2019年12月9日月曜日

2019年11月


11月の読書感想文は、計15冊となりました。うち小説が5冊、それ以外が10冊という結果でして、久しぶりに小説がぐっと少なくなっています。

そんな中でのお薦めですが、まず小説については、好きな作家の作品を結構厳選して読んでいましたので、いずれもお薦めです。久しぶりに読んだ筒井康隆さんの作品も面白かったですし、門井さんの2冊も良かったです。明らかに相性が悪いという作品はありませんでした。

敢えて1冊選ぶとするなら、門井さんの屋根をかける人特に良かったと思います。
主人公のヴォーリズという名前は知っていましたが、これ尾ほど興味深い人物だとは知りませんでした。近江八幡には何度か行きましたが、ヴォーリズ関連の史跡はほとんど訪れていないので、これは是非ともいつかのゴモ散歩で訪ね歩いてみたいと思います。

続いて小説以外の本ですが、これがまたかなりの粒ぞろい。
分野が結構多岐にわたっているように見えますが、過去のいろんな読書歴がアメーバのように広がって、結果こうなった感じです。

まず、NETFLIX好き嫌いとは、よく似たテーマで、前者がアメリカでのスターアップ企業が、いかに成長してきたかと言う視点で書かれており、その成功の鍵として、ユーザーに対していかに次の作品を薦めるかというプロモーション作業のため、新たなアルゴリズムを開発し、それがある意味決定打となったとされています。後者では、そのお薦めシステムについて、完全にゆだねてしまうことの恐ろしさなどについて考察しています。この本は、別にどこかで合わせて紹介されていたわけではなく、偶々関連があったもので、どちらから読んでも大丈夫かと思いますが、どちらも面白かったです。

次に、いろいろ評価は分かれると思いますが、帝国の慰安婦は、表現は適当ではないかもしれませんが、とても興味深かったです。このテーマで書かれた本のほとんどは、相反する極端な立場で書かれた物ばかりで、反対意見を無視する、罵倒することに終始してているように見受けられます。そんな物ばかりの中では、過去の記録を丹念に拾い上げ、事実を追求しようという立場を崩していません。そして、その障害となている記憶の変化についても、なぜその変化が起こったのかという所にまで踏み込んで考察を加えています。超大作ですが、とても読みやすくて良い本だったと思います。お薦めです。

あとは芸能人はなぜ干されるのかもとても面白かったです。ここ数年、SMAPの独立騒ぎや吉本興業の不思議な契約関係など、芸能人と事務所の契約、独立後の不利益な慣行が社会問題として大きくクローズアップされるできごとが続いて発生し、世間の注目を集めました。だからといって改善されたわけではなく、この不健康な関係は依然として継続しているものと推察されます。この本では、アメリカハリウッドのタレント達が、いかにして搾取される側から対等な関係を結ぶまでに至ったかが詳しく書かれており、日本では、そのような動きが広まらないよう、あらゆる勢力を使って阻止されています。情報量の非対称性を絶対に崩さない。この世界に限らず、あらゆる社会で支配層が考える武器ですが、それに盲目的に従うのもイケてないですよね。

そのほかの本も本文を読んでいただければ分かるとおり、とても面白い本が続きました。少しでも共感されたら、是補読んでみてください。

2019年も残り1月となりました。何かと忙しい毎日が続く中で、この後どれくらい読めるか分かりませんが、ここ数日で大量に書籍を買い込みましたので、年末年始の長い休みもフル活用しながら、面白い本を読んで参ります。
次月は、この年末の追い込みをとくとご覧ください。


001/139
好き嫌い 行動科学最大の謎」トム・ヴァンダービルト
何かを好み、何かを嫌悪する。とても普通の感情ですが、その根拠・定義って何だ。私のこのブログでは、各書籍にamazonの該当ページについてリンクを張っています。だから私がこれまでに読んだ本はすべてamazonに知られていることになります。すると、どんなことが起こるかというと、私が好みそうな本がずらりと並び私に薦めてきます。私の場合、分野がばらばらなので、結構はちゃめちゃなお薦めをしてくるので、結構面白いのですが、この本では、このAIによる人の好み分析のアルゴリズムについても取り上げられています。これが結構くせ者で、人によっては思わぬ被害を被る場合もあるとか。書かれている中身は非常に興味深く面白いのですが、特に前半の文章が読みにくく、これは翻訳のせいかなとも思います。途中からその書きっぷりにも慣れて(?)きて面白く読めるのですが、そこまで気持ちが保つかどうかがポイントかと思います。(11/1)

002/140
高校事変」松岡圭佑
松岡さんの得意な女性が主人公のハードアクション小説の最新シリーズ。今作は女子高校生が主人公です。とはいえ、普通の女子高生ではなく、かつて国家転覆を謀ったテロリストの娘で、子どもの頃から武器や格闘技に親しんでいてたが、今はひっそりと暮らしているという設定です。アイデアがすごいですね、よく思いつくなと感心します。これもすでの第4作まで発売されていますので、引き続き読んでいきます。(11/3)

003/141
氷獄」海堂尊
著者のデビュー作であるバチスタシリーズの最新作であり、事件の弁護を行った新米弁護士の視点から描いたサイドストーリーでもある。何年間かに分けて発表された物を纏めた物なんですが、おそらく長大なシリーズすべてを読んでいないと深い意味までは理解できないような内容にもなっています。書籍の半分を占めるのが表題作なんですが、バチスタ事件のその後が書かれています。そんなことあるか??とも思いますが、読み物としては面白いかな。(11/4)

004/142
最近特に気になって読んでいる日本語に関する本です。日本語の中でも特殊な地位を占める漢字、特に戦後定められた当用漢字について書かれたとても面白い読み物です。戦後の青春小説の金字塔である青い山脈に出てくるの取り違えや福丼県の話しなど、とてもわかりやすくて面白く、一気に読めてしまいました。十数年前に書かれた本ですが、最近は文字を書く機会が少なくなってきて、漢字に対する興味や注意もおろそかになりがちです。どの文字を使うかによって、理解が進んだり誤解を招くこともあるのが漢字でもあります。奇抜な文字まで憶える必要はないけれど、より正確なコミュニケーションがとれるような良識だけは備えておきたい。(11/6)

005/143
モナドの領域」筒井康隆
彼の小説を初めて読んだのは小学生時代、名作時をかける少女がその一冊でした。以来、はちゃめちゃな短編集を中心にいくつか読みましたが、最近はとんとご無沙汰でした。本作は、著者曰く最高かつ最後の小説だそうで、随所にその片鱗が見受けられます。最初はミステリ風に始まり、最終章で哲学論争になったったかと思ったら、最後はとんでもない掟破りで小説を終えるという面白さです。ある意味筒井さんらしい面白い小説でした。また、彼の小説を読みたいな。(11/9)

006/144
一般の方を対象にしたAI”“バイオ”“資本主義に関するセミナーを書籍化した物で、こういった課題について、問題点やポイントを捉えて解説してありとても読みやすい哲学書です。たとえば、古典的な哲学課題である暴走するトロッコ(前方が二つに分かれており、まっすぐ進むと5名の人、ポイントを切り替えた前には1名の人がいる。さてどうする)の問題。かつては単なる思考実験でしたが、AIによる自動運転が現実の話しになってくると、いずれを選択するか、前もってプログラムしておかなければならない。どんな問題もいつか本当に答えを求められる局面がやってきます。ちゃんと考える週刊を身につけておきたいですね。この本には、お薦めの本が多数掲載されていますので、またそのリストからピックアップして読んでいきたいと思います。(11/11)

007/145
これは、なかなか興味深い一冊でした。内容はかなり衝撃的で、日本の芸能界の悪しきしきたりや反社会勢力との関わりなどひょっとしたらと思っていたことが実名で赤裸々に綴られていて、かなりやばいんじゃないか、大丈夫かと思ってしまいます。内容が内容だけに流通にはなかなか乗られないようで、電子書籍版で読みました。最近、ジャニーズ事務所や吉本興業の契約について多くの問題点が明らかになり、ある種の奴隷契約とも言われるしまつです。ハリウッドのあるアメリカ・カリフォルニア州では、タレントとエージェントの契約は、厳しい法律で規定されています。これもひとえに長年にわたる労働闘争の成果でもありますが、日本ではなかなか難しいようです。(11/15)

