先月8月は16冊。うち小説が8冊、その他が8冊という至極平均的な内訳でした。
その他のうち、6冊が新書でしたので、通勤時間帯によく読めた印象が強いです。
さて、その中で今月のお薦めです。
小説では、初めて読んだローレンス・ブロックの“殺し屋”が面白かったです。
中でも書いていますが、これは伊坂幸太郎さんのエッセイに書かれていたもので、彼が描く“殺し屋”に共通するような部分があって、とても面白かったです。淡々と“仕事”をこなしながらも、妙に人間っぽい主人公には好感が持てます。主人公の人生そのものがひとつの大きな物語になっていて、続編が楽しみです。翻訳物であったり、殺人が普通に描かれていたりと、好き嫌いはあると思いますが、伊坂さんの小説がお好きな方であれば、面白く読めると思います。
あとはお気に入りの作家である、辻村さん、東野さん、湊さんの近著を読みました。外れではないですが、この辺になると期待値が上がりすぎて、手放しで面白いという感動は得られにくく、少し残念です。
さて、それ以外の分野の本は。結構粒ぞろいでした。
まずは、“絶滅の人類史”。ホモサピエンスの歴史や全人類との生存競争などを想像させてくれるとても面白い本でした。詳しくは下の記事を読んでください。
あとは、今年話題なった新書で“E=mc2”、“朝日嫌い”、“戦国大名と分国法”。少し古いですが同じくベストセラーになった“単純な脳、複雑な私”など、新書で読んだ本はいずれも面白かったです。どれもお薦めです。
8月は私用でいろんなこと重なって、本を読む時間もなかなか取ることができませんでした。しかしながら、その分時間ができると集中して読むことができ多様な気がします。また、上でも触れましたが、新書で読んだ本がいずれも秀逸で外れが無く、通勤時間だけしか読んでいないんですが、4~5日で1冊くらいは読めたような感じですね。
この調子でいくと、今年は170冊くらいいけるでしょうか。できれば180冊くらいにはいきたいと思いますが、それよりできるだけ面白い本に出会いたいという気持ちも強いです。
今回は、伊坂さんのおかげでとても面白い作品に出会うことができました。これからもそんな出会いを求めつつ、本の森に分け入っていきたいと思います。
001/095
今年の上半期に発売され、評判になっていた新書で、図書館での予約が多くて、やっと借りることができた。そもそも人類の歴史って、どの強化で習ったんでしたっけ?世界史?生物?地学?この本では、類人猿から枝分かれした人類が、どうやって現在まで進化してきたのか、そしてそのときどんなことが起こっていたのかを、推測(当然)を基にして描いている。骨以外の有機物が残っていない時代については、その推測さえもおぼつかないところであるが、比較的近い時代については、少ない資料を手がかりに、非常に面白く分かりやすく書かれている。特に最後に残った“ホモ・サピエンス”が“ネアンデルタール人”と共存していた時代があったこと、結果的にネアンデルタール人の系統は絶滅してしまったことなど、その頃の風景を想像するだけで、心躍る。文句なしに面白い一冊でした。(8/3)
002/096
「ザ・万字固め」万城目学
関西のいろいろな街を舞台にした数々の秀作をものにする著者のエッセイ集。彼の作家生活の一端が垣間見えるとても面白いエッセイである一方、東日本大震災直後の東京電力株主総会へ出席した際、総会の様子を描いた節は秀逸。臨場感が漂う描写は、その場の雰囲気がよく分かり、経営者側の最後は全て国の責任に帰結させる論陣には感動すら覚える。また、別のエッセイも読んでみよう。(8/3)
003/097
「仮面病棟」知念実希人
医者を主人公にした医学推理小説が大人気の著者による、病院を舞台にしたサスペンス小説。彼自身も医者であることから、その場面の描写は詳細かつ専門的。この小説は、デビューして比較的間もない頃に書かれたもののようで、文章には少しぎこちなさが残る。著者が準備していたどんでん返しも、中盤までになんとなく推測できてしまうのも残念なところ。それを考えると、最近の作品は急成長と言っても良いんじゃないかなぁ。(8/4)
004/098
「魔女の胎動」東野圭吾
今映画が公開されている“ラプラスの魔女”の前日譚。最近この手の本がやたらと多いなと感じるのは気のせいか。スポーツ好きの著者の本領発揮で、スキージャンプやプロ野球選手の転機となるような出来事を一人の天才少女の力で解決していく物語集となっている。そして最終章では、前述の後日譚にしっかり繋がっている。若干の無理矢理感は否めないが。。。(8/6)
005/099
「青空と逃げる」辻村深月
最近お気に入りの辻村さんの割と最近の作品です。ある事情で世間から逃げている母子が、四万十、家島、別府と居所を転々としながら、その土地でいろいろな人に助けられながら生きていく物語です。節ごとに母子が交互に語り部になって物語が進み、最初はとんでもない“へたれ”だった二人が、少しずつ強くたくましくなっていく様は目が離せません。ただ、二人が逃げ回っているきっかけというのが、私にはちょっと???。どうやって決着を付けるのかと思っていたら、その結末もムムム???。途中のの描写が美しいだけに少し残念な気がします。次回作に期待。(8/12)
