2013年12月1日日曜日

2013年11月

11月はグッと絞り込んで17冊。うち小説が6冊、その他11冊と小説以外の比がとても高かった一ヶ月でした。
どうもこの月はペースも悪い上に、勘も鈍っていたようで、期待して読んだ本が意外と期待はずれだったりして、これといって特筆すべき本には出会えませんでした。
あえて一冊を探すならば、世界的に有名なコンサルタントファームであるマッキンゼーに関する『採用基準』と言う本は、事前の予測とは違って結構面白かったです。同社の“採用基準”としていくつか挙げられている中で“リーダーシップ”に特にフォーカスし、今の日本人にリーダーシップを兼ね備えた人材が少ないことを嘆きつつ、実はリーダーシップは全ての人間に必要なことなんだ。そのことに気がつかされました。

001/227
死神の浮力」伊坂幸太郎
伊坂らしい一冊。あの死神千葉の復活(?)。期待どおり、最後はハッピーエンドでは終わらないのが嬉しい。(11/3)

002/228
統率術」谷沢永一
彼の著作は決して嫌いではないのだが、この一冊はどうしたのだろうか。最後に出てくる対談では、相手と一緒になって他者をこき下ろし、その人間性までも否定するような発言には、却って発言者の品性を疑ってしまう。自分のことを否定されたことがよほどお気に召さなかったようであるが、このやり方はどうにも後味が悪い。(11/4)

003/229
富士山宝永大爆発」永原慶二
結構期待しながら読んだのであるが、読みづらかったという印象しか残らない。書かれている内容は詳細であり、相当に幅広く資料を蒐集し、かなり丹念にその利用を検討されたことはよく判る。実際、この研究を元に各地の郷土史の編纂にも多大な貢献をされているようである。学術書ならこれで良いと思うのだが、新書として我々のような一般人が読むには、もう少し熟れていたほうが嬉しい。非常に興味がある事象についての著作だけに、本当に惜しい。(11/6)

004/230
臨床」柚月裕子
著者のデビュー作であり、“このミス大賞”の受賞作でもある。この作品と“屋上ミサイル”が大賞のダブル受賞になったとは信じられない。あまりにできに差がありすぎると思うのは私だけだろうか。まぁ、推理小説に特殊能力者を登場させるのは、“禁じ手”でもあるのだが、途中から真犯人の予想がつくので、謎解きと言うより、どうやってその謎にたどり着くかというストリーテリングが十分に楽しめる。最近は“法廷もの”の秀作を発表し続けており、デビュー作からその片鱗が垣間見える。(11/9)

005/231
サブタイトルに“本を読んだくらいで人生が変わるわけがない!”と書かれているが、まさにその通り。読んだだけでは変わらない。読んで実行して、それがくせになって初めて自分を変えていくことができる。あらゆるノウハウ本は、“結果としてこうなった”と言うことが書かれているわけで、“必ずこうなる”とは書かれていない。実行、実践。(11/10)

006/232
九日間の女王さま」カーリン ブラッドフォード、訳石井 美樹
16世紀、エリザベス1世の前の前の女王であったジェーン・グレイの物語。幼い頃から政治的な陰謀の渦に巻き込まれ、15歳でイングランド王位を継承し、わずか9日後に、次の女王となったメアリー1世擁立派によって廃位、幽閉されのち斬首刑にされた。16歳であった。浅学にして、このような歴史があったことすら知らなかったが、来年日本で舞台化されるというニュースを見て、彼女をテーマにした小説を探したところ、唯一見つかったのがこの本である。児童書なのだが、翻訳がそれほどこなれていなくて、中学生以上でないと難しいかなと思う。英語ではこれ以外にも出版されているようなので、ちょっと読んでみたい。(11/10)

007/233
タイトルの付け方がどうも合っていないようで、少し違和感。過去に友人を死に追いやるという“罪の意識”から、心の一方を閉ざしてしまった主人公が、逃げ場にしていた環境を抜け出し、新たな境地に旅立つまでの物語。まぁ、可も無く不可も無くと言ったところでしょうか。(11/16)

008/234
お友達からお願いします」三浦しをん
今や超売れっ子作家のエッセイ集。彼女のエッセイはとにかく面白い。毎週のように新聞雑誌に連載されていたようであるが、よくまぁこれほどネタが続く物だと感心する。さすが。(11/16)

009/235
孔子伝」白川静
読み始めから一年近く掛かってしまった。内容はあまりに高尚で、かなり上級の研究者向け。とにかく孔子に関するあらゆる文献から、孔子という人物を浮かび上がらせようという気の遠くなるような作業を一冊の本意まとめた物で、半端な覚悟で読み始めるのはお薦めできない。(11/18)

010/236
二流小説家」ディヴィッド・ゴードン
デビュー作だそうで、国内のミステリ各賞の外国小説部門で高い評価を得ていたこともあって、楽しみに読んだのだが。はっきり言って期待はずれ。仕方なく最後まで読み通したが、かなりの労力を要した。なんで、こんな小説が、そんなに高い評価を受けたのだろうか。判らない。(11/19)

011/237
侏儒の言葉」芥川龍之介
初めて読んだ電子書籍。芥川龍之介が“文藝春秋”の巻頭に書いていた箴言集。かなりきわどい文章もあり当局からも結構睨まれていたようである。特に彼自身の思想を反映した物ではないと言うことであるが、政治だけでなく恋愛や結婚についても題材にしているなど、面白い読み物になっている。(11/21)

012/238
戦争論」坂口安吾
これまた電子書籍で読んだもの。戦後すぐに書かれた物で、かつての戦争には功罪があったと大胆に断定している。しかしながら、“核兵器”という大量殺戮兵器が生まれて後は明らかに戦争には悪だけが残ったとしている。これからの戦争は、如何に兵器、兵力を使用しないかと言うことがポイントになってくるだろう。(11/22)

013/239
悲しい日本人」田麗玉
とんでもない本。どこで見つけてこんな本を読む羽目になったのか定かではないが、韓国のジャーナリストが日本と日本人について先入観と悪意を持って罵詈雑言を浴びせるという信じられない内容。今から約20年前に書かれたそうであるが、当時もこれほど日韓関係というのは悪かっただろうか。それにしても“幸せになってはいけない民族”ってどういうことだ。ひょっとしたら翻訳者が悪いのかもしれないが、それにしても自分は日本でも韓国流を押しつけて、廻りが理解しないと低脳呼ばわりし、日本人が日本流でやろうとすると、国際化できない田舎者呼ばわりするその感覚が理解できない。ひどい本だった。(11/23)

