休日が多かった5月は、小説が21冊、小説以外が9冊で、久しぶりに計30冊という結果になりました。
とはいえ、小説の内訳が『はなの味ごよみ』と『泣くな研修医』の両シリーズで8冊と、若干偏っているところですが、本屋大賞2025のノミネート作が4冊、初めての作家さんが4冊と結構健闘したかなと思いますが、小説でお薦めできる作品が少なくて、かなり悩んでしまいます。
唯一、続きを読みたいと思ったのは、海外ミステリの『金庫破りときどきスパイ』くらいでしょうか。ドイツとの関係がきな臭くなってきた時期のロンドンで、金庫破りを家業とする女性が、当局の罠にかかって、スパイとして働く羽目に。ところが、それがめっぽう気に入ってしまい、新たな家業となってしまう。結構面白かったです。第二次大戦前後を舞台にしたコージーミステリでは、『マギー・ホープ』、『英国王妃の事件ファイル
』、『ロンドン謎解き結婚相談所
』の各シリーズが好きで、それぞれ新刊が出るのを楽しみにしているのですが、このシリーズもちょいと読んでみようかなと思います。
小説に関しては、数を読んだ割には『合わなかった作品』が多かったですが、小説以外の書籍については、結構ヒットもありました。
順に挙げますと、まずは『絶望の林業』ですが、これは本当に面白かったです。政治の問題、従事者の問題、消費者の問題といくつかの視点から多角的に分析されていて、とても分かりやすかったです。結果的に希望ではなく絶望と言わざるを得なかったところに寂しさは感じますが、これも『我々が選んだ道』なんでしょうね。林業だけでなく、他の産業にも当てはまりそうな指摘が多く、とても勉強になりました。今月のイチ押しです。
続いては『武士にもの言う百姓たち』です。これは、江戸時代の訴訟について書かれた本ですが、虐げられる弱い立場にあったと考えられていた農民が、意外としっかり支配層である武士にもの申していたという事実を教えてくれます。以前から何度も書いていますが、私は『庶民の歴史』にとても興味がありまして、特に近世については資料が整理され分析が進んできたことから、我々にもわかりやすい書籍が数多く出版されています。目からうろこの歴史が発掘されてとても面白いです。私同様のマニアの方にお薦めします。
最後は、今なお信じる人がいるというトンデモ本の事件をレポートした『戦後最大の偽書事件 東日流外三郡誌』が良かったです。素人ならまだしも、専門の研修家まで騙されたというのが信じられません。騙された方にはたいへ大変申し訳ないですが、めちゃくちゃ面白いです。一気に読めます。お薦めします。
ここ数年は、なるべく書籍は購入せず、図書館で借りて読むということを課してきました。おかげで本は増えていないのですが、借りて読むを繰り返しているばかりで、過去に購入した書籍が『積読』が全く減らないという現象が起こっています。
そこで、しばらくは図書館で借りる本を極力減らし、自宅に積みあがっている本を減らしていこうと思っています。おそらく、100や200ではきかないと思いますので、どれほどかかるかわかりませんが、乞う御期待。
001/072
先日読んだ別シリーズの元になっているシリーズなので、こちらを先に読み切ろうと思います。鎌倉で農業しながら暮らしている主人公の元に、江戸者が転がり込んできて、夫婦になります。平穏な暮らしが続くと思った矢先に夫が失踪。主人公は夫を探して江戸へ行くも空腹で倒れたところを療養所で働く同心に助けられ、一膳めし屋で働きながら夫を探す。この先10巻まで続くシリーズの始まりです。(5/3)
002/073
「走れ外科医 泣くな研修医3」中山祐次郎
こちらも気に入っているシリーズものの三作目。主人公の外科医もやっと一本立ちして、研修医の指導医になりますが、ヘタレぶりは相変わらず。余命わずかの患者とのかかわりが描かれるのですが、かなり危ういです。(5/3)
003/074
「はなの味ごよみ 願かけ鍋」高田在子
シリーズの2作目。相変わらず夫の行方は分からないものの、よく似た人物を見かけます。食べ物をきっかけにたくさんの人たちと出会います。(5/4)
004/075
「武士に『もの言う』百姓たち 裁判でよむ江戸時代」渡辺尚志
