先月11月の成果は15冊。うち小説が9冊、その他が6冊という結果でした。
この月は、読めるときは一気に読めるけど、読めないときは、それが数日継続するという極端な月でした。15冊も読んだ割には、これと言える本も少なくて、何をお薦めできるかと苦慮いたしました。
そんな中でのお薦めは、すでにあちらこちらで大きく取り上げられていて、たくさんお方が読まれているだろうという本になってしまいました。
まず小説では、三浦しをんさんの“ののはな通信”ですね。
著者も主人公もすべて女性ということで、おっさんの自分にどれほど内容が理解できていたかは自信がありませんが、主人公の女性二人の切ない物語です。すべてが、二人の文書のやりとりで構成されていて、二人にしか通じない暗示的な表現や赤裸々な表現が、物語の幅を広げます。物語の設定時期が、2011年に近づくにつれ、結末を予想し始めていたところ、ブン!と全く違う方向に振られ、してやられたという感じです。物語が続いてほしいなぁ。
その他の本では、“AI Vs. 教科書が読めない子供たち”が秀逸でした。
いろんなところで、取り上げられていてので、かなり前に購入していたのですが、ついついそのままになっていたところ、さすがに気になって、ようやく読むことができました。いやぁ、とても興味深い内容でした。感想は本文を参照頂きたいのですが、実は、関心はそこだけではありません。この本の著者もAIを研究する数学者の方なのですが、特に最近理系の方が書かれる文章がわかりやすく思えるようになり、逆に文系の方が書かれる文章への理解力が年々衰えてきたように感じています。それもあって、ここのところブルーバックスシリーズなどにも手が伸びるようになってきています。特にこの本、最新理論や実証実験に基づいて論理的に書かれており、飽きることはありません。タイトルに惹かれた方、この際是非読んでみてください。お薦めです。
さて、以前ある方から、“たくさん本を読んでるけど、途中で飽きたときは、どうしてんの?”と尋ねられたことがあります。実は、結構途中で放棄していることもたくさんあって、今月から末尾に途中放棄した本も載せていきたいと思っています。もちろん理由も付して。ただし、あくまで個人的な意見ですから、ご承知おきくださいね。
001/155
日本の歴史とともにあった“天皇制”ですが、歴史とともあったということは、そのときの状況であり方も変化していたということです。そういった中で、現在の天皇を巡る諸制度の多くは、明治維新以後に作られ、現在まで続いており、この書籍の中では、山稜、祭祀、皇統、暦、元号という5つの分野で語られています。たとえば、現在○○天皇陵と呼ばれているものの多くは、江戸時代に適当に決められたものであることはよく知られたお話です。また、宮中祭祀の中には明治維新後に新たに始められ、いつしか“伝統的”な行事とされたものもたくさんあるそうです。ここでは、元号についても書かれていますが、一世一元号とされたのも明治以降のことで、それまでは在世中であっても様々な理由をつけて改元されました。“平成”という元号も来年4月末までと決まっていますが、次の元号は直前まで発表しないことになったそうです。そういえば、今販売されているカレンダーには5月以降の元号が書かれておらず、先日も皇室のある方でさえ、西暦を使ってお話をされていたとニュースで大きく取り上げられておりましたが、一般の生活では、ますます元号離れが進んでいきそうですね。(11/3)
002/156
「戦後と災後の間 溶融するメディアと社会」吉見俊哉
東日本大震災の2年後から継続して新聞紙上に月一で掲載されたコラムをまとめたもので、その間の社会の動きをトレースしている。毎年2、3月には震災からの復興について筆を走らせるほか、小池都政、安保法制、辺野古問題、米大統領選などについても、タイムリーに論評している。これらの問題の多くは、今も継続しているはずなのに、すでに過去のこととして語られなくなってしまっているのはなぜだろうか。大震災の後しばらくは、日本が大きく変わっていくのではないかと思われていましたが、今はどうなんでしょうか?