014/240
疾風ロンド」東野圭吾
書き下ろしでいきなり文庫化。雪山を舞台に繰り広げられるある種のドタバタ劇。雪山の描写は見事なんだけれど、内容がどうも。登場人物がえらく薄っぺらで、現実感に乏しく、話の展開もかなり強引。少し手を抜いてしまったのかしら。(11/24)

015/241
今年世界遺産に登録された富士山の成り立ちについて、写真や図を使って解説した本で、富士山のガイドブックも兼ねている。とても具体的で判りやすく、写真も綺麗なのだが、いかんせん、あちらこちらを参照しながら読む必要があり、常に何箇所かに指を挟みつつ、読まなければならないのが少し大変。面倒くさいったらありゃしない。(11/26)

016/242
採用基準」伊賀泰代
世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼーで採用業務を担当していた著者が、同社で求められている人材について、“明かせる範囲”で書かれた物で、非常に示唆に富んだ内容となっている。同社が求める人材の条件として次の3つを挙げている。①リーダーシップを持っている、②いわゆる地頭力がある、③英語ができる。その中で日本人には①のリーダーシップを持っている人材が少ないことを大きく取り上げ、本の後半ではリーダーシップについての議論が中心になっている。本来なら、同社が持っているリーダーシップを研鑽するプログラムについても、言及して欲しいところであるが、さすがにそこは社外秘と言うことだろうか。読みやすくなかなか面白い本だった。(11/26)

017/243
道教百話」窪徳忠

以前から興味を持っていた道教について、何か初心者向けの本がないかと探している中で見つけた本で、道教の方術や倫理観について様々な書物から断章をまとめた物で、一つ一つが短く読みやすい内容になっている。この本が書かれたのは今から約25年前で、中国の現在の状況が反映されているとは思えないのであるが、台湾においては、ここに書かれているように民衆の間に今もなお、しっかりと息づいていることが感じられた。かつてキョンシーブームで、道士というとなにやらいかがわしい物のような印象を持っていたものだが、一つの宗教、道徳・倫理観の源として人々の間に生きており、まさに大いなる誤解であった。(11/30)

2013年11月10日日曜日

2013年10月

10月は19冊のうち小説が11冊、その他が8冊。ただ小説には上下巻になっていた物もあるので、実質は20冊となりましょうか。
小説では大好きな宮部みゆきの江戸時代物を2冊、今年話題になった“永遠の0”と“ホテルローヤル”も読みましたので、充実したラインナップかなと思います。特に宮部みゆきの2冊は何れも甲乙つけがたい出来映えで、さすがと思わせる充実ぶりです。
また、小説以外では、たまたま話題の“タモリ論”を読みましたが、それ以上に“里山資本主義”は面白かった。地域おこしに興味がある向きには是非とも一読をお勧めしたい。
おそらくここ数年の政治的な大テーマへの入門編として、“白熱講義 日本国憲法改正”もお薦めです。主権者として知っておかなければならないことが、わかりやく書いてあります。また、“歴史を考えるヒント”も、歴史マニアへの入門編としてお薦めです。視点としては、目からうろこ、だと思いますよ。

001/208
里山資本主義」藻谷浩介、NHK広島取材班
現在世界を席巻している“マネー資本主義”に対抗し、小さなコミュ二ティの中で循環する新たな資本主義を提唱する。NHKが特集番組を制作放送する中で見つけた様々な取り組みを紹介する。それらについて、“デフレの正体”で一躍檜舞台に出てきた著者が論評するスタイル。我々としても、是非こういった取り組みの芽を伸ばしていきたい。それこそが次の世代にとって、生きるヒントとなる。(10/3)

002/209
タモリ論」樋口毅宏
赤塚不二夫の告別式でのタモリの弔辞は今や伝説となっている。“笑っていいとも”をこよなく愛する著者による、タモリ、お笑い論。お笑いを評論することほど愚かなことは無いと言い切る著者によるお笑い論である。それにしても30年以上の長きにわたり、毎日生放送ができるタモリという芸人はすごい。(10/4)

003/210
夜の国のクーパー」伊坂幸太郎
比較的最近の書。昔のように無条件に楽しめない。どうにもとらえどころがない感じ。(10/6)

004/211
歴史を考えるヒント」網野義彦
“歴史”の“史”は“ふみ”であって、“文字”と同義語である。というのは高校時代の日本史の先生の台詞である。つまり文字を読み解くことが歴史学の基本である。ところが、単純に単語を追いかけていても、時代によってある言葉が表す概念に大きな違いがあり、それをしっかり認識していないと、まさに“歴史を読み誤る”ことに繋がる。歴史って面白い。(10/6)

005/212
電気料金はなぜ上がるのか」朝日新聞経済部
私たちが家庭で使っている電気は、自家発電でもない限りほとんどが地域の独占企業と契約し、定められた電気料金を支払っています。これまでその体系について全く興味を持ってこなかったところ、東日本大震災の影響で国内の原子力発電所が停止したことにより、各社が一斉に料金の値上げを申請してきた。このレポートはその値上げの構造について詳細に分析し、その不思議さを浮き彫りにしている。この消化不良感を解消できるのは、結局私たちの考え方一つである。(10/10)

006/213
その昔、井上靖が同様の題材で書かれた小説を読んだことがあったが、その小説とは国内へ戻ってきてからの光太夫の過ごし方が全く違って描かれている。これは、最近になってその頃の記録が見つかったためらしく、本作のほうが史実にはより近いそうである。学校の日本史の授業で習ったほんの一行の記述の裏に、大きな人間のドラマがあるという証である。(10/13)

007/214
桜ほうさら」宮部みゆき
出版された直後に買ったままになっていたのをようやく読むことができた。江戸時代を背景にこういった人情物を書かせたら、彼女の右に出る者はいない。全てのキャラクターが魅力的に描かれており、主人公達のほのかな恋が実ることを祈りたくなる。ちょっと長いが、気に入った一節を。人は目でものを見る。だが見たものを留めるのは心だ。人が生きるということは、目で見たものを心に留めていくことの積み重ねであり、心もそれによって育っていく。心がものを見ることに長けていく。目はものを見るだけだが、心は見たものを解釈する。その解釈が、時には目で見るものと食い違うことだって出てくるのだ。(10/14)

