記録的低調に終わった1月とは打って変わって、2月は計28冊、うち小説が13冊、その他が11冊という内訳となりました。
まず小説では、昨年の直木賞作家門井さんの作品との出会いが大きかったです。一気に3冊読んだのですが、以前から気になっていた“叡古教授”と“家康江戸を建てる”の2冊は、特に面白かったです。まだ若い作家ですが、扱う作品の幅が広く、内容もしっかり深いところまで調べられているうえ、続きをどんどん読みたくなる書きっぷりが秀逸でした。ほかの作品も是非読んでみたいと思います。
あとは、久しぶりに読んだ伊坂作品“サブマリン”も面白かったです。軽い調子で書かれていながら、内容的にはとても重い。井上ひさしの名言“「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに”をまさに地でいくような内容でした。
それから、初めて手にした作家の“イノセントデイズ”も良かったです。これは本屋で見て以前から気になっていたところ、東京出張前に京都駅で購入し、往復の新幹線の車中で読み切りました。内容的には結構重いミステリでしたが、時間を忘れるくらい読みふけってしまいました。好みは分かれるかもしれませんが、これもお薦めです。
その他の本では、11冊のうち新書が9冊もあります。
基本的に新書は通勤車中で読むことにしているのですが、時に面白い本はそのまま寝室でも読み続けてしまうこともあって、今月は多かったようです。
その中でも秀逸の1冊は、キング牧師が黒人解放運動の最中に書いた“自由への大いなる歩み”に尽きます。今から60年前に書かれた物が、その翌年には岩波新書で紹介されているということで、その当時如何に注目されていたが推察できます。内容的には、有名なバスボイコット運動の一部始終が、彼の視点で書かれており、当時の状況をまざまざと思い浮かべることができます。こんな本があったとは、全く知りませんでしたが、今のところ今年最大の出会いでした。
ほかにも、“世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか”,“人工知能と経済の未来”の2冊もとても面白かったです。どちらもこれからの働き方、生き方をどうデザインしていくかという命題へのヒントを与えてくれます。先の短い私でもそう思うのだから、若い人が読むとどんな感想を持つのだろうか、興味深い。
先月の反動か、2月は自分でもびっくりするようなペースで読んでしまいました。おかげで、手持ちの本が少なくなり、“次の本”の選定に悩むことが多くなりました。お金もかかるし大変だ。今以上に図書館を活用しなければね。
001/006
「アキラとあきら」池井戸潤
今をときめく池井戸氏が、大ブレーク直前に雑誌に連載していた物が文庫として出版された物。生まれも育ちも違う二人のアキラが、30年の時を超えてライバルとして、同志としてしのぎを削るとても熱い物語。ここはどうするのか興味を引くところが、フィっとぼかされていて、若干肩すかしに思う部分もあるが、そこは結構マニアックな部分でもあるので、まぁよしとするかな。彼の得意とする大銀行対中小企業という対比だけでなく、一つの中堅企業をどう再生するかという物語は、珍しいのではないかな。(2/1)
002/007
タイトルに惹かれて買いましたが、とても面白かった。組織を引っ張って行くには、“アート”を担うリーダーと“サイエンス”と“クラフト”を担うサブリーダーがバランス良く力を発揮していることが重要。現在はこのうちの“サイエンス”部分が過大な力を持っている組織・企業が大勢を占めていることから、革新的なイノベーションが生まれにくくなっている。“サイエンス”の世界では入力した値に対して一つの答えが出てくることから、誰にでも追試が可能で、他者との差別化は不可能である。一方で、ある意味説明不能な“アート”の部分は、他者には真似ができないものであり、他者との差別化に繋がる。とはいえ、それは単に感覚とか直感に頼るという意味ではなく、普遍的に持つべき“美意識”とも言えるもの。はたして、私たちはこれを、どうやって磨き、体得していくべきなのか。いやはや難しい。とても面白い本でした。(2/3)
003/008
「東京帝大叡古教授」門井慶喜
東京出張のお供として、京都駅で買い込んだ一冊で、往復の車内で一気に読み切りました。時代は、明治維新後の日本人が坂の上の雲を目指して突き進んでいた頃、とある外交官の卵をストーリーテラーとして物語が進む。ある種のミステリなのだけれど、謎解きの要素より主人公である叡古教授の博覧強記ぶりや人間的魅力に惹かれる時代小説とも言える。もちろんフィクションなのだけれど、誰もがよく知っているジャーナリストや小説家が登場し、実際に起こった事件をも下敷きにしていて、あたかも実在していたかのような気にさえさせてしまう。とても面白い一冊でした。(2/3)