008/146
これは面白い。いわゆる第二次世界大戦中の朝鮮人の従軍慰安婦問題について、肯定派も否定派もあるいは無関心派も含めて、何が問題点なのかと言うことを知るためにも是非とも読んでほしい本です。韓国人の作者が日本語で執筆した本で、非常に冷静な筆致で書かれています。実際私には、軍が関与した強制による慰安婦があったのかなかったのか、と言う点について意見表明できないのですが、この本の中では、記憶の変遷あるべき記憶ということに多くのページが費やされています。一方がそれを声高に叫び、一方がそれを完全に無視するという対立構造が、永遠に果てることのない日韓の論争として続いています。この問題の解決は本当に難しい。解決不能なのではないかとも思える。ところで、今もなその傾向は変わっていないのですが、日本という国家は、個人レベルでも同様ですが、自分にとって不都合な記録はすべて破棄して一切残さないということを当たり前のように繰り返してきました。バレなければOKというこの行動は、神の前では隠し事はできないという規範の下にある人たちには理解できないだろうなとも思います。
(1116)

009/147
歴史学と考古学が交錯する日本の古代史を探究するシリーズの第一巻です。新聞広告を見て面白そうと思い図書館で借りてきました。想定どおり、かなり専門的で簡単に読める本ではなかったのですが、なんとか全シリーズ6冊を読み遂げたいと思います。さて、この新シリーズの初巻に取り上げられたのが前方後円墳という日本独自の形式を保つ古墳です。関西に住む私たちは、最近世界遺産にも登録された中百舌鳥や奈良盆地の古墳を真っ先に思い浮かべるのですが、同型式の古墳は関東から九州までの広範囲に広がっています。どうもこれが、ヤマト政権の広がりを表していると言われています。当時の歴史をひもとく上で、古墳の調査というのは数少ない手がかりだと思うのですが、その多くは天皇陵に比定されていて、ほとんど調査が及んでいません。これは非常に残念なところですね。いつか開かずの扉が開けられることを希望するのみです。(11/17)

010/148
たぶんどこかの書評に書かれていたか、誰かが勧めておられたのをチェックしていたものを図書館で予約していました。いわゆるジェンダー論なのですが、世の中の男性に向けて自分の行動を見直せと迫ってくる厳しい本で、女性の皆さんが読むと、大いに納得できる内容なのではないでしょうか。ただ、これを単にジェンダー論で片付けるのは不満で、結局私は人によるとしか言えないんじゃないかと思っています。もちろんそれは男性だから言えることと言われればそのとおりで、かなりのバイアスがかかっていることは自覚しています。でも敢えて、人格というものは、周りの環境で形成される物だと思っているので、その人の育った環境によって、人はどのようにでもなる。それは生物学的性差よりも影響は大きい、と考えています。人と人の関係性なんて、その人同士でなければ生まれない関係であって、ある一つの特徴を持って、他の人とも普遍的になり立つものとは思えないのです。(11/21)

011/149
時間は存在しない」カルロ・ロヴェッリ
最近とても評判になっているので、図書館で借りて読んでみました。いろんな書評を読むと、わかりやすいと書いてあったので、真に受けて読んでみたのですが、とても難解でした。時間とは過去から未来への不可逆的に流れるもの。過去は既に存在しない、未来はまだ存在しない、ただがあるのみ。など、時間に関しては、いろんな人がいろんなことを言っています。この本の中では、アリストテレスやニュートンなど古典的な説からアインシュタインの相対性理論まで様々な考え方を紹介しつつ、ループ量子重力理論という聞き慣れない言葉が現れた辺りから、さっぱりついて行けなくなりましたが、超弦理論と並ぶ最近流行の時空理論なんだそうで、ひょとするとSFファン最大の夢である時間旅行にも繋がるのではないかと勝手な妄想を膨らませています。でも、存在しなければ、それを超えるのも不可能なような。。(11/21)

012/150
屋根をかける人」門井慶喜
この本はまだ読んでないな、と何も考えず軽い気持ちで借りてきた本でしたが、想像以上に面白くゴモ散歩のお供に持ち出し、一気に読み切りました。主人公は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。明治から昭和にかけて、近江八幡で活躍した建築家です。かのメンソレータムを日本に紹介した近江兄弟社の創始者なんですね。結婚後日本に帰化したものの、太平洋戦争中には軽井沢に追放され、不遇の時期を過ごします。戦後は、マッカーサーと近衛文麿の階段を取り持ったりと、いわゆる国体の護持にも貢献されたと伝えられており、その数奇に飛んだ一生がスピード感たっぷりに描かれていて、とても面白いです。以前、近江八幡に行ったのは、郊外の長命寺にお参りに行った途中に立ち寄ったのみで、ゆっくり町並みを見て回ることができませんでしたが、戦前の洋風建築があちらこちらに残されていたのを憶えてます。また何かの機会に彼の足跡を訪ねて散歩をしてみたいと思います。(11/23)

013/151
中学生時代、いじめに苦しんだ著者が、今、いじめに苦しんでいる子ども達に向けて送るメッセージです。ただ一言死ぬんじゃねーぞと。自分たちの小学生時代にもクラスみんなが特定の子どもをばい菌のように扱うといういじめがありました。自分も加害者の側でした。逆に一時期被害者となった時期もありました。その間は、学校へ行くのがイヤでイヤで仕方がなかったのですが、当時は不登校という選択肢は考えられず、登校し続けていました。前のいじめの対象となっていた子も、学校には必ず来ていましたが、どんな思いで来ていたんだろうと思うと、本当に申し訳ない取り返しのつかないことをしていたと悔やんでも悔やみきれません。今のいじめは、さらに陰湿になっていて、逃げ場がない状態にあるとよく言われています。この本は、いじめられている人たちに向けたメッセージと、周りにいる大人達に向けたメッセージが含まれています。子ども達がこんなことで苦しむことのないような環境を整える義務が大人達にはあります。この本の中で、いじめの被害に遭った経験者の方が話した言葉が印象に残っています。この世からいじめはなくならないだろう。でもいじめで自殺する人をなくすことはできる。私たちの責務だと思います。(11/23)

014/152
これは、かなり前に雑誌の書評欄に紹介されていた物で、図書館で予約してやっと借りられた物です。今は日本にも上陸して、映画のストリーミングサービスをメインにしていますが、私自身は利用していません。原著は2012年にアメリカで出版されたのですが、今年になって日本語訳が出版されました。物語は、店舗式のVHSビデオレンタルが全盛を迎えていた頃のアメリカで、新たなメディアとして登場したDVDソフトをネットで申し込みを受け付け、宅配で届けるというビジネスモデルを創出しスタートアップとして出発した小さな企業が、既存のレンタル事業者などと壮絶な生き残り合戦を繰り広げ、最後は勝利するという所までで終わります。その後、同社はさらに急成長を遂げ、今ではGAFAと並び称されるまでに至りました。その成功物語もさることながら、本場アメリカのスタートアップの実態が分かるとても面白い記録です。同社だけでなく、競合各社にも丹念に取材されており、ある意味時代を記録した記念物的書籍とも言えます。慣れるまでは進みませんでしたが、後半三分の二は、ほぼ一気に読んでしまいました。面白かったです。(11/26)

015/153
キッドナッパーズ」門井慶喜
表題作は、直木賞作家となった門井さんが、有名な新人文学賞を受賞した幻のデビュー作だそうで、初めて書籍として出版されました。本作は、それにミステリ要素の強い作品を集めた短編集です。表題作は、作品としてはかなり荒削りな気がしますが、どんでん返しもあって、面白い作品になっています。選評でも、期待のミステリ作家として評価が高かったようですが、最近はあまりその系統の本は書かれていないようですね。最近では、江戸川乱歩賞を受賞してデビューしたが、今では企業小説として大成された池井戸さんのような存在もありますが、できればもっとミステリも書いてほしいなと思います。(11/30)



2019年11月18日月曜日

2019年10月


先月10月は合計14冊で、うち小説が8冊、それ以外が6冊となりました。まぁ、ここのところでは平均的な感じでしょうか。

そんな中でのお薦めなんですが、まず小説では、万城目さんと柚月さんの作品が、安定の面白さでした。
万城目さんの小説は、最初はどんなもんなのかとおそるおそるでしたが、設定が結構ぶっ飛んでいて興味を惹く上に、話の展開も妙に今日的で一気に読んでしまいました。途中しんみりさせる展開なのかと思いきや、最後は笑いで収まるという安心感。万城目さんらしい一冊です。
柚月さんの本はシリーズ物の一冊なので、前作を読んでいないと少し分かりづらいと思います。いわゆる法廷物なんですが、どちらかというと法廷外で進む話しばかりなので、普通のミステリとしても十分楽しめます。シリーズ全体としてお薦めです。

次に小説以外の本ですが、結構秀作が揃っておりまして、いずれもお薦めの本ばかりです。

そんな中で特にお薦めなのが、ストーカーとの700日戦争です。これはストーカー被害に遭った女性による被害発生から、一応の解決をまでの2年間にわたる出来事を綴った物で、息つく間のなく読んでしまう感じのルポルタージュです。警察や検察、弁護士とのやりとり。本人も書いておられるように、決して上手い交渉とは言えない場面もあって、渦中にあると冷静な判断ができないと言うことがよく分かります。最近のあおり運転騒ぎを見ていても、誰だって、何時何処で誰から牙をむかれるか分からない世の中です。気を抜くことができないというのは寂しいことですが、注意しながら生きていかないといけないんですね。

秋の夜長を楽しむにふさわしい季節となってきました。今回は日本語に関する本が複数ありますが、最近好んでこの手の本を読んでおりまして、今後も続けて読みたいと思っている分野です。また、好きな作家の新刊が多数店頭に並んでいて、早く手にしたいとも思っているのですが、読んでいない本が山のように積み上がっている今、なかなか手が出せない状況にもなっています。早く、読み切ろうっと!!



