3月の成果は17冊。うち小説が11冊、その他が6冊という結果になりました。
ペースとしては、まずまずかなと言う感じでしょうか。
先月からの続きで本屋大賞候補作を読んでいまして、3月はなんとか3冊読むことができ、計6冊読めました。大賞の発表は4月9日だそうですから、それまでに全部読むのは無理なのですが、一応読み切ろって、私なりのベストワンを決めようかなと思っています。
そんな中でのお薦め本です。
小説では先述の候補作を始め、好きな作家の本もたくさんあって、とても一冊に絞ることができません。
まずは、三浦さんの“愛なき世界”。ヒロインの愛する植物界を愛のない世界として描いていますが、そこの本当に愛は無いと言えるのか、ひょっとするとそうじゃないのかも。いずれにしても、とてもほのぼのとして心温まる、愛にあふれた一冊だったと思います。
さらに、瀬尾さんの“そして、バトンは渡された”も良かったです。とても複雑な家庭環境に置かれた主人公が、様々な人たちの愛に救われて育っていく様を描いています。昨年話題になったテレビドラマを彷彿させるストーリーですが、複雑さは一枚上手の小説でした。良かったです。
宮部さんの“昨日がなければ明日もない”も安心の一冊です。本文にも書いていますが、最近では彼女の現代劇小説はなかなかお目にかかれませんので、貴重なシリーズでもあります。シリーズ開始直後とは主人公の置かれている立場も大きく変わっていて、別の小説のようになっています。あたかも、現代劇はこのシリーズしか書かないぞと主張しているかのようです。本当は、昔の“火車”のような骨太の社会派小説も書いてほしいのですがね。期待しています。
さて、小説以外の本となりますと、今問題になっている“無子高齢化”が非常に心に響きました。先日読んだネット記事の中に、団塊ジュニア世代の星として、イチロー選手の名前が挙がっていました。おおよそあの年代なのですね。本来であれば社会の中核となって“今”を動かしているはずの年代の人たちの多くが、家庭を持てるだけの収入を得られていない、安定した職業に就けていない。その現実を招いたのはいったい誰だったのか。私たちの責任は重いと実感しています。
後は、古い本を二冊読みました。
一つは“日本文学の古典”。改めて古典文学への興味を引き立ててくれる興味深い一冊でした。これに触発されて何冊か買い求めましたので、そのうち読まなければなりませんね。本文でも触れていますが、能・狂言・歌舞伎も“文学”としてくくられているのがとても興味深いです。平家物語も、元は琵琶法師による音曲を交えた“語り”の物語であったわけですよね。そう考えるとなんとなく腑に落ちるような気がします。
もう一冊は、これも世間を騒がせている“統計でウソをつく法”です。今回の事件で明らかになったのは、あまりに原始的な手法でしたが、まさか国家がこういうウソをつくとは思いもしなかった人が多いのでは無いでしょうか。こればっかりは、いくら情報リテラシーを高めても、なかなかたどり着けない事実でもあります。我々は襟を正さなければなりませんね。
3月は、隙間時間をうまく見つけて、結構充実した読書生活が送れたのでは無いかと自負しています。4月に入っても、本屋大賞候補作を読み続けておりまして、世間の評価と自分の評価との比較がとても楽しみです。
また、以前から考えながらもなかなか読めていなかった古典にも少しずつ手を出していきたいと思っています。文学はもちろんですが、それ以外にも古典的名著というのは数多くありますので、分野を限定せずに考えているところです。
001/023
「愛なき世界」三浦しをん
これも本屋大賞の候補作です。彼女らしい独特の着眼点に基づく恋愛小説です。植物に恋してしまった女性に恋してしまった男性の報われることの無い切ない気持ちが描かれています。しかしながら、暗い場面は全くなく、二人を取り巻く奇妙で暖かな仲間たちの描写をちりばめながら、終始明るいトーンで物語は進みます。結末はどっちだろうと思いながら読み進めていきましたが、やっぱそっちかと裏切られつつも納得のエンディングでした。“愛なき世界”というのは、主人公の女性がこよなく愛する植物の世界を表しており、植物は“意思”を持って子孫を残そうとしているわけでは無いので、そこには“愛”は存在しないと彼女が信じていることから付けられたタイトルかともいます。しかし、そこに本当に愛は無いのか。植物ではない身には分かりません。(3/2)
002/024
「時が見下ろす町」長岡弘樹
日常の生活に隠された小さな嘘、謎をテーマにした短編集。彼の代表作である“教場シリーズ”と場面設定は違えど、同様の形式で描かれています。タイトルにある“時”を象徴するのは、舞台となった街を見下ろす百貨店にある時計台。その街で起きた小さなエピソードを時をさかのぼりつつ紡いでいきます。それぞれが微妙に繋がっており、一つの大きな物語に集結し、数々の伏線が回収されていきます。なかなかお見事です。(3/2)
003/025
「盲目的な恋と友情」辻村深月
