7月は26冊、うち小説は15冊、その他が11冊となった。
久しぶりに、その内容も充実しており、ほぼ満足している。
まず小説では、朝井まかて、乾くるみ、柚木麻子の小説がそれぞれ2冊ずつ入っている。いずれも最初に読んだ本がおもしろかったため、続けて読んだもの。
どれもおもしろかったが、昨年の直木賞受賞作である朝井まかての“恋歌”が特に良かったかな。明治維新の動乱を描いた小説はたくさんあるが、女性の視点で描かれた物は非常に少ない。さらに幕府側にありながら藩内の意思が統一されておらず、奇妙な立ち位置にあった水戸藩が舞台となればなおのこと。かなりのお薦めです。
その他の本はかなり充実。お薦めでない方が少なく、どれも是も一読の価値有りと自信を持ってお薦めできます。ホントに選べないところを無理矢理に何冊か挙げるとするなら。
まずは戦後70年にちなんで、“日本のいちばん長い日”と“日本とドイツ ふたつの戦後”。読後に受ける感想は人それぞれだし、書かれていることが全て正しい訳ではないとは思いますが、自分で“考える”上で、良いきっかけになる本だと思います。
ちょっと変わった本では、“目の見えない人は世界をどう見ているのか”という本がおもしろかった。目が見えている我々にはわからない世界のとらえ方が衝撃的でした。目が見えるだけで如何に物が見えていないか。これはおもしろかった。
最新の本ではありませんが、コリンパウエルの著書もかなりおもしろかったです。
あとは、以前から課題になっている“古典の名作”に手を伸ばす時間がなかったことが心残りですが、ほぼ満足できる月でした。
001/127
「白い蛇の眠る島」三浦しをん
彼女の小説には珍しい伝奇物。こんな小説も書くんだね。古い因習でがんじがらめにされた故郷。ある意味住みやすくある意味住みにくく、愛憎が入り交じる場所である。濃密な空気に、逆に窒息死しそうになり、飛び出した。飛び出して、何年経っても“居場所”があることは、実はとてもありがたいことなんだと、この主人公はきっと思い返すことだろう。(7/3)
002/128
映画の原作になった小説。ある種のドタバタ喜劇でありながら、登場する人物皆に何某かのドラマが用意されている。さらに偶然の邂逅。これでもかというくらいにエピソードが満載で、息をもつかせぬとはこのことか。さすがです。(7/4)
003/129
「豆の上で眠る」湊かなえ
これはこれは長い長い物語。二十年に及ぶ謎がようやく明らかになる。明らかになった事実(?)を前にして、主人公はこの後どう折り合いをつけていくのだろうか。この後の長い長い物語は、きっと苦しい物語になるんだろう。(7/5)
004/131
「しんがりの思想」鷲田清一
強いリーダーはいらない、と書かれている。確かにそうかもしれないが、強いリーダーシップは必要だ。実は中身を読むと個々人がリーダーシップを働かせなければいけないという内容。決して人に追随していくことを推奨する内容ではない。生きていく上で重要なことは、諸々の状況を斟酌して、自分で決定できると言うこと。これこそ“リーダーシップ”に他ならない。(7/9)
005/132
「逆転力 ~ピンチを待て~」指原莉乃
いやぁ、単なるアイドル本となめてました。全てを本人が書いたものとは思えないが、彼女の考えが反映された物であることは間違いないだろう。そこで見て取れるのが、自らを客観視する能力の高さ。自分を客観的に見ることができというのは、非常に得難い能力で、人生のあらゆる局面で有効に働くことだろう。現に彼女は、その能力をフルに発揮して、現在のポジションまで上り詰めたといえる。(7/9)
006/133
「沈みゆく大国 アメリカ」堤未果
著者によるアメリカレポート最新作。オバマケアの実施で、崩壊するアメリカの医療現場を紹介すると共に、アメリカの医療産業界からの圧力により、日本の健康保険制度が破壊されようとしている現状がレポートされている。本当に大事な物の価値をしっかり理解し、積極的に護らないと、いつか知らないうちに消え失せてしまう。TPPの本質をしっかり理解しておかないと、大変なことになりそうだ。「どんなに素晴らしい物を持っていても、その価値に気づかなければ隙を作ることになる。そしてそれを狙っている連中がいたら、簡単にかすめとられてしまう。」肝に銘じなければ。(7/11)
007/134
「リーダーを目指す人の心得」コリン・パウエル、トニー・コルツ