001/125
警察小説で数々のヒットを飛ばしている著者の作品で、これもシリーズ化されているらしい。どんな物かと思って図書館で借りてみました。主人公である同期の刑事が、お互いのことを疎ましく思いながら、全く別の事件を追いかけていたところ、その二つの事件が交錯し、最後はお互い力を合わせて事件を解決するという物語。まぁ、悪くはないんだけれど、もう少し個性の強い主人公であった方が面白いかな。(10/5)

002/126
初めて読んだ作者。他人の夢の中に入り込むことができるという不思議な力をもつ老婆とその力を駆使しながら、悪夢に苦しむ人たちを救う高校生コンビの物語。まぁ、軽い感じで読める作品です。続編があるのかどうか分かりませんが、それほど食指は伸びる感じではありませんでした。(10/5)

003/127
これまた警察小説のエキスパート今野さんのシリーズ物です。数年前にテレビドラマでシリーズ化されたんですね。知りませんでした。警視庁科学特捜班という架空の組織が活躍する物語なんですが、相手方の心臓の鼓動の変化を聞き分けられる聴覚や急な発汗による体臭の変化をかぎ分けられる嗅覚を持ったメンバーが登場するトンデモ小説でもあります。いやぁ、なかなか。(10/6)

004/128
街場の平成」内田樹編 小田嶋隆、釈徹宗、白井聡、仲野徹、平川克美、平田オリザ、ブレイディみかこ、鷲田清一
平成の終わりに、当代きっての論客がそれぞれの切り口で平成という時代を振り返った一冊。それぞれの目の付け所が違っていて、こうやっていろんな人の文章を読んで、平成の30年を振り返るというのは、なかなかおもしろい。翻って、自分のとっての平成ってどうだったのかを考えてみると。元年には、天安門事件やベルリンの壁崩壊と世界史的な事件もあったのですが、個人的にはこの年の秋に最初の家族を持った時期でも有り、それなりに印象に残る年になりました。その後も、バブル崩壊や阪神・淡路と東日本の大震災、失われた20年とも言われた低成長時代と印象的な事件はたくさんありました。が、この30年は、大きな病気もしましたが、充実した30年だったなと言うのが正直な感想でしょうか。令和は明らかに私たちの次の世代の時代です。彼ら彼女らが令和を振り返って、楽しかったなと言える時代になってくれることを切に願います。(10/12)

005/129
まだお若い現役の高校の先生が書いた日本語に関する本で、教え子である高校生達から寄せられた70いくつの疑問に答える形で書かれています。結構専門的な疑問もたくさんありながらわかりやすく書かれていて、とても面白い一冊です。実は巻末の参考文献がとても充実していたので、コピーしておこうと思いながら忘れてしまい、かなり残念な思いをいたしております。自分たちが当たり前のように使っている言葉について、改めて考えてみるというのも面白いですよ。お薦めです。(10/13)

006/130
手のひらの京」綿矢りさ
数年前に出版された綿矢版細雪。発表当時は結構話題になりましたが、当時は読むことができず、最近図書館で見かけたので借りてきました。京都で生まれ育った三人の姉妹が、それぞれ心に屈託を抱えながら、それを克服していく物語です。その微妙な心の動きについて行けない部分があるのは、自分が男だからなのか、それとも京都に生まれ育っていないからなのか。そういう意味でも興味は尽きません。とても面白かったです。(10/13)

007/131
パーマネント神喜劇」万城目学
なかなかぶっ飛んだ設定の物語で、とても面白かった。一応一連の物語になっているのだが、初出から出版まで10年以上の年月が経っているのでどうやら元は単発で書かれた小説を数年後に同様の設定で続編を書いてみたところ、好評でさらに書き足した、という感じでしょうか。物語はとある地方の神社に1000年以上棲まう縁結びの神様を中心に進み、ほかの神社への転任や昇任、後任の神様との引き継ぎ、最高神との遭遇といった出来事と、神社を訪れる人間の人生を巡る物語。どうやって書いたら分かってもらえるかなと思いながら、きっと伝わらないだろうなととも思います。アイデアもすばらしいし、とても面白い一冊でした。(10/14)

008/132
最近お気に入りの作家で、折に触れ図書館で借りて読んでます。本作は3作目なのですが、行きがかり上、最新作から読み始めたので、一作ずつさかのぼる形で読み始めています。でもこれが、ほとんど違和感なく読めると言うが良いですね。本作では作家の東京都知事と役者であるその弟が登場し、重要な役割を果たします。どこかで聞いたことがある組み合わせですね。また、次の作品も読もうと思います。(10/20)

009/133
検事の信義」柚月裕子
著者の生み出した佐方検事のシリーズ最新作です。この作品集には、彼が検事としてデビューしてから3年後くらいの様子が描かれています。彼の検事の信義とは、罪を罪として真っ当に裁かせること。それとぶつかる不当な要求には屈せず、信義を貫きます。当然生きにくいですよね。イマイチな作品が多いこのミステリーがすごい大賞受賞作家の中では数少ない当たりかと思っています。(10/22)

010/134
どこで引っかかってこの本を借りたのか、今となっては全く思い出せない。島国日本と言われるが、一体全体日本に島はいくつあるのか、そう思っていろんな資料を見てみると、3,9226,8524,917という3つの数字が出てきた。ただ、いずれにしても詳細は全く分からないようです。ちなみに京都府はと言うと、面積1平方キロメートル以上の島はゼロ、ただし、周囲100メートル以上となると49ものがあるそうです。私が生まれた舞鶴湾内にも、たしか4~5個の島があったように記憶しています。この本では、そんな数多くある島のうち14の島を取り上げて、その様子をリポートしています。ほとんどが無人島ですが、中には一人だけしか住民がいない島なども取り上げられていて、民俗学的にもとても興味深い内容になっています。いずれにせよ離島となると生活も不便だし、有人島は少なくなっていく傾向にあります。2015年現在有人島は418島あるそうです。(10/22)

011/135
都会を離れ、小豆島で著述業をしている著者が、元恋人によるストーカーの被害に遭い、撃退するまでの2年間に渡る戦いを記録したルポルタージュ。警察や検察、弁護士等との生々しいやりとりが綴られている。彼女からの一方的な発信なので、すべてをそのまま鵜呑みにはできないだろうが、もどかしさや恐怖感が伝わる迫真的な記録になっている。実際の状況を知らない私からすると、警察や弁護士とのやりとりの中で、どうしてそんなことをしちゃったのと思うところも多々有り、書中でご本人も書いておられましたが、渦中にあると、そういった冷静に思考できないんだろうなと言うことが良く理解できる。この本にも書かれているが、ストーカー被害者への支援体制は整いつつあるが、最終的に被害者側に負担がかかってしまう状況をなんとか変えないといけないと言うこともよく分かります。(10/23)

012/136
作りかけの明日」三崎亜記
彼の描く不思議ワールドの物語。怪しげな地下プラントで製造されるある物質。世界を滅ぼしてしまうかもしれない危険な物。そのある物を巡って、2つの組織がせめぎ合う。今作も結構凝った作りになっていて、まずまず面白い作品になっています。(10/26)