004/009
「死ぬほど読書」丹羽宇一郎
著者が過去に書かれた本は、とても面白く共感できる内容でもあったことから、今作も楽しみに読んだのだが、これまでにいろんなところで書かれていたことが繰り返し書かれていたりと、ちょっと期待外れだった。1時間くらいで読めてしまうという軽さ。あまり心に残るような話も、、、無かった。(2/3)
005/010
「御松茸騒動」朝井まかて
この著者の書く時代小説は全般的に面白くて好きなんだが、この本に限ってはやや不満足。時は江戸中期、徳川吉宗の改革が終わった頃、吉宗と将軍職を争った徳川宗春の尾張藩。質素倹約を旨とする吉宗の改革に真っ向反旗を翻した宗春が蟄居させられたところから物語が始まる。時を同じくして江戸詰から国表の閑職に追いやられた主人公が、成長していく過程を描いた物語。この主人公の描き方がイマイチで、人間的な魅力に欠けるように思う。ちょいと残念。(2/3)
006/011
「さらさら流る」柚木麻子
彼女の本は、久しぶりに読む。最新の“BUTTER”は、読み始めたのだけれど、途中で投げ出してしまい、この本もしばらくは不安に感じながらも、なんとか読了した。テーマは少し重く、主人公の元彼というのが、読んでるだけで気分が悪くなるようなクソみたいな男で、決して楽しく読めるような本ではなかった。最終的には主人公の女性が、苦難を乗り越えて、大きく成長していく物語なのだが、その与えられた試練が何だかなぁ、という感じ、その原因となった出来事も納得できるようなものではなかった。なんかモヤモヤが残った一冊でした。(2/7)
007/012
「義経伝説と為朝伝説 日本史の北と南」原田信男
ともに源氏の英雄でありながら非業の最期を遂げたことで、伝説化した二人の、伝説の広がり方を通じて、蝦夷と琉球に対する大和の考え方や非道について書かれた物。義経伝説については、奥州平泉における戦いから脱出し、蝦夷地へ逃れ、果ては中国大陸へ渡り、ジンギスカンとなって元を建てたという話をこどもの頃に雑誌で読んで、心躍らせたものであるが、為朝伝説については、それほどメジャーでもなかったような。本の内容としては、とにかく出展資料が多くて、過去の様々な歴史書や小説、日記などがふんだんに引用され、著者の永年に渡る研究の集大成と言った趣が強い。一般向けの書籍なんだから、もう少し面白く読めるような構成になっていれば良かったかなと思う。(2/9)
008/013
「サブマリン」伊坂幸太郎
“チルドレン”という連作短編集の続編で、今作は長編小説として描かれている。ところが、どうやら前作を読んだ覚えがないということに気づいてしまいました。テーマはかなり重めで、家庭裁判所の調査官がいわば主人公となっている。無免許運転の少年が、人を事故死させてしまうという物語なのだが、その少年の過去にある事故が絡んでいたり、かなり複雑な事件なのだが、読み続ける内に、“悪”や“善”、“正義”というものの正体が分からなくなってしまう。伊坂流の軽い調子で書かれてはいるが、ずっしりとした読後感のある小説でした。(2/10)
009/014
「日本再生は生産性向上しかない!」デービット・アトキンソン
著者が一貫して主張していることを改めて本にしてみましたという感じで、書かれていることは、いちいちごもっとも。それほど新しい内容があるわけではない。今の日本は、ものづくりではなくサービス業がGDPの大半を担っている。ところが、そのサービス業の生産性が、他の先進国に比べて著しく低く、いっこうに改善されないため、国としての成長が鈍っている。そこで、いまや国を挙げて“生産性の向上”を譫言のように繰り返しながら、邁進(?)しているのが現状である。しかし、この生産性向上の行き先には一体何が待っているのだろう。想像することが恐ろしいのは、私だけだろうか。(2/10)
010/015
「新聞記者」望月衣塑子
昨年、内閣官房長官の定期記者会見で何度も質問して、一気に名前を売った著者の近著。新聞記者を志したきっかけや現在の記者クラブ制度への疑問などについて書かれている。ジャーナリストとしては、至極真っ当なことをしているのだろうが、それが一部の人間には受けが悪いようで、ネットではかなりバッシングも起きているようである。“空気を読む=忖度する”ことが当然のような社会ってどうなんだろうか。それこそジャーナリズムの死に他ならないのでは。(2/11)