008/215
永遠の0」百田尚樹
大ベストセラーになってしまった小説を、ようやく読む気になった。確かにストーリー展開も巧みで、読みながら徐々に引き込まれていき、気がつけばあの長さを一息に読んでしまう。ラストの数章もとても感動的で、素晴らしいできの小説であった。ただ私にとっては、描かれている人物がやや極端であまりに濃いキャラになっているため、そのたびにふと鼻白んでしまう。でもこのキャラ付けがあるからこの小説は映えるのか。そこはよく判らない。(10/14)

009/216
今静かに盛り上がってる憲法改正について、私が疑問に思っていることを端的に著してくれていて、とても判りやすい。憲法という物は本来権力を縛るための物で、本書にも書かれているとおり“●●を守ろうというスローガンは“●●を守らせようというのが正しい。いろいろ議論が分かれる部分も、現在のように曖昧に書かれているため、権力による恣意的な解釈がまかり通るのであって、その甘さ締める意味でも憲法改正は避けて通れない。至極まっとうな意見だと思う。そのためにも、現政権党が提案している改正案には問題ある記述が多く、しっかりと議論しなければいけない。この本は護憲派にも改憲派にもお薦めです。(10/15)

010/217
奇跡と言われた日本航空の再建を成し遂げた稲盛氏の3年間に及ぶ奮闘の日々をコンパクトにまとめた物で、彼の最後のご奉公の様子がよく判る。彼にとって悲劇だったのは、せっかく事を成し遂げたにも関わらず、直後に政権が変わってしまい、その後の正当な評価がなされなかったことである。もちろん、稲盛氏自身はそんなこと歯牙にも掛けないだろうが、残念なことである。(10/18)

011/218
女神のタクト」塩田武士
なぜかタイトルと表紙の絵に惹かれてつい読む気になってしまった。タッチは軽妙で書きっぷりに深刻さはみじんも感じられない。キャラクターもそれに合わせてかなりぶっ飛んでいるが違和感はない。ストーリー展開もキャラもかなり軽いのだが、それでいて深い感動を読み手に与えてくれる。音楽の素晴らしさを文字で伝えるのは、ほとんど至難の業だと思うのだが、それにもこの作者は果敢に挑戦し成功している。なかなか面白い作家もいたものである、(10/19)

012/219
愛について」白岩玄
訳あって、彼の書いた本は全て読むようにしている。この短編集には現在の自分が抱えている愛についての疑問や煩悶について悩む主人公達の物語が収められている。“愛”と言う物の定義が定まっていないことで、人は思い悩む。“若い”というのはその定義を見つけるために思い悩む時期の只中にいるということかもしれない。結局正しい定義などなく、自分の“愛の形”を決めることで、人はひとつ次の段階へ移る。(10/19)

013/220
ホテルローヤル」桜木紫乃
直木賞の受賞作、確かに面よく書けている。ホテルローヤルという田舎のラブホテルを軸に、時代も主人公も全く違うショートストリーを集めた物。よく書けているし、作者の生まれ育った環境が、作品に反映されているということで注目も集めているようである。でも、直木賞かなぁ。少し不思議。(10/20)

014/221
警官倶楽部」大倉嵩裕
警察マニアのグループが本物の犯罪に巻き込まれ、それをマニアの組織力で打破していく物語。あまりにはちゃめちゃでリアリティには欠ける。まぁ、マニア向けと言うことで。(10/20)

015/222
茶話」薄田泣菫
明治期の名コラムニストの作品集。内外の著名人にまつわるエピソードをユーモアたっぷりに紹介する。どこまでが本当かさっぱり判らないが、一つ一つの話が短くて読みやすいので、ついつい読みふけってしまう。(10/22)

016/223
いつもながらこのシリーズには、人間の心の奥底にある闇の部分を浮かび上がらせ、私たちの心胆を凍え上がらせる怪談話が満載である。お化けや幽霊ではなく、人間が最も恐ろしいと言うことを改めて気づかせる。何度でも言うけど、本当にこの手の話を書かせたら、彼女の右に出る者はいない。この先100話まで、是非とも続けて欲しい、(10/26

017/224
反乱のボヤージュ」野沢尚
何気に図書館で見つけて借りてきたのだが、確かこの作者は江戸川乱歩賞でデビューしたはず。今作は打って変わって、大学の学生寮を舞台にした青春ストーリー。とはいえ、主たる登場人物は学生だけではなく、この寮を閉鎖に追い込むため大学当局が送り込んだ元警察官の舎監。大学に自治を守るために寮生達が繰り広げる闘いを描く。学生達のへたれぶりに思わず共感。(10/27)

018/225
中国台頭の終焉」津上俊哉
内容は素晴らしいのだが、何とも読みにくい本で、途中で数ヶ月空いてしまい、かなり長く掛かってしまった。まだまだ続くと信じられていた中国の成長が止まりつつある。強すぎる官と出生率の低下が大きな足かせとなって、成長が鈍化し、GDPでアメリカを追い抜くことは絶対にないと言い切る。おそらく普通に自由な競争がある社会であれば、人口が最大の国の経済力が最大になることに疑いはないだろう。おそらく著者の予測は正しい。と私も思う。(10/27)

019/226
聖なる怠け者の冒険」森見登美彦

元は新聞の連載小説だったらしいが、これを新聞連載で読むのは相当に辛かったろうと思わせる。現に作者も書籍化に当たって、相当に手を加えたと書いているところであるが、それでも小説としての完成度はいかがなものだろうか。京都を舞台に書かれているということで、好意的には読みたいところであるが、かなり辛い。(10/30)

2013年10月6日日曜日

2013年9月

先月は休日も多く、本を読む時間もたっぷりとれたので、22冊の本を余裕で読むことができました。うち12冊が小説、それ以外は10冊。
小説では、柚月裕子、大倉崇裕の本が2冊ずつ。初めて手にした作家でしたが、とてもおもしろく他の作品にも手を伸ばしたいと思います。それ以上におもしろかったのが東野圭吾の新作。いわゆる加賀恭一郎シリーズなのですが、とにかくおもしろい、お薦めです。
小説以外では、古典の岩波新書を何冊か読みましたが、特に“人間と政治”は戦後の社会情勢が読み取れるとても興味深い本でした。今も失ってはならない視点が満載です。

001/186
“チャイナナイン”の著者による中国本。今作ではなかなか理解し得ない日中両国について、そもそものボタンの掛け違えである“ヤルタ会談”“ポツダム宣言”に立ち返り、中国側の不合理や大国主義、ひょっとするとこれこそが帝国主義なのではなかろうか、について丁寧に書かれている。この原点が、しっかり理解できないと、この“噛み合わない日中の歯車”は永遠に噛み合うことが無いのではなかろうか。(9/1)