006/100
今年の初めに出版された後、結構評判になっていた新書です。購入するにはハードルが高いかなと思い、図書館で予約し待つこと数ヶ月、ようやく借りることができました。アインシュタインが考えた有名なこの式、Eはエネルギー、mは質量(重さですね)、cは光の速度を表しています。光の速度は定数なので、この式はエネルギー量と物の重さとは等値であることを示しています。また、光の速度の2乗って、とてつもない数字ですから、本の少量の物質から莫大なエネルギーを取り出せることも示しています。この考えが核兵器を生んだんですね。実際広島を壊滅させた爆弾で実際にエネルギー変換された核物質はわずか0.7gだったそうです。そしてこの本の最終章で明かされる謎。この式によると、エネルギーは質量を持つ物質との間で変換しうるのですが、何も無いはずの宇宙空間、真空ですから“何も存在していない”はずなのですが、実はそこは我々が覚知できない物質(暗黒物質;ダークマター)で満ちており、そこからエネルギー(ダークエネルギー)が発生している。そのエネルギーに由来してこの宇宙に物質が生まれた。そんな仮説が紹介されています。そしてこの宇宙の構成要素を質量換算すると、我々が知っている118の元素から構成される物質はたった5%、それ以外はダークマター27%、ダークエネルギー68%からなっているそうです。これらは全て仮説ですからホンマかどうかは分からない。我々の目に見える現象から推測して、最も矛盾が無い説明だそうです。宇宙の秘密って面白いですね。途中訳の分からん単語が出てきて、厳しかったですが、とても面白かったです。(8/13)
007/101
「朝日ぎらい」橘玲
著者も明かしておられますが、署名はベストセラーになった「京都ぎらい」をもじったものです。かつては、“リベラル”の牙城のように言われていた本紙ですが、ここにきて本紙を親の敵のように毛嫌いする政治家が増えてきました。この本は、そういった風潮に載ったものでも、食い止めようとするものでもなく、単にキャッチーだから使っただけのようです。ということで、“朝日新聞”とは全くかけ離れた内容で進んでいきます。でもって、今いったい、いわゆる“リベラル”と“保守”とはどう捉えられているのかどう変化してきたのかと言ううことに紙幅が費やされています。なんとなくぼんやりと感じていたたことが明確に指摘されていて、ものの考え方の参考になります。帯にもあえて書かれていますが、この本、朝日新聞から出版されています。(8/17)
008/102
「コンビニ外国人」芹沢健介
最近、恐らくその多くは留学生だろうと思うのですが、京都でもコンビニエンスストアで働く外国人が増えてきています。数年前東京に行ったときに、コンビニ、飲食店の従業員さんの多くが外国人であったことに驚いていましたが、いまや全国的な傾向にあるようです。特に最近は人手不足も相まってか、コンビニで働くアルバイトの確保が難しいようで、“日本語の練習になる”といったような理由で、働く留学生が増えているそうです。ただ、留学生のアルバイトだと週28時間迄という規制もあって、必要数を確保するのもままならないようです。そんな中で、いろいろな問題が指摘されている“技能研修生”の対象業種にコンビニを追加することが決まったそうです。あくまで移民を認めず、労働力だけを確保したい“日本”の苦肉の策のようです。今、いろいろな分野で“労働力人口の減少”が指摘され、女性・高齢者の“活躍”と外国人の“活用”が急務であるように言われていますが、本当の問題はそこでは無く、“消費人口の減少”にあると思っていて、本来はそれこそが大問題なんじゃ無かろうか。ところで、この本を読んで、国際基準と日本基準の“移民”に実は大きな違いがあると言うことを初めて知りました。これまた、“らしい”ですね。(8/17)
009/103
「逢魔が時に会いましょう」荻原浩
著者が、20年近く前に書いたキャラクターによる短編2編に、新たに書き下ろした1編を加えた短編集。といっても、旧作の2編は、この文庫化に伴って全面的に書き直したらしいので、ほぼ新作の3編です。日本古来の妖怪伝説を研究する大学の准教授とひょんな事からそのアシスタントを務めることになった女子大生を主人公とする物語で、“座敷童”、“河童”、“天狗”を題材に面白いお話に仕上がっています。著者なりにこういった“伝説”が生まれた背景を推測しているところ(オリジナルでは無いかもしれないけれど)は、それだけでも読んだかいがありました。短くて気楽に読める本でもありましたので、2時間足らずの電車の移動中に楽しく読めました。(8/17)
010/104
「ストロベリーライフ」萩原浩
たまたま、荻原さんの作品が続いてしまいました(何作も並行して読んでいると、時々こういうことがある)。東京でデザイン事務所を主宰する男性が、父の急病を機会に、仕方なく始めた実家のイチゴ作りにハマってしまい、実家に拠点を移し農業とデザイン業のハイブリッド生活を目指していくという物語。この著者らしく、家族の葛藤がたくさん描かれていて、当然のことながら、男性の家族には理解されまま物語が進んでいきます。まぁ、ちゃんとハッピーエンドになるんだろうなと思いながら読んでいたのですが、最後はほっこりしながら読めて良かったです。(8/18)
