7月は、結構読む時間が取れたようで、最終的に22冊となり、そのうち小説が12冊で、それ以外は10冊という結果になりました。
どこかでも書いたのですが、この月は内容的にも充実しており、お薦めしたい本がたくさんあります。
ただ、小説はあまり最近の本を読んでいないので、お薦めできるのが少ないのですが、まぁ話題性というところでは来年の大河ドラマの主人公を取り上げた“剣と紅”がお薦めでしょうか。作者にとっては、初めての歴史小説ですが、誰も知らないような人物にスポットを当てたところが、高く評価できます。長いですが、山場も結構あって、飽きずに読める作品かと思います。
そのほか、外れの多いこのミス大賞出身作家の中では珍しい当たり作家の中山七里さんの“どこかでベートーベン”も期待を裏切りませんでした。いつもながら音楽の描写という難易度の高い表現に果敢に挑んでいます。
続いて小説以外の分野ですが、これは結構粒ぞろいです。
まずは脱北した若い女性が書いた“生きるための選択”。著者自身は北朝鮮ではかなり裕福な生活をしていたようであるが、あるとき足下をすくわれ、貧困生活に落ち込んだことから、自由な世界へ脱出するまでの数年間を描いた物である。圧巻の内容で、著者の“生きるための力”には圧倒される。
次に、ファイスブックのCOOが書いた“LEAN IN”もお薦め。男性中心の社会の中で突き進んでいく著者の奮闘ぶりが描かれている。今働いている或いはこれから社会に出る女性はもちろん、ザッカーバーグが、本の帯に書いているように、世の中の男性にこそ読んでほしい一冊。お薦めです。
もう一冊いきますと、ベストセラーにもなっている“学力の経済学”もお薦めです。すべてを“経済成長”という物差しで測ることには異を唱えたいと思うが、それ以外の基準を指し示せないのも事実である。税金を使って施策を進める限り、その施策を執行する側には、常に説明責任を果たす必要がある。我々のような仕事をしている身においては、忘れてはいけないことである。
番外では、プラトンの“国家”は別格でおもしろかった。プラトン対話編の最高峰とも言われているが、期待を裏切らない内容でありました。
さぁ、8月はどんな傾向になりますやら。自分でも見当がつきません。
(001/088)
「ユートピア」湊かなえ
“いやミス”の名手である著者であるが、この作品ではミステリ色は薄く、主人公である三名の女性の嫉妬やエゴがとてもイヤらしく描かれている。私などは、そんなに?と思うくらい極端に描かれているなぁと思うのだが、どうなんだろう。(7/2)
(002/089)
「千里眼
堕天使のメモリー」松岡圭祐
千里眼岬美由紀の新シリーズの一作なのだが、今作ではいつものジェット戦闘機やアパッチを乗りこなす姿は出てこず、ランボルギーニでのカーチェイスが何度か出てくるくらい。時間つぶしに楽しんでいます。(7/3)
(003/090)
「ブッダの旅」丸山勇
ブッダが誕生してから最後入滅するまでの旅路をたどった新書版写真集。残念ながら、新書版と言うことで、写真に迫力がなく、キャプションや本文の記述が、それほどこなれていなくて、若干不満が残る。以前読んだ、同シリーズの“メッカ”がとても良かったので(もちろん別の方が書かれたものですが)、期待が高すぎたのかもしれませんが。(7/3)
(004/091)
「覆面作家は二人いる」北村薫
最近はやりのライトミステリの大家である著者の代表作。かなり以前の作品なのだが、先日とある方が勧めておられたのを思い出して、つい買ってしまった。とはいえ、新刊ではなかなか手に入りづらいので、古書店で買ったものですが。主人公は、超“外弁慶”のお嬢様作家と編集者(これが双子の弟で、兄は警視庁の刑事)のコンビのキャラが立っている上に、ミステリとしてもちゃんと成立している。彼の著書はどれも結構おもしろい。(7/5)
(004/092)
「丑三つ時から夜明けまで」大倉崇裕