002/187
検事の本懐」柚月裕子
裏切られてばかりの“このミスシリーズ”ということで、さほど期待もせずに読んだのだが、それが何と結果的には大当たり。とてもおもしろい小説でした。主人公は見た目ぱっとしないものの、正義感溢れる検事、佐方。彼を主人公にした推理小説、ミステリではなく、正統派の社会小説で、5つの短編からなっている。今、この続編が新刊で店頭に並んでいるが、是非手にしたい一冊である。(9/3)

003/188
人間と政治」南原繁
戦後の東京帝国大学総長を務めた著者の講演録。そのほとんどは同大学の卒業式に当たって、学生向けに語った物であるが、時の政治情勢を反映し、幾多の命を犠牲にしてようやく手にした平和の維持。その後突然あらわになったと東西両陣営の対立へ危惧、朝鮮戦争。アメリカ帝国主義陣営への加担と再軍備への懸念など、現在の政治・社会においてもしっかり考えなければならない事柄について、明確なメッセージを世に語りかけるものとなっている。(9/4)

004/189
20世紀の初め、中国で出版された本の解説書らしい。厚黒学とは、『恥を恥と思わない面の皮の厚さ、権謀術数に長けた腹黒さ』と言う意味だそうで、そうでなれば社会では勝者となり得ない。というのがこの書物の主張です。それを手がかりに中国古典の英雄を評価しています。まぁ、これもトンでも本の一種だろうか。守屋先生がこんな本に肩入れしていいのか?(9/7)

005/190
没後15年。まだなお様々な影響力を持ち続ける作家です。そんな彼が1960年代に少年少女雑誌やPR雑誌に書いた作品の中から、単行本に収録されてない作品を選んで収録した物。子供向けに書かれた小説などは、大人にはやや物足りないものの、大胆に30年、40年後の世界を描いてみたりと、なかなかにおもしろい。さらに巻末には嬉しいサプライズも用意されている。でも私はこれをもらう資格があるのだろうか。少々検証してみる必要がある。(9/8)

006/191
毎日新聞の記者がアフガンへの従軍取材を通じて見聞きしたアメリが軍の病巣を描いたルポルタージュ。大義無いままに始まった戦争は、すでに泥沼化し、どうやって終わらせるのか、その手立てを探す術は残念ながら見つからない。そして今また、次なるターゲットシリアへの派兵が秒読み段階となっている。大丈夫なのか。(9/8)

007/192
人類哲学序説」梅原猛
日本の人類哲学は「草木国土悉皆成仏」であるというのが梅原説。そしてそれは渡来仏教ではなく、日本固有の神道にその淵源があるとのこと。近代科学の基礎となったデカルトの思想を批判し、「草木国土悉皆成仏」の考えこそがこれからの人類の生きる道はである。おそらくその方向は間違いなく正しい。でもその淵源が神道にあるというのはいかがなものか。大きな実りや災いをもたらす大自然こそが当時の一般人の畏敬の大賞であったというのはまちがいないだろうが、それは神道ではない。神道というもののとらえ方が私とはかなり違う。(9/14)

008/193
ぼくの考古古代学」森浩一
先日亡くなった森先生の講演録を含む考古学エッセイ。縄文人を原始人と呼ばず、非常に高度な文明を持った民であったことを力説する。実際彼らが作った銅鐸を現在の技術ではまだ復元できないそうである。そしてまた新しい試みとして“地域学”の提唱をされている。まだまだ活躍して頂きたい学者であった。(9/15)

009/194
祈りの幕が下りる時」東野圭吾
東野圭吾の最新作は加賀恭一郎シリーズの新作、しかも書き下ろし。今やガリレオシリーズと並ぶ二枚看板だが、主人公の魅力といいストーリー展開といい、こちらの方が数段おもしろい。今作では、殺人事件捜査の過程で主人公加賀と母親との過去の謎が明らかになる。あっと驚く展開で最後まで息つく間もない。おもしろいです。(9/15)

010/195
隠蔽捜査5 宰領」今野敏
こちらもシリーズ物で番外編を入れると6作目になり、“隠蔽捜査”というメインタイトルは今や全く意味をなさない。リーダーたる者かくありたいと願う。(9/15)

011/196
強い会社の教科書」小山昇
二度にわたって日本経営品質賞を受賞した武蔵野の社長の著書。中小企業経営についての社長の心得を説いたもの。なかなかの傑物。(9/16)

012/197
バチスタシリーズのうちの一冊。ここでは医師一年生のジェネラルルージュ速水が登場する。この作品群では、生々しい医療政策の話題は比較的少なく、純粋なメディカルノヴェルとして楽しめる。(9/16)

013/198
ようこそ、我が家へ」池井戸潤
著者が直木賞を受賞した頃に雑誌に連載していた作品。鳴り物入りで文庫化された物。物語は銀行から中小企業へ出向をしている主人公を中心に、職場と家庭で同時進行する不正や犯罪を描くサスペンス調の作品になっている。元々江戸川乱歩賞でデビューした作家であり、ページをめくる手を止めることがないよう上手く書かれている。世の中の不正義に立ち向かう勇気のない小市民である我々には胸が痛い。(9/21)

014/199
最後の証人」柚月裕子
期待はずれが多い“このミス大賞シリーズ”の中では、出色の作家。派手さは全くなく、真摯に食味に忠実であろうとする“ヤメ”検弁護士の主人公がとても魅力的に描かれている。本作はこの主人公が登場するシリーズの一作目として書かれ、その後、それ以前の検事時代のエピソードを集めた短編集(先月読みました)と最近続編が出版されている。結構おもしろいです。(9/22)

015/200
井上ひさしと考える日本の農業」井上ひさし(山下惣一編)
今年200冊目は、井上ひさしが農業、コメについて語った文章を集めたもの。ウルグアイラウンドでの貿易交渉の中でコメが生け贄に出されたことに怒り、農業を守ることは日本の文化を守ることだと言い切る。そして今、時代はTPPへと向かう。議論は尽くされたのだろうか。泉下の井上はどう考えているだろうか。(9/22)

016/201
プライド」真山仁
生きていく上でのプライドとは、矜持とは。社会で生きていく上で決して失ってはいけないものをテーマに書かれた短編集。それぞれの作品には全く関連性はないが、それぞれの主人公が考える真摯な生き方について、筆は進む。ただ一編だけ、政治家を主人公とした一作については、さっぱり意味がわからない。だれのどこにプライドの欠片を感じるというのか。疑問。(9/23)