制度が全く整っていなかった江戸時代の訴訟について、ある実例を交えながら解説した物ですが、この実例がとても面白い。記録に残った書面上でしかわからないのですが、その場しのぎの言い逃れや、他人への責任転嫁が横行していて爆笑もんです。制度として定まっていなかったからこそ自由度が高かったんだろうと思われます。面白かったです。(5/5)
005/076
「クスノキの女神」東野圭吾
『~番人』の続編です。ミステリ作品の多い東野さんですが、この作品では大きな事件は起きず、もう一つの特徴であるSFチックなファンタジー要素の詰まった作品です。続編にして大きな変化を遂げて結末を迎えました。果たして続編はあるのか?ちょっと興味があります。(5/6)
006/077
「古代王権 王はどうして生まれたか シリーズ古代史をひらく2」吉村武彦責任編集
これも気に入っているシリーズの一冊です。内容的にはかなり難しく、数カ月をかけてようやく読み切りました。王はどうして王たり得たのか。というテーマは私にとっては未知の分野で、西欧の王や中国の皇帝は、神(天)からその地位を授けられたという共通した特徴があるのですが、日本の天皇制は、神(天)と天皇が血でつながっている、一体であるという構成をとっているところに最大の特徴があります。なぜ、当時の世界の常識をそのまま当てはめず、このような独特な体系を作ることができたのか、興味が尽きないところです。(5/6)
007/078
「西陣室町繊維産業の信用システム 京都伝統産業の歴史から考察する」大森晋
改めて、京都の繊維産業について知識を深めたくて読んでみました。著者は、京都市内の金融機関で働いておられたそうで、後半の信用システムについての記載はかなりしょうせい詳細で、私にはかなり難しかった。前半の流通システム部分については、知らなかったこともあり、改めて勉強になりました。(5/7)
008/079
「ピーターの法則 創造的無能のすすめ」L.J.ピーター、R.ヒル
ピーターの法則『階層社会にあっては、その構成員は(各自の器量に応じて)それぞれ無能のレベルに達する傾向がある』。平たく言うと、この世は無能な者に支配されているということ。50年以上前に書かれたベストセラーです。経営学の端っこを齧るようになったころから気になっていて、いつか読みたいなと思っていたものですが、縁あって読んでみました。内容的にはとても面白かったのですが、実際のところ、この本は真面目に書かれたものなのか、それともジョークとして出版されたものなのか判別がつきませんでした。(5/7)
009/080
「ボーダーズ」堂場瞬一
警察小説の名手である著者による、警視庁特殊捜査班という怪しげセクションの刑事たちが活躍する物語です。シリーズものの第一巻です。「刑事・鳴沢了」シリーズが面白くて、読み込んだ時期がありましたが、最近は少し離れていました。
(5/9)
010/081
「はなの味ごよみ にぎり雛」高田在子
シリーズ三作目です。今作でもまた食べ物を通じて新たな出会いがあります。そして、ついに主人公の失踪した夫の姿が見つかるのですが、その正体が明らかにならず謎が深まるばかりです。(5/10)
011/082
「死んだ山田と教室」金子玲介
非常に軽い文体で、若い方に人気のある作家さんのようです。今年の本屋大賞の候補になったこともあって、初めて手にいたしました。主人公である高校二年生の山田君は、物語の冒頭ではすでに交通事故で亡くなっているのですが、彼を悼む教室のスピーカーを通して突如山田君がしゃべり始めます。声だけが生き返るという奇妙な設定で物語が始まります。ただ、彼の声がするのは、そのクラスの教室のみ。他の場所では聞くことができません。この設定だと結末は悲劇にしかならないことが想定されるので、それをどう決着させるのか、興味を持って読んでおりましたが、結果的にはうまく消化しきれなかったように感じられます。ちょっと残念。(5/11)
012/083
「絶望の林業」田中淳夫