011/016
「イノセントデイズ」早見和真
東京往復の車中のお伴に買った文庫。想像した以上に面白かった。一人の少女が、不幸な事件や事故に巻き込まれ、図らずも重大な犯罪の実行者として極刑に処せられるまでの物語。各章ごとに叙述者が変わり、主人公たる死刑囚との思い出を語る。最後は、なんとなくこうなってしまうのかな、と思ったとおりの結末で、ちょっと唸ってしまう。よくできた小説でした。(2/11)
012/017
「眩 くらら」朝井まかて
葛飾北斎の娘、葛飾應為を主人公とした物語。彼に絵師の娘がいたことは、どこかで知っていたが、なんとなく父親の手伝いをしていただけだろうと勝手に思い込んでいたところが、あに図らんや、彼女自身が立派な作家であったとは。この本の表紙にも印刷されている“吉原格子先之図”は、この一部を見ただけで、思わず目が引き寄せられる絵で、いつか本物を見てみたい。確かに実在し、父の作画を大いに助けていたことも分かっているけど、その実態は謎である主人公が、著者の手を借りて、自由奔放に生きている姿は小気味よい。(2/12)
013/018
「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」井上智洋
人工知能について書かれた本のほとんどは技術者の眼で書かれているが、本書は経済学者の観点から書かれているというだけで、とても珍しい。おかげで文系の私でもとても理解しやすくありがたい。最近、猫も杓子も“生産性の向上”、“働き方改革”と言うことが流行し、そのためには“AIの活用”が欠かせないとセットで語られることが多い。実は、私はこの風潮に大いなる危惧を抱いており、まさにこの本のサブタイトルで書かれているように、このまま突き進むと、人間ができる仕事がなくなり、雇用が大崩壊するのではないかと恐れてる。この本の中では、それを回避するための劇薬のような処方箋が示されているが、さて、これって本当に有効なのだろうか。これからを生きる,娘やその子らのためにも不安の種は尽きない。(2/13)
014/019
「ドクター・デスの遺産」中山七里
テーマは安楽死。ミステリの形を借りながら、この重いテーマを真正面から取り上げる。ただ、取り上げ方は若干中途半端な感じがあって、最後まで事件を扱う刑事の内申の葛藤を取り上げるものの、犯人と刑事の両者の考えをぶつけあう場面は少ない。そこは敢えて避けて通ったのかな。(2/14)
015/020
「家康、江戸を建てる」門井慶喜
徳川家康が江戸の町を作るときに活躍した5人の技術者を主人公にした5つの物語を繋げた物。それぞれの主人公が、いわゆる“職人魂”を発揮して職務を成し遂げた、というような物語ではなく、それぞれが野心丸出しで取り組んだように描かれており、却って痛快である。別に直木賞を取られたからと言うわけではなく、先日たまたま初めてこの著者の作品を読んでから、すっかりハマってしまい、次々と手を出している。かなり面白いです。(2/16)
016/021
「満月の泥枕」道尾秀介
結構はちゃめちゃな設定で、つきあい方が難しい本だったなぁというのが読んだ後の正直な感想。ミステリのような様相をはらみつつも、シリアスさは些少でドタバタ喜劇のような進行、しかしながら大笑いする喜劇でもない。どう読んだら良いのだろうか。決して面白くないわけではないのだけれどね。(2/18)
017/022
今から8年前に書かれた本、過日古本屋で見つけて購入したまま放置してあった物を読んだ。東日本大震災前の当時は、効率が最も重視され、“無駄(と思える物)”を排除し、最小限の投資で最大限の効果を上げることに無いよりも価値があるとされていた。そんな時期にもてはやされたことがよく分かる内容だった。著者がかつて所属していたコンサルタント会社での経験を基に書かれてるが、読んでいる途中からむなしくなってしまった。(2/19)
018/023
「自由への大いなる歩み 非暴力で闘った黒人たち」M.L.キング