(11/5)
003/157
「日本のルールは間違いだらけ」たくきよしみつ
私たちが普段使っている漢字や交通ルール、公職選挙法やわいせつの基準など、“あいまい”なルールを取り上げて揶揄するだけの本。そもそも“ルール”というのは、合致しているのが正しくて、合致していないものが間違っているという、基準になるものなので、ルールが間違っているというのは、言葉としては如何なものか。この場合“曖昧”とするのが“正しい”と思うのですがどうでしょうか。まぁ、雑学のたぐいの本ですね。(11/8)
004/158
「歴史はバーで作られる」鯨統一郎
この著者の本は初めて。歴史上の謎を独自の視点で解説していくという趣向の物語。どうやら正体のわからない覆面作家さんらしく、ほかにもSFあるいはミステリの形式で、たくさんの作品を書いておられるようですね。ジャンル的には興味のない分野ではないのだが、短編形式で次々と謎を取り上げていくので、消化不良感も半端なし。たぶんこれ以外には読むことはないでしょう。(11/9)
005/159
「天久鷹央の推理カルテ」知念実希人
なんと言うこと!いつか読もうと思って買っていたのに、それをすっかり忘れて、図書館から借りて読んでしまった。不覚。ということで、同シリーズでも先に長編の方を読んでいたので楽しみにしながら読んだシリーズ第一作です。一作目と言うことで、主人公である天才医師のキャラクター設定には、若干ブレがあるように感じられましたが、なかなかに面白く読みました。長編も面白いけど、短編でも十分に面白い。また続編を読みたいと思います。次は間違えないように。
006/160
「ののはな通信」三浦しをん
これは面白かった。名門女子高校で出会った二人の女性が成長していく様を描いた小説で、二人の間で交わされる書簡のみで構成される面白い構成となっている。途中からはeメールが主な伝達手段となるのだが、最初の頃は授業中にやりとりされる手紙なども混じっていて、時代を感じさせる。小説の中身は明かしませんが、普段作者が好きだと公言している世界とは正反対の世界を扱っていて、それはそれで興味深い。高校時代に出会った二人が、2度に渡る別離を繰り返し、その後交わることのなかった軌跡が、20年の時を超えてクロスする。そして訪れる3度目の別離。途中想定していた結末とは違ったけど、胸アツの結末でした。(11/12)
007/161
「美女と竹林」森見登美彦
これはエッセイなのか小説なのか。京都大学の大学院で竹の研究をしていたらいい著者が、雑誌の企画で竹林整備を取り上げることになり、その一年間をまとめたもの。途中、“夜は短し歩けよ乙女”が文学賞を受賞して、急に多忙を極めるようになり、整備も中途半端に終わってしまうと言うていたらくで大団円を迎えます。激動の一年を振り返る意味からも面白い一冊です。
008/162
「悪玉伝」朝井まかて
江戸時代徳川吉宗治政下に実際に起こった疑獄事件を題材にした物語。上方の商家の相続問題であったものが、上方の奉行所の沙汰に不服があった者が、江戸の評定所の目安箱に訴え出たことから、役人を巻き込んだ大疑獄事件に発展する。最後に裁いた大岡越前守の手記にも残されているなど、訴訟記録も多く残されていることから、過去にいくつか小説化もされているらしい。本作では、乗っ取りを謀ったとして罰を得た者を主人公として語らせることにより、面白い小説に仕上がっている。とても面白い一冊でした(11/18)
009/163
「パラレルワールドで待ち合わせ」白石泰三
たまたま目について借りた本ですが、いわゆるスピリチュアル小説というたぐいの本だそうです。小説の形式をとっているが、あくまで著者が実際に経験したことを下に描かれた小説というところがミソでだそうで、非常に不思議な物語です。ただ、その設定を除くと平板な私小説の様で、どっちつかずとも言えそうです。ただ、この世にはこんな本もあるんだなと勉強になりました。(11/23)
010/164
「鯖猫長屋 ふしぎ草紙」田牧大和