設定がぶっ飛んでいる。警察庁では、研究によって“霊”の存在を発見し、その霊が巨大なパワーを秘めていた場合、人に危害を加えることも可能であることを突き止めた。警察庁では、過去の迷宮入り事件を洗い出したところ、そのうちの多くは、霊が起こした犯罪であった。そこで、霊による犯罪を取り締まるため、実験的にもうけられたのが、静岡県警捜査五課。霊が犯人なら何でもありやろと思うのだが、そこはちゃんと正当ミステリの手順も踏んでいる。そんな連作短編集です。(7/9)
(005/093)
「世襲格差社会」橘木俊詔
世襲の職業と言われて最初に頭に浮かぶのは何でしょうか。この本では、親が子に嗣がせたいと思う職業、思わない職業などについて、データを踏まえながら、その傾向を考察しています。極端な例として、医者、政治家、農業・小売業者などが取り上げられている。今、全国の数多の中小事業者が後継者難に陥っている。その原因はいろいろあって、一概には言えないのだろうが、子ではない他人に事業継承をすることへのアレルギーもあるように思える。ミスマッチもあるのだろうとは思うが、限りある資源を上手く活用して、格差が固定・拡大しない社会を造っていきたい。(7/9)
(006/094)
「覆面作家の愛の歌」北村薫
シリーズの2作目に当たる。今作品集では、軽いタッチがやや影を潜め、比較的ミステリ色が強い内容になっている。主人公の豹変ぶりが大きな魅力の一つとなっているのだが、今作ではその二つのキャラが少しずつ近くなってきたように思うのだが気のせいか。(7/9)
(007/095)
「LEAN
IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲」シェリル・サンドバーグ
出版自体は3~4年前で、誰に勧められて買ったのかは覚えていないのだが、とてもおもしろく、考えさせられる内容である。著者は、フェイスブック社のCOOとして活躍し、各ビジネス誌ランキングでも上位に名を連ねる常連でもある。そんな著者が、世界中の女性に向けて、共に進もうと呼びかけるために書かれたものであるが、むしろ我々男性こそが読むべき内容となっている。女性が社会に進出できるようになって、まだ百年にも達していない。“まだ”というべきか“もう”と言うべきなのか。女性が普通に活躍しようと思っても、ある時期に、いや至る所に、見えない“壁”が立ちはだかる。世の男達が造ったものもあれば、女性自身が造ったものも存在する。そんな中で、“自分自身”がつくったものがあるとするならば、それを打破しようと呼びかけている、そんな内容の本だと私は読みました。娘達にも是非読ませたいと痛切に思った一冊です。(7/11)
(008/096)
「『学力』の経済学」中室牧子
最近もベストセラーとして書店に平積みされているところから、気になって購入した物で、これまた部屋に積読状態であったのをようやく読むことができた。教育経済学というのは耳慣れない言葉で、教育の経済的効果を扱うことから、一般の教育者には忌避感が強い言葉だと書かれている。確かに、教育の効果として、経済成長をその評価基準に据える考え方には、簡単に頷けないところであるが、その視点が全くないというのも如何なものかと思う。特に、教育の悪しき平等主義が災いし、最も重要な教育施策を検討するための材料すら探せないというのはナンセンスである。本来なら、あらゆる科学的な検証を加え、国民が合意できる求めるべき成果指標を定めた上で、長期的な施策というのは立てられるべきではないか。我々行政に携わる者にとっては、非常に有用な一冊である。(7/16)
(009/097)
「高校入試」湊かなえ
彼女の本は今月2冊目。高校の入学試験を巡り、試験当時に起こる事件を時系列で追いかける展開。元々は著者がテレビドラマの脚本として書いた物を改めて小説として書き直した物だそうで、脚本とは違う結末に描かれているらしい。小説では、いわゆる“ト書き”部分が全くなく、すべて登場人物のモノローグで描かれるというあまり見たことのない手法で、最初のうちは次々に語り手が変わるので、ストーリーを追いかけるのが難しかったが、途中で慣れてきた。ただミステリとしては、動機の点など若干???と思うところもあり、絶賛はし難い。(7/17)
