8月は18冊、小説は9冊、その他は9冊とバランスの取れた(?)構成でした。
もっとも、小説には上下巻が一組ありましたので、やや小説が優勢ですね。
その中で、話題作を2つ。一つは昨年の本屋大賞“村上海賊の娘”、さらに半沢直樹シリーズの“銀翼のイカロス”を読みました。正直なところ、いずれも期待値が高すぎたせいか、諸手を挙げて大絶賛という感じではありませんでした。それよりも、万城目さんの“悟浄出立”がとてもおもしろかったです。ちょっと変わった味付けの短編集でしたが、こんな小説も書くんだと、改めて彼の筆力を見直しました。
その他では、丹羽さんの“中国の大問題”、話題の“炭水化物が人類を滅ぼす”の2冊は、結構一気に読んでしまいました。いずれも非常に理論的に語られており、まさに“腑に落ちる”感じで読める作品でした。糖質ダイエット、始めてみようかな。
001/098
「Sの継承」堂場瞬一
“S”というのは、かつて戦時中の日本で研究されていた神経ガスで、それが時代を経て2度のテロ行為への使用が企図される。後半はネットを使った大衆煽動の様子が描かれるのだが、そこがどうもぴんと来ず、うまく入り込めないもどかしさが残る。(8/3)
002/099
「なぜ女性部下から突然辞表を出されるのか」竹之内幸子
実は、入庁してから二度、女性部下から辞表を受け取ったことがある。いずれもとても優秀な人だったので、組織にとっても、非常に手痛い損失であった。そんなことを思い出しながら読んでみたが、おそらくこの本に書かれていることは“女性部下”に限ったことではなく、男性女性に共通して考えるべき事ばかりだと思う。そういう意味では、上司と部下という特別な権力関係下における人への対処方法と読むべきだろう。人に仕事をしてもらうというのは、本当に難しい。(8/4)
003/100
京都にある架空の中学、高校の吹奏楽部を舞台にした小説。作者は京都在住の現役大学生だそうで、若々しく軽妙なタッチで物語は進む。ただ途中から物語の先行きが読めてしまい、その予定調和通りに進んでしまうのが物足りない。結末にももう一ひねりほしいところである。(8/5)
004/101
「犬はどこだ」米澤穂信
ライトノベルかと思いきや、最後はソフトなホラー小説風に終わらせるところが小憎い。そういえば彼の小説には少々ぞくりとさせられるものもいくつかあって、この小説はその走りの様な位置づけだったか。(8/6)
005/102
「地団駄は島根で踏め~行って・見て・触れる《語源の旅》」わぐりたかし
我々が普段使っている言葉の語源を探す旅。この本で紹介されている京都語源の言葉は“埓があかない”“後の祭り”“相鎚を打つ”の3つ。このうち“埒”の正体はこの本を読むまで全く知らなかった。どうもこれを読む限りでは、語源を上賀茂神社に持ってくるのはかなり無理があるように思うのだが。(8/7)
006/103
「万能鑑定士Qの事件簿Ⅴ」松岡圭祐
舞台はパリ。有名レストランで発生した食中毒事件を巡り主人公が活躍する。いつもながらするりと読めてしまう。(8/9)
007/104
「世界から嫌われる中国と韓国 感謝される日本」宮崎正弘
とにかく読みづらい、著者の言いたいことはタイトルにあるとおりで、そこからは全くぶれていないのだが、論拠は一切示されない。かたられる内容は断片的で、一行ごとにあちらへ飛んだりこちらへ戻ったりと、付いていくのが大変。(8/9)
008/105
「銀翼のイカロス」池井戸潤
言わずとしれた“半沢直樹”シリーズの最新作。日本を代表する航空会社の再生を巡って、銀行内部、対金融庁果ては対政治家との対決を描く。例によって、勧善懲悪の物語なのだけれど、一冊の本の中でこれだけの要素を入れると、一つ一つの要素がどうしても薄くなってしまう。少々欲張りすぎではなかろうか。(8/10)
009/106
「悟浄出立」万城目学
