

アリス殺し」小林泰三

先月初めて読んだ作家さんですが、なんとなく良かったので代表作である本作を借りてきました。不思議の国と現実世界の奇妙な符合。ややもすると大きく破綻してしまいそうなややこしい設定で書き続けられるのはすごい、工学部出身だそうで理系脳の強さが感じられます。物語はきれいに収束されていきますが、一点だけ残った謎が解決されていません。アリスっていったい誰なんだ?(9/16)

 

009/162

古代史講義【宮都編】」佐藤信編

古代史マニアとしては一応押さえておこうかなと思い購入しました。藤原宮から平安京までの宮都については研究者が執筆している一方、太宰府、平泉、多賀城などについては、その地方の教育委員会職員が執筆するという面白い構成です。この本を読んだすぐ後に藤原宮に行ってきましたが、本当に広かったです。周りにはさほど高い建物はないのですが、そこから見る大和三山は絶景でした。(9/19)

 

010/163

あいまいな会話はなぜ成立するのか」時本真吾

散歩のお供に読んだ本です。私たちが、言語を通してコミュニケーションをとるとき、すべてを説明しなくても意思疎通ができるというのが普通です。そんな当たり前と思えることを分析・解説した本です。AIにはなかなか難しい技なのではないでしょうか。(9/19)

 

011/164

幸福な監視国家・中国」梶谷懐、高口康太

昨年出た本ですが、いろんなところで勧められていたので、図書館に予約し、ようやく借りることができました。いやぁ面白い本でしたね。最近、日本でも街角に監視カメラを見ることが多くなりましたが、それらは基本的に単独で存在しており、ネットワーク化されているわけではないというのは、よく知られている話。中国では、それらがネットワーク化されていることはもちろん、個人の顔認証までできるそうです。その上に、積極的に個人情報を提供することで、自信の信用度を上げるシステムまでできているそうです。その結果、非常に便利な生活を送ることができる。日本人にはなかなかなじめませんが、世界のスタンダードはどんどん進んでいるようです。(9/20)

 

012/165

モリエール全集1 『ル・バルブイエの嫉妬』『トンデモ医者』『粗忽な男』」モリエール

思い立って借りてみました。フランスを代表する喜劇作家ですが、今から400年近く前の人なんですね。当時は電気も無いわけですから、スポットライトもマイクも当然無い中での演劇というのは、どんな感じなんでしょうね。粗忽な男、なかなか面白かったです。(9/20)

 

013/166

エピデミック」川端裕人

千葉県南部の一都市に発生した新型コロナウィルスによる感染症。疫学の知見を使って、その封じ込めに立ち向かう。原因がわからなくても、感染経路を丹念にたどることによって、感染拡大を防ぐというのは、19世紀中頃にロンドンでコレラのパンデミックが起きたときに初めてとられた手法で、コレラ菌の存在は明らかになっていなかったものの、感染者の分布などから原因となった井戸を突き止め、その井戸を使用停止することで、感染拡大を防ぎました。その際にも、大胆な仮説を立てることによって、真相にたどり着いたのですが、この小説の中でも、その経過がスリルたっぷりに描かれています。今この状況だからこそ、よく理解できる小説でした。(9/21)

 

014/167

恋と禁忌の述語論理」井上真偽

先月初めて読んだ作家さんで、気になって二冊目を手にしました。この本は、ある種のミステリなのですが、すでに解決をみた事件について、主人公が数理論理学を使いその事件を再検証するという安楽椅子探偵物の小説です。この数理論理学というやつは、中学高校の数学で少し習ったのですが、とにかく頭がこんがらがって、自分には向いていない分野だと痛感した記憶があります。この本でも、巻末に解説が載せられているのですが、ちんぷんかんぷん。でも、理数系の人が書いたミステリが面白い理由がよくわかりました。(9/26)

 

015/168

天鬼越」北森鴻、浅野里沙子

この作家さんは初めて読む方なのですが、北森さんというのはすでになくなられており、執筆中だった遺作をパートナーの方が書き継いだというのが、この短編集の中の一作で、ほかには、他の短編集には載せられていない物と後継者が新たに世界観を引き継ぎながら書き下ろした作品が収められています。内容は、民俗学者がフィールドワークの最中に出くわした事件の謎を解くという、二時間ドラマで見たことがありそうな中身なのですが、書かれている民俗学的知見は、それなりに面白く読むことができました。ミステリとしては、まずまずでしょうか。(9/27)

 

016/169

心理学的にありえない(上)(下)」アダム・ファウアー

他人の心を読んだり、影響を与えることができるサイキックを主人公にした物語です。彼らを利用しようとする組織から逃げ出した少年たちが、十数年後とある事件をきっかけに組織に見つかってしまう。再び追いかけられながら、新興宗教団体がもくろむテロの阻止に向かうというスリル満点の物語です。最後に思わぬどんでん返しとややブラックな結末が用意されています。(9/27)

 

017/170

時計の科学 人と時間の5000年の歴史」織田一朗

太古の昔には、時間という概念は存在していなかったはずなのに、どこかの時点で時間という物が生まれた。それは、太陽が出ている間活動できる時間というあたりから生まれたのでしょうか?まだ、という物が無かった頃は、日が落ちると一日が終わり、夜はすでに次の日だったそうです。ですから今の大晦日の夜は、すでに年が改まった正月だったといわれています。そんなおおざっぱなから、今では地球の自転でさえ、数千分の一秒の単位で計測されています。そんな時間の話と、それを計測する時計の歴史の物語です。(9/29)