017/202
僕僕少年」仁木英之
内容は全く関係ないにも関わらず、タイトルを著者の人気シリーズに合わせて改題して出版するという暴挙。登場人物もあまりに薄っぺらくてがっかりする。(9/23)

018/203
単なる英語本か思いきや、英語のテキストはほとんど無く、外国人とのビジネス上の交渉のための姿勢や考え方を説いた物で、非常に参考になる。いわば英語による交渉術の本なのだが、その神髄は日本人通しの交渉でも十分に通用するスタンダード。ここで提示されているいくつかのフレームワークは使える。(9/23)

019/204
日本美の再発見」ブルーノ・タウト 、篠田 英雄訳
桂離宮を再評価したブルーノ・タウトの有名すぎる著書。多分に翻訳者の言葉の選び方に読者の受ける印象が左右されるのであるが、彼が、日本旧来の洗練されていない形に対して高い評価を与えていたことには疑いがない。それ以外の近代の形は全ていかものである。(9/27)

020/205
ソクラテスやプラトンなどお堅い哲学者を題材にした小編集。途中までは作者の注書きがおもしろかったのだが、最後の方になると少々息切れしてきたのは残念。(9/28)

021/206
福家警部補の挨拶」大倉 崇裕
(9/29)
022/207
福家警部補の再訪」大倉 崇裕
(9/29)

この二作については、手を抜いて一度で済ませて頂きます。見た目は冴えない女性警部補が、鋭い推理と雑学を駆使して犯人を追い詰める倒叙スタイルのミステリー。先に犯行の全貌が明らかにされ、話が展開する様は、著者が愛して止まない刑事コロンボのスタイルで、これに成功した数少ない傑作と言える。また古畑任三郎スタイルとも。当然のことながら映像化にはぴったりの題材であり、おそらくその日も近いのではないか。

2013年9月1日日曜日

2013年8月

8月は計27冊。うち小説が17冊、それ以外が10冊という内訳でした。
小説は古いものが多く、久しぶりに井上ひさしの小説を読み返すことが、マイブームになっています。『一週間』はとてもおもしろかったです。また、マイクル・クライトンやフィリップ・カーといった外国のなつかしい作家の本もたまたま見かけて読むことができました。それ以外の本では、特に岩波新書の復刻版をまとめ買いした関係で、それが散見されます。現在に古典として残っている書籍は、時代の評価をくぐり抜けてきているだけに、読み応えのある物が多い。『日本人の心理』『零の発見』何れもおもしろかったです。

001/160
人生七転び八起きというが、この本はまさに身体的な転倒を予防するためのノウハウを詰め込んだ書籍である。施設に入所している父もこの春から室内で転倒することが増えてきて、この本に描かれているとおり、一度転倒すると“これでおしまい”と思ってしまうようで、前向きな考え方がとれなくなってしまっている。父のこともさりながら、我が身の行く末も考えていきたい。(8/2)

002/161
殺意は必ず三度ある」東川篤哉
作者にとって何作かのシリーズ物のひとつ。相当に大げさなトリックで、どうにも実現性に乏しい。まぁ、これくらい突き抜けて荒唐無稽な方が、かえって良いのかも。(8/3)

003/162
これまた人気シリーズの3作目。時間つぶしに読むにはお手頃かも。(8/4)

004/163
舞姫通信」重松清
最近は、家族の情愛を描いた作品が多く、いずれも読み応えのある著書をものにする著者の、本格的に作家になる前の初期の作品。若い人の自殺を取り扱った作品で、読んでいてもお腹の底の方に何か黒くて思い物がずっしりと腰を据えているような感覚を覚える。一組の共振する魂、生命の一方が失われてしまったとき、残されたもう一方の魂、生命は生きているのか、それとも同時に失われてしまったのか。重い。重すぎる。(8/4)

005/164
この夏公開の映画の小説化と言うことでちょいと買って読んでみた。読んでしまったので、映画を観ようという気にはならなくなった。まぁ、元から無いけど。(8/6)

006/165
ヴェトナム新時代といいながら、過去の社会主義革命、ヴェトナム戦争の歴史が記述の大半で、新時代に関する記述はほとんど無い。従ってタイトルには反するが、現在のヴェトナムを理解するために歴史を学ぼうとする向きには、非常に有用な著書である。私もこの本を読むまで、中国との微妙な関係や、ヴェトナム人の国民性について、しっかりと理解できなかったであろう。また、革命の英雄であるホー・チミンが、共産主義者ではなく居和国主義者であったという指摘には驚く祖国の独立のためなら、毒でも食らおうというというところであろうか。(8/7)

007/166
数十年前までは、日本における一般的な家庭であったはずの磯野家も、今となっては非常に珍しい大家族である。ああいった家族が姿を消し、将来には悲観的な見通しだけが大声で語られる。何処で道を誤ったのだろうか。(8/8)

008/167
チョコレートの町」飛鳥井千砂
故郷を離れて都会で暮らす主人公が、偶然に故郷に戻ることになって、故郷を再評価する物語。こうやって、故郷を離れている身にとって、どう感じるか楽しみにしていたのだが、実のところ、故郷とはいえ、実家にはすでに人はなくなっていると、故郷への思いもかなり複雑である。(8/9)

009/168
東慶寺花だより」井上ひさし
東慶寺と言えば縁切寺、どうやら縁切り寺に駆け込むにも、いろいろな取り決めがあったようである。物語は1年間ほどのはずが、10年間にわたって雑誌に掲載されていたため、最初と最後で主人公の性格が変わっているのはご愛敬か。(8/10)

010/169
ぼくのマンガ人生」手塚治虫
手塚治虫の自伝なのだが、実態は書かれた物ではなく、講演内容を本にまとめた物。従ってとても読みやすいのだが、内容的には深みを欠いている。“生命の尊厳”をテーマに数多くの作品を生み出した日本最高の漫画家であるが、その無理がたたって、60歳の若さでなくなっている。本当に残念である。またこの本が世に出た15年以上前に現代の“クールジャパン”、世界での“MANGA”ブームを預言している。(8/10)

011/170
にぎやかな部屋」星新一
とある事務所の一室を舞台に、人間と幽霊が繰り広げるある種のドタバタ劇。星新一の本は全部読んでいるはずなのだが、この本については記憶が定かでは無い。こんな小説あっただろうか。ひょっとして、読み残しだろうか。最近、書籍化されていない小説がいくつか見つかったそうで、今月中に出版されるらしい。非常に楽しみである。(8/10)