言わずとしれたアメリカの英雄の回顧録なのだが、しょせんは政治家が書いた物。中身をそのまま信用するほど素直な性格ではない。とはいえ、ここに書かれているリーダーシップ論などは傾聴に値する。部下とのつきあい方。報道との対処の方法。結構おもしろい中身になっている。(7/11)
008/135
「リピート」乾くるみ
ある日、ある場所に突然現れる空間の裂け目に飛び込むと、記憶・意識だけが半年前の特定の時間に戻ってしまい、同じ人生を繰り返す。何処かで読んだことのある設定なのだが、“記憶・意識”だけがリピートするというのはGood Idea! これだと、タイムマシンパラドックスも生じない。知識も蓄積されていくと言うことは、いわば永遠の命を手に入れることと同値である。(7/11)
009/136
「TATSUMAKI 特命捜査対策室7係」曽根圭介
タイトルになっている“辰巳麻紀=Tatsu Maki”が、もっと騒動を巻き起こしつつ活躍するのかと思いきや、期待はずれ。もっとハチャメチャで優秀というキャラクターを想定していたのですが。それほど破天荒ではない。(7/12)
010/137
女性が活躍できる職場というのは、実は大変魅力的な職場である。というより、“女性だ、男性だ”と言っている時点で、すでに何かの呪縛にとらわれているとしか言えないのではないか(7/12)
011/138
「恋歌」朝井まかて
幕末、幕閣の中にあって特異な地位にあった水戸藩の数奇な命運を、その藩士の基に嫁いだ一人の女性の目を通して描いた傑作。直木賞受賞作でもある。江戸期を舞台にした彼女の他の作品にくらべると、ひと味もふた味も違う作品。(7/14)
012/139
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
今年読んだ新書の中では、結構秀逸と言える一冊です。目の見えない人たちは、一体どのように世界を認識しているのか。空間認識、芸術鑑賞などなど。一般に5感と呼ばれている物のうち、最も“格上”と言われるのが“視覚”で、“触覚”が最も下位に位置づけられているそうです。まぁ、そんな与太話は横に置いておくとしても、“視覚”が失われると、世界が失われてしまうのではないかと思ってしまうのだが、どうやらそうではなく、全く違うとらえ方ができるらしいのです。特に、我々が物を“見る”と、その映像は二次元の“画”として認識されるが、目の見えない人は、三次元の“形”として認識しているという事実は非常に興味深い。つまり、目の見えない人の方が、“よく見えている”という状況にあるのである。まさに目から鱗が落ちるようとはこのことだ。(7/16)
013/140
「レオナルドの扉」真保裕一
レオナルドダヴィンチの遺産を巡るナポレオンとバチカンの争い。ストーリー展開が何か違うなと思っていたら、後書きによると、この小説は元々著者がアニメの原作として書かれた物を基にしているそうで、モチーフ以外は全面的に書き直された物らしいが、随所にその片鱗が見える。(7/18)
014/141
「ランチのアッコちゃん」柚木麻子
著者の出世作となった、気持ちが優しくなるような作品集。昨年の本屋大賞ノミネート作品。何も取り柄がない(ように見える)主人公がやり手の女性部長“アッコちゃん”の内側に触れていくことで、成長を遂げる物語。この二名をメインに据えた中編2編とスピンオフのような中編2編からなる。どうやら続編も書かれ、最近ではテレビドラマにもなったらしい。全然知らなかった。私としては、最後の“ゆとりのビアガーデン”が良かったです。(7/18)
015/142
「ザ・対決」清水義範
ソクラテス対釈迦、楊貴妃対クレオパトラ、桃太郎対金太郎などなど。彼らしい一風変わった切り口で、全く違う風情の短編集に仕上げている。さすがにおもしろい。(7/19)
016/143
「仙丹の契り 僕僕先生」仁木英之
僕僕仙人シリーズの一冊。一行はチベットの山中へ向かい、その王家の後嗣争いに巻き込まれる。登場人物も替わり、主人公の王弁がさらに大きな成長を遂げ、新たな旅が始まる。(7/19)
017/144
「日本のいちばん長い日」半藤一利
今年の夏映画化されるそうである。“平和の実現のため命をかけた人々”が、描かれているようである。終戦日に企てられたクーデターの犠牲になった方々には、同上を禁じ得ない。一方で、多くのページが割かれている陸相の自決やクーデターの首謀者に至っては、責任逃れの敵前逃亡の極みであり、帝国軍人の名誉はどこへ行ったのだろう。重大事になればなるほど誰も責任を取らない日本人の典型と言える。(7/20)