(010/098)
「教場2」長岡弘樹
ベストセラーになった前作を受け継ぐ続編。舞台は警察学校。鋭い観察力を持つ教官が主人公で、教え子である警察官の卵達が引き起こす小さな事件の謎を解く。(7/17)
(011/099)
「生きるための選択」パク・ヨンミ
著者は北朝鮮に生まれ、命からがら脱北を図り、中国・モンゴル経由で韓国に逃げてきた少女の実体験記。北朝鮮国内での朝鮮労働党の圧政、監視社会が淡々と描かれている。また、この手記を読む限りにおいては、当時の国民達も情報遮断の状態に置かれていたためか、党のプロパガンタをすべて信じ込まされていたようである。そんな中で脱北当時わずか13歳であった著者が、2年間かけてようやく自由の国にたどり着き、そのときには朝鮮語以外話せず、小学校低学年並みの学力状態から、大学進学を果たし、英語を巧みに操れるようになるまでの努力には脱帽する。本書に出てくるアイルランドでのプレゼンテーションはYouTubeでも見ることができる。ただ、すべてにおいて信用できないあの国のことであるから、どこまで真実なのか、と思ってしまう私って心が濁っているなぁ。(7/18)
(012/100)
「小山薫堂 幸せの仕事術」小山薫堂
プランナーとして名高い著者のNHKでの番組を基にしたエッセイ。企画を成功させるには、何よりも“自分が楽しめる企画であること”が大事で、次に“人を喜ばせる企画であること”特に“特定の誰かを念頭に置いた企画であること”が秘訣である。彼は京都の有名料亭の再建に携わっているとのことで、実のところ、それまで彼のことは全く知らなかった。かの“カノッサの屈辱”“料理の鉄人”の制作に携わっていたとは知らなかった。(7/18)
(013/101)
読み始めからおよそ50日で読了。朝の通勤電車の中だけで読んでいたため、結構長くかかってしまったが、気持ちとしてはそれほど長くかかったという感じではない。理想の国家のあり方について、ソクラテスが対話の中で明らかにしていくという体で話は進む。内容的には、それこそあらゆる人があらゆるところで語られているので、特に触れません。そこで、素人なりの純粋な感想を少し。国家が堕落していくパターンとして、最悪の形が“潜主独裁”とされているのですが、ここで語られている内容は、第二次世界大戦前ドイツでのナチスによる独裁制を彷彿させます。それから、理想の政治体制として、哲人による政治をあげている一方で、“詩人”については徹底的にこき下ろしています。何か個人的に含むところがあったんだろうかと妄想がふくらむ。(7/21)
(014/102)
「甘いもんでもおひとつ」田牧大和
江戸の和菓子屋を舞台にした人情物。主人公は和菓子屋を営む兄弟で、父の店を叔父に乗っ取られ、その後かつての職人の店に転がり込み、兄が和菓子職人、弟が店を切り盛りしながら父の味を伝えていく。いろいろとお嫌がらせを受けながらも、兄弟力を合わせて何とか窮地を切り抜けていく。乗っ取った叔父の娘と弟の恋バナもあり、うまく読ませるお話である。和菓子の描写が丁寧で、思わず食べたくなってしまう。(7/21)
(015/103)
「三人目の幽霊」大倉崇裕
主人公は、落語専門の季刊誌の編集部に配属された新人編集者。一作だけは、かなり事件性の高いストーリーになっているが、多くは寄席を舞台に起きる日常の不思議を、編集長の洞察力で解き明かしていく物語。最近注目している作家のデビュー短編集。最近名をあげた倒叙ミステリではなく、通常の方式で物語は進む。期待が大きかったので、若干不満。まぁ、デビュー作だから仕方ないかな。(7/21)
(016/104)
「人はなぜ戦争をするのか」アルバート・アインシュタイン、ジグムント・フロイト
