9月は計16冊。うち小説は5冊、その他11冊というできでした。
見ていただいたら分かるとおり、東日本大震災関係の本が5冊あります。これは御厨さんの本を読んだ後、思い立って、図書館で改めて目に付いた本を借りだしてきたものです。
特に、これらの本は震災から概ね1年以内に書かれた物が中心であり、内容的にもかなり高揚した雰囲気の下で書かれたものが多く、そういう意味でも5年が過ぎてしまったのかと、つい感慨深く思ってしまいました。これら一連の著書の中は、いずれも興味深かったですが、中でも現場で奮闘した医師達の記録である“救命”を、特に感慨深く読みました。
さて、そのほかのお薦めですが、実は5冊の小説に中では、自信を持ってお薦めできる物がありませんでした。単に数が少なかったためか、選択が適当でなかったためか、次月はもう少し吟味して読みたいと思っています。
震災関連以外でのその他分野の中では、ソ連人記者が書いた“一枝の桜”が秀逸でした。翻訳もわかりやすいのですが、おそらく原著も上手く書かれているのだろうなと思われます。観察眼も鋭いですし、古き良き時代の日本がとても生き生きと描かれています。すでに品切れになっているので、古本でしか買うことができませんが、どこかで見つけられたら是非読んでみてください。これは自信を持ってお薦めできます。
(001/131)
「不動産は『物語力』で再生する」川井徳子
京都市左京区にある“何有荘”の再生に成功した著者の経営論。著者自身が病気や家庭内の問題で大きな悩みを抱え、克服していく過程が非常にドラマチック。不動産に限らず、“もの”を売ろうと思ったら、ただ単にそのものを見せるだけではなく、“物語”を付加することで“特別感”を提供することが重要であるとは、よく言われることである。もちろん嘘はあかんけどね。(9/3)
(002/132)
「ON 猟奇犯罪捜査班藤堂比奈子」内藤了
テレビドラマの原作になったもの。ドラマとはキャラ設定がかなり違っていて興味深い。実はドラマではかなり重いトーンで描かれていたのだが、原作にはそれほどの重さ、暗さは感じられない。もしドラマのような雰囲気だとイヤだなと思いながら読んだのだが、全く違っていてホッとした。(9/3)
(003/133)
「『戦後』が終わり、『災後』が始まる。」御厨貴
オーラルヒストリーの大家である著者が、東日本大震災のあった2011年にいろいろなメディアで発信したコラムなどを集めた物。一貫して、与野党を問わず当時の政治の欠落が主張されており、それがそのまま今なお進まない復興の遅れにつながっている。当時、著者はこの災害によって、社会の潮目が大きく変わってくるに違いないと読んでいたのだが、実際のところはどうだろうか。西日本はもちろん、交通機関は麻痺したものの、大きな災害にならなかった首都圏などでは、あの災害は、どれほどの痛みを持って記憶されているのだろうか。あれから5年が経ち、各地の原発も“順調”に再開され始めている。まだ、たった5年しか経っていないのに。(9/6)
(004/134)
「ツァラトゥストラはこう言った(上)、(下)」ニーチェ
前から読みたいと思いながら購入して、そのまま何年も放ってあった。ようやく読み始めたものの、通勤の電車限定で読んでいたこともあって、ほぼ2ヶ月かかってしまった。全体は4部に分かれており、書かれた時期が違うようで、それぞれにずいぶん調子が違う。おそらく原文のドイツ語なら詩のように書かれたところもあるのではないかと想像する。ニーチェの思想の集大成と言われ、主人公“ツァラトゥストラ”の口を借りて、様々なことが小説の様な体を借りて、語られる。全体を読むと何となく分かったような気になるのだが、それがニーチェの考えと合っているのかさっぱり分からない。中公新書の解説を買ったので、もう一度答え合わせをしながら読んでみるか。(9/8)
(005/135)
「震災風俗嬢」小野一光
未曾有の災害に襲われた東北地方にクラス人たちの中で、多分に偏見を持ってとらえられがちな風俗業界で働く女性達にスポットを当てたルポルタージュ。彼女ら自身が被災者であり、肉親や知り合いを亡くしていたりしながらも、淡々と働く姿が描かれている。そして彼女らが迎えるお客さんも被災者であり、肉親を亡くした方々で、その一瞬の邂逅の中で、彼女らの口から異口同音に“癒し”という言葉が語られる。きれい事ではなく、確かにそこに心のふれあいがある。(9/10)
(006/136)
「巷説百物語」京極夏彦
怪談話をモティーフにした時代物小説。本当はこの本を先に読みたかったのですが、図書館でもなかなか見つからず、だいぶ前に“続~”を読んでいたのですが、今回ようやく図書館で見つけ、読むことができました。妖怪物のようでいて実際の妖怪は出てこないある種のミステリ小説です。作者の特徴で、ページ数もかなりの量になるですが、飽きることなく読める本です。(9/17)
(007/137)
「闘う市長 被災地から見えたこの国の真実」桜井勝延、開沼博
東日本大震災当時、YouTubeで被災地情報を発信したことで有名になった市長の奮闘ぶりをインタビューの形で書籍にしたある種のオーラルヒストリーです。当時、かなり破天荒な市長として世界的に話題になったようですが、本書を読む限りではその出自自体、かなり特殊な経歴を持った市長のようで、ある意味真っ当な市民感覚で、事態に当たっている姿が彷彿とされます。震災後数ヶ月くらいの時点で書かれているので、あれから5年以上が経過した今、どのように事態が進んだのかも大いに興味があるところです。(9/18)