013/137
日本の空き家率が急速に高くなっている。地方の過疎地域の話ではなく、都会のど真ん中でも普通に見られる現象で、今後社会の大きな負担になってくることが予想されます。これ迄から、GDPを押し上げる重要な指標であることから、政府は住宅の新築には手厚い支援をしてきたが、いかんせんろくな都市計画もないままに勝手気ままな建設を進めたことから、却って自治体のコストを上昇させている。明らかに次世代にこの負の遺産が残されていく。かくいう私も、実家は空き家のままですし、今の家も娘2人が、将来も住み続けてくれるとはとても思えないので、負動産となってしまう可能性が高い。人ごとではないのです。(10/31)

014/138
日本語に関するうんちくシリーズです。タイトルを見たときは、何じゃこりゃ?と思っていたのですが、改めて自分のボキャブラリーを探してみても、確かに日本語(いわゆる標準語)の中に、親しい相手と話す言い回しというのは見つけられませんでした。実は、方言にはあるんですよね、たとえばせやねん”“~やろなどなど。今の私たちが使っている口語体という言葉は、明治以降に確立してきた言葉で、それ以前の言葉は文語体の文書としてのみ残されています。つまり、昔の人たちがどんな言葉を話していたのかは再現できないのです。だから、ひょっとするとずっと昔は、そういった言葉もあったのかもしれませんが、今となっては闇の中ですよね。本当に言葉って面白いですね。そして、この本を読んで初めて知ったこと。目上をほめてはいけない。という原則です。褒めるというのは、上から下へ向かう言葉で、決して下から上へは向かわない言葉なんだそうです。ところが、その原則も今や崩れてきていますよね、言葉は生き物です。面白い。(10/31)


2019年10月6日日曜日

2019年9月


9月は計13冊とほぼ平均的なペースで、うち小説が3冊、その他が10冊という結果でしたが、小説の割合が少なく、さらに新書も1冊だけと、かなり偏った形になりました。

3冊の小説のうち2冊は、移動のお供に最適なシリーズ物のミステリで、残りの1冊は、彼らしくないスポ根もので意表を突かれた感じがいたしました。

一方それ以外の分野の本は、いずれの作品もそれなりにお薦めできる、かなりの豊作揃いでした。

まず第一は、かなり古い本ですがハーメルンの笛吹き男が秀逸でした。結構時間がかかりましたが、非常に興味深く読みました。昔、ドイツに住んでいたときに、ハーメルンへも行ったことがありまして、あの童話が恐らく事実に基づいていることをそのとき初めて知りました。そのとき何があったのか、古い資料を丹念に読み解く様は、歴史探偵のようなのですが、それ以上に素晴らしいのは、当時の庶民の暮らしぶりを様々な断片的な資料を基に読み解いているところはゾクゾクしてきます。これはかなりのお薦めです。

ノンフィクション系では未和が、お薦めです。世間を大きく騒がす事件となった電通過労死事件の少し前に起こっていた過労死事件にも関わらず、大きく報道されることもなく問題視もされていませんでした。足下で起こっていた事件であるにも関わらず、報道機関であるはずのNHKの無関心ぶりにも驚かされます。この本自体は、亡くなった方の側から書かれているので、すべてがそのとおりなのかどうかは分かりませんが、書かせまいとする力が働いたのは事実のようですね。労働環境の問題、報道機関のあり方の問題など、いろんな側面から読むことができるお薦めの一作です。

ぶっ飛んだ企画を書籍として実現させた『罪と罰』を読まないもなかなかに面白かったです。書名は知っているけど読んだことがない名作ってたくさんありますよね。その内容を断片的な情報だけを頼りに推理しようという無謀な取り組みです。それぞれの推理過程が文字に起こされて書籍となっているのですが、なんと言っても三浦さんの想像、妄想には度肝を抜かれます。この妄想力こそが彼女の作品の面白さに繋がっているのだと改めて再認識させられます。『罪と罰』を読みたくなりますよ。

あとは、文明探偵の冒険もしも宇宙に行くのならは、どちらも、こうすべきだというような答えが書かれている啓蒙書ではなく、私たちが物事を考えるときに、どう考えるべきなのか、ある種の思考訓練の教科書となるような本でした。あまり手が伸びそうなタイトルではないかもしれませんが、たまにはこんな一冊も良いかと思います。

最後はビジネス関連の本では、少し古い本になりますが、マーケティングの未来と日本宅配がなくなる日が良かったです。特に後者は話題になった本なので、改めて無駄な説明はいたしませんが、お薦めの一冊です。コトラー氏が行政祖機について書かれた書籍も購入しましたので、いずれ御紹介できることと思います。

10月に入っても、日中は30度超えの真夏日が続きますが、朝夕は少しずつ涼しくなって、本を読むにも良い季節になってきました。上には挙げませんでしたが、日本語に関する本も好きなので、過去に出されたシリーズ物を読んでいこうと思っています。

こうやって、自分が考えていることや感じたことを伝える際には、書き言葉で伝えると言うことが基本かと思うのですが、最近はそうでもなくなってきています。それを否定するつもりは全くなくて、それもまた日本語であることは間違いありません。日本語の変遷をたどることで、将来の日本語の変わりようも想像できるのではないかと考えることも面白いとは思いませんか。

そんなことを妄想しながら、過ごしております。

001/112
文明探偵の冒険 今は時代の節目なのか」【講談社現代新書】神里達博
先月の終わりから往復の電車の車中で読み始めた本です。これもどこかの書評で勧められていて、図書館で借りたものでした。勧められポイントが何処だったのかさっぱり憶えていないもんで、目的を見失いながら読んだのですが、話題が繋がりながらも、あちらこちらへ自由に展開していって飽きさることなく読める本でした。60年近く生きていると、あの時、時代は確かに変化した、と思える瞬間に一度ならず出会っているもので、それは人によって様々だったりするのかもしれません。面白かったですよ。(9/6)

誰もが知ってるグリム童話ハーメルンの笛吹き男は、実話を基にしていると言われており、この本はそれを前提に、事件の当時と最初に書物として記された15世紀の世相を丁寧に考察し、事件があったとされる1284年6月26日にいったい何があったのか、突然いなくなったとされた130名の子ども達は何処へ行ったのかという謎に迫ります。もちろん真相は分からないわけですが、多くは資料が残されていない中世の庶民の暮らしを様々な文献の中から拾い上げておられます。おかげで、私たちにもおぼろげながらその実態が創造できるという優れた研究になっています。難解と言えば難解ですが、とても興味深い一冊でした。(9/7)

003/114
私たちにとって宇宙とはいったいどういう存在なのか。私たちが子どもの頃、月面に人類が始めた降り立った瞬間を目撃し、同時に地球を征服しにやって来る●●星人が住んでいる世界に思いをはせたり、爆発的に増加する地球人の未来を救うフロンティアを夢見てワクワクしました。いつの間にか、宇宙開発競争はなりを潜め、あまり話題にも上らなくなりました。まぁ、元々は兵器の開発競争だったわけで、その性能を競うポイントがIT技術になってしまった時点で、各国ともその熱が冷めてしまったわけですがね。そんな中で、太陽系外の宇宙を本気で目指すなら考えておかなければならない課題を提示しながら、論考を深めていきます。題材として、古典的なSF作品が多数引用されていて、それまた大きな萌えポイントでもありました。久しぶりに読みたくなってきた。(9/7)

004/115
安定の面白さを誇る医学ミステリです。今作では、遺体の瞬間移動に挑む師弟コンビです。よく練られていて、冒頭から結末までストーリーとしてもしっかり書かれているのでとても好きなのですが、最後の謎解きに至るまでの伏線として書かれていることが、本筋とはかけ離れているので、それを読んだとたんに、これは最後にキーになるんだと創造できてしまう。こうやって、最後にすべての伏線が回収されていくことを賞賛する向きもあるようですが、私は必ずしもそうは思わなくて、一見最後に意味を持ってきそうなエピソードが、実は何の関係もなかったというのも結構好きです。(9/8)

005/116
スポーツをテーマにした小説集。扱われているのは卓球競歩ブラインドサッカーと、比較的マイナーと言われるスポーツばかり。卓球などは、0コンマ何秒という短時間にボールが行き交い、その瞬間に相手方の攻撃方法を読み合う心理戦の連続であることを、この本で始めて知った。来年の東京オリパラまで一年を切りました。ここ数年のような酷暑と言われるような暑さにならないことを祈りつつ、すべての出場選手がベストを尽くされることを願います。(9/14)

