今年度の折り返し9月が終わりました。そんな9月は小説が7冊、それ以外が11冊で計18冊という結果でした。
いやぁ、15冊を超えたのはホンマに久しぶりですね。前半のタイガースが絶不調だったのが良かったのでしょうか?
さて、そんな中での今月のお薦めですが、小説では、次の2作でしょうか。
まずは、明暦の大火とそこからの復興をテーマにした『湯船』です。未曽有の大災害から立ち直ろうとする民衆の様子を、湯屋の跡取り娘の目線から描いています。生々しい大火の様子は、トラウマにもなりそうですが、スピード感があって臨場感もたっぷりです。また、思わず応援したくなうような主人公も魅力的です。
続いては翻訳ものですが、『ワニの町へ来たスパイ』が面白かったです。シリーズ化されているというのは、あちこちで見かけていて見知っていたのですが、どんなものか試しに読んでみたら、期待以上に面白かったです。いわゆるコージーミステリなのですが、登場人物も魅力的で、なかなか面白かったです。シリーズの残りもしっかり読んでいこうと思います。
続いて小説以外の本ですが、なかなか硬派な本もあって、いつもながらバラエティに富んでいますが、次の4冊はお薦めです。
まず『刻印』ですが、これは、前の戦争が惹き起こした悲劇を描いたものですが、実は政治家、軍部、関東軍、さらには満蒙開拓団という組織。いずれも立派な男たちが、自分を守るために、女性に虐待を加えるという犯罪の記録でもあります。今の私たちの生活は、この人たちの犠牲の上に成り立っていることを忘れないためにも、知っておかなければいけないことだと思います。お薦めです。
次の『中絶と避妊の政治学』もかなり重めの話です。最近ようやく理解が進んできた『リプロダクション・ヘルス&ライツ』という概念ですが、西欧と違い日本では長く女性ではなく男性にその“権利”があるものとされてきました。著者もそれが不思議でこのテーマについて研究されてきたのではないかと推察します。こういう切り口の近代史もあるのだと感服しました。興味深い一冊でした。
『超知能AIをつくれば人類は絶滅する』は、最近とみに話題になっている“AIの暴走”についての警鐘の書です。この本に書かれているようなことは起こるはずがないという大国の指導者もいますが、問題は『来るか来ないか』ではなく、『いつ来るか』というフェーズにあるんだということが理解できていないとしか思えません。その日に備えようがないのが、ある意味すがすがしいです。
最後は、『邪馬台国と地域王国』でしょうか。『旦波王国』の存在を提唱されている著者の面目躍如たる力作です。氏の遺作ともなった本が復刻されました。特に冒頭の『邪馬台国九州説』に関する論文は読みごたえがあります。そこだけでもお薦めです。
これら以外にも、『<性>と日本語』や『消費税と政治』もとても面白かったです。
さて、月が替わって一気に涼しく、過ごしやすくなりましたね。お天気が悪かった9月はお散歩も途絶えがちでしたが、10月こそは、本を片手にお散歩に繰り出したいと願っています。
001/124
「目には目を」新川帆立
なんか最近、新川さんの本が続いていますね。“目には目を”、たしかハンムラビ法典に出てくる言葉でしたよね?これは、誰かから不当な行為を受けたときは、同等の罰を以て償うべき、目の視力を失ったら、行為者の視力を報復として奪う、という意味にとられがちですが、これは、どれほど損害を受けようと、報復は同等程度に留めておけ。という限度を示したものだそうです。少年に子供を殺された親が、少年院を出所した加害者少年を報復のために殺害する。そんな悲しい物語ですが、物語はさらに思いもよらない方向へ続きます。予想していた以上に重い物語でした。(9/1)
002/125
「刻印 満蒙開拓団、黒川村の女性たち」松原文枝
泥沼の日中戦争当時、満州地方の開拓のため岐阜県黒川村から移住させられた移住団が、敗戦とともに居住地を追われ、守ってくれるはずの関東軍は、さっさとトンずらし、地元の中国人から襲われるところを、ロシア兵に助けを求めることになった。その際、ロシア兵から求められて、開拓団にいた20歳前後の未婚の女性を生接待の相手方として差し出したという事件がありました。この書籍は、その際生贄として提供された女性が、自ら実名で声を上げたことに端を発し、そのドキュメンタリーを制作した方が、記したものです。彼女たちのおかげで、生きて帰ってこられたはずの男性連中は、戦後手のひらを返したように、彼女たちを誹謗中傷、差別するという醜悪さ。はらわたが煮えくり返りそうになる本でした。これは、戦争に悲惨さを知らない我々が、必読の一冊かと思います。(9/1)
003/126
「湯船」武内涼
振袖火事として知られる明暦の大火。二日にわたって江戸の町を焼き尽くし、この時に焼け落ちた江戸城の天守閣は、その後も再建されることはありませんでした。この物語は、当時主流だった蒸し風呂ではなく、初めて浴槽を使った湯屋の娘が、大火で店も親も亡くしながら、湯屋を再建し、焼け出された避難民のため、船に風呂桶を乗せた“湯船”を江戸の町に走らせるという物語。現存する資料を基に、当時の風呂や大火の様子がかなり詳細に描かれており、臨場感たっぷりで一気に読めてしまいます。(9/3)