012/171
幕末に紀州徳川家から江戸に一年間単身赴任を命じられた酒井伴四郎という下級武士の、いわば食いしん坊日記。自ら包丁の腕を振るったりとなかなかの奮闘ぶりである。当時の諸物価や一般庶民の食文化が垣間見えて、なかなかおもしろい。惜しむらくは、著者が原著から直接に取り上げたのではなく、他の研究者が欠いた解説本をネタ本にしているため、何処までが著者の見解なのかが判然としない。(8/14)

013/172
アンドロメダ病原体」マイクル・クライトン
彼のデビュー作なのであるが、なぜかこれまで手にできていなかった。著者の創作であるはずが、読み続けるうちに、ひょっとしてこれは実話なのでは、と思わせるくらい細部まで行き届いた描写がされている。未だ読んでいない他の作品もさっさと読んでしまおう。(8/15)

014/173
2011年の新書大賞となった本をようやく今にして読むことができた。タイトルを見ただけでは、もっとお堅い専門書の類いかと思ったのだが、出版社がどちらかというと大衆迎合型の幻冬舎というだけあって、そこまで専門性は高くない。逆にこのミスマッチがこれだけ高品質の書籍に繋がったのだろう。(8/16)

015/174
童子の輪舞曲」二木英之
僕僕シリーズの番外編。いわゆるスピンオフ短編を集めた物。その中では、最後に収められている“福毛”が秀逸。物語を現代に投射して、二人の主人公の深い深い縁を描いている。なかなか良い短編に仕上がっています。ただ、このシリーズの読者しかしらない前提があるので、単体では読んでいる人にはさっぱり判らないだろうね。 (8/17)

016/175
人気シリーズの第4作目、しかも4作目にして初の長編。それとは知らずに読んだので、少々驚いたが、長編と言うより短編を無理につなげた感もなきにしもあらず。ただ、最後のエピローグは蛇足ではないか。作中で明らかにできなかった謎を説明するために無理矢理にこじつけたような感じ。(8/17)

017/176
心を整える」長谷部誠
サッカー日本代表の著者が書いてベストセラーになった物。今回初めて手にした。所詮スポーツ選手が書いた本という先入観をもって読むとその内容の豊かさに衝撃を受ける。欠かれている内容に所々矛盾があったりするのだが、それほど気にはならない。自分を高めるために、自分を律することを旨とし、忙しい中で読書に時間を掛け、書籍の中から、これはと思う文を書き留めるノートをつけたりと、その努力には恐れ入る。ここぞという時のメンタルの強さの淵源を見たような気になる。(8/17

018/177
ガソリン生活」伊坂幸太郎
いかにも伊坂らしい筆運びの長編小説。車が意思を持って、言葉を交わしているという設定が何ともシュール。主人公家族の愛車が語り手となって、ストーリーを展開していく。この設定だと、なかなか展開が難しいだろうというところも、上手くこなしており、なかなかの秀作である。久しぶりに良かった。(8/18

019/178
輝天炎上」海堂尊
バチスタシリーズの最終刊になるのだろうか?シリーズの裏側で展開されている影のストーリーを小説にするという、あまり見たことのない手法。ただ、この小説の主人公となっている双子姉妹の怨念があまりに強烈すぎて、読みながらも思わず引いてしまう。ちょいと極端に描きすぎではなかろうか。どうも“このミス”シリーズの小説は、同様の傾向が強いように思われる。(8/18)

020/179
一週間」井上ひさし
井上ひさしの最後の頃の作品。終戦直後のシベリアでの日本人の収容所生活を描いた物で、主人公が知恵を働かせつつ、収容所を脱出して日本へ帰ろうとした一週間を章題にした物語。一日ごとに大きなドラマが生まれ、絶体絶命のピンチもいろいろな人のおかげで乗り越えていく。あと少しと思ったところで,意表を突くような展開になるのは、“吉里吉里人”を彷彿とさせる。それにしても当時の収容所生活の様子がとても微に入り細に入り廟指されているが、それもそのはず、50数冊の書籍がこの本の参考文献としてあげられている。恐るべし。 (8/24)

021/180
茶の世界史」角山栄
日本茶の歴史を勉強しようと手にした本で、1980年の初版から版を重ねること35版。それだけ読み続けられていると言うこと。緑茶が日本の主要輸出品であったのは、明治維新後の本のわずかの間だけであったそうだが、その存在がヨーロッパ諸国に知られたのは、16世紀と言われている。当時はまだ紅茶という物も存在せず、西欧でお茶と言えば緑茶を指していた。さらに日本茶は、ある種の精神文化をともなって紹介されていたらしく、その時にうまくすれば、世界の茶の歴史も大きく変わっていたのではないか。そして、今再びお茶を世界へ売り出そうと頑張っています。(8/24)

022/181
変わらざるもの」フィリップ・カー
久しぶりに目にした作家。彼のベルリン三部作は、在独時代にとても興味深く読んでいたものである。その主人公が再び帰ってきたと言うことで、早速読んでみた。ただし翻訳者が違うと小説のリズムもかなり違って感じられる物である。なれるまで少し掛かるかな。(8/25)

023/182
地層調査」佐々木譲
刊行年を見てみると、ちょうど直木賞を受賞した直後の作品。新境地に挑む気概が見え隠れするが、少し空回りかな。何かもやっとした消化不良感が残る。(8/28)

024/183
日本人の心理」南博
1953年と言うから、戦後すぐに書かれた日本人論。まさに日本人の集団心理を的確に著している。“足らないことを喜ぶ”“不幸を糧にする”“異常な精神主義”現代でもあちらこちらに見える不思議な考え方である。決してそれを否定するものではないが、他の考え方を認めない頑なさが一緒になると手がつけられない。今読んでも“あるある”と思わず膝を打つような内容の本である。50の版を重ねるのも納得。(8/28)

025//184
零の発見」吉田洋一
これまた岩波新書の古典的名作である。なんと107刷目。中には表題作の他にもう一編収められているが、文系の私にも判りやすかった“零の発見”に比してもう一編の“直線を切る”は少々難解で、手こずったが何とか読みおせた。(8/29)

026/185
眼鏡屋は消えた」山田彩人
2010年の鮎川哲也賞の受賞作。初めて手にした作者であるが、巻末の選評にもあるとおり、好悪は分かれるところである。謎解き役の探偵が推理推論を展開する際の論拠はあまりに薄弱で、これでいいのか!という突っ込みどころは満載。まぁそれを補ってあまりある表現の軽妙さが受けたのではなかろうか。(8/31)