006/117
『罪と罰』を読まない」岸本佐知子、吉田篤弘、三浦しをん、吉田浩美
これはなかなか大胆な書籍です。この4名が、たまたま名作罪と罰を読んだことがないと言うことが分かったことから、作品中の数ページをばらばらに拾い読みしただけで、そのあらすじを推理しようという大胆かつ無謀な挑戦を書籍にしたものです。中でも三浦さんが2,3ページを読んだだけで、登場人物の性格や主人公との関係などを推理し妄想していく様は圧倒的で、この妄想力があの数々の素晴らしい作品を生み出しているのかと改めて感じ入りました。かくいう私が初めて罪と罰を読んだのは、中学か高校時代だったと記憶しています。小学校時代の先生がこの本とレミゼラブルは、必ず読むべきだと言われたのが記憶に残っていて、岩波文庫版で読みました。それから2,3度は読み返した記憶があるのですが、最後に読んだのは就職してすぐくらいの頃でした。今回、改めてあらすじを読み返してみましたが、うっすらとしか憶えておらず、死ぬまでにはぜひもう一度読みたいものだと決意を新たにいたしました。(9/19)

007/118
裁判官が答える裁判のギモン」日本裁判官ネットワーク
岩波ブックレットの一冊で、初学者に裁判の疑問について専門家が答えていくという本です。私自身、大学で法律を勉強しましたが、裁判所の法廷に入るということはなかなか経験できることではないですが、大学時代に授業の一環で裁判を傍聴したこと。仕事の関係であった裁判を傍聴したこと。そして恥ずかしながら、大学時代に起こした交通事故で簡易裁判所に出頭したこと。など思い返すと結構な数が挙げられます。ただ私も、いわゆる訴訟法についてはほとんど勉強したことがないので、裁判での手続きについては疎いところがあります。数年間から、一般人が裁判に参加する裁判員制度が導入されました。国の責任を放棄するものだという批判の声もあるそうですが、私は全面的に賛成の考えを持っています。アメリカでは18歳になると、誰もが陪審員に指名されるかもしれないと言うことで、高校生の間に授業で裁判のイロハについて学ぶそうです。社会のあらゆる仕組みについて、若いときから当事者意識を持って考える機会があるというのは素晴らしいことだと思うのですが、どうでしょうか。(9/22)

008/119
マーケティングの父と言われているフィリップ・コトラーが、日本人向けに書いた書籍なのだが、中身は過去の著作から少しずつ集めたもののよう。翻訳が良いせいか、いわゆるサクサク読めてしまう本でした。かのドラッカーも企業のマネジメントから非営利組織のマネジメントについて書かれていたが、コトラーにも近年、非営利組織のマーケティングについても著書があります。さらには、寡聞にして知らなかったのですが、行政組織についても書かれているほか、私の知らない本がたくさん紹介されていたので、是非読んでみたいと思います。(9/22)

009/120
佐川、ヤマトといった宅配事業者の間で、ドライバーの過重労働、人手不足が大きな問題となった2017年に書かれた著書で、発刊当時も大きな話題になったと記憶しています。通販市場が爆発的な拡大を見せる中で、不在再配達の増加、配達希望時間の集中など物流特にいわゆるラスト1マイルを担う物流事業者に多大な負担がかかっています。従来の買い物では、売り手と買い手が同じ時間と場所に存在して初めて成り立ちましたが、ITの発達で、買い手は、必要だと思うとき・場所で自由にポチッと注文することができますが、最後にを届ける段になると、対面でないと届けることができないという問題が残されており、この問題をいかに解決するかと言う方向でこの本の前半は進んでいきます。しかしながら、社会のすべてがこうした同時性を解消する方向に進んで良いものなのかと言うことを後半では考察していきます。新たなものを生み出すには、むしろ人と人が出会う集積のメリットを追求する方向に向かい始めるのだと言うのが、この本の結論の様です。人口が減少し、社会が高齢化していく中で、これをどう担保していけば良いのか。難しいですね。(9/25)

010/121
社会を動かし、大きな話題となった電通の過労死事件とほぼ同時期に起こったNHK記者の過労死事件。しかしながら当初は全く報道されることもなく、電通事件のみが大きくクローズアップされるという不思議な状態が長く続きます。電通事件では、会社側から亡くなった個人を中傷する逸話がぼろぼろ出てきましたが、このNHKの事件では、協会の内部でもほとんど知られていなかったそうです。この本は、なかったことにされたこの事件を広く知ってもらうために書かれたもので、亡くなった彼女の人となりがよく分かる力作になっています。報道によると、この事件の後から朝の連続テレビ小説が週6話から5話に減らされたりと、働き方改革が進んできているようです。本当はそれを確実に進めるためにも、検証することが大事だと思うんですけどね。なかなか興味深い一冊でした。(9/28)

011/122
岩波書店が10数年間に出版した日本語に関する書籍のシリーズらしく、タイトルに惹かれて借りてきました。世の中には、非常に規則的にできあがった言語と規則はありそうだけど例外ばかりが多い言語があるそうで、日本語は後者の代表のような言語だと言われています。たとえばドイツ語はかなり規則的な言語であって、書き表すための正書法というものが定まっています(と教えられました)。ところが我が日本語の表記といったら自由闊達、何でもあり。しかしながら、それでも通用してしまう不思議な言語なのです。私は、この日本語という言語にも異様に興味を持っておりまして、この手の本が大好きなのです。できればシリーズ読破したい。(9/28)

012/123
とても考えさせられる良い本です。ここで言う呪いの言葉とは、“●●だから、仕方ないよね“●●なんだから、我慢しなきゃ、などといった、人に制限を加える言葉のことで、今も世間に溢れかえっています。ほとんどの場合こういった言葉は、会社の上司であるとか家庭では夫であるとか親だとか、はたまた学校では教師であるとか、いわゆる権力を持った側が、力を及ぼしたい人たちに向けて発せられています。まぁ、発した側がどれくらい意識的であるのか分かりませんが、ほとんどの場合、それほど知的な人たちが発しているとは思えないので、何の考えもなく脊髄反射的に発しているのではないかと私は想像しているのですが。この本の後半では、もっと大きな存在が発している呪いの言葉について書かれています。とても読みやすく面白い本なので、興味のある方は是非とも読んでください。(9/29)

013/124
シリーズ二作目です。前作が面白かったので読んでみました。主人公は大学教授の化学者で、学内で起こる事件の謎を解くという短編集なのですが、学外に及ぶような大事件ではないので警察の出番もなく、人が死ぬこともない物語なので、電車移動のお供、お酒のお供にぴったりの一冊です。また、そんな機会に次作を読みたいと思います。結構面白いですよ。(9/29)

2019年9月9日月曜日

2019年8月


暑い暑い8月は計14冊、うち小説が10冊、その他が4冊という結果でした。ひさしぶりに小説の割合が多かったですね。
最近は、暑さもさることながら、この読書感想文よりFBであげている散歩の記録が楽しみとおっしゃる方が多く、若干モティべーションは下がり気味ですが、今月も飽きずに披露させていただきます。

さて、そんな中でのお薦めですが、小説ではローレンス・ブロックの殺し屋シリーズや最近知った原尞さんの作品は変わらず面白かったです。いずれもミステリのお好きな方にはお薦めです。

そのほかでは、新聞広告で知った天下一の軽口男も想定以上に面白かったです。歴史上の人物を主人公にした小説ですが、有名な武将や芸術家ではなく、落語の創始者と言うところに意外性が有り、物語のメインストリームは史実の従って書かれているようで、その点でも好感が持てます。下記の本文の中にも書いていますが、醒睡笑という笑話集が小説中に出て参ります。早速注文しましたので、それも楽しみにしています。でもいつ読めるんだろうかと思う今日この頃。

そのほかの本では、東日本大震災での大川小学校の事故の検証をした止まった刻がとても興味深かったです。私も公務員の端くれなので、災害時だけでなく平常時の危機管理について強く考えさせられる内容でした。この本にも書かれていますが、私たちは、何か事件事故があると、つい責任論を追求し、最終的な責任者を探し出して、追い込むことに注力しがちです。かつて、それが原因で自ら命を絶ってしまい、本当の原因が究明されないままになってしまうということが何度も何度も繰り返されてきました。この事件でも唯一残された教員が精神的な病に倒れ、公的な証言が全く得られないままになっています。最近頻発する児童虐待事件しかり、客観的に原因が究明できる仕組みこそが必要なのにという思いをいっそう強く感じたところです。

9月に入り、少しは涼しくなるのかと思いきや、また暑さがぶり返しています。できれば読書の秋到来!!と読書に励みたいところですが、なかなか集中できません。特に月初めに読み始めた本が面白いので、時間を見つけて読み進めたいのですが、どうにも時間がかかっています。また来月には御紹介できると思いますので、ご期待ください。