004/127
「福音派 終末論に引き裂かれるアメリカ社会」加藤喜之
トランプ大統領の誕生からその後の暴走に至る道のなかで、注目されているキリスト教の教派の一つである福音派について、その歴史を詳細に記録した大作です。キリスト教の素養に乏しく、アメリカ人にとってはよく知られているキリスト教界の人名も全く分からないため、読み続けるにはかなりの体力を要しました。書籍の最後のまとめで著者が書かれた一節を記しておきます。『福音派は、終末論的な世界観のなかで、対立する相手をサタンや悪魔の支配下にあるとみなす傾向があり(中略)自陣営の世界観と他の世界観の間に共通項を見出すことは少ない。』『言論活動は、相手の言説を打ち負かすための戦いとなり、真理探究や相互理解、ひいては合意形成に至ることはない。』(9/4)
005/128
「新版 中絶と避妊の政治学 戦後日本のリプロダクション政策」ティアナ・ノーグレン
海外の研究者が著した日本の戦後政治史。その中でも、私自身特に考えたこともなかった“中絶と避妊”にフォーカスを当てた稀有な書籍です。今、生まれてくる子供の数が減少し、少子高齢化が大きな政治・社会課題となっており、近い将来消滅可能性が高い市町では、その対策が急務となっています。実は少子化問題は、最近になって顕在化してきたのではなく、戦前からその傾向が出てきており、『産めよ、増やせよ』というスローガンはその象徴でした。しかしながら、戦後急激なベビーブームが起き、その問題はいったん棚上げされ、今度は逆に人口抑制のため、産児制限が課題となりました。その対応がまずかったのか、先のブームが去ると、次は元の少子化傾向に戻ってしまいます。本書では、そういった時代背景と、海外では主流であった『中絶より避妊』ではなく、『避妊より中絶』となった特殊な事情。今では『リプロダクション・ヘルス&ライツ』として確立されている女性の権利より男性側の理屈が優先されてきた歴史。などについて丁寧に描かれています。超大作でしたが、勉強になりました。(9/4)
006/129
「アイ・ウオント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド 東亰バンドワゴン」小路幸也
大河小説シリーズの最新作です。現実の時代を追いかけるように、物語の設定が進むという小説で、おそらく、そろそろあの新型コロナウイルスのパンデミックの時代に突入するはずなのですが、まだ描かれていません。なかったことにするつもりなのか???(9/6)
007/130
「理想だらけの戦時下日本」井上寿一
第二次大戦下の日本で、日中戦争開始から日米開戦に至る途上、未だ国内が戦場になる前の時期、どこか他人事の国民の意識を戦に向かわせるため、日本政府はあらゆる手立てをとってきました。私は、戦時下における治安維持法による特高警察の圧政で息をひそめながら生きてこられたように錯覚していましたが、最初のころは全くそのようではなく、『国民精神を総動員』するため、さまざまな工夫を凝らしてきました。しかし、それも功を奏さず、しびれを切らした軍部が圧政に突き進んだというようなことのようです。なかなか面白かったです。『新しい戦前』という言葉がクローズアップされて、前の戦前の様子が気になり、このような本を好んで読んでいます。同じ過ちを繰り返さないためにも、大切なことかなと思っています。(9/10)
008/131
「鏡面のエリクサー 天久鷹央の事件カルテ」知念実希人
ドラマはあまり面白くなかったですが、小説のほうは順当に巻を重ねています。しかしながら、本来の主人公による天才的な病気診断のシーンが少なく、少し経路が変わってきたような気がしています。要注意ですね。(9/10)
009/132
「まぐさ桶の犬」若竹七海
お気に入りの『探偵葉村晶』シリーズの最新刊です。とはいえ、出版は昨年のもので、買ってからそのまま忘れていたという失礼なところでした。いつものように、おかしな事件に巻き込まれて、命の危険に晒されながらも、事件解決にたどり着きます。いつもながら安心の面白さです。(9/13)
010/133
「超知能AIをつくれば人類は絶滅する」エリーザー・ユドコウスキー&ネイト・ソアレス
この本の原題は “If Anyone Builds It, Everyone
Dies” という書籍で、AIという単語は入っていません。最近になって、AIを開発している企業側から、このまま無制限な開発を進めてよいのかという疑問が出されるようになってきました。現在の開発競争をリードしているアメリカの大統領は、AI開発の覇権を握ることが世界の覇権を握ることになるとして、もう一つのAI大国である中国を凌駕するため、決してそのスピードを緩めないと息巻いています。先日もAIの開発を進めていく中で、不正なアクセスを試みたなど、ある種の『暴走』の兆しがみられるとの報道を目にすることが増えてきました。この書籍に書かれていることは、決しておとぎ話ではないような気がします。きっと我々が気づかないうちに始まるような気もします。(9/15)
011/134
「思想の免疫力」中野剛志、適菜収