最近改めて文庫版で出版された物だが、原典は1932年に、アインシュタインが国際連盟からの“今一番話したい相手に、話したいテーマ”で手紙を書くという依頼に応え、書かれた物で、両者の間で交わされた書簡の体を取っている。人類は、本能的に戦うことが想定されており、それを意志の力で抑え込まなければならない。戦争は国家のエゴがぶつかり合って起こるものであり、これを避けるには、国家がその持てる権力の一部を放棄し、それを一元的に統括する世界的な組織が必要である。要は国際連盟の必要性を説いた物となっている。しかしながら、結果的に国際連盟は、アメリカなどの裏切りにより、その崇高な理念を発揮することができず、終わってしまったのは衆知のとおり。(7/26)
(017/105)
「大前研一 日本の論点2016~2017」大前研一
大前研一が、今ビジネスマンが考えておかなければいけない論点について、雑誌に連載したコラムをまとめた物。相変わらず、舌鋒鋭く切りまくっており、鼻持ちならない論調もいつものとおり。書きっぷりは気に入らないけど、言ってることは論理的でわかりやすく、違った視点を提供してくれるところはありがたい。いつもながら嫌いやけど読むとおもしろい典型的な作。(7/27)
(018/106)
「ガラスの地球を救え 二十一世紀の君たちへ」手塚治虫
手塚治虫が死の間際まで書きためていたコラムを集めた物。彼自身が漫画家を志したきっかけや、戦争中の暮らしぶりなどを振り返って書いている。いつ死ぬか解らない極限の状況を生き延びた先に向かえた社会は、彼に目にどう映っていたのだろうか。アトムが生まれた21世紀は彼が期待した世界に近づいているのだろうか。そして、この先の未来、地球はどこへ向かうのか。(7/27)
(019/
「古書店アゼリアの死体」若竹七海
若竹七海の“葉崎市シリーズ”の一冊。軽いタッチで描かれたコージーミステリの傑作の一つだと思う。最後の最後まで気が抜けない。彼女の本は、とてもおもしろくて見つける度に、借りたり買ったりしているのだが、いかんせん最近は新刊があまりでないので寂しい。特に“葉村晶シリーズ”が読みたい。(7/29)
(020/108)
「剣と紅
戦国の女領主・井伊直虎」高殿円
主人公は、家康天下取りに功績のあった徳川四天王の一人である井伊直政の養母である井伊直虎(女性!!)、来年のNHK大河ドラマの主人公でもある。私の記憶では著者にとっては、初の歴史小説となるはず。その主人公に、こんなマイナーな人物を持ってくるところは心憎い。徳川幕府では、最後の大老となる井伊直弼を輩出するなど、歴代要職を務めた井伊家であるが、徳川家に仕える前は、今川氏や武田氏に挟まれ、小領主の悲哀を一身に受け、廃絶の危機もあったところを、この主人公の機知でそれを乗り越え、その繁栄の基礎を築いた。どこまでが史実かは解らないが、なかなかの傑物であったことは間違いない。(7/30)
(021/109)
「どこかでベートーベン」中山七里
“外れ”が多い“このミス大賞”出身作家の中では、数少ない“当たり”の作家の一人だと評価している。時々スプラッタ小説の様な、おどろおどろしい物もあるのだが、この岬洋介シリーズは、謎解き要素の強い本格ミステリであり、作者の本流ともいえるのではないか。本作は、高校生時代の岬洋介が手がけた初めての事件という設定になっており、ピアノの天才、スーパーマンとして描かれている。ストリーテラーの正体も、フ~ンなるほど、というオチになっている。(7/31)
(022/110)
「神様ゲーム」麻耶雄嵩
結構前に書かれた物なのだが、最近続編が書かれたことで、にわかに注目を浴びており、ついつい引っかかって勝ってしまった。内容的には一風変わったミステリで、小学生である主人公が、“神さま”の力を借りて事件の謎に気づいてしまう。ミステリとして、こういう設定はありかなしか。結構すれすれかなと思うのだが、あちこちのコラムでは高く評価されている。最近出たという続編の内容が良いのかもしれない。(7/31)