今月此処まで読んだ本の中では抜群の面白さ、およそ300ページの書物ですが、朝夕の通勤社内で一気に読みました。第一次産業の衰退が問題とされて久しいですが、農業、水産漁業に比べて、林業については『食い物』に直結していないだけに、私たちの脳みそから零れ落ちているような気がします。国土の7割を森林が占めると言われますが、林業が絶滅するということは、国土の7割が崩壊するということです。何とか絶望を希望に変えなければいけないという思いで書かれたものとお見受けします。実はこの本を読みながらも、私が携わっている伝統工芸によく似ていると思うところが多々あり、非常に興味深く読みました。社会環境の問題、従事者の問題、政策の問題などなど、ほとんどが伝統工芸産業界にも当てはまります。私も伝統工芸産業を希望の産業にしたい。この本からいくつかのヒントをいただきました。とにかく面白いお薦めです。(5/13)
013/084
「幸福の劇薬 」仙川環
以前読んだ『カナリア外来~』が面白かったので、デビュー作を読んで、その次に選んだ一冊です。デビュー後は医療ミステリを書かれていたようで、この本もその一環。すでに何冊か書かれて、脂ののった時期の作品だと期待して読んだのですが、私には合いませんでした。ミステリ部分に力が入っているためか、登場人物が必要以上にエキセントリックであったり、無能であったりと、相当誇張して描かれており、読んでいてしんどくなってきます。しばらく離れようかと思います。(5/13)
014/085
「戦後最大の偽書事件『東日流外三郡誌』」斉藤光政
めちゃくちゃ面白かったです。超古代、東北に大和朝廷に匹敵する大勢力が存在した。歴史ファンのロマンをくすぐるような大量の”古文書”が、東北の民家の屋根裏から発見された。その中核をなすのが” 東日流外三郡誌”『東日流』で”つがる”と読むらしいです。世紀の大発見に、地元自治体は舞い上がり、踊らされるのですが、これがなんと真っ赤な贋物、”発見者”による創作物だったという悲しいオチオチが付いています。この偽書事件の当初から関わった地元地方紙の記者が記録した事件の全貌です。首謀者は、どれだけ証拠を突き付けられても、頑として偽書であることを認めないまま亡くなりましました。『邪馬台国はなかった』で有名な古田武彦氏もこの偽書擁護派の急先鋒だったそうで、ちょっとイメージが変わりました。時系列に纏められているので、とても理解しやすく、読みやすい本でした。(5/16)
015/086
「やめるな外科医 泣くな研修医4」中山祐次郎
シリーズ4作目で、主人公は30歳となり外科医としての経験も積んで、着実に医師としての力を付けつつあるが、残念ながら人間としては、全く成長の跡が見えず、読んでいてもイライラしてきます。作者もお医者さんなのですが、これが日本の医者の実態だということなのか、それとも将来の成長に向けた伏線として描かれているのか気になるところです。(5/17)
016/087
「きまぐれ未来寄席」江坂遊
未来のとある時代に時間軸を設定し、そこから見た過去の物語を落語調で語るショートショート集です。明らかに星新一さんに影響を受けているなと思わせる書きっぷりで、とても読みやすいです。あっという間に読み終わりました。(5/21)
017/088
「はなの味ごよみ 夢見酒」高田在子
シリーズの第4巻で、主人公の行方不明だった夫の正体が判明します。つかの間の再会を果たしますが、不透明な先行きに気分がふさぎそうになるも、仲間たちの励ましで前向きに生きていく主人公です。(5/21)
018/089
「海外メディアは見た 不思議の国ニッポン 」クーリエ・ジャポン編
外国と比較してどうこう言うのはが、必ずしも正しいとは思えませんが、絶対的に正しくないと思えることもたくさんあります。また、外国の真似をして排外主義に走ることも間違っていると思います。自分の姿は、自分では見えないものです。周りからの客観的な評価を聴いて、自分の姿を認識し、正すべきところは正すという態度が必要なのではないでしょうか。(5/21)
019/090
「spring」恩田陸
2025年本屋大賞で6位にランキングされました。『蜜蜂と遠雷』に続く芸術家を主人公にした物語ですが、本作ではバレイがテーマで、一人の少年が、一流の振付師として世に出るまでの数年間を描いています。この世界のことについては、全く予備知識がないので、読んでいてもすっかり腑に落ちたとはならないのが歯がゆかったです。(5/22)
020/091
「金庫破りときどきスパイ」アシュリー・ウィーヴァー