今から60年前、アメリカの人種隔離政策転換に大いなる足跡を残したキング牧師が著した本で、こどもの頃偉人伝で読んだ記憶があるバスボイコット運動が大いなる成果あげた時期に書かれている。当時はまだ20代。このボイコット運動は、ほぼ一年以上にわたって続けられ、市当局、警察権力による妨害、果てはテロリストによる自宅や教会の爆破事件、KKKの威嚇行動など様々な困難が襲いかかるが、それら全てに非暴力を持って抵抗する様が、彼自身の口から語られている。書かれた当時は、まだ道半ばで、この後も人種差別は制度上も残されており、アメリカの法律で人種差別が撤廃されたのは1964年というから、南アフリカのそれが撤廃される、ほんの30年前である。結果的にこの著者はノーベル平和賞を受賞し、その後暗殺される。この本については、先日たまたま書店で見かけて購入したものの、なかなか読めないだろうなと思っていたところ、通勤時に読む適当な本がほかになく読み始めたところ、とても面白く、昼休みや就寝前にも読み続けてしまい、最後はあっという間に読み切ってしまった。当時の手に汗にぎるようなやりとりがとても興味深く、めちゃめちゃ面白かったです。こんな偶然の出会いがあるから本屋巡りはやめられない。(2/20)
019/024
知性という言葉から受ける印象ってどうなんだろう。私は、知性という言葉にある種の憧れの気持ちを持っており、知性的な人間になりたいという強い思いを持っている。知性というのは知識とは似て非なるもので、知識を有することと知的であることに共通性はない。そういう意味では、知識豊富な人たちというのは世の中に溢れているが、知性的であると言われる人というのは稀少なのではないか。ちょうど、この本を読み終わった頃、学校内で銃を乱射し、多くの犠牲者を出してしまうという悲惨な事件が報道された。それを受けてその国の最高指導者は、教員に銃を携帯させることで抑止力にすることを提言した。対岸の国の出来事と笑っていてはいけない。私たちの国もそれほど大差ない。(2/22)
020/025
「ワルツを踊ろう」中山七里
彼の小説では久しぶりに、血しぶきが飛びグロテスクな表現がこれでもかと出てくる小説であった。まぁ、途中まではそれなりに読めたので良しとするか。物語の舞台は超過疎地の限界集落で、父親の死とともに移り住んできた息子が主人公。田舎特有の人間関係になじめず、徐々に孤立化していき、最後には、、、、という物語である。息子の側と村人の側は考え方が全く違うため、最後まで理解し合えないのであるが、どちら側がより理解できるかとなると、人によって違うだろう。私が、結構村人達の考え方のほうが理解できてしまうのは、やっぱ田舎モンだからかな。それから、最後の数ページに“大どんでん返し”が用意されているのだが、正直言って蛇足。無くても良かったかな。(2/24)
021/026
「おさがしの本は」門井慶喜
最近とみに気に入っている著者の本、今月なんと三冊目。とある地方都市の図書館が舞台で、そこで働く職員を主人公にした物語。ある種の本探しミステリのような物語なのだが、期待したほどではなかったかな。市役所の内部で、図書館不要論が出され、廃止賛成派と反対派のせめぎ合いも描かれるが、ちょっと現実感に乏しく、手に汗握るとはいかない。若干残念な一冊。(2/24)
022/027
「応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱」呉座勇一
昨年、応仁の乱から550年という記念の年に、ベストセラーとなった話題の本。ようやく読むことができました。内容的には、当時、ある意味乱の渦中にいた二人の僧侶の日記を中心に、乱の開戦前から終結後までの出来事を丹円に綴った物。非常にたくさんの登場人物がある上に非常に細かな出来事まで書かれており、途中に訳が分からなくなってきそうになる。もう少し流れを大枠でつかめるようになっていれば良かったのにと思いつつも、それでは既存の本と一緒だし、仕方が無いか。でもこの本を読むまでは、昔教科書で読んだようなざっくりした印象しかなかったところが、より全体への理解が深まったかな。(2/27)
023/028
「ミステリークロック」貴志祐介
テレビドラマにもなった鍵の専門家を主人公とした密室トリック専門のミステリ。数年前に発表された中短編が収められている。密室ネタはもうほとんど出尽くしたのではないかと言われている中のチャレンジであるが、あまりに懲りすぎているためか、ちょっと読んだだけでは状況がとても分かりづらい。小説だから言葉で説明しなければいけないので、とても回りくどい表現が多出する。トリックを考える着眼点は素晴らしいのだが、読み物となると、キツいなぁ。(2/28)
024/029
最近この手の本が結構幅をきかせていると聞いたもので、暇を見て読んでみようと思う。内容的には、かなりぶっ飛んだ内容のトンでも本で、憶測と思い込み、中傷に満ちあふれた本。でも中身がそれほど厚いわけではないので、1時間もかからずに読めるくらい。突っ込みどころ満載で、暇つぶしには最適かな。(2/28)