027/186
極北ラソディ」海堂尊

バチスタシリーズのさらに極北シリーズ。今作では地域医療の崩壊と、ドクターヘリについて取り上げられている。現職の医師らしい斬新な視点での作品。そろそろこのシリーズも終焉である。(8/31)

2013年8月4日日曜日

2013年7月

 今月はついに10冊までダウンしてしまいました。あまりまとまって本を読む時間がとれない一月でした。
 内訳は小説が4冊、その他が6冊となっていますが、うち小説には2組、上下巻となった物があったので、冊数で言えば計12冊となります。
 小説では、最近話題の百田さんの本を初めて読みました。テレビの構成作家らしく、盛り上げどころを知っているという印象を受けました。また、別の作品も読んでみたいと思います。マイクル・クライトンの新作が二度と読めないのは本当に残念です。私の中では、外れがない、絶対裏切られることがない作家の一人です。
 小説以外では、“酒”に関する本が3冊あります。その中では半世紀以上前に書かれた“日本の酒”という本に感銘を受けました。図書館で借りて読んだのですが、できれば手元に置いておきたい、そんな本です。

001/130
信長の城」千田嘉博
織田信長は生涯にいくつかの城を作ったが、それは当時の常識を覆す画期的な城でした。その集大成が安土城となるわけですが、実はこの城の全容は未だ解明されていません。著者は、現在の通説に対して異説を唱えており、読むだけで夢が膨らむ。願わくは、素人にも判りやすく図版をもう少し増やしてくれればありがたかったかな。(7/9)

002/151
私だけのふるさと作家たちの原風景」毎日新聞夕刊編集部、 須飼 秀和
毎日新聞に4年に渡って連載された200編の中からの選りすぐりの40編です。生まれた土地、幼少期、学生時代を過ごした土地など思いの先は様々である。故郷のよさは一度離れて相対化しないと見えてこない、故郷の悪口は気兼ねなく言える。挿絵もすばらしいです。 (7/10)

003/152
マイクロワールド(上)(下)」マイクル・クライトン、リチャード・ブレストン
彼の遺作の一つである。とにかく何を書かせてもおもしろく、これまでに書かれた作品に外れは一つも無い希有な作家。それだけに惜しまれる。この作品はクライトンの原稿と原案に、他の作家が手を加えた物で、クライトンのオリジナルとは言えないかもしれないが、この着想は彼ならではの独創性に溢れる作品です。(7/13)

004/153
日本の酒」坂口謹一郎
半世紀前に書かれた日本のお酒に関する著書で、当初岩波新書で出された物が近年岩波文庫で復刻されたという珍しい本である。日本酒の製造方法を詳しく説明するほか、その味の秘密についても詳しい。最近のほんの様に上っ面の評であるとか、無味乾燥の文章とは違い情緒溢れる文章は、何度も読み返したい。(7/14)

005/154
夢を売る男」百田尚樹
話題の作家の本を初めて手に取る。これまで作品ごとに全く違ったジャンルで書かれていたようで、これ一冊で評価することはできないと思うが、これだけ文学界や出版業界をこき下ろす本を出版しようという根性がたいした物である。次はどれを読んでみようか。(7/15)

006/155
ビール会社の社員が書いたビールに関する蘊蓄。印象はそれほど、、、(7/16)

007/156
彼女の新シリーズなのだが、“しゃばけ”シリーズとは人間の登場人物が違うだけ。後のモティーフはほぼ変わりなし。どうなんだろう、こんな作品を書く必要があったのだろうか。疑問。(7/20)

008/157
星新一のショートショートを題材にとったエッセイ集。かつて星が書いた未来の世界が、知らぬ間に実現してしまっていることを改めて知らされる。とりわけ、遺伝子や生命工学の世界での進歩が著しい。私たちが知らないうちに、どんどん謎が解明され、技術が進んでいく。気をつけないと、行き過ぎてしまうのではないかと心配になる。星も数多くの作品の中で警鐘を鳴らしていることを改めて実感する。(7/21)

009/158
天佑なり(上)(下)」幸田真音
最近脚光を浴びている高橋是清についての一代記。ブームに乗って、誰かが彼を題材に小説を書いているだろうと思っていたにもかかわらず、ほとんど書かれていなかったことに驚いていたところ、幸田の作品が出ると言うことで楽しみにしていた。以前、何かの本の感想でも書いたことだが、デビュー作以上の作品がなかなか書かれない非常に残念な作家のままである。題材としてはおもしろいと思うのだが、どうもそれを活かせていないように思う、残念。(7/28)

010/159
これも、日本酒に関する蘊蓄本で、酒蔵(地方の酒蔵、大手酒造メーカー)、酒販店、居酒屋など酒に関わる様々な業態で働く人物に対し、それぞれが日本酒について思うことをインタービューして語らせている。また、現在の日本酒の衰退には、それぞれが大きな責任があるとし、その将来を憂いている。この本が書かれた10年前にくらべて、最悪のストーリーには至っていないが、それでも先行きは決して明るくない。この本の中では、行政の責任はほとんど触れられていない。それほど期待もされていないと言うことだろうか。何とか一矢を報いたい。(7/31)


2013年7月6日土曜日

2013年6月

6月は、小説が12冊、その他が8冊という割合になりました。
小説の中では、井上ひさしの遺作となった“一分ノ一”を読みました。実は彼の遺作は数作あって、何れもが連載中に病に倒れてしまわれました。その遺作達の中では、特に読み応えのある作品になっており、未完のままとなっていることが惜しまれます。
その他の本では折しも参議院選挙が始まりましたが、“政治的思考”と言う本をおもしろく読みました。昨今の政治への無関心、投票率低下について、「これは政治不信によるというより、政治過信によるものと行った方があるそうです。「誰に政治をさせても、これ以上悪くならないと、高をくくっているのではないか。そんなに政治家を信用して大丈夫なのか」と言う趣旨だそうです。
自分だけでなく、自分の子供達、孫世代のためにも、しっかりと成熟した大人にならなければいけませんね。

001/110
骸の爪」道尾秀介
これはオカルト推理小説?まぁ、この方面へ進まなくて良かったねと思えるような一冊。(6/1)

002/111
ケルベロスの肖像」海堂尊
長く続いた“チームバチスタ”シリーズの完結作になるのかな。最初の三作はおもしろかったけれど、著者がAiの導入にどっぷりとはまり込み、全ての作品がその一点に集約するようになってからは、何かにとりつかれたような執念すら感じさせる。彼にとっては全てを書けるだけの値打ちがあることなのだろうが、もう少し物語に広がりがあったほうが、よりおもしろいと思うのだが。(6/1)

