8月は計27冊。うち小説が17冊、それ以外が10冊という内訳でした。
小説は古いものが多く、久しぶりに井上ひさしの小説を読み返すことが、マイブームになっています。『一週間』はとてもおもしろかったです。また、マイクル・クライトンやフィリップ・カーといった外国のなつかしい作家の本もたまたま見かけて読むことができました。それ以外の本では、特に岩波新書の復刻版をまとめ買いした関係で、それが散見されます。現在に古典として残っている書籍は、時代の評価をくぐり抜けてきているだけに、読み応えのある物が多い。『日本人の心理』『零の発見』何れもおもしろかったです。
001/160
「転倒予防~転ばぬ先の杖と知恵」武藤芳照
人生七転び八起きというが、この本はまさに身体的な転倒を予防するためのノウハウを詰め込んだ書籍である。施設に入所している父もこの春から室内で転倒することが増えてきて、この本に描かれているとおり、一度転倒すると“これでおしまい”と思ってしまうようで、前向きな考え方がとれなくなってしまっている。父のこともさりながら、我が身の行く末も考えていきたい。(8/2)
002/161
「殺意は必ず三度ある」東川篤哉
作者にとって何作かのシリーズ物のひとつ。相当に大げさなトリックで、どうにも実現性に乏しい。まぁ、これくらい突き抜けて荒唐無稽な方が、かえって良いのかも。(8/3)
003/162
これまた人気シリーズの3作目。時間つぶしに読むにはお手頃かも。(8/4)
004/163
「舞姫通信」重松清
最近は、家族の情愛を描いた作品が多く、いずれも読み応えのある著書をものにする著者の、本格的に作家になる前の初期の作品。若い人の自殺を取り扱った作品で、読んでいてもお腹の底の方に何か黒くて思い物がずっしりと腰を据えているような感覚を覚える。一組の共振する魂、生命の一方が失われてしまったとき、残されたもう一方の魂、生命は生きているのか、それとも同時に失われてしまったのか。重い。重すぎる。(8/4)
005/164
「映画 謎解きはディナーのあとで」涌井学
この夏公開の映画の小説化と言うことでちょいと買って読んでみた。読んでしまったので、映画を観ようという気にはならなくなった。まぁ、元から無いけど。(8/6)
006/165
「ヴェトナム新時代~『豊かさ』への模索」坪井喜明
ヴェトナム新時代といいながら、過去の社会主義革命、ヴェトナム戦争の歴史が記述の大半で、新時代に関する記述はほとんど無い。従ってタイトルには反するが、現在のヴェトナムを理解するために歴史を学ぼうとする向きには、非常に有用な著書である。私もこの本を読むまで、中国との微妙な関係や、ヴェトナム人の国民性について、しっかりと理解できなかったであろう。また、革命の英雄であるホー・チミンが、共産主義者ではなく居和国主義者であったという指摘には驚く祖国の独立のためなら、毒でも食らおうというというところであろうか。(8/7)
007/166
「2015年 磯野家の崩壊」山田順
数十年前までは、日本における一般的な家庭であったはずの磯野家も、今となっては非常に珍しい大家族である。ああいった家族が姿を消し、将来には悲観的な見通しだけが大声で語られる。何処で道を誤ったのだろうか。(8/8)
008/167
「チョコレートの町」飛鳥井千砂
故郷を離れて都会で暮らす主人公が、偶然に故郷に戻ることになって、故郷を再評価する物語。こうやって、故郷を離れている身にとって、どう感じるか楽しみにしていたのだが、実のところ、故郷とはいえ、実家にはすでに人はなくなっていると、故郷への思いもかなり複雑である。(8/9)
009/168
「東慶寺花だより」井上ひさし
東慶寺と言えば縁切寺、どうやら縁切り寺に駆け込むにも、いろいろな取り決めがあったようである。物語は1年間ほどのはずが、10年間にわたって雑誌に掲載されていたため、最初と最後で主人公の性格が変わっているのはご愛敬か。(8/10)