(008/138)
「危険なビーナス」東野圭吾
著者の最新刊、しかも書き下ろしでベストセラー快走中と言うことで期待して読みました。途中まではとても良かった。ミステリ要素もたっぷりあって、この先いったいどうなるのだろうと興味津々で読み進みました。しかしながら、この先はいわゆるネタバレになるので、詳しくは書きませんが、私はほとんど外れのない作家と評価している作家ではあるのですが、彼の良くない面が見えてしまう作品になってしまったかなと思います。途中までは良かっただけに残念。(9/18)
(009/139)
「エッセンシャル思考 最小の時間で成果を最大にする」グレッグ・マキューン
いわゆる“断捨離”。“より少なく、しかしより良く”、これをビジネスの世界に応用するため、“見極める”“捨てる”“仕組化する”という3ステップで取り組む方法が具体的に書かれている。ただ、本人の経験やアメリカでの事例を基に書かれているので、成り立ちそのものが大きく違う日本社会でどれほど成り立つものなのか、はなはだ疑問ではある。(9/19)
(010/140)
「アホノミクス完全崩壊に備えよ」浜矩子
安倍首相の進めるアベノミクスを徹底的にこき下ろすために書かれた物。主張の中身は理解できるし、過去に首相が公式に発言した内容を受けた論旨の展開となっているので、あながち間違いとは言い切れないと思うのだが、書きっぷりにあまりにも感情がほとばしりすぎており、これは多分に売らんがための編集者の仕業かなと思うのだが、もう少し冷静な筆致で書かれた方がよいのではないかと思われる。まぁ、この本の発売直前に聴いた講演でも同様の話っぷりだったのではあるが、それにしても、ちょっともったいない。(9/19)
(011/141)
「救命~東日本大震災、医師たちの奮闘」海堂尊;監修、
東日本大震災のさなか、現地で医療の最前線に立っていた医師達は、何を考え、どのように行動したのか。震災直後に9人の医師達にインタビューした内容を基に構成された記録。混乱する現場、被災の現場、被災者達の助け合い、酷使しすぎて倒れた医師の姿、動かない行政、それぞれに生々しい証言で構成されている。こういった証言を受け、今後どのように政策に活かされているのか。なぜ活かされないのか。早く、しっかりと検証しないと、“次”は近いうちに確実にやってくる。(9/19)
(012/142)
「高校生レストランの奇跡」岸川政之
“まごの店”で知られる三重県立相可高校の取り組みを仕掛けた多気町職員の手記。同店開設までの苦労話、生まれてから町職員になるまでの履歴、町職員になってからの諸活動について書かれている。およそ公務員が書いたこの手の書籍ほどつまらない物はないのだが、その色眼鏡をぶち破るくらいの破天荒ぶり。この手の突飛なアイデアをいくつも出せる公務員というのはそうはいない。さらにそのうちのほとんどは、言い放しで自分では手を動かさない。そういう意味では希有な例である。(9/19)
(013/143)
「一枝の桜 日本人とはなにか」フセワロード・オフチンニコフ
旧ソ連共産党の機関誌“プラウダ”の東京特派員であった著者の日本レポート。今から40年くらい前にソ連で発行されたものである。身分は新聞記者であるが、実態はおそらく諜報活動も行っていたのではないかと思うが、真実は不明。今こうやって読んでみると、古き良き時代の日本が描写されていて、外国人の目を通すと“あの頃”は、こう見えたんだなと感慨深く読むことができる。実はこの本、古本屋で見つけて詰んであった物を読んでいたところ、とてもおもしろかったのだが、お出かけ先で読んでいて、途中でどこかに忘れてしまったのを諦めきれず、再び古本屋で買い求めたといういわく物。それくらいおもしろい本でした。(9/24)
(014/144)
「震災後のことば 8・15からのまなざし」宮川匡司 編
東日本大震災後数ヶ月後に日本経済新聞で掲載された、日本を代表する評論家・作家などのインタビュー記事。当時、彼らがどのようなことを考えたのかが綴られている。いろいろなことが語られているが、その中で心に残ったフレーズを。山折哲雄氏“これから問われるのは、死者の魂との絆”。肉親、親友の突然の死を受け入れることは難しい。とはいえいつまでも引きずっていることも望ましいことではない。如何に折り合いをつけるか。桶谷秀昭氏“(3月11日は歴史の節目になるか?という問いに対する答え)それは、これから決まること”。あの頃、歴史の転換点になると予言した人がたくさんいた。結果として、その予言は実現しなかった。何か変わりましたか?(9/24)
(015/145)
「被害者は誰?」貫井徳郎
この本を読むまで気が付かなかったのだが、どうやら彼の作品を読んだのは初めてだったらしい。最初の一冊が、これで良かったのかどうかは悩ましいところ。小難しい小説家と思いきや、少し軽めの本格ミステリで、短編集ながらいろいろなバリエーションのミステリが楽しめます。さて、彼の作風は本格ミステリなのかライトミステリなのか、ほかの本を読もうかどうしようか。(9/25)
(016/146)
「若様とロマン」畠中恵
明治維新後に元旗本家に生まれながらも、一般の警察官として働く“若様”達の物語。これが三作目かな?今回は、軍が力を持ち始め、戦争へと向かいそうな流れを食い止めるべく、若様達の結婚を通して、反戦仲間を増やしていこうというストーリー。若様達のお見合いを軸に様々な騒ぎが起こる。シリーズなのでついつい読んでは見たものの、もう次はいいかな。(9/29)