第二次大戦中のイギリスが舞台。罠とは知らない金庫破りのお仕事中に逮捕された主人公が、情報部から命を受け、スパイとして活動を始めます。ミッションは成功し、続編も編まれているようです。この時代のロンドンを舞台にしたコージーミステリは結構気に入っていて、今も3つのシリーズを楽しみに読んでますが、これもその中に加えたいと思います。(5/33)
021/092
「恋とか愛とかやさしさなら」一穂ミチ
主人公が恋人からプロポーズを受けた翌朝、その恋人が通勤時に盗撮で捕まってしまうというショッキングな出来事から物語は始まります。恋人としては、どうふるまうべきなのか。その心中の葛藤が描かれたあと、最後に張本人である恋人の心中が語られます。これは本屋大賞2025の第7位でした。(5/24)
022/093
「禁忌の子」山口美桜
こちらは本屋大賞2025の第4位で、なおかつ鮎川哲也賞受賞の医療ミステリです。作者も医師で、探偵役を務める主人公も医師なのですが、相棒役を務める女性記者が、かなり悪意を持って描かれており、マスコミに対して平たんではない思いをお持ちのように見受けられます。個人的には納得がいきづらい結末で、モヤっとした思いを抱えながら読了しました。(5/24)
023/094
「署長シンドローム」今野敏
作者の人気シリーズである『隠蔽捜査』のスピンアウト小説で、警視庁大森署の『その後』が描かれます。新たに同署の署長に就任したのは女性キャリアで、相当の美人らしい。警視庁だけでなく神奈川県警、厚労省の麻取などの強者をうまく操って事件を解決に導きます。なかなか魅力的な主人公です。続編も出ていますので、これも楽しみに読みたいと思います。(5/25)
024/095
「日本の中の中国」中島惠
日本に住む外国人の中で最も多くの割合を占めているのが中国人。とはいえ、彼らも一様ではなく現状3つの層に分かれているそうです。ネトウヨの皆さんからすると、ほとんどが『犯罪者』であったり、特別待遇を受ける『寄生虫』なんだそうですが、それはごく一部。ほとんどの人達は真面目に暮らしておられます。もちろん習慣の違いというのはあって、それが軋轢の元になっているのだと思いますが、かつての我々日本人の姿だと思うところが多く、きっと理解し合えると思うのは、甘いでしょうか。(5/25)
025/096
「怪談刑事」青柳碧人
怪奇現象としか言いようのない未解決事件を専門に扱う警察庁の部署に配属された敏腕刑事。怪奇現象は全く信じないことから、未解決の事件を徹底検証し、解決に導く。登場人物があまりに特殊すぎて読み手のスタンスが難しいところ。(5/25)
026/097
「悩め医学生 泣くな研修医5」中山祐次郎
シリーズの5作目は、主人公の大学生時代を描きます。主人公の優柔不断さ、ヘタレ加減は生来のモノのようで、本作でもいかんなく発揮されています。逆にいうとこの当時からこの主人公の人間性は停滞しているってことか?こんな医者には掛かりたく無いなぁ。モヤモヤ。(5/27)
027/098
「はなの味ごよみ 七夕そうめん 」高田在子
こちらもシリーズ5作目ですね。主人公の夫の正体が明らかになり、主人公の不安はかえって大きくなるばかり。新たなレギューラーも増えて、ますますにぎやかになってきました。(5/29)
028/099
「陰謀の日本近現代史」保阪正康
近現代史と銘打たれていますが、半分以上は太平洋戦争時の日本政府と軍部の暴走を綴ったもの。『陰謀の』とも書かれていますが、どの部分が陰謀なのか、さっぱり判らない。こういった歴史検証は、半藤氏に分があると思います。(5/29)
029/100
「推定脅威」未須本有生
今年の100冊目は、初めて手にした作家さんです。空自と航空機メーカーの物語。国籍不明の航空機接近に対しスクランブル出動したところ、二度にわたってトラブルが発生したことから、航空機メーカーとともとともに調査を開始。一人の女性技術者の”気づき”が契機となって、過去の事件が判明する。テーマは重厚ですが、文章はそれほど重くありません。むしろ軽め。(5/31)
030/101
「警視庁FC」今野敏
この『FC』は『フィルムコミッション』の略。警視庁にそんな部署が開設され、いやいやながら招集された映画のロケ先で殺人事件が発生。でもなんか変。ちょっとどこに分類したらよいのか難しいジャンルの物語でした。(5/31)