最近気になって彼女の小説を拾い読みしているのですが、およそ10年前に書かれた小説なんですね。一つの物語を“恋”と“友情”二編に分け、それぞれ別の人物のモノローグとして語らせる珍しい形の小説です。だから「」で書かれた語りの部分は全く同じなんですが、その背景や心理描写は全く違っていてとても面白く、先月読んだ“ベートーベン捏造”に通ずるところがあるなと、一人悦に入っております。主人公とされた二人は、それぞれが“恋”と“友情”に初心なため、初めて出会ったそれに盲目的に従属し、自らの人生を破滅に追い込んでいくという悲劇になっています。結末はあまりに切ない。(3/3)
004/026
ついにシリーズ11作目までまいりました。相変わらず賑やかな堀田家。今作では、語り手であるサチの声や姿を感じることができる人物が一人増えました。さらに伝説のロッカーの孫がついにテレビデビューいたしました。登場人物がどんどん成長し、物語は果てしなく続きます。(3/9)
005/027
「日本文学の古典 第二版」西郷信綱、永積安明、広末保
日本の古典文学についての評論集。昨年秋に久しぶりに重版された物を買い求めました。12のテーマについて3人の論客が語っており、この本自体がある種の古典といっても良さそうな感じ。中には“能・狂言”“歌舞伎”といったテーマについても語られており、これらもある種の“文学”として扱われている。全体として時代を追いかける形で綴られているのだが、平安初期にあれほど隆盛だった女流文学が、その後パタリと途絶えてしまったのはなぜなのかという謎が残ってしまった。長い歴史の中で時代の荒波を乗り越えて今に伝わるこれら古典の古典文学は、学校の授業の中で拾い読みしたぐらいしか経験が無いので、改めて折を見て読んでみたいと思いました。(3/9)
006/028
「火のないところに煙は」芦沢央
これも本屋大賞候補作です。作者が雑誌の連載を始めるに当たり、知り合いが経験した“怪談話”を集めてまとめました、というスタイルの不思議な小説です。一つ一つがゾクリとするような内容で、夜も眠れないなるほどの恐怖を感じるほどではなく、安心して読み進められます。私も眠る前に読んだのですが、ついつい最後まで読み通してしまいました。面白かったですよ。(3/9)
007/029
「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ
こちらも本屋大賞候補作です。幼くして母を亡くした主人公が、その後二人目の母親と二人目、三人目の父親と出会い、暮らすことになるものの、常に皆から無上の愛を注がれることで、まっすぐに成長していくという物語です。そういえば、昨年同様のモティーフで大ヒットしたテレビドラマがありましたね。最近の児童虐待事件を見るにつけ、どうしてそんなことができるのかとズタズタにされてしまった心を修復してくれるようなお話です。現実には、こんなうまくは運ばないのでしょうが、世の中のすべての子供たちがこういった環境で育っていってほしいと切に願います。(3/10)
008/030
「生きづらい明治社会 不安と競争の時代」松沢裕作
岩波ジュニア新書の一冊ですから、少年少女向けに書かれた本ということなのでしょうが、大人の鑑賞にも堪えうるシリーズなので、時々手にしています。明治時代と現代社会の類似性を説きつつ、明治時代は“生きづらい”としていると言うことは、現代社会も生きづらいのではないかと言っているに等しい。そのキーワードとして何度も登場するのが“通俗道徳のワナ”という言葉で、これは“努力すれば必ず報われる”という呪文で、これは裏を返せば“報われていないのは努力が足りないからだ”ということに等しい。評価は分かれるにしても、江戸時代には“五人組”や“村請”という制度があって、ある種の相互扶助のシステムを作っていました。それが無くなった明治以降は、前に述べた“通俗道徳のワナ”にとらわれた社会となってしまった。これからの社会を生きていかなければいけない若い人たちは大変だが、彼ら彼女らに期待するしか無い。(3/13)
009/031
「その情報はどこから? ネット時代の情報選別力」猪谷千春
自分が読んでいるニュース、耳にした情報って正しいんだろうか。最近のネット社会では、情報は洪水のようにあふれかえり、玉石混淆の情報の渦の中をおぼれないようにするので精一杯です。そんな中、最近の賢いニュースサイトは、過去の閲覧履歴から好みそうなニュースを選んで見せてくれます。ということは、私たちが“選んで”ニュースを読んでいるように思っていても、実は“選ばれた”ニュースを見せられているのです。しかも、そのニュースが実は嘘っぱちであったりと。この本は、そうやって見せられている情報に対するリテラシーを高めようという内容になっています。残念ながら、解決方法としては、自らの出身母体である“大新聞”が標準だよという辺りが限界なのですが。まぁ、本当にそういった視点が必要だと思われる人たちには、こういった情報は伝わらないというのが、この本を読んでたどり着いた真実でした。(3/15)
010/032
「古代日本の情報戦略」近江俊秀