この作者の時代物小説は過去にも何冊か読んでいて、なかなか上手な作者だなと思っています。本作は、どうやら過去に何かあったような怪しい絵師が主人公で、妙に存在感のある彼が飼っている一匹の三毛猫と一緒に、長屋で起きる様々な事件に関わっていきます。どうやらこれらの事件は、彼が過去に関わったあることにつながっているようで、、という感じで物語は進みます。時代物がお好きな方には、お薦めの作家さんです。(11/24)
011/165
「フロム・ミー・トゥ・ユー 東京バンドワゴン」小路幸也
いつものバンドワゴンシリーズのスピンオフで、語り手を変え、それぞれが主人公一家と関わりを持つようになった出来事などを綴っています。それぞれは、ちゃんと物語として成立しているのですが、一冊に10編の物語を詰め込んだため、一つ一つが短くて、消化不良になっている物もあるような。。。(11/24)
012/166
「乙霧村の七人」伊岡瞬
なかなか面白いミステリ小説を書く作家だと気がつき、少しずつ読もうと思っています。とある村で起こった一家惨殺事件の現場に、大学のサークル仲間がゼミ旅行で訪れたところで、新たな事件が起こり、恐怖の一夜を送ります。いろんな伏線がしっかり回収されていて、ミステリとしても良い感じになっています。最後に明かされた事実は、さすがに想像もできないことで、こうきたか!と思わず膝を打つような、どんでん返しでした。(11/25)
013/167
「おとり捜査官2 視覚」山田正紀
シリーズの第二弾です。前作同様大胆な設定で描かれており、ミステリとしてもよくできているし、スピード感もあって、とても読みやすい小説です。ただ、やや官能的な描写が多く万人にお薦めできる内容ではありません。ミステリとしての完成度は高いので、引き続き読んでいこうかなとは思っていますが、ほかのシリーズに切り替えようかな。と思案中。(11/25)
014/168
「近江商人の哲学 『たねや』に学ぶ商いの基本」山本昌仁
著者に講演の講師をお願いしていたこともあって、事前に読んでおこうと思い購入しました。実は、私自身は“たねや”さんも“クラブハリエ”も全く知らなかったのですが、特に“クラブハリエ”のバームクーヘンは、とても有名らしいですね。“三方よし”で有名な近江商人を地でいくような同社の経営や、革新を繰り返すことで伝統を作り上げていく姿勢には頭が下がる思いがいたします。京都の老舗の皆さんも、もう一度その精神を思い出していただきたいと思いました。(11/27)
015/169
「AI
vs. 教科書が読めない子供たち」新井紀子
話題になった本で、かなり前に買っていたのですが、なかなか読む機会がなく、ようやく読むことができました。前評判どおり、とても興味深い一冊でした。ほんの構成は大きく二つに分かれており、前半にはAIの今後の可能性について、述べられていて、巷間言われているような、AIの能力が人間の能力を凌駕してしまうような事態は絶対に起こらないということが明快に述べられています。気になる理由は、是非本書を読んでください。そして、後半に述べられているのが、非常に憂うべき現状。著者が、AI技術の研究を重ねる中で、その能力の判定方法として開発した“読解力”判定のためのテストを、小中学生対象に実施してみたところ、多くの子供たちが、教科書に書いてある文章をほとんど理解できていないことが明らかになってしまったということが述べられています。結果として、AIに代替されてしまうような仕事はたくさん出てくるとしても、AIにはできないクリエイティブな仕事は、依然として私たちの仕事として残っていくはずが、このまま人間の能力が低下していくと、とてもそんな仕事に就くことはできないだろう。これは恐ろしいことです。興味を持たれた方は、是非ともお読みください。損はしません。面白いです。(11/27)
<途中放棄>
「職場のハラスメント」大和田敢太
ハラスメント防止に向けた法規制が議論されると言うこともあって、ちょいと読んでみようかと思ったのですが、どうも法律屋の書く文章はわかりにくい。自分も法学部出身のはずなのに、なんでこんなに読みにくいんだ!と三分の一を読んだところでギブアップしました。
「落陽」朝井まかて
時代小説家の著者にとっては、少し珍しく明治時代を舞台にした小説で、決して面白くなかったわけではなく、ただ単に図書館の返却期限が過ぎてしまったため、泣く泣く断念して返却いたしました。いずれリベンジしたいと思っています。