010/169
「ぼくのマンガ人生」手塚治虫
手塚治虫の自伝なのだが、実態は書かれた物ではなく、講演内容を本にまとめた物。従ってとても読みやすいのだが、内容的には深みを欠いている。“生命の尊厳”をテーマに数多くの作品を生み出した日本最高の漫画家であるが、その無理がたたって、60歳の若さでなくなっている。本当に残念である。またこの本が世に出た15年以上前に現代の“クールジャパン”、世界での“MANGA”ブームを預言している。(8/10)
011/170
「にぎやかな部屋」星新一
とある事務所の一室を舞台に、人間と幽霊が繰り広げるある種のドタバタ劇。星新一の本は全部読んでいるはずなのだが、この本については記憶が定かでは無い。こんな小説あっただろうか。ひょっとして、読み残しだろうか。最近、書籍化されていない小説がいくつか見つかったそうで、今月中に出版されるらしい。非常に楽しみである。(8/10)
012/171
「幕末単身赴任~下級武士の食日記」青木直己
幕末に紀州徳川家から江戸に一年間単身赴任を命じられた酒井伴四郎という下級武士の、いわば食いしん坊日記。自ら包丁の腕を振るったりとなかなかの奮闘ぶりである。当時の諸物価や一般庶民の食文化が垣間見えて、なかなかおもしろい。惜しむらくは、著者が原著から直接に取り上げたのではなく、他の研究者が欠いた解説本をネタ本にしているため、何処までが著者の見解なのかが判然としない。(8/14)
013/172
「アンドロメダ病原体」マイクル・クライトン
彼のデビュー作なのであるが、なぜかこれまで手にできていなかった。著者の創作であるはずが、読み続けるうちに、ひょっとしてこれは実話なのでは、と思わせるくらい細部まで行き届いた描写がされている。未だ読んでいない他の作品もさっさと読んでしまおう。(8/15)
014/173
「宇宙は何でできているのか」村山斉
2011年の新書大賞となった本をようやく今にして読むことができた。タイトルを見ただけでは、もっとお堅い専門書の類いかと思ったのだが、出版社がどちらかというと大衆迎合型の幻冬舎というだけあって、そこまで専門性は高くない。逆にこのミスマッチがこれだけ高品質の書籍に繋がったのだろう。(8/16)
015/174
「童子の輪舞曲」二木英之
僕僕シリーズの番外編。いわゆるスピンオフ短編を集めた物。その中では、最後に収められている“福毛”が秀逸。物語を現代に投射して、二人の主人公の深い深い縁を描いている。なかなか良い短編に仕上がっています。ただ、このシリーズの読者しかしらない前提があるので、単体では読んでいる人にはさっぱり判らないだろうね。 (8/17)
016/175
人気シリーズの第4作目、しかも4作目にして初の長編。それとは知らずに読んだので、少々驚いたが、長編と言うより短編を無理につなげた感もなきにしもあらず。ただ、最後のエピローグは蛇足ではないか。作中で明らかにできなかった謎を説明するために無理矢理にこじつけたような感じ。(8/17)
017/176
「心を整える」長谷部誠
サッカー日本代表の著者が書いてベストセラーになった物。今回初めて手にした。所詮スポーツ選手が書いた本という先入観をもって読むとその内容の豊かさに衝撃を受ける。欠かれている内容に所々矛盾があったりするのだが、それほど気にはならない。自分を高めるために、自分を律することを旨とし、忙しい中で読書に時間を掛け、書籍の中から、これはと思う文を書き留めるノートをつけたりと、その努力には恐れ入る。ここぞという時のメンタルの強さの淵源を見たような気になる。(8/17)
018/177
「ガソリン生活」伊坂幸太郎
いかにも伊坂らしい筆運びの長編小説。車が意思を持って、言葉を交わしているという設定が何ともシュール。主人公家族の愛車が語り手となって、ストーリーを展開していく。この設定だと、なかなか展開が難しいだろうというところも、上手くこなしており、なかなかの秀作である。久しぶりに良かった。(8/18)