古代日本では“情報”というのは、どうやって伝わったのか。当然のことながら人を介してしか伝えられなかったので、最初の統一国家である大和朝廷は、律令制度を整備する中で、全国各地を結ぶ駅路が整備され、情報伝達の仕組みも整備された。これは、文字で見る限りにおいては非常にうまく練り上げられた制度であったことが分かります。ところが、そこから先がとても面白くて、全国各地にあれだけ整備されたはずの駅家の遺構が、ほとんど発見されていないそうです。あったことは間違いないのですが、その姿がさっぱり分からないってミステリアスですね。政治の要諦は情報であるいうのは洋の東西、時代を問わないということですね。(3/17)
011/033
「東京零年」
赤川次郎
彼の作品を読むのは本当に久しぶりです。昔、ベストセラーを連発し、長者番付(懐かしい!!)の常連であった頃、彼の作品をたくさん読んでいました。いわゆる“ユーモアミステリ”の大家というイメージが強いですが、あの“三毛猫ホームズシリーズ”にしても、初期の頃は、本格ミステリとしての印象の方が強い作家でした。本作も、久々に書かれた500ページに及ぶ本格ミステリの超大作で、吉川英治文学賞受賞作というと言うこともあり、楽しみに読みました。派手な展開はないものの、かつての彼がよく描いていた国家に管理された社会の恐ろしさを描いた小説で、かなり重厚な内容になっています。ただ、あまりに淡々と進みすぎているきらいもあるかな。(3/17)
012/034
「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき
最近の彼女の作品は、江戸時代を舞台にした小説が多く、現代小説はこのシリーズのみとなっているのではないでしょうか。主人公は探偵。とは言いながら普通のミステリ小説のような大事件に巻き込まれるのではなく、日常の生活の中で時折出くわす小さな事件を扱う地味な探偵です。最近多い時代物でもそうなんですが、彼女はこういった日常に潜む隙や人の弱さをうまく取り上げた作品が多く、とても気に入っております。本作も期待に違わぬ面白さです。(3/21)
013/035
「メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒
昆虫の生態を犯罪捜査に活用する“法医昆虫学捜査官”という架空の警察官を主人公にしたミステリ小説です。こういった専門の捜査官はないものの、実際の科学捜査でも動植物なども活用されているようで、そこのフォーカスした作者の着眼点はすごいなと思っております。なかなか面白いですよ。(3/23)
014/036
「統計でウソをつく法 数式を使わない統計学入門」ダレル・ハフ
今ちまたを賑わせている“統計操作”についての古典的名著です。奥付を見たら、日本での出版は1968年、原典はその10年ほど前に書かれています。現代の統計を使った瞞しのテクニックは高等化していますが、当時は今なら絶対引っかからないような大胆な瞞し方が横行しており、読み物として楽しめます。でも現代の高度化した騙しのテクニックも、結局のところその当時の方法を大規模にしたりしてごまかしているだけです。それだけに今騒がせているような、公表している方法とは全く違う方法でサンプルを収集するというような詐欺的手法はあり得ないですね。(3/23)
015/037
「神のダイスを見上げて」知念実希人
この作者による医学ミステリ以外の小説は初めて読みました。不規則軌道で進行する惑星が、地球にぶつかる、かもしれないとしたら、人はいったいどういう行動を取るのだろうか。というのがこの小説のテーマです。そこに主人公の姉が殺されるという事件が発生するが、治安維持に追われる警察の捜査はままならず、主人公が自らの手で犯人を捜し、復習をしようとする。そして、その犯人が分かったとき、彼はいったいどうするのでしょうか。自分ならどうするか。正直言って、ミステリとしてのできはも一つですが、テーマとしては面白い一冊でした。(3/23)
016/038
「無子高齢化 出生数ゼロの恐怖」前田正子
今最大の課題について、論考した大作です。太平洋戦争後に、ビーブームは二度やってきました。というか二度しかやってこず、三度目はやってきませんでした。いわゆる団塊の世代と言われる戦後ベビーブーム世代、そしてその子供たち。いわゆる団塊ジュニア世代。しかしながらその団塊ジュニア世代が結婚出産適齢期と言われる年代を迎えても、ベビーブームは起きず、出生数は依然として右肩下がりを続けています。バブル崩壊後の失われた20年、あるいは30年とも言われる時代に“大人”になった世代です。超就職氷河期といわれる時代で正規就労できなかったり、都合の良い労働力として簡単に切り捨てられた彼ら彼女らは、生活の不安定さ故に家族を持つことができず、現在に至っています。彼らが40代を迎えようとしている今こそ、最後のチャンスなのではないか、というのが著者の主張です。最後のチャンスですね。(3/24)
017/039
「それでも空は青い」荻原浩
様々な家族の有り様を描いた彼らしい短編小説集です。中には最後にあっと驚くような落ちが用意されている作品もあったりと、結構楽しめる作品が詰まっています。無秩序に集められたような小説集なんですが、こういった作品集のタイトルを考えるのって編集者さんですよね。結構尊敬します。(3/31)