011/105
「殺し屋」ローレンス・ブロック
実は、先月読んだ伊坂幸太郎さんのエッセイの中で紹介されていたので、どんな本なんだろうと思いあちこち探したあげく、たまたま図書館で見つけて読むことができました。主人公は殺し屋、ある人を通じて仕事の依頼を受け、その仕事を淡々とこなしていく姿が、日常を語るように綴られていく短編集です。率直な感想は、めちゃ面白い。仕事をこなしていきながらも、仕事先の街での暮らしに思いをはせたり、ターゲットに感情移入したり、はてはお相手を取り違えて、サービスで余計無い仕事をする羽目になったりと、いろんなパターンで描かれています。伊坂さんが描くところの“殺し屋シリーズ”に繋がる原点になった小説なんだろうということが彷彿されます。シリーズ化されて続編もあるようなので、それも読んでみたいと思います。(8/19)
012/106
「炎上とクチコミの経済学」山口真一
“炎上”と“クチコミ”の仕組みと対処策について、計量経済学という手法を用いた分析を基に解いた本です。解りやすくて読みやすい。最近マスコミを賑わす“炎上”と言う言葉なのですが、過去の“炎上ケース”について、その投稿を分析したところ、これまで私たちが漠然と抱いていた様子とはかなり違っているようです。特に面白かったのが、炎上に参加しているユーザーの割合は約0.02%、しかもそのうちの6割くらいは、1~2回の投稿をするだけで、50回以上の投稿をするユーザーが1割程度居ること。またアンケートによると、投稿者のほとんどは“正義感”から、それらの投稿を加えているとされている。また、“炎上”は、web上で盛り上がっているだけでは、すぐ沈静化するが、これをマスメディアが取り上げると、急激に“燃え上がる”と言うことらしいです。とここからは私の想像なのですが、炎上投稿者にとっては、このマスコミで取り上げられることというが、ある種の“勲章”のなっているのじゃなかろうか。なんか、彼らの心の闇に触れたような気がいたします。また、本作中には企業などに対する“炎上対策マニュアル”がまとめられていて、これだけでも参考になると思います。(8/19)
013/107
「戦国大名と分国法」清水克行
これまたいろいろなところで取り上げられていると言うことで、早速買い求めて読んでみました。とりあえず面白い本で、ほぼ一気読みで読みました。昔々日本史の授業で習った分国法ですが、当時はそんな物があると言うことだけしか勉強せず、その中身や制定に至った背景まで思いをはせることはありませんでした。今回この本を読んで初めてそれらに触れ、多くのことを学びました。この本の中では、結城、伊達、六角、今川、武田の5つの戦国大名が制定した分国法が取り上げられていますが、いずれも戦国を生き延びることができなかったという特徴があります。本書の中でも書かれているとおり、戦国の世に法治主義は、まだまだ早すぎたのかもしれませんね。とりあえず面白い、お薦めできる一冊です。(8/22)
014/108
「未来」湊かなえ
この夏の直木賞を惜しくも逃した本作品。当然大人気で、やっと図書館で借りることができました。大好きだったお父さんが亡くなった少女の元に未来の自分から手紙が届きます。物語は、彼女が未来の自分宛てに手紙をしたためるという体で進み、様々な謎が提示されていく新しい形のミステリと言えるのではないでしょうか。そして、彼女に絡む女性のエピソードによって、物語の真相が明かされていき、んかなり長さのある本なのですが、結構一気に読み切ることができました。いわゆる“嫌ミス”の要素も少なく、よくできたお話でした。(8/25)
015/109
「先生のお庭番」朝井まかて
ここで書かれている“先生”というのは、幕末に“一騒ぎ”を起こしたシーボルトのことで、彼の命を受け、日本中から植物を集めた植物園の管理者である“お庭番”を主人公として物語が進む。事件後追放されて、オランダのライデン大学に記念館も作られているが、シーボルトが日本の民俗から動植物まで幅広く資料を集められたのには、当然のことながら、ここに描かれているような“職人”の活躍があったはずで、そこにスポットを当てた作品と言える。結構面白かったです。(8/28)
016/110
「単純な脳、複雑な『私』」池谷裕二
講談社ブルーバックスシリーズの中でも名著として挙げられる一冊です。著者は“脳”の不思議をとても解りやすく書かれている脳科学者で、中でもこの本は、出身高校の現役高校生に向けて行った連続講義を書籍化した物で、彼らとのやりとりが臨場感たっぷりに綴られています。私たちが複雑で理解できないと思っている“脳”が、実はとてもシンプルな事を繰り返しているに過ぎないこと、しかしながらその絶妙な構造が、脳に力を与えているそうです。“脳”はその活動によって、私たちに“心”を持たせてくれています(きっと)。しかしその源は、非常に単純な化学反応結果であるとは。今この文字を読んで、頭に浮かんだ(ような気がする)言葉、事柄、感情の正体って一体何だろう。分厚い一冊ですが、とても面白い一冊です。(8/29)