001/098
止まった刻 検証・大川小事故」河北新報報道部
2011年3月11日、日本を襲った大地震。あの地震の際、70名以上の児童が津波での犠牲になった石巻市立大川小学校でいったい何があったのか。学校管理下における戦後最悪の犠牲を出したこの事故は、いったいなぜ起こったのか。この事故から生還したのは1名の教師と4名の児童のみ。彼ら及び関係者の証言や周辺の状況を基に、あの50分を解明しようとした地元新聞の記録です。最も頼りになると思われる唯一残った教師の証言が、ほとんど残されていないので、結局のところ真実は見えてきません。遺族が県市を相手取った訴訟では、一審では、現場の教師の過失が認定されましたが、双方が控訴した第二審では、行政側に事前の防災マニュアルの策定を怠った重大な過失があるというさらに厳しい判断が下されました。今も最高裁での審理が続いており、先へはなかなか進めていけていません。その一方で、南海トラフ地震が想定されている地域では、第二審の判断を踏まえたような準備が着々と進んでいるそうです。子どもの命を守るために。それを第一に考えることが大事なんだろう。(8/3)

002/099
超常現象 科学者たちの挑戦」NHKスペシャル取材班
NHKが、いわゆる超常現象について真面目に取り組んだ番組の書籍化です。取り上げられているのは、幽霊、超能力、生まれ変わりなどで、最新の機材を使って、それらの謎を科学的に解明しようという番組です。世界には、そういった謎の解明に取り組んでいる科学者集団があって、その調査に同行する形で取材が進みます。結局のところ、どの謎も解明されたわけではないのですが、今後科学技術が進展することで、必ず解明されていくのではないかと思われます。個人的には、ユリ・ゲラーのインタビューや7万人の集団が引き起こす物理的な力、離れた場所にいる人物の脳波の同調現象などはとても興味深い。(8/5)

003/100
なりたい」畠中恵
著者の出世作しゃばけシリーズの一冊です。シリーズ初期ののんびりした若旦那を取り巻く愉快な仲間達のドタバタ劇から、少しずつトーンが変わってきました。今作では、いろいろなものになりたい人たちがメインキャストとなって登場します。病弱で家族や仲間に心配ばかりを掛けている若旦那が、真面目に自分のなりたいものを語る場面もあり、かなり重い仕上がりになっています。(8/9)

004/101
天下一の軽口男」木下正輝
上方落語の原型となった辻咄の創始者とされる米沢彦八を主人公にした物語。先日の新聞の広告欄で見かけ、面白そうと思いと図書館で借りてきました。軽口というのは、彼がしたためた笑話集のタイトルにちなんでおり、実際にその中に納められている話も、書中には登場する。史実か否かは分からないが、生魂神社に初めて置かれた寄席の原型では、看板芸人だったそうです。面白かったです。ちなみに本書には、安楽庵策伝という僧と醒睡笑という日本最初の笑話集が登場します。面白そうなので、早速Amazonで注文してしまいました。読めるんだろうか??(8/10)

005/102
バラカ」桐野夏生
これも最近の新聞広告で見かけ、その宣伝文句に惹かれて借りてきました。著者の得意(?)なダークノベルで、読み進めていくにつれて結構しんどくなってきます。舞台は東日本大震災とそれに続く福島原発事故で放射能に汚染されてしまった日本。バラカというのは主人公の女の子の名前で、彼女が幼い頃に日系人の両親から引き離されて、ドバイの人身売買市場で日本人に売られ、悪意ある人たちの手によって翻弄されていくという物語です。とにかく悪人しか出てこないものすごい小説で、途中で味方のような人物が現れても、どこかで裏切られるのではないかという怖さがついて離れません。600ページを超える超大作で、さすがの筆力。面白かったけど、しんどかったです。(8/12)

006/103
ノースライト」横山秀夫
彼の小説は決して嫌いではないので、期待して読みました。いちおうミステリなのですが、どうもすっきりしなくて、提示された謎もしっくりきませんでした。自分が設計して建てられた居宅が、代表作として書籍にまで取り上げられたにも関わらず、完成後の誰も住んでいないという事実が判明し、なぜか主人公が、その建築主を探そうとする物語。動機も含めて今ひとつしっくりこない結末でした。作中で大きな鍵となる人物としてブルーノ・タウトが出てきます。桂離宮を発見した人物として知られていますが、彼への興味がわいてきました。次は、そっちへ行ってみようかな。(8/17)

007/104
殺し屋ケラーの帰郷」ローレンス・ブロック
最近お気に入りの殺し屋ケラーシリーズの最終作です。一度引退したはずの主人公が仕事復帰してしまうと言う物語。相変わらず洒脱な会話で楽しましてもらえます。とりあえず本作が最終話なのですが、これも前作が本来最終話という触れ込みであったにも関わらず発表されたと言うこともあり、ひょっとすると再びあるのでは、、と期待してしまいます。(8/22)

008/105
著者のデビュー作になった岬洋介シリーズの最新作。司法試験をトップで合格するほどの頭脳を持ちながら、一方では天才的なピアニスト。他の作品では、ピアニストとして活躍する主人公が、事件の謎を解くというシリーズなのだが、本作はその前日譚で、司法修習生として研修を受ける身で有りながら、勝手に操作をして事件の謎を解くという物語なのだが、本筋はそこにはなく、主人公が研修を受ける傍ら、とあるピアノコンクールに応募し、ピアニストとして歩むことを決断するまでの物語が描かれている。外れが多いこのミステリーがすごい!大賞受賞者の中では、数少ない当たり作家だと思っていますので、次回作が楽しみです。(8/24)

009/106
歴史の進歩とはなにか」【岩波新書】市井三郎
歴史とは進歩するものなのか?はたして進歩っていったい何なのか?折に触れ頭に浮かぶ素朴な疑問です。進歩する“”発展するといった単語の意味は、なんとなく理解されているように思いますが、いずれもある視点”“ある価値観に基づいて、相対的に評価されているものと私は考えています。従って、ある変化に対して、進歩”“発展と評価する人と、後退”“退化と考える人がいるというのが自然な姿ではないかと考えています。進歩とはより良き状態への変化であると考えても、じゃあより良きって、どういうことって思いますよね。いつもこんな面倒くさいことを考えながら生きてます。(8/24)

010/107
検証捜査」堂場瞬一
どこかの書評かなんかで見かけて、面白そうだったので図書館で借りてきました。神奈川県警が逮捕摘発した殺人犯が、控訴審で逆転無罪判決を受けます。この際の県警の捜査を検証するために全国から警察庁に捜査員が集められ、最終的に真犯人にたどり着くという物語です。途中でなんとなく結末が見えてくるんですが、ホンマにこんな風になっちゃうかなぁ、と言うのが正直な感想です。面白くないわけではないんだけど、腑に落ちない。派生作品がシリーズ化されているようなので、それも読んでみよう。(8/24)

011/108
化学探偵 Mr.キュリー」喜多喜久
物理学者の探偵役があるならば、化学者であっても成り立つだろうと言うことで作られた小説だそうです。作者本人も薬学を修められた研究者と言うことで、専門知識がちりばめられたミステリとなっています。他の所でも書きましたが、理系の作家さんの書かれるミステリは、基本的に面白いと思っておりまして、本作もミステリ要素の部分では申し分ない構成だと思いました。ただ人の描き方って難しいよな、と改めて感じる所でもあります。シリーズ化されてもいますので、また続編も読んでいこうと思います。(8/25)

012/109
堀アンナの事件簿」鯨統一郎
この作者、名前は聞いたことがあるんだけど作品を読んだこともなければ、噂も聞かない不思議な作家なので、調べてみたら、いわゆる覆面作家さんで私生活をほとんど明かされていないんですね。まぁ、それは関係なく興味を持って図書館で借りてきました。主人公は探偵事務所に就職したての新人さん。そんな彼女がひょんなことから探偵事務所の所長になってしまい、事件を解決していきます。とても軽いタッチの小説で、彼の本はすべてこんな感じなのかな。よく解らないけど、まぁ、気が向いたらまた読んでみようかな。(8/25)

013/110
先日読んで面白かったので、ひとつ遡る感じで読んでみました。日本には珍しい感じのハードボイルド小説で、読んでいてもリズム感があって、とても読みやすい作家さんです。いっそこのまま、こうやって遡っていきながら読むというのも面白いかも。(8/25)