018/145
「火星に住むつもりかい?」伊坂幸太郎
日本の仙台市という架空の都市を舞台にした物語。この国では、国家警察による“合法的魔女狩り”が、住民の生活にじわじわと影を落としている。密告、拷問が横行し、真実に目を向けようとしない住民は、“犯罪者”の“処刑”に狂喜する。いつか見た風景なのか、いつか来る世界なのか。その世界から逃げだそうとすれば、火星に住むしかない。(7/23)
019/146
「図解ピケティの『21世紀の資本』」永濱利廣
話題の経済書の解説本。ベストセラーになったピケティの書籍だが、残念ながらまだ手にしていない。いろいろな書評によると、それほど複雑なことは書かれていないと言われているが、数式が出てくると、どうも体が拒否反応を示してしまう。資本収益率(r)と経済成長率(g)を比較すると、常にr>gとなり、持てる者と持たざる者の格差は更に拡大する。というのが彼の根本理論。それに対して、どのような対策を取るかというのが、政治である。今の政治は、格差をさらに広げる方向に舵を切り、更に加速させようとしている。サバイバルレースの先は暗闇。(7/25)
020/147
「セブン」乾くるみ
数字の“7”にちなんだ短編小説が7編収められている。どういう趣向で編まれたものかわからないが、一つ一つがとても良くできている。特に、いくつかの小説に“数字遊び”をテーマに書かれており、おそらくオリジナルがあるのだと思うが、それを上手く心理ゲームに仕立て、おもしろい小説に仕上がっている。ただ、数学が苦手な私は、ちょっと複雑な論理学にもついて行けず、せっかくの解説も、すっとは頭に入ってこない。(7/25)
021/148
現政権の経済政策を気持ちいいくらい痛烈に批判している。実際のところ、“三本の矢”と言いながら、本当に有効な“政策”が打たれたのかどうかは非常に疑わしい。現に、“持てる者”はさらに豊になり、“持たざる者”は、さらなる“貧困スパイラル”に巻き込まれていく。“我々が選んだ道”と言われればそのとおりなのだけれど、本当なのかと問いたい。今やほとんどが非正規で働く若者達の環境はどんどん悪くなっていく。さらに、こんなことに気を取られているうちに、我々の安心・安全はどんどん脅かされていく。この国の未来の姿をどのようにイメージしているのだろうか。(7/25)
022/149
「神様の値段 戦力外捜査官2」似鳥鶏
テレビドラマにもなったドジなキャリア刑事の物語、第二弾。ある宗教団体によるテロを未然に防ぐという、どこかでみたようなストーリー展開。(7/26)
023/150
「終点のあの子」柚木麻子
有名お嬢様女子高校を舞台にした中編小説集。女子校の実態って、今も昔もこうなんだろうか?男にはさっぱり判らない世界である。(7/26)
024/151
「実さえ花さえ」朝井まかて
著者のデビュー作。江戸時代の花屋を舞台にした小説で、完成度も高い。良い小説だと思うのだが、なぜか文庫化に当たっては、タイトルが大幅に変更されてしまっている。ひょっとして内容も書き換えられているのかもしれないが、どうなのだろう。(7/28)
025/152
「人類哲学序説」梅原猛
“人類哲学”というのは著者の造語。彼が書いた歴史の謎に挑む数々の著書は、歴史家の中では異端と捉えられており、通説とはなっていないが、いずれもおもしろかった。彼がいたおかげで、専門家以外の者が歴史を語ることに障壁はなくなったのではないかと思っている。さて、本書では人類共通の普遍的な哲学について思索を重ねている。日本には借り物の思想を学ぶ学者は数多いるが、自らの思索を創造する真の哲学者は存在しないという指摘はおもしろい。まさにそのとおりだね。(7/29)
026/153
「日本とドイツ ふたつの戦後」熊谷徹
共に第二次世界大戦の敗戦国。大戦中に自国はもちろん、占領地域で凄惨な行為を行ったところも共通。しかしながら、戦後70年経った後の近隣諸国との関係はどうか。ここに両国の過去への向き合い方の違いが如実に表れている。戦勝国が敗戦国を裁くことそのものに異を唱える人は多いが、ドイツはナチスに関しては、その後も徹底的にその関連者を捜索し続けるなど、“国民に対する犯罪”であったことを明確にし、過去に向き合い続けている。翻って我が国は、戦後一貫して過去と向き合うことを避け続けている。おそらくこの先何十年何百年経とうと、この禍根はなくならないだろう。これまた先人達の大きな罪である。(7/31)