皆さん明けましておめでとうございます。2015年最後の月は20冊で、小説が12冊、それ以外が8冊という結果でした。
ということで、この年の読書量は254冊となりました。去年は184、2013年は266、2012年が267、まぁ、平均的な読書量だったと言えるでしょうか。
その中の一冊ですが、小説では歴史物の長編が2冊ありまして、どちらも好きな作家でおもしろかったのですが、ここは“光圀伝”、おもしろかったです。昔、小学生の頃に子供向けに書かれた伝記を読んだことがあるのだが、こうやって物語にすると、改めて時の将軍綱吉にとっては、やっかいな相手であったろうなと思う。是非大河小説に取り上げて欲しい。ただし、光秀の次に。
その他では、今すぐに取り組むべき課題を取り上げた“雇用身分社会”がおもしろかったです。この本では、過去の労働事情なども丹念に調べられていて、あまりに興味深かったので、思わず種本になっていた“職工事情”の上中下巻を買ってしまったくらい。今あらゆる分野で“生産性を上げる”ことがテーゼのようになっていて、そのためには“人件費を抑える”のが一番の近道だと誤解している無能な経営者が跋扈する不思議さ。たこが自らの足を食べているのと全く同じことだと気づかないのか。安心してください、この本はこんな感情的ではなく、冷静に書かれています。とにかくお薦めです。
001/234
「ガリレオ裁判 400年後の真実」田中一郎
決して、福山雅治主演のドラマシリーズではない。本もののガリレオ・ガリレイの宗教裁判の様子を、最近明らかになった資料などを基に、考証した物で、かなり真実に近いのではないだろうか。我々は子供の頃から、教会の不当な裁判の結果、有罪とはされたが、“それでも地球は回っている”と、最後まで自説を曲げなかった反抗の闘士として教えられてきたところだが、どうやら実際は違ったようである。まぁそれで彼の発見の偉大さが損なわれるわけではないのですが、ちょっとびっくり。(12/3)
002/235
「殺人初心者 民間科学捜査員・桐野真衣」秦建日子
民間科学捜査員なる職業が本当に存在するのかどうかは知らないが、これも理系女子の活躍の物語。アンフェアシリーズの原作者による物で、彼の本は結構読んでいる。もともとテレビ業界で活躍されていたそうなので、これも連続ドラマの原作になりそうな感じ。(12/6)
003/236
「光圀伝」冲方丁
700ページを越える超大作だけど、その長さを感じさせない面白さ。出版されたのは少し前だが、最近の図書館にあるのを見つけて借り出してみた。主人公の徳川光圀と言えば言わずと知れた水戸のご老公のことだが、彼の作品とは違い、本作では、ほぼ彼の生涯を忠実になぞっている。もっとも、若かりし頃に宮本武蔵や沢庵和尚と本当に接点があったとは思えないが。光圀の実像が、真ここに名慣れているとおりであるのかどうかは定かではないが、素晴らしい“知の巨人”としての光圀が描かれており、飽きさせない。おもしろかった。(12/9)
004/237
「中流崩壊サラリーマンが下層化していく」榊原英資
元ミスター円が、アベノミクス後の日本を予測する。というか、ほとんど改善の見込みがないのですが。一応、無責任な学者らしい理想論は出てくるのだが、それを実行するための方策は出てこない。明るい将来のためには、痛みも必要なんだよとだけ言われても、我々はどうしたらいいんだ?(12/10)
005/238
「ヒポクラテスの誓い」中山七里
彼の本は、結構スプラッター的な要素が多く、若干引き気味になってしまうのだが、それさえなければ、ストーリー展開などは絶品。この本も理系女子が主人公で、生きた人間を助ける医者になるつもりが、何の弾みか死体を扱う羽目になる。その主人公が、変人の教授の下で、いろいろな謎を解きながら成長していく。なかなかいい話。続編があっても良いかも。(12/13)
006/239
「捨てる力」羽生善治
彼の前に、将棋界を席巻したのが谷川浩司、私たちと同世代だったので、その後に谷川氏の歴史を次々に塗り替えていく彼の姿は、自分と自分の後世代に置き換えられて、とても気になる存在であった。この本を読むと、著者が如何に論理的に将棋という競技をとらえているかがよく解る。凄い男です。(12/13)
007/240
「ココロの止まり木」河合隼雄
著者が文化庁長官をやっていた当時に、新聞に連載していた随筆をまとめた物。彼のおかげで、京都に文化庁の分室もできたし、もしかすると省庁移転にも繋がるかもしれない。(12/13)
008/241
「雇用身分社会」森岡孝二
今年読んだ新書の中で、5本の指に入るおもしろい本だった。何年か前の雇用制度の規制緩和が引き金となった“雇用格差社会”。今では、新卒者の半分くらいしか正規の職に就けないという。下の娘がその現実と向き合うまであと数年。そのときどうなっているのだろうか。今この状況を何とかしなければ、30年後は大変なことになってしまうだろう。どこかで進むべき道を間違ったんじゃないだろうか。(12/18)
009/242
