先月10月は合計14冊で、うち小説が8冊、それ以外が6冊となりました。まぁ、ここのところでは平均的な感じでしょうか。
そんな中でのお薦めなんですが、まず小説では、万城目さんと柚月さんの作品が、安定の面白さでした。
万城目さんの小説は、最初はどんなもんなのかとおそるおそるでしたが、設定が結構ぶっ飛んでいて興味を惹く上に、話の展開も妙に今日的で一気に読んでしまいました。途中しんみりさせる展開なのかと思いきや、最後は笑いで収まるという安心感。万城目さんらしい一冊です。
柚月さんの本はシリーズ物の一冊なので、前作を読んでいないと少し分かりづらいと思います。いわゆる法廷物なんですが、どちらかというと法廷外で進む話しばかりなので、普通のミステリとしても十分楽しめます。シリーズ全体としてお薦めです。
次に小説以外の本ですが、結構秀作が揃っておりまして、いずれもお薦めの本ばかりです。
そんな中で特にお薦めなのが、“ストーカーとの700日戦争”です。これはストーカー被害に遭った女性による被害発生から、一応の解決をまでの2年間にわたる出来事を綴った物で、息つく間のなく読んでしまう感じのルポルタージュです。警察や検察、弁護士とのやりとり。本人も書いておられるように、決して上手い交渉とは言えない場面もあって、渦中にあると冷静な判断ができないと言うことがよく分かります。最近の“あおり運転”騒ぎを見ていても、誰だって、何時何処で誰から牙をむかれるか分からない世の中です。気を抜くことができないというのは寂しいことですが、注意しながら生きていかないといけないんですね。
秋の夜長を楽しむにふさわしい季節となってきました。今回は“日本語”に関する本が複数ありますが、最近好んでこの手の本を読んでおりまして、今後も続けて読みたいと思っている分野です。また、好きな作家の新刊が多数店頭に並んでいて、早く手にしたいとも思っているのですが、読んでいない本が山のように積み上がっている今、なかなか手が出せない状況にもなっています。早く、読み切ろうっと!!
001/125
「交錯 警視庁追跡捜査係」堂場瞬一
警察小説で数々のヒットを飛ばしている著者の作品で、これもシリーズ化されているらしい。どんな物かと思って図書館で借りてみました。主人公である同期の刑事が、お互いのことを疎ましく思いながら、全く別の事件を追いかけていたところ、その二つの事件が交錯し、最後はお互い力を合わせて事件を解決するという物語。まぁ、悪くはないんだけれど、もう少し個性の強い主人公であった方が面白いかな。(10/5)
002/126
「ドリームダスト・モンスターズ」櫛木理宇
初めて読んだ作者。他人の夢の中に入り込むことができるという不思議な力をもつ老婆とその力を駆使しながら、悪夢に苦しむ人たちを救う高校生コンビの物語。まぁ、軽い感じで読める作品です。続編があるのかどうか分かりませんが、それほど食指は伸びる感じではありませんでした。(10/5)
003/127
「ST警視庁科学特捜班 毒物殺人」今野敏
これまた警察小説のエキスパート今野さんのシリーズ物です。数年前にテレビドラマでシリーズ化されたんですね。知りませんでした。警視庁科学特捜班という架空の組織が活躍する物語なんですが、相手方の心臓の鼓動の変化を聞き分けられる聴覚や急な発汗による体臭の変化をかぎ分けられる嗅覚を持ったメンバーが登場するトンデモ小説でもあります。いやぁ、なかなか。(10/6)
004/128
「街場の平成論」内田樹編 小田嶋隆、釈徹宗、白井聡、仲野徹、平川克美、平田オリザ、ブレイディみかこ、鷲田清一
平成の終わりに、当代きっての論客がそれぞれの切り口で“平成”という時代を振り返った一冊。それぞれの目の付け所が違っていて、こうやっていろんな人の文章を読んで、“平成”の30年を振り返るというのは、なかなかおもしろい。翻って、自分のとっての“平成”ってどうだったのかを考えてみると。元年には、天安門事件やベルリンの壁崩壊と世界史的な事件もあったのですが、個人的にはこの年の秋に最初の家族を持った時期でも有り、それなりに印象に残る年になりました。その後も、バブル崩壊や阪神・淡路と東日本の大震災、“失われた20年”とも言われた低成長時代と印象的な事件はたくさんありました。が、この30年は、大きな病気もしましたが、充実した30年だったなと言うのが正直な感想でしょうか。令和は明らかに私たちの次の世代の時代です。彼ら彼女らが令和を振り返って、楽しかったなと言える時代になってくれることを切に願います。(10/12)
005/129
「日本語の謎を解く 最新言語学Q&A」橋本陽介
まだお若い現役の高校の先生が書いた日本語に関する本で、教え子である高校生達から寄せられた70いくつの疑問に答える形で書かれています。結構専門的な疑問もたくさんありながらわかりやすく書かれていて、とても面白い一冊です。実は巻末の参考文献がとても充実していたので、コピーしておこうと思いながら忘れてしまい、かなり残念な思いをいたしております。自分たちが当たり前のように使っている言葉について、改めて考えてみるというのも面白いですよ。お薦めです。(10/13)
006/130
「手のひらの京」綿矢りさ
数年前に出版された“綿矢版細雪”。発表当時は結構話題になりましたが、当時は読むことができず、最近図書館で見かけたので借りてきました。京都で生まれ育った三人の姉妹が、それぞれ心に屈託を抱えながら、それを克服していく物語です。その微妙な心の動きについて行けない部分があるのは、自分が男だからなのか、それとも京都に生まれ育っていないからなのか。そういう意味でも興味は尽きません。とても面白かったです。(10/13)
007/131
「パーマネント神喜劇」万城目学