019/178
「輝天炎上」海堂尊
バチスタシリーズの最終刊になるのだろうか?シリーズの裏側で展開されている影のストーリーを小説にするという、あまり見たことのない手法。ただ、この小説の主人公となっている双子姉妹の怨念があまりに強烈すぎて、読みながらも思わず引いてしまう。ちょいと極端に描きすぎではなかろうか。どうも“このミス”シリーズの小説は、同様の傾向が強いように思われる。(8/18)
020/179
「一週間」井上ひさし
井上ひさしの最後の頃の作品。終戦直後のシベリアでの日本人の収容所生活を描いた物で、主人公が知恵を働かせつつ、収容所を脱出して日本へ帰ろうとした一週間を章題にした物語。一日ごとに大きなドラマが生まれ、絶体絶命のピンチもいろいろな人のおかげで乗り越えていく。あと少しと思ったところで,意表を突くような展開になるのは、“吉里吉里人”を彷彿とさせる。それにしても当時の収容所生活の様子がとても微に入り細に入り廟指されているが、それもそのはず、50数冊の書籍がこの本の参考文献としてあげられている。恐るべし。 (8/24)
021/180
「茶の世界史」角山栄
日本茶の歴史を勉強しようと手にした本で、1980年の初版から版を重ねること35版。それだけ読み続けられていると言うこと。緑茶が日本の主要輸出品であったのは、明治維新後の本のわずかの間だけであったそうだが、その存在がヨーロッパ諸国に知られたのは、16世紀と言われている。当時はまだ紅茶という物も存在せず、西欧でお茶と言えば緑茶を指していた。さらに日本茶は、ある種の精神文化をともなって紹介されていたらしく、その時にうまくすれば、世界の茶の歴史も大きく変わっていたのではないか。そして、今再びお茶を世界へ売り出そうと頑張っています。(8/24)
022/181
「変わらざるもの」フィリップ・カー
久しぶりに目にした作家。彼のベルリン三部作は、在独時代にとても興味深く読んでいたものである。その主人公が再び帰ってきたと言うことで、早速読んでみた。ただし翻訳者が違うと小説のリズムもかなり違って感じられる物である。なれるまで少し掛かるかな。(8/25)
023/182
「地層調査」佐々木譲
刊行年を見てみると、ちょうど直木賞を受賞した直後の作品。新境地に挑む気概が見え隠れするが、少し空回りかな。何かもやっとした消化不良感が残る。(8/28)
024/183
「日本人の心理」南博
1953年と言うから、戦後すぐに書かれた日本人論。まさに日本人の集団心理を的確に著している。“足らないことを喜ぶ”“不幸を糧にする”“異常な精神主義”現代でもあちらこちらに見える不思議な考え方である。決してそれを否定するものではないが、他の考え方を認めない頑なさが一緒になると手がつけられない。今読んでも“あるある”と思わず膝を打つような内容の本である。50の版を重ねるのも納得。(8/28)
025//184
「零の発見」吉田洋一
これまた岩波新書の古典的名作である。なんと107刷目。中には表題作の他にもう一編収められているが、文系の私にも判りやすかった“零の発見”に比してもう一編の“直線を切る”は少々難解で、手こずったが何とか読みおせた。(8/29)
026/185
「眼鏡屋は消えた」山田彩人
2010年の鮎川哲也賞の受賞作。初めて手にした作者であるが、巻末の選評にもあるとおり、好悪は分かれるところである。謎解き役の探偵が推理推論を展開する際の論拠はあまりに薄弱で、これでいいのか!という突っ込みどころは満載。まぁそれを補ってあまりある表現の軽妙さが受けたのではなかろうか。(8/31)
027/186
「極北ラプソディ」海堂尊
バチスタシリーズのさらに極北シリーズ。今作では地域医療の崩壊と、ドクターヘリについて取り上げられている。現職の医師らしい斬新な視点での作品。そろそろこのシリーズも終焉である。(8/31)