014/111
災害復興の日本史」安田政彦
自然災害に何度も襲われた私たちの国ですが、そこから如何にして立ち直ってきたのか。というのがこの本のへの期待だったのですが、かなり不満が残る内容でした。あまりにも資料絶対主義に陥ってしまい、資料で確認できないことはすべて外に追いやられています。古来“治政”というのは、軍事と災害対策だとされてきました。たとえば有名な“信玄堤”や“太閤堤”など、災害復興から次の災害を防ぐための対策というのは数多く執られてきましたが、この本ではそのあたりのことは全く触れられていません。なぜなんだろうかと訝しく思いながら読みました。消化不良だ。(8/31)

途中断念
「古地図からみた古代日本 土地制度と景観」

2019年8月12日月曜日

2019年7月


令和元年7月は計20冊、うち小説が11冊、それ以外が9冊という結果でした。
数もさることながら、内容的にもまずまず充実の月でした。

まず小説ですが、伊坂幸太郎さん、辻村深月さん、東野圭吾さんのお三方の小説は、文句なしの面白さで、いずれもお薦めです。

伊坂さんの作品は、私の好きな伊坂ワールド全開で、ほぼほぼ一気読みの面白さでした。元々は二つの小説から成っているのですが、もちろん一つの物語としても成立していて、合本にするのがもったいないくらいでした。

辻村さんの作品も、婚約者の失踪という少し重い内容の物語ですが、主人公の二人、特に女性の方が、幾多の困難を乗り越えて強くなっていく様が、感動的です。男は若干アカンたれに描かれていて、しっかりせんか!!と声に出してしまいたくなるようなやつですが、最後は期待どおり上手く収まってくれて良かったです。

東野さんの作品は、加賀さんが主人公ではない加賀シリーズなんですが、ミステリ要素より、親子の物語として描かれており、ひょっとするとシリーズ最高の傑作かもしれませんね。それくらい面白かったです。

このお三人以外では、初めて読んだ原寮さんの小説が面白かったです。いわゆるハードボイルド物なんですが、暴力シーンもなくて、純粋に楽しめる小説です。14年ぶりに書かれたシリーズ物とのことで、その初期の頃の作品も読んでみたいと思いました。

続いて小説以外の本ですが、これも結構充実してます。

まずは、読破するのに足かけ三ヶ月もかかってしまった悪魔の神話学です。日本人の宗教観の中に悪魔という存在はそれほどポピュラーではないように思われますが、西洋、特にキリスト教やイスラム教の世界では、絶対神を際立たせるために、絶対悪という存在を作り出しました。ある意味マーケティング上の策だったと思うのですが、それが行き過ぎて魔女という存在を作り出してしまい、大きく道を踏み外してしまいました。西洋人のメンタリティを理解する上でも有効な本かと思います。

それから宗教系が続きますが、社を持たない神々も面白かったです。日本の在来宗教であったアニミズムが、明治維新以降の国家神道化で、すっかり姿形を変えられてしまい、各地で本来信仰されていた神々の正体が見えなくなってしまっています。自然に対する恐れや憧れを今一度思い出してみるべきではないでしょうか。

図らずも、リクルートが就活生の内定辞退率をAIがはじき出し、それを学生に無断で企業側に提供していたという事件が発覚しましたが、このような事態について書かれたのが、あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠でした。この書籍では、アメリカでの実態(しかも数年前)について書かれていましたが、日本でも私たちの知らないところで活用されているようです。既に何かが始まっているようで、恐ろしい。

新書でも、良い本が続きました。

サイバーメトリックスの落とし穴は、野球好きの人にしか分からないような内容ですが、逆に野球好きであれば是非読んでほしい話題の一冊です。

%が分からない大学生も要チェック本です。文系大学の入学試験から数学がほぼ駆逐されてしまいました。結果として、論理的に物を考え説明するという能力を持たない社会人が山の様に生み出されてきました。国民は物を考えない方が都合が良いと考えた誰かがもたらしたこの実態を由々しき事態だと認識している人たちがどれくらいいるのか。国際社会で生き抜いてていかなければいけない次代の人たちには、なんとか自力で頑張ってと言うしかない。

バブル経済の深層は、バブル期に起こった4つの経済事件についてのルポルタージュなのですが、時事は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、まさに一編の物語を読むようですが、出てくる人物がどうしようもないくらい魅力的ではなく、小説としては成り立ちません。負った傷は深い。これも次代への負の遺産です。

冒頭に書いたように、7月は充実した月でした。8月に入るとともに猛暑が続き、なかなか本に集中できませんが、暑さに負けず、本探しに邁進したいと思います。


001/078
シーソーモンスター」伊坂幸太郎
中央公論新社による8作家の競作企画の中の一冊で、著者の最新作となる。このプロジェクトは螺旋という企画で、原始から未来にかけて、海族山族の対立を軸として、各作家が物語を紡ぐという企画で、他の作家の作品も順次発売されており、ちょっと楽しみ。是非とも全作読みたいと思います。ということで、この本ですが、昭和期を舞台にしたシーソーモンスターと近未来を舞台にしたスピンモンスターという二つの小説から成っています。それぞれが単独でも成り立っているのですが、併せて読むと尚良しという感じ。伊坂さんらしい小説で面白いですよ。(7/6)

002/079
給食のおにいさん」遠藤彩見
これは、知り合いから譲ってもらった本で、積ん読状態からようやく手に取った物です。一流の調理師だった主人公が、ほんの生活費稼ぎでやむなく努めることになった小学校の給食調理人として働くうちに、誰かのために料理を作ることについて考え、成長していく様を描いたお仕事小説です。自分が小学校の頃の給食って、基本的に学校で調理されていて、パンと牛乳が基本でした。私は給食大好き児童だったのですが、給食嫌いという児童の法が当時は多くて、結構珍しい存在でした。給食を残すことは罪悪のように指導されてもいましたが、今ではそれもあまりないようですね。改めて今の給食事情の実態に思いをはせる一冊でした。(7/6)

003/080
傲慢と善良」辻村深月
著者の最新刊(のはず)。面白かったです。ある日突然、婚約者の女性が失踪してしまい、途方に暮れた第一部の主人公が、彼女の過去を訪ね歩きます。彼女と自分自身のこれまでの恋愛歴や婚活経験をトレースしていくうちに、自分自身や彼女の周囲の人物の傲慢さに改めて気づかされ、彼女への思いを再確認していきます。第二部では失踪した彼女が語り部となって、失踪の理由やその後の生活が語られていきます。同じ事象を2人がそれぞれの視点や重さで捉えており、すれ違いが発生していきます。それを超えて大団円に向かうのですが、そこへ至るきっかけとして東日本大震災からの復興の風景が描かれています。そうだ、このことを忘れちゃいけないんだと言うことを改めて突きつけられる小説でもありました。(7/8)

004/081
著者は、野球に関しては全くの素人ですが、そのたぐいまれなる分析力でtweetを連発し、それがダルヴィッシュ投手と繋がったことで一気に広まり、この本となって結実しました。内容は非常に専門的かつ科学的で非常に面白く、いろんなところで高い評価を受けている理由がよく分かります。投手や野手の技術論から監督の采配、球団経営など、最近のメジャーリーグを席巻するいわゆるデータのみを重視する野球に対して疑問を投げかけています。日本野球のファンの端くれとしては、投手対打者の一対一の神経戦を楽しみたい。(7/10)

005/082
社をもたない神々」神崎宣武
今の日本では失われつつあるアニミズムについて書かれた本です。古来、私たちの周りにある万物には精霊が宿っており、私たちはそういった自然を恐れ敬う心を持ち合わせており、山、岩、水、樹木などなど自然物をご神体として崇める心を誰もが持っていました。後世、それが神社という形を取るようになり、明治維新以降は国家神道という一つの型にはめられて、衰退の途を取り始めました。現代の地域社会の崩壊とともにそれは加速し、あれほどたくさんいた神々はその存在を感じさせないようになっています。実は最近、知らない街を歩きながら、其処此処にある社を興味深く眺めています。どうしてここに?といろんなことに思いをはせるととても面白いです。(7/13)

006/083
不思議な迷探偵鵜飼探偵の烏賊川市シリーズの一作。ありえねーだろ!と言う突っ込みどころ満載のユーモアミステリです。トリックとして本当に成り立つのか、という心配はあるが、それなりに楽しめる一冊です。(7/14)

