2024年11月12日火曜日

2024年10月

読書の秋の始まりである10月は、小説が12冊、その他が3冊、計15冊という結果になりました。月の途中で、全然読めない日が続いたので、若干少なめですね。

そんな数少ない中でのお薦めの三冊を。

まずは、森見さんの『シャーロック・ホームズの凱旋』は面白かったです。途中から読者である自分の位置が良く分からなくなって、不思議な感覚になりました。発想と言い、展開と言い、予期せぬ結末と言い、やられました。面白かったです。

二冊目は、『本売る日々』が良かったです。淡々とした筆運びですが、今は簡単に本を買うことができ、あまつさえ電子書籍のおかげで、収納場所に悩むこともないという幸せを改めてかみしめることができて良いです。

三冊目は、『あの本は読まれているか』でしょうか。かなりの長編で二つの場面を行ったり来たりするので、切り替えが難しいですが、実話に基づくお話だけについつい没入してしまいます。お薦めで。

小説以外の本は3冊しかないので、あえて1冊選ぶなら、この秋の解散総選挙の結果を決定づけたともいえる『検証 政治とカネ』でしょうか。政権与党による下手糞な錬金術、国民をだますテクニックについてとても分かりやすく書かれています。さて、あの選挙結果を得て、私たちが次にすべきことは何でしょうか。

11月に入ってようやく秋らしくなってきましたね。朝夕が涼しくなってきました。雨ではない週末はずっと出かけていて、散歩のお供の文庫本もいい感じで読めています。

やりたいこと、、やらなきゃいけないことも山積みなんですが、ついつい散歩と読書に逃避しがちです。気を付けないと。

 

001/230

新書版 性差の日本史」国立歴史民俗博物館監修、「性差の日本史」展示プロジェクト編

ご存じの方もおられると思うのですが、私は日本の歴史にとても興味があり、歴史の解説書や歴史小説を読んだり、歴史的な遺跡などに足を運ぶことが大好きなのですが、中でも興味があるのが、いわゆる『庶民の生活史』です。いわゆる『表の歴史』ではなく、そのとき、一般の人達はどのように行動したのか、どのように考えたのかということに興味があるのです。ご存じのように、私たちが日本史の授業で学ぶ事柄は、ほとんどが男性中心の歴史でして、女性に関しては、今話題の『紫式部』などについても本当の名前すらも記録に残っておりません。この本は、数年前に国立歴史民俗博物館で行われた特別展の中身を、ほんのさわりだけ集めた本だそうで、とても面白い内容の展示会だったのだろうと思われます。思わず、博物館にこの図録(1.5Kgあるそうです。)を発注してしまいました。数日中に届くと思いますが、とても楽しみです。(10/2)

 

002/231

家政婦は名探偵」エミリー・ブライトウェル

初めて読む作家さんです。舞台はビクトリア朝のロンドン。善人なんだけど捜査能力が著しく劣るロンドン警察の警部補のお屋敷に住まう家政婦が、雇用主である警部補のために他の従業員を率いて、事件解決をこっそり支援するという物語です。警部補本人は、手伝ってもらっていることに全く気付かず、運よく事件を解決できたと思っているところが、何とものどかな物語です。原シリーズの出版情報はすぐにはわからないのですが、国内ではあと3作シリーズ化されて出版されているようです。また、気が向いたときに読もうかな。(10/2)

 

003/232

貧乏お嬢さま、イタリアへ 英国王妃の事件ファイル11」リース・ボウエン

シリーズも11作目となりました。今作でも王妃の要請で、イタリアへ行くことになり、例によって殺人事件に巻き込まれます。主人公の結婚への関門もようやくクリアになったようで、続きが楽しみです。ところで、今回初めて気が付いたのですが、原書にも”A Royal Spyness Mystery”という副題がついていたのですね、知りませんでした。(10/4)

 

004/233

シャーロック・ホームズの凱旋」森見登美彦

話題の一作です、予約してから長く待ちました。舞台はビクトリア朝時代の京都。寺町通221Bに居を構える名探偵シャーロック・ホームズの苦悩を描きます。一大スランプに陥ったホームズは無事凱旋することができるのか。どういう結末になるのかと心配していましたが、最後のどんでん返しには感服しました。さすがです。(10/6)

 

005/234

近畿地方のある場所について」背筋

話題の一冊ですね。近畿地方のある場所にまつわる雑誌記事からSNSを集め、全体として一つのホラー小説になっている。これまで見たことのない形式です。電子書籍で読んだので、非常に読みづらく難儀しましたが、スタイルの目新しさもあって、堪能しました。ホラー小説なので、別に解決編は必要ないのですが、できれば腑に落ちる結末であってほしかったと思います。(10/8)

 