『思想の免疫力』とは、『悪い思想』への抵抗力という風に読んだのですが、これはなかなか怖い考え方ですね。確かにこの書籍でこき下ろされている学者さんの言説には、私も呆れるばかりで、彼のトンでも説を読むことは、ある意味楽しくもあります。さはさりながら、いくら彼の思想が(私にとって)『正しくない』としても、それを亡き者にしようというのはやや暴論かと思います。大事なのは、いろんな人の話を聞いて、それを冷静にジャッジできる能力なのかと思います。そのためには、見聞を広めないとね。SNSのお気に入りだけを見ていては、決して得られないものを探しに行かないと。(9/17)
012/135
「邪馬台国と地域王国」門脇禎二
門脇先生の絶筆ともなった一冊の復刻版です。最後に書かれた邪馬台国に関する論考では、先生が『邪馬台国畿内説』から『邪馬台国九州説』に意見を変えられた根拠が、縷々述べられています。私自身も九州説派でして、『大和』の設立はそこまでは遡らないと思います。『神武東征』の神話にもあるとおり、九州から機内へ移動した民がいたことは確実だと思えますが、おそらく流浪の上、ようやく機内へ流れ着いて定着したということかと思います。まぁ、こんな風にド素人が知ったげに話せるって、いいですね。面白い一冊でした。(9/23)
013/136
「<性>と日本語 ことばがつくる女と男」中村桃子
およそ20年前に書かれた『ことば』に焦点を当てたジェンダー論の傑作です。明治維新を機に男女の役割に一線が引かれ、男性中心の価値観にどっぷりハマった『クニ』作りが始まります。その表れとして、男女の言葉遣いが、形作られたというとても興味深い考察に基づき論が進められていきます。題材にするのは、洋画の翻訳から当時の雑誌まで幅広く、どれもこれも指摘されなければ、そうとは気づかないものばかりです。とても勉強になりました。面白かったです。(9/25)
014/137
「歩くと心が軽くなるのはなぜか-散歩の心理学」元永拓郎
散歩大好きの私としては、見逃せないタイトルに惹かれ読んでみました。結構よく読まれているようですが、精神的なダメージを受けてしんどい時には、気分転換のため体を動かそう、それには『散歩』が一番!ということが、何度も繰り返し書かれています。きっと、あの呼吸と足運びの一定のリズム感が、雑念を追いやるのにとても有効なのだと思います。書籍の最終章に書かれていた一節です。『主体的であるためには、主体的であろうとする力みからまず離れて、流れに身を任せて動く、そのような体験が、大事になる場合もあります。散歩のように、世界と私のテンポのずれを調律する営みが求められることになります。』 (9/25)
015/138
「女王様の電話番」渡辺優
昨年の直木賞候補作でしたが、残念ながら受賞には至りませんでした。主人公は派遣型風俗の受付電話番。派遣される女王様の一人と、ある日を境に連絡が取れなくなります。この業界にはよくある話とされていたところ、気になった主人公がその女王様を探し始めます。この小説の中に『アセクシュアル』という言葉が出てくるのですが、初めて目にする単語でした。(9/27)
016/139
「消費税と政治 財政再建をめぐる理念と思惑」上川龍之進
先月の朝日新聞に著者のインタビュー記事が掲載されていたので、興味を持ち読んでみました。ページのほとんどは、税負担のあり方という視点から見た石破内閣までの戦後の政治史で、それぞれの指導者がどのような思惑でこの課題に立ち向かったか記されています。それはそれで、“そういえば、そんなことがあったなぁ”と昔を懐かしむ感覚で読んでおり、最終章に至ってようやく著者の考えに出会えました。この本の出版と先の朝日新聞の記事までの間に、現首相が誕生し、消費税の廃止を掲げて解散総選挙に打って出るという暴挙をなすという事件がありました。『財源の当てなき減税』、『地方の切り捨て』。彼の方のお考えは我々凡人には理解できません。ポピュリスト政治ここに極まれり。(9/29)
017/140
「日本禁酒史」藤原暁三
この本は、1940年に出版されたものの復刻版で、戦前の文語調で書かれた文章は、なかなか読みづらかったのですが、興味深い一冊でした。記録の豊富な江戸時代の禁酒史は結構面白かったです。この視点から見ると、祖父の吉宗に憧れて改革に挑むが、手ひどく失敗し、世間から酷評された松平定信が英雄視されているのがとても面白かった。日本という国は、特に地方へ行けば行くほど、飲酒についておおらかで、私も小学生の頃の地元の祭りで、しこたま酒を飲まされ、フラフラになって参加していたことを覚えています。この書籍の解説者曰く『酒に対する底抜けの肯定感』が、わが民族の特徴なのだそうです。(9/30)
018/141
「ワニの町へ来たスパイ」ジャナ・デリオン
いわゆるコージーミステリといわれる分野の書籍なのですが、とても面白く、シリーズの続編を予約しました。主人公は凄腕のCIA工作員なのですが、仕事でやりすぎて、命を狙われる羽目になり、他人に成りすまして、田舎に隠れていたところで、事件に巻き込まれるという物語です。登場人物もなかなか魅力的で、現在既にシリーズとして10冊の長編が出版されているようなので、じっくり読んでいきたいと思います。(9/30)