003/112
もう少しおもしろい内容かと期待して読んだのだけど、若干期待はずれ。神饌料理からスタートするのは良いのだけれど、その後武家の本膳料理や有職料理の成立過程に触れられておらず、懐石料理についても記述が少ない。できれば書物に表れない庶民が口にした食物についても知りたかった。唯一最終章で触れられた“魚肉ソーセージ”についての一考察はとても興味深く読めた。(6/2)

004/113
感情的にならないためには“曖昧さ”に対して肯定的になることが重要。○か×かの二者択一ではなく、その中間に問いの答えがあると思えることが、感情的にならないための秘訣である。言うは易く行うは難し。(6/2)

005/114
同名小説の続編。「人様のために」世間の悪を懲らしめているはずのおっさん達が、実はそのことによって、自らも助けられていると言うことに気づく。(6/3)

006/115
台湾」伊藤潔
台湾の歴史を概観したもので、発行は10数年前。さすがに内容はかなり古かったけれど、かつての国民党の独裁時代のことが詳しく書かれていて、読み応えがある一冊。(6/6)

007/116
若様組まいる」畠中恵
明治維新から20年後の東京を舞台にした、元旗本の若様達の物語。ミステリの要素もあってなかなか良くできている。しゃばけシリーズ以外はダメかと思っていたが、今作は結構いけている。(6/8)

008/117
玉磨き」三崎亜記
この著者の書く作品は、どこか架空の土地でありながら具体的などこかを指しているような不思議な感覚を呼び起こす。特に今の社会が持っている様々な問題を違う形であぶり出して私たちに提示してくれる。架空の世界の話と油断していたら、以外と身近な話であってどきっとしたりする。(6/8)

009/118
この著者の得意(?)なスプラッタ物で、凄惨な殺人事件を扱うミステリ。でも書き方がさっぱりしているせいか、それほど凄惨さを感じさせない。軽い感じで読めるので気に入っている。(6/9)

010/119
政治的思考」杉田敦
“政治”や“権力”に対して私が普段思っていることを、非常に端的に解説してくれている本で、書かれていることには大いに賛同できる。政治に対して嫌悪感を持っていたり、斜に構えている御仁には是非とも読んで欲しい。無関心を装うことが如何に無責任であるか、肝に銘じて欲しい。著者が別著から引用した文章が非常に印象深い。“権力を一方的に行使されているという考え方をやめ、権力過程の当事者であるという意識を持った時に、すなわち、責任者はどこか遠くにいるのではなく、今ここにいると気づいた時に、権力のあり方を変えるための一歩がふみ出されるのである。”(6/12)

011/120
震える牛」相場英雄
食品偽装や狂牛病などを盛り込んだ社会派のミステリ。ただ、これも警察内部の確執が大きなテーマとなって流れている。途中から筋が読めてしまうのだが、それ以上にドラマ生が高いことで、読み手を引きつけている。これも近日ドラマ化の予定だとか。(6/15)

012/121
ゲームの名は誘拐」東野圭吾
彼の10年ほど昔の著作。内容的にはそれほど古さは感じない。ただ、途中から筋が読めてしまうのは少々残念。力作という感じではないけど、秀作の部類だろう。(6/16)

013/122
確証」今野敏
ドラマの原作本。警察内部の確執が描かれているが、もし本当におんな有様だとすると、あまりに嘆かわしい。小説としてはおもしろいけど、最後の結末があまりにドタバタと描かれていて、なにやら消化不良な感じ。(6/16)

014/123
よくもまぁこんな大それたタイトルをつけたものと感心する。朝日進運の論説委員(執筆当時)だそうだが、どれほど素晴らしい本が書けても、自分ならとても恥ずかしくて、こんなタイトルはつけられない。内容的には?さすがにタイトル負けしているような。それでも続編が出ているというのがすごい。(6/22)

015/124
白隠-禅画の世界」芳澤勝弘
今年、ある人に教えられて白隠の書画の展覧会に行って、その迫力に圧倒され、買った物。著者は花園大学の先生で、当然僧籍にある方と思われる。禅の研究者というお立場のせいか、白隠が書いた書画に対して、様々な見方があるだろうと思うのだが、必要以上に自分解釈によるその“本意”を語ろうとするところが少々しつこい。禅の世界にたった一つの答えはあるのか。(6/23)

016/125
井上ひさしは好きなのである。初めて出会ったのは、我々世代なら当然“ひょっこりひょうたん島”。名作“吉里吉里人”“四千万歩の男“などなど、何れも名作であった。本書の中で誰かが語ったように、日本を代表する作家であった。ただ、そうした評価を嫌ったせいか、わざと品のない表現を取り入れたりすることがマイナスに響いたのだろう。いずれにせよ彼は、小説家であるとともに戯作者でもあり、小説の中に、それを彷彿させる表現が随所に見られた。彼の絶筆となった小説が出版されているが、それが4冊もあるというのが驚き。(6/23)

017/126
前作はやや軽いタッチで描かれていたのが、今作は重めのストリー展開で、完成度も高い。京都の地名があちらこちらに顔を出して、親しみも持てる。二作目が一作目を凌駕する希有な例と言える。(6/23)

018/127
くらべない幸せ」香山リカ
彼女の著作は結構共感を覚えながら読むことが多いのだが、今作は、明らかに女性をターゲットとしているせいか、最後の章にいたって、彼女らしくない、“男だから”、“女だから”という表現が出てきて驚きである。こんなところで性差を出してくるのはルール違反でしょう。「男性は比較的、『これでもない、あれでもない』と、もがき苦しむことなく、『これでいいのだ』と自分に満足しながら暮らしていきやすい」という決めつけは、違うのではないでしょうか。(6/23)

019/128
前に一度読んだ本を、またもや借りてしまった。コールドスリープに関する小説で、いつものメンバーが少しずつ顔を出す。まぁ、暇つぶしにはなります。(6/26)

020/129
一分ノ一(上)(下)」井上ひさし
著者の遺作の一つ。敗戦後分割統治された日本の四十年後を描いた小説。彼らしいユーモア溢れる文章の中に、国家のありようが問われている。もし完成していたら、“吉里吉里人”のような秀作になっていたかもしれない。彼の頭の中では、結末がどのように描かれていたのか、大変興味がある。(6/29)