006/235

医学のひよこ」海堂尊

海堂氏の著作群の中核をなす『桜宮』シリーズのスピンオフ小説です。今作の主人公は中学生4人組。かつて児童書として書かれた小説の続編のような立ち位置でしょうか。しかしながら時系列は全く無視し、コロナ禍後の出来事としてさらりと進められています。話の中心に据えられているのは、不思議な卵とそれから孵化した生き物。物語は唐突に終わってしまうのですが、ちゃんと完結編も準備されていました。(10/13)

 

007/236

あの本は読まれているか」ラーラ・プレスコット

ここに出てくる『あの本』というのが『ドクトル・ジバゴ』という有名な小説なのですが、この小説にまつわる実話を基にした超大作です。ミステリの専門レーベルからの出版ですが、ある種のスパイ小説に見えなくもないですけど、悲劇の恋愛小説ともいえます。『あの本』は、戦後冷戦期のソ連で書かれたものですが、国内では出版が許されず、ひそかに持ち出されたイタリアで最初に出版されます。その後、アメリカの情報部がロシア語に翻訳・製本し、ひそかにソ連国内に流通させるというプロパガンダを実行しました。この際の機密資料が近年機密解除され世に出たことから、作者はこの小説を着想したそうです。重いテーマで、暗い描写も続きますが、いい小説でした。(10/15)

 

008/237

医学のつばさ」海堂尊

先に読んだ小説の完結編です。日本政府だけでなく米軍なども登場しての大騒ぎ。どう始末をつけるのかと心配しましたが、その心配どおり何とも言えない結末でした。(10/15)

 

009/238

ポスト資本主義社会」P・F・ドラッカー

今から約30年前、日本でいうとバブルがはじけた直後くらいに書かれた本ですが、そこここに日本を評価する言及がされており、その後の失われた20年を引き寄せたのはいったい何だったのか、大きく悩むことになりました。同時にこの時期は、共産主義が破綻し、世界のほとんどが資本主義社会になったころでもありますが、すでに資本主義社会も破綻するだろうということを見通していたことになります。当時資本は手段でしたが、今は資本が目的になっています。知識労働者の社会になるというところまでは正しかったですが、社会の目的がこのように変化することは想定外だったのかもしれません。(10/17)

 

010/239

本売る日々」青山文平

江戸時代の本屋が主人公の物語です。当時の書籍は希少品で、どこででも買えるものではなく、この主人公も小さな店で小売りをしながら、本を抱えあちこちで行商して回ります。その行商で回った先で関わることになった3つの事件を記録したものです。必ずしも本に関わる事件ばかりではなく、世間を騒がすような大事件でもないのですが、淡々と語られる日常がなかなかに興味深い。(10/19)

 

011/240

貧乏お嬢さまの結婚前夜 英国王妃の事件ファイル12」リース・ボウエン

シリーズ12作目にして、主人公がようやく結婚にこぎつけられることとなりました。ところが、貧乏故住むところが決まらず悩んでいたところに、母親のかつての夫から屋敷の無償提供の申し出。喜んで移り住んだところで何やら怪しげな事件が続発。ここ数作の傾向で、婚約者である男性が役立たずの雑魚キャラに追いやられたようで、若干面白みが減っています。ちょっと残念です。(10/21)

 

012/241

原因において自由な物語」五十嵐律人

作者は一生懸命説明するのですが、私にはどうにもタイトルと中身が合致していないように見受けられます。ちょっと凝り過ぎじゃないか。(10/21)

 

013/242

プラチナハーケン1980」海堂尊

いわゆる『桜宮サーガ』の一冊で、シリーズの前日譚を描いている。このシリーズを読んだのはかなり前で、最近テレビドラマにはなったようですがそれは見ていないので、ストーリーを追いかけるのに苦労しました。この形式で書くのなら、発行時期をもう少し考慮して、うまくつなげてもらわないと、難しいですね。(10/27)

 

014/243

検証 政治とカネ」上脇博之

たまたま一昨日が総選挙で、ご存じのような結果となりました。まさにこの本に書かれていることが選挙の焦点であり、そのきっかけを作った大学教授の著書で、この問題の肝がとても分かりやすく書かれています。結果的に、この問題のけい解決に積極的ではなかった政党が、今回の総選挙で退潮することになりました。政府が今後どのように改革を進めていくのか、私たちがしっかり監視していかなければならないと、改めて実感しました。(10/29)

 

015/244

六月のぶりぶりぎっちょう」万城目学

直木賞にに輝いた作品の続編、とはいえ作品自体には全くつながりがないので、続編ではないかもしれませんが、一連の世界観、いわゆる万城目ワールドを共有する物語です。最初にタイトルを読んだときは、何じゃこりゃと思ったのですが、『ぶりぶりぎっちょう』は漢字で『振々毬杖』と書くそうで、平安時代に実際にあった子供の遊びだそうです。二編の小説が収められていまますが相互に関連はなく、タイトルになっている作品は、歴史上最大のミステリの一つ『本能寺の変』について書かれたSF要素たっぷりの物語です。面白うございました。(10/31)