刺激的なタイトルの本だったので、前から気になっていたのだが、たまたま運良く図書館の本棚に残っていたので借り出してきた。骨マニアの理系女子が謎解きをするという物語の短編集。シリーズ化されているようだが、まぁ一冊でいいかな。(12/19)
010/243
「書店ガール3 託された一冊」碧野圭
なぜか気になって、シリーズ3作目も読んでしまった。ネット書店の躍進でリアル店舗はいずこも存亡の危機に立たされている。そんな中で活躍する、“女性が”“働く”物語、と旬の要素が2つも揃っている。どうしても主人公を応援したくなってしまうんですよね。特に、今作は東日本大震災の被災地も舞台になっており、そういう意味でも応援したくなってしまう。物語の最後に、この大震災をテーマにした書籍が、ずらりと紹介されている。思わずメモを取ってしまった。(12/20)
011/244
「女刑事音道貴子 未練」乃南アサ
女性刑事シリーズの短編集。女性刑事を主人公にした小説は数多あり、そのほとんどが、スーパーレディーであることが多い。そんな中で、本作の主人公は、非常に優秀であることは間違いないのだが、一方で、精神的な弱さを垣間見せるような人間臭さも感じられる、とても共感を覚える主人公として描かれている。他の長編で描かれている壮絶なダメージから、立ち直る様を描いた一遍は、心を打つ。(12/23)
012/245
「京都ぎらい」井上章一
いわゆる“京都”と対峙していないと、なかなか理解できない心の襞がよくわかるし、大いに共感できる。私自身は、京都でも“府内”しかも“北部”の出身で、いわゆる“洛中”には住んだことがないので、完全には理解できていないのかもしれないが、いわゆる“あるある話”にあふれている。そして、その“京都人”が“京都中華思想”の拠り所としているものを推し量ると、そこには何かしら哀れみを同時に抱いてしまう。いやぁ、実際“京都ってすごい”んだけど、だからってねぇ。結構おもしろい本でした。(12/24)
013/246
「アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子」深町秋生
誰かの小説で見たような、アウトローの凄腕女性刑事のお話。タフだけれど強くないところが良い。ただ、派手なアクションシーンでごまかして、肝心のストーリー展開に若干の危うさが見えてしまう。時間つぶしにはいいんだけれどね。(12/26)
014/247
「世界市場を動かす5の歴史的視点」藤田勉 倉持靖彦
この先、世界はどう動くのかを見る上では、“中東発の世界的な危機は再発するか”“ユーロ危機はいつまで続くのか”“米国発のバブル崩壊は再発するか”“新興国発の世界的な金融危機はおこるか”“アベノミクスは成功するのか”という5つの視点が重要であるとして、それぞれについて、具体的に考える材料を提供している。そしてその次にどうすれば良いのかを描くところで、著者が交代し、さっぱり訳がわからなくなる。最終章はいらなかったかも。(12/27)
015/248
「地下鉄に乗って」浅田次郎
“忘れろ、忘れろ、忘れろ-苦しみは片っぱしから忘れて行かないと、人間は生きちゃ行けない。ぜんぶ忘れれば、希望が残る。忘れろ、忘れろ。”
(12/27)
016/249
「花鳥の夢」山本兼一
戦国時代を代表する絵師である狩野永徳の物語。信長、秀吉という彼のパトロンとなった武将たちとのやりとりも出てくる。もとより、絵師のことなのでそれほど詳しい歴史が残されているわけではなく、創作された部分がほとんどであろうが、彼の後に一世を風靡する長谷川等伯との確執はおもしろい。最後が過労死というのは驚き。(12/29)
017/250
「父と暮らせば」井上ひさし
映画となった“母と暮らせば”は、この小説へのオマージュだと聞いて借りてきた。これは小説ではなく著者がこまつ座の為に書き下ろした戯曲で、同じく原爆後の広島が描かれている。読むだけだと、すぐに読めてしまうのだが、舞台で見てみたいなぁ。(12/29)
018/251
「伊藤くんAtoE」柚木麻子
女性が主人公の5編の連作小説。主人公はそれぞれ別の5名なのだが、一貫して登場するのが“伊藤くん”。最初はこの男、本当に“ヤナヤロ”なのだが、違う女性の目から見ると、とても情けない奴になり、最後は自分の嫌な部分にスポットライトを当てられているようで、非常に嫌な気分になってしまう。(12/30)
019/252
「六番目の小夜子」恩田陸
著者の実質的なデビュー作とあったので、借り出して読んでみた。読む前は変な学園ホラー物かなと思っていたのだが、素晴らしくよく書けている話だったので、逆に驚いた。いわゆる少年ドラマシリーズの枠で、テレビドラマにもなったそうであるが、ぴったりの物語だと思う。(12/30)
020/253
「生き方」稲盛和夫
2015年の最後は、この本で締めようと思う。著者の人生哲学が綴られた著書で、世界各国語にも翻訳されている。この本を読むと、改めて凄い人なんだなぁということがよく解る。珍しく電子書籍で買った本なので、時折眺めることにしようと思う。(12/31)