007/084
希望の糸」東野圭吾
著者の最新作、書店で見かけてつい購入、早速読んでみました。帯にはどこにも書かれていないのですが、あの加賀恭一郎シリーズの最新刊でした。誰からも恨みを買うようでないカフェの女主人が殺害されるという事件を、加賀のいとこである松宮刑事が捜査する。手がかりが全くない中で、小さな糸口から真相にたどり着きます。事件の捜査と平行して、親と子という大きなテーマの物語が描かれており、途中からはそちらがメインストリームとなる。この著者らしい息もつかせぬ展開で物語が進み、最後は充実感が残る。最近珍しい未発表の書き下ろしであるせいか、話の展開に無理が無く良い流れで書かれているように感じます。こいつは面白かったです。(7/15)

008/085
最近はお城がブームで、100名城のスタンプラリーなどはたくさんお方が参加されており、そのためのガイド本もたくさん出版されています。この本は、そういた書籍とは一線を画す珍しいタイプの専門書で、今に残された遺構や文書から城が作られてから、破却されるまでの一生をたどるとても面白い内容の本です。実は私もお城が好きで、いつか現存する天守閣をもつ12のお城を訪ね歩きたいと考えています。でも、そういった建物が残されていなくても、石垣や堀跡を見ているだけでも興味深く、建物の跡地に立って、ぼーっと過去に思いをはせるのもまた快感です。戦国時代に数多く作られたお城は、江戸時代になってかなり集約され、明治維新以降にほとんどが破却されています。その時代時代にとっては仕方の無かったことと思いますが、つくづく残念なことです。(7/15)

009/086
いろんなところで警鐘が鳴らされている今の日本の学校教育のあり方について書かれています。この本では、特に算数・数学の分野で、割合速度などの概念が理解できていない大学生が増えてきていることが紹介され、その原因としてマークシートによる大学入試とその対策に終始する教育システムをあげておられます。本来、数学で養うべき能力というのは、計算力では無く、論理的思考力です。しかしながら現在の日本では、逆に論理的な思考力を持たない人を養成しようとしているかのような教育がなされています。著者はそういった傾向に一石を投じようとして、大学内外での活動を行い、同種の書籍を世に出してこられました。これって、結構恐ろしいことだと思います。(7/15)

010/087
現代の職人 質を極める生き方、働き方」【PHP新書】早坂隆
全国で活躍する職人さんのレポートを纏めた物。知り合いの若い職人さんが載っていたので買い求めました。割と軽い読み物になっていて、40~50年前に同じタイトルで書かれた吉田光邦さんの文章とついつい比べてしまった。当時の職人さんに比べて、今の職人さんは、いろんな物・ことへのこだわりが強すぎるような気がする。私には、こだわりが強すぎる人には、良い物は作れないような気がするんですが、どうでしょうか。(7/18)

011/088
悪魔の神話学」高橋義人
先々月のレポートをあげたときに、とても面白い本を読んでいると紹介したのが、実はこの本でした。不本意ながら、途中で一度挫折してしまったのですが、改めてリベンジしました。私たちは、の力を増強するため、悪魔という存在を作り出しました。そしてさらには、それを使って、人々を分断して支配するための道具とすることを覚えました。なかなか面白かったです。各章のタイトルを最後にあげておきますが、これらを見ただけでもその面白さが伝わりませんか。序章:デモノロジーと西欧の影の精神史神の弟キリスト教とグノーシス堕天使という嘘原罪という嘘処女マリアという嘘魔女という嘘愛は悪魔よりも強し自由意志か奴隷意志か人間の本性は善か悪か。結構固い内容の本ですが、各章ともそれほど長い文章ではないので、拾い読みするだけでも面白いと思いますよ。(7/18)

012/089
殺し屋 最後の仕事」ローレンス・ブロック
シリーズの最終作となるはずたった作品です。主人公のケラーが、お仕事をするために訪れた街で、覚えのない暗殺者に仕立て上げられ、指名手配までされてアメリカ中を逃げ回るという物語です。手に汗握る展開で、最後の仕事を終えたところで、物語は終結します。どうやら、この後ももう一作書かれたようなので、それも今探しています。(7/18)

013/090
日本史の新常識」【文春新書】文藝春秋編
新常識と謳っておきながら、幾人かの歴史学者達が自説を展開していて、それをざっくりと纏めたものです。これだけ記録媒体が進化した現代でさえ、真実というものを誰の目にも明らかにすると言うことは不可能なわけで、それが遠い過去の世界であればなおさらです。残された記録の断片を拾い集めて全体を推理するわけですから、自ずと様々な読み方ができるわけで、いろんな説が乱れ飛ぶというのも仕方のないこと。逆にいうとだからこそ面白いとも言えるわけですよね。(7/19)

014/091
螺旋の手術室」知念実希人
作者にとっての実質的なメジャーデビュー作になるんでしょうか、結構面白かったです。ただ途中から真犯人がなんとなく想像できてしまい、結末もあまり好みではないかな。でも展開はお見事です。(7/20)

015/092
長かったシリーズもついに最新作に追いつきましたが、これでしばらく続きが読めないのはとても残念です。シリーズ当初から十数年が経ち、子ども達も大きくなりました。結構強引なストーリー展開があったり、かなり荒唐無稽な設定であったりと、若干惹いてしまうようなときもありますが、ほとんどがハッピーエンドで終わるので、安心して読めるところが救いですよね。次回作が発表される来春を楽しみに待ちたいと思います。(7/21)

016/093
誰に勧められたのか、何処で見かけたのか。さっぱり思い出せないが、昨年のこのミステリーがすごいの第一位だそうで、初めて読む作家さんと言うこともあって、楽しみに読みました。いわゆるハードボイルド物に分類されるような小説で、沢崎という私立探偵が活躍するシリーズ物です。とは言いながら14年ぶりの新作だそうで、著者自身寡作家で、生涯の著作が10冊にも満たないという筋金入りです。ということで、初めて読みましたが、スケールに若干物足りなさが残る作品でした。いろんな人の書評によると、シリーズ当初の方が面白いとの評判なので、次は昔の作品を探して読んでみたいと思います。(7/27)

017/094
これは、ビジネス誌の書評で読んだ物だったでしょうか覚えていないのですが、勝手に蒐集された私たちのデータが、全く別のところで分類されるために使われている。それを私たちは知らされることもない。こんな恐ろしいことが今のアメリカでは当たり前になっています。ある特定の地域に住んでいると言うだけで、ローンが組めない。就職時に差別される。こういう記事を見るといつも思うのですが、こういったシステムを作っているやつは、自分は決してあちら側にはいかないという根拠のない自信を持っているんでしょうね。バカじゃなかろうかと思います。最後に本書に書かれていた文章を引用します。ビッグデータは過去を成文化する。ビッグデータからは未来は生まれない。未来を創るには、モラルのある想像力が必要であり、そのような力を持つのは人間だけだ。私たちはアルゴリズムに、より良い価値観を明確に組み込み、私たちの倫理的な導きに従うビッグデータモデルを作り上げなければならない。未だ発展途上だと言うことを理解しておかなければなりませんね。
(7/28)

018/095
バブル経済事件の深層」【岩波新書】奥山俊宏、村山治
昭和の終わりから平成の初め、バブル景気と呼ばれた時代がありました。その時代を揺るがした4つの経済事件について、その深層を纏めたルポルタージュです。世の中が浮かれまくって、理性を失っていたあの時代。だれもが永遠に続くと思っていたあの時代。今振り返ればなんと愚かなと思うのですが、あの頃は誰もそれに気がつかなかったんですね。結果として、あの当時の傷は失われた30年と呼ばれるとおり、平成時代を通じて癒えることがなかった。むしろ、非正規労働の増加、出生者数の低下など別の形の問題となって、未来を脅かし続ける。誰か個人の責任ではないと思うんですが、じゃぁ、誰の責任なんだ?!(7/28)

019/096
彼の作品は好きなんですが。孫を誘拐された国会議員が、犯人からおまえの罪を告白しろと脅されるという事件が発生。首相を巻き込んだ騒動に発展し、結果的には何だかなぁと言う終わり方です。誘拐事件の真相も、何だかなぁと言う感じで、かなり期待外れでした。(7/30)

020/097
友人から、このシリーズの二作目をもらったので、その前に読もうと敢えて購入しました。弱小広告代理店が、地方の小さな村のPRを任せられ、とんでもない手法で世間をだまくらかそうとしたものの露見し、どうなることかと思ったら、結局はハッピーエンドという物語でした。最後の解説によると、出版当時は荻原浩=ユーモア作家と認識されていて、同分野での躍進が期待されていたようです。今のような躍進ぶりは想定外なのかもしれませんね。(7/31)