なかなかぶっ飛んだ設定の物語で、とても面白かった。一応一連の物語になっているのだが、初出から出版まで10年以上の年月が経っているのでどうやら元は単発で書かれた小説を数年後に同様の設定で続編を書いてみたところ、好評でさらに書き足した、という感じでしょうか。物語はとある地方の神社に1000年以上棲まう“縁結びの神様”を中心に進み、ほかの神社への転任や昇任、後任の“神様”との引き継ぎ、最高神との遭遇といった出来事と、神社を訪れる人間の人生を巡る物語。どうやって書いたら分かってもらえるかなと思いながら、きっと伝わらないだろうなととも思います。アイデアもすばらしいし、とても面白い一冊でした。(10/14)
008/132
「そして夜は甦る」原尞
最近お気に入りの作家で、折に触れ図書館で借りて読んでます。本作は3作目なのですが、行きがかり上、最新作から読み始めたので、一作ずつさかのぼる形で読み始めています。でもこれが、ほとんど違和感なく読めると言うが良いですね。本作では作家の東京都知事と役者であるその弟が登場し、重要な役割を果たします。どこかで聞いたことがある組み合わせですね。また、次の作品も読もうと思います。(10/20)
009/133
「検事の信義」柚月裕子
著者の生み出した佐方検事のシリーズ最新作です。この作品集には、彼が検事としてデビューしてから3年後くらいの様子が描かれています。彼の検事の信義とは、罪を罪として真っ当に裁かせること。それとぶつかる不当な要求には屈せず、信義を貫きます。当然生きにくいですよね。イマイチな作品が多い“このミステリーがすごい大賞”受賞作家の中では数少ない当たりかと思っています。(10/22)
010/134
「幻島図鑑 不思議な島の物語」清水浩史
どこで引っかかってこの本を借りたのか、今となっては全く思い出せない。島国日本と言われるが、一体全体日本に島はいくつあるのか、そう思っていろんな資料を見てみると、3,922、6,852、4,917という3つの数字が出てきた。ただ、いずれにしても詳細は全く分からないようです。ちなみに京都府はと言うと、面積1平方キロメートル以上の島はゼロ、ただし、周囲100メートル以上となると49もの“島”があるそうです。私が生まれた舞鶴湾内にも、たしか4~5個の島があったように記憶しています。この本では、そんな数多くある島のうち14の島を取り上げて、その様子をリポートしています。ほとんどが無人島ですが、中には一人だけしか住民がいない島なども取り上げられていて、民俗学的にもとても興味深い内容になっています。いずれにせよ離島となると生活も不便だし、有人島は少なくなっていく傾向にあります。2015年現在有人島は418島あるそうです。(10/22)
011/135
「ストーカーとの七〇〇日戦争」内澤旬子
都会を離れ、小豆島で著述業をしている著者が、元恋人によるストーカーの被害に遭い、撃退するまでの2年間に渡る戦いを記録したルポルタージュ。警察や検察、弁護士等との生々しいやりとりが綴られている。彼女からの一方的な発信なので、すべてをそのまま鵜呑みにはできないだろうが、もどかしさや恐怖感が伝わる迫真的な記録になっている。実際の状況を知らない私からすると、警察や弁護士とのやりとりの中で、どうしてそんなことをしちゃったのと思うところも多々有り、書中でご本人も書いておられましたが、渦中にあると、そういった冷静に思考できないんだろうなと言うことが良く理解できる。この本にも書かれているが、ストーカー被害者への支援体制は整いつつあるが、最終的に被害者側に負担がかかってしまう状況をなんとか変えないといけないと言うこともよく分かります。(10/23)
012/136
「作りかけの明日」三崎亜記
彼の描く不思議ワールドの物語。怪しげな地下プラントで製造されるある“物質”。世界を滅ぼしてしまうかもしれない危険な物。その“ある物”を巡って、2つの組織がせめぎ合う。今作も結構凝った作りになっていて、まずまず面白い作品になっています。(10/26)
013/137
「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」野澤千絵
日本の空き家率が急速に高くなっている。地方の過疎地域の話ではなく、都会のど真ん中でも普通に見られる現象で、今後社会の大きな負担になってくることが予想されます。これ迄から、GDPを押し上げる重要な指標であることから、政府は住宅の新築には手厚い支援をしてきたが、いかんせんろくな都市計画もないままに勝手気ままな建設を進めたことから、却って自治体のコストを上昇させている。明らかに次世代にこの負の遺産が残されていく。かくいう私も、実家は空き家のままですし、今の家も娘2人が、将来も住み続けてくれるとはとても思えないので、負動産となってしまう可能性が高い。人ごとではないのです。(10/31)
014/138
日本語に関するうんちくシリーズです。タイトルを見たときは、何じゃこりゃ?と思っていたのですが、改めて自分のボキャブラリーを探してみても、確かに日本語(いわゆる標準語)の中に、親しい相手と話す言い回しというのは見つけられませんでした。実は、方言にはあるんですよね、たとえば“せやねん”“~やろ”などなど。今の私たちが使っている“口語体”という言葉は、明治以降に確立してきた言葉で、それ以前の言葉は“文語体”の文書としてのみ残されています。つまり、昔の人たちがどんな言葉を“話して”いたのかは再現できないのです。だから、ひょっとするとずっと昔は、そういった言葉もあったのかもしれませんが、今となっては闇の中ですよね。本当に言葉って面白いですね。そして、この本を読んで初めて知ったこと。目上をほめてはいけない。という原則です。“褒める”というのは、“上から下へ”向かう言葉で、決して“下から上へ”は向かわない言葉なんだそうです。ところが、その原則も今や崩れてきていますよね、言葉は生き物です。面白い。(10/31)