中国の古典を題材にとりながら、主役ではなく脇役にスポットを当てた短編小説集というとても珍しい仕立て。また彼がこれまでに書いた小説達とは全く違った作風でこれまた珍しい。中でも項羽の愛人であった虞、司馬遷の娘榮を主人公にした2編が秀逸。その執念にぞくりとさせられる。(8/10)
010/107
「トレードオフ-上質をとるか、手軽をとるか」ケビン・メイニー
丹羽さんの本で進められていたので、図書館で借りて読んでみた。世の中に商品を流通させようとするとき、「上質」を狙うか「手軽」を目指すかということは、戦略策定の大前提である。これを誤ると成功は覚束ない。ただ問題は、いずれを目指すにしても、自らの商材の価値がちゃんと理解できていないと、全く意味をなさない。実はこれがいちばん難しい。それができない例を嫌と言うほど見てきた。
(8/14)
011/108
「中国の大問題」丹羽宇一郎
元中国大使の丹羽さんが、中国の抱える問題点について、私見を綴ったもの。伊藤忠で中国との事業に長く携わってきたこともあって、ビジネスマンとしての視点から、深く考察されている。中国社会に内包する問題点もさることながら、日中関係という大問題が我々としては大きく気に掛かるところである。(8/15)
012/109
「はやく名探偵になりたい」東川篤哉
烏賊川市シリーズの中の短編集。最近テレビドラマ化されたこともあって、ついつい顔が浮かんでしまうのが残念。(8/16)
013/110
「三陸鉄道 情熱復活物語」品川雅彦
東日本大震災で大ダメージを受けた三陸鉄道の復興までの物語。地域の人たちが東北復興のシンボルである三陸鉄道の復活に向けて取り組む姿に目頭が熱くなる。三陸に限らず、過疎の地域にとって“鉄道”が持つ意味合いはとても大きい。赤字だからと切り捨てて良いものではない。そのことを事実を以て証明する物語。(8/17)
014/111
「AKB48白熱論争」小林よしのり、中森明夫、宇野常寛、濱野智史
ばかばかしいと思うなかれ、良いオッサンがAKB48について大まじめに語り合ったもの。かねてから、アイドルというものは、その時代の社会や風俗を映し出す鏡であると言われており、そういう意味では、“今”を代表する“嵐”や“AKB48”を問うことは、現代社会を問うことと同値である。マーケティング分析の訓練にはもってこいの題材。(8/17)
015/112
「乙女の密告」赤染晶子
2010年上半期の芥川賞受賞作。宇治市出身で京都外大卒業という、まさに京都の申し子のような作家さん。“アンネの日記”を題材に、現代を舞台にストーリーは進む。主人公もアンネも“誰かの密告”によって窮地に陥る。ミステリー要素も若干有り、できれば短編ではなく、長編にしてもおもしろいのではないか。(8/18)
016/113
「暴言で読む日本史」清水義範
“平家にあらずんば、人にあらず”“敵は本能寺にあり”“貧乏人は麦を食え”等々歴史に残る“暴言”についてかかれた随想。どんな“暴言”も、本当に本人がそう言ったという証拠はないのであるが、その後の行動や世の動きなどから、“きっとこんな事を言ったに違いない”という背景もあって、こういった言葉は残っていく。歴史って本当におもしろい。(8/19)
017/114
今はやりの糖質制限ダイエットに関する書籍。どれほどの効果が見込めるのかはよく判らないが、書かれていることは非常に理論的で解りやすく、実行もたやすい。確かに人類の長い歴史の中で、穀物発見して主たる食餌にしたのは、ほんの数千年のことであり、この状態が特異な状態であることは間違いない。そのことは人類にとって、幸せだったのだろうか。(8/29)
018/115
昨年の本屋大賞となった話題作をようやく入手し、読破した。前評判がとても高く、かつて読んだ“のぼうの城”もおもしろかっただけに、とても期待して読んだのだが、ちょっと期待値が高すぎた感じ。おもしろい本だとこれくらいの厚さでも一気に読めてしまうところ、のっぴきならぬ事情があったとはいえ、